The tryst





「遅せえぞ」

「いやあ参った。まさか雪になるとは」

「・・・天気予報でちゃんと言ってただろ。どうしてその分早く出ねえんだ」

「出たよ。2時間も前に」



















 正月気分も抜けた土曜日。

 東京では、今季最高の冷えを記録。



 昼過ぎから降り出した久々の雨は、夕方に向かって冷えと共に氷を創った。







 加えて帰省ラッシュが重なった今日。

 白馬探は大阪から帰ってくる車が渋滞と雪のダブルパンチを喰らい、予想よりも遥かに遅れてこの場所へ着いた。



















「ホントかよ」

「ああ。早く逢いたかったしね」

「どうしてそういう事を真顔で言えるんだテメエは・・・・・」

「どちらにしろ遅れたのには違いないな。申し訳ない」

















 律儀に探は快斗に頭を下げる。

 微笑いもせず、本当に真面目に。






 現在夜8時。

 待ち合わせは、6時半に駅前だった。





 ・・・・携帯にも着信履歴は見当たらず。

 だから、怒って帰ってしまったのか・・・もしくは、近くの喫茶店で待っているのだろうと思っていた。







 でも。













 凍てつく寒さの中。

 手袋もなく、ジャケットにただマフラーという軽装で快斗はそこにいたのだ。



























 手に、息を吹きかけながら。

 月の見えない空を見上げながら。







 風の当たらない影にいればいいのに、それさえもせず快斗はその場所に立っていた。































 探は暫く遠くからその光景を見ていた。





 あの視線の先にあるのは確かに自分だった。

 自分を待つ、普段は決して見せてはくれない表情がそこにはある。























 だから、それをもっと見ていたいと思ったのだ・・・・・













































 ・・・でもそれは、長くは続かなかった。

































『・・・・白馬』

『すまない、ずっとここに?』

『遅せえぞ』

『いやあ参った。まさか雪になるとは』

















 探に気付いた快斗は、それまでの表情を閉じ込めた。

 この寒さの如く冷たい視線を投げ、ありありと不機嫌な表情を出す。



 そのままどこか暖かい場所に移動しても良かったのだが、探はひとまず自分の車へ快斗を連れて行った。











 それは何故かと言うと・・・・・





















「携帯番号変えたのか? 繋がらないから、どうしたのかと思ったが」

「ああ、ごめん。変えたっていうかまだ買ってないんだ」

「は?」

「雨ふったじゃん今日。でさ、その後車洗ってる時に、水溜りに落としちまったんだ」

「・・・・どうして洗車の時に携帯なんか持ってるんだ」

「いいじゃねーかもう。とにかく、解約だけはしたんだけどさ」















 快斗はふいと窓の外に向いた。

 夜の闇が、その頬に差した赤みを誤魔化している。





















 ・・・・言える訳がない。















 今日東京に帰ってくる探からの連絡を待ってたから。

 だから、片時も携帯を離せなかっただなんて――――――――――・・・・そんな恥ずかしい事を言える訳がないのだ。











 友人からの電話の着信に驚き、水溜りに落としてしまった時の自分は。





 今思い出しても、本当に・・・・・・・

























「黒羽君?」

「腹減った・・・・・なあメシ食おうぜ。この辺に、旨いラーメンの店あるからよ」

「・・・・その前に」

「!」





















 探が運転席から身を乗り出す。

 助手席の快斗が振り向いたその瞬間を狙い、くいと顎を掴み引き寄せた。

















 ・・・・冷たい口唇が、接触する。























「何の為にまず車に戻ったと思ってる」

「こ、この為かよ!?」

「―――――――・・・・2週間も君が視界にいないなんて、気が狂いそうだった」

「だ、だからテメエは何でそんな台詞をマジな顔で言えるんだ!?」

「そろそろ慣れてくれ。まあ・・・・・そんな反応も、相変わらず可愛いけどね」

























 そうして、再び触れ合う口唇。











 寒さのせいか、ただこの一点の熱さのせいか・・・・・

 快斗は震えと共にそれを受け止める。

















 探はうっすらと目を開け、目の前のくせのある髪の毛を見た。



 ・・・・独特の甘い香りが自分をこんな気分にさせることに、彼は気付いていないのだ。

 それは黒羽快斗自身の放つ光の薫り。















 『怪盗キッド』になって気配や身体をどんなに変えようとも。

 決して間違う事のない存在の香・・・・・・・

































 ・・・・・・・・歯の浮く台詞は、君の専売特許だろう?



























 微笑いながら、やがて探は名残惜しげに離れた。































「なあ・・・・」

「何」

















 上目遣いの猫目。

 口唇から吐く息が、白く揺らぐ。

















「・・・・大阪どうだった?」

「結構寒かったな」

「あいつに会った?」

「――――・・・ああ、いたな。父親に理矢理付き合わされたという感じで」

「はは。やっぱり」

「そのあと彼と一緒に抜け出して大阪見物しに行った。はい、お土産」

















 『あいつ』とは、大阪に住んでいる同い年の青年のことだ。

 父親同士が仲が良いこともあって、幼い頃から結構一緒になることが多い。









 西の名探偵と呼ばれている彼は、年始は恒例の父親関係のパーティーに出席させられている。



 父を警視総監に持つ探も同様、だから今回大阪まで行く羽目になっていたのだ。















「今度の連休は彼が父親とこっちに来るよ。警視庁の、新年会って言ってたな」

「うっわー。なんかタイヘン」

「また上手く抜け出すけどね」

















 その時は、一緒にどこか行こうか?

 そう低く囁く探に快斗は微笑う。



















 返事の代わりに――――――・・・・



 今度は快斗の方から口唇を重ねた。




































ひとくぎり





























「お・・・おい・・・っ・・・・・」

「ん?」

「・・・・いつまで・・・・入ってるつもり・・・・だ・・・・!?」

「駄目なのか」

「ったりめーだ・・・・・・早く、抜きやがれ・・・・っ」

「うーん・・・・しかしこんな君は滅多に見られないし・・・・もう少し、耐えてくれ」

「・・・・なら、勝手に俺ん中で・・・でかくなんじゃねえっ・・・!」



















 車の中で前半戦を終え、近くのパスタの美味しい店で夕食をとった後。

 2人は白馬邸へと戻ってきた。





 その中の奥にある探の部屋。

 相変わらずのキングサイズのベッドは大人2人が転がった所で余裕の大きさで、着いた途端に探は頑丈に部屋に鍵を掛け快斗を押し倒した。









 そうして、後半戦開始。

 現在は言うなればロスタイムである。





















「そうさせてるのは君だ」

「ちょ・・・・っ・・・だから、動くなっつーの!」

「また、そうやって誘う」

「だ・・・・誰が誘ってるって? 勝手に、解釈してんじゃ・・・・ねえ・・・っ!」



















 腕の中の快斗は相変わらず細かった。

 それは彼が『キッド』であるが故、一定の体格を保たなければならないからだろうけど。







 ・・・・軽ければ軽いほど、身体は動くし飛行にも最適なのだろう。



 でもちょっと探は心配になる。





















 『黒羽快斗』は『怪盗キッド』。

 それは探の中では、確固たる確信を持っているのだが・・・・・























 ふと。

 快斗が探の腕をきつく掴んだ。







 ・・・その瞳が更にきつく自分を睨んでいる。























 探は小さく息を付いた。



























「・・・・解った。そんな顔しないでくれ」















 そう言うと数回腰を揺らし、快斗の一番弱い部分を突く。

 跳ねた身体がゆっくりとシーツに沈んで、探はようやく自身を離した。


































ひとくぎり

































 暫くの静寂。



 やがて快斗は、もぞもぞと寝返りを打つ。



























「白馬・・・・お前、逢う度にしつこくなってくのな」

「嫌かい?」

「――――・・・・・別に」



















 頭だけ布団から出している快斗。

 冷えた空気が、髪の毛を揺らす。













 素肌だけど・・・・羽根布団だからとてもここは暖かい。



























「お前さ。今日、駅で俺ずっと見てたろ」

「え?」

「・・・解んねえ訳ねえだろ。あんな視線・・・・・いつ気付いたら良いのか、タイミング難しかったぞ」





















 携帯をオシャカにしたのは、予定外だったけど。

 換えをすぐ買えば良かったのに買わなかったのは・・・・・・お前の反応が知りたかったから。











 繋がらないと解ったら、心配するだろう。

 そうでなくとも遅れて来たのだから。























 あいつは焦る。



 急ぐ。





















 息を切らして、走って俺が待ってるこの場所へ来る・・・・・・



























 ・・・・・お前に見られてる数十分の間。



 俺は身体が熱くてしょうがなかったんだぜ・・・・・・?

































 風は冷たかったのに。

 手は、凍えそうに冷たかったのに。



























 ・・・・・・お前の視線が逸らされる事なく俺に向いているのが解ってたから。



























俺。お前待ってるのって結構好きなんだ。





そんな事――――――・・・・絶対、言ってなんかやらないけどね。































「見ていたかったんだ」

「・・・へえ」

「君が僕を考えながら待ってる姿は、とても僕を幸せにさせる」

「俺は晩飯の事を考えてたんだけど・・・・・」

「そんな風に誤魔化すところも、可愛いし」

「・・・・違うって言ってんだろうが」























 探は微笑う。

 それはもう本当に、幸せそうに。













 ・・・見てる快斗が恥ずかしくなる程に。



























 正月気分も抜けた、1月最初の週末。



 それぞれが、それぞれの正月を迎えて戻ってきた今日この夜。

































「明日は晴れっかな・・・・」

「どうだろうね」

「・・・ま・・・それは明日になれば解るか・・・・・」



































 とりあえず今日は眠って。

 起きたら、どこかへ一緒に出かけよう。





























 ・・・・・・今年最初の、俺たちの時間へ。










































Fin