そろそろ講義も終わる時間だ。

 まだ5月だというのに、上着の要らない程の暖かさな今日の夕暮れ。











 新一は欠伸をかみ殺しながら窓の外を見た。




 昨日ろくに眠っていない。

 それどころかここ一週間ずっと寝不足だ。











 何故なら・・・・





















「うわっ」









 ジーンズのポケットに入れている携帯が振動する。


 液晶の光が赤。

 この色で入れているのは1人だけ。







 今日は勉強の気分ではなく、一番後ろに座っていたので黙ってボタンを押した。

 さすがに声のトーンを落として電話に出る。













「・・・・何か用か」

『冷たいやっちゃな。黙って行くことないやろ』











 声の主は服部平次。

 この男こそ、新一の寝不足の原因だった。

















「お前・・・・今起きたのか」

『おう。こんな時間でピックリしたわ』











 ガックリと。



 新一は、電話と一緒に机に突っ伏した。



 





STUDY AFTER SCHOOL





 

 工藤新一。服部平次。



 東西の名探偵が同じ大学に進学して2年目。

 単位の取り方も解ってきて、余裕を持ち始めた頃。









 

『明日やろ? ハタチの誕生日。おめでとさん』

 



 

 そう言って5月3日に新一の家に突然現れ、夜遅くまでアルコールを飲みまくり午前0時丁度に平次に『好きや』と告白されてしまった。



 既に思考回路が麻痺していた新一は、事態をよく飲み込めず。

 でも別に平次のことは好きな部類であったので、深く考えずにからから笑いながら『俺もだ』と答えのだ。



 













 ・・・・・・それからの事はよく覚えてなかった。























 なんだか気持ちいい感触が唇に、肌に、手にあったのはうっすらと解る。



 しかし、次の朝。

 光が射し込む自分のベットに素っ裸の自分自身と平次の姿を確認して血の気が引いた。







 ・・・・・加えて至る所に残る赤い足跡。











 飛び起きバスルームに走り思いっきり身体を洗った。

 熱いお湯を顔中に浴びながら、どうしていいのか解らなかった。







 でも。

 恐る恐る部屋に戻ってあいつの顔を見たときに自分の中に生まれた感情。





















 ・・・・・・・・服部だったら、別にいいや。



























 

 どうしてそう思うのか、まだ新一には解らない。

 そういう意味で『好き』なのか。



 ベットで目を覚ましていた平次は、今までに見たことのないぐらい優しい表情だっから流されてしまったのかもしれない。





 







 平次はとても強引で誘い上手だ。







 はっきり言って、とても気持ちがいい。

 だから、ずるずるとここまで来てしまった。

 















「・・・・じゃあ、俺まだ講義中だから」

『ちょお待て』











 このままで良いわけない。

 俺は男で、アイツも男。



 今ならまだ間に合う。

 戻れる。













 ・・・・・・今なら、まだ。



















 その時、講義の終了を告げ教授達や学生らが席を立ち始めた。





















『ほれ。終わったやんか』

「終わったから何なんだよ」









 ざわめきを感じ取った平次が語りかけてくる。

 新一は携帯を耳にあてながら、ノートをしまい始めた。



 掛けていた眼鏡を外し、胸ポケットに納める。









『なあ。今日来るか?』 

「行かない」

『冷たいなあ』









 速攻で返事を返す新一に、明らかに拗ねた声を出す平次。













「だいたいお前、どういうつもりで・・・・・・」

『なんや』 













 電話という物は、まるで本当に耳元で囁かれている様な気がして厄介だ。









 夕べも。

 その前の晩も、この声を耳元で聞いた。



 そう思ったら最後・・・・・・・止めどなく記憶が、よみがえってきてしまった。

























 ─────────やば・・・・!









 



 しまっていたシャツの裾を出す。

 男特有の状態を解らないようにして新一は、他の学生が居なくなったのを確かめてから席を立った。











『工藤?』

「切るぞ」











 これ以上この声を今聞いていられない。

 新一は電源を切ると、そそくさと校舎の一番はずれのトイレに向かった。


























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「はあ・・・・」









 一通り処理を済ませた新一。

 誰も来なくて良かったと、ホッとしつつジーンズを上げる。



 その時、電話が揺れた。











「うわ、」







 バランスを崩してそのまま座り込んだ新一は、ポケットから電話を取り出した。

 赤色に光っている。







 ・・・・平次だ。



















「・・・・・」











 出ようかどうしようか迷ったが、結局電源を押してしまう。



 声を聞いたら熱が戻るのが分かり切っているのに。

 実際解放したばかりのそれは、赤く光る液晶を見るだけで再び大きく脈打ち始めている。















「はい・・・」

『なあ~ お前の好きなもん作ったし、来いや』 













 無邪気に誘う平次に、新一は閉口する。























 こいつは平気なんだろうか?









 どうして男の俺を抱けるんだろう?

 『好き』だと言った。何度も何度も、俺に。



 そりゃあ俺も服部は好きだけど。



 でも・・・・

























 ・・・・・・・・・・・男同士という事実を、何とも思ってないんだろうか。































「どういうつもりなんだ」

『どおゆうて、何や』

「・・・・・・・こんなの困る」




















 誰もいないだろう校舎の、トイレの個室は必要以上に声が響く。

 新一は更に声を殺し言った。





 ・・・・平次は息を付く。



















『なんで困るんや。お前、俺んこと好きゆうたやろ』

「それは・・・・」

『やけに声響いとるみたいやな―――――――――・・・・どこにおんねん?』


「どこだっていいだろ」











 その時、うっかり手がペーパーホルダーにあたり音がする。

 それだけで平次には解った。











『トイレか。何してたんや』

「・・・・こんな所で他にすることあるかよ」

『はーん・・・・・』













 電話の向こうで意地悪く微笑んだ平次。

 もちろん、新一には見えない。















「じゃあな」

『なあ。ええことしようや』

「・・・・は?」













 電話を切ろうとした時、やけに落ち着いた声で平次が続けてきた。

 新一の心臓が波打つ。













『俺な、いま風呂上がったばっかでなーんも着とらんのや・・・・・・・お前の声聞いとったら、なんや興奮してしもた』

「な・・・・・」

『わかるやろ?』

「ば、馬鹿なこと言ってんじゃねえ!」













 平次の低い囁き。

 新一の身体は、悲しいまでに敏感に反応してしまう。



 この一週間抱かれ、その度に目に焼き付いてしまった平次の身体。

 自分の中に入ってくる平次のそれも感触と共に思い出してしまい、急激に体温は上がった。






















『でかい声出してええんか? お前いま・・・・・・外に出れる状態、ちゃうやろ』

「!」





















 声が上擦る新一。 

 吐息と共に耳元に囁きかける声に、下の心臓が悲しいまでに復活を遂げた。













 いつ誰が来るかも解らない。

 個室とはいえ上は開放されているし、何よりまだ下半身は外気にさらされたままだ。

















 ・・・・・・電話の電源を、切ればいいのだ。



 たったそれだけの行動で、この苦しい状態から逃れられる。





















 でも。

























 ・・・・・・・ホントにこのままじゃ、戻れないってのに。































 自嘲気味に微笑う。

 新一は、ため息を付きながら後ろにもたれかかった。



















「イイコトって、何だ」

『俺の言う通りに・・・・・・・手え動かしてくれればええねん』

「手?」

『お前が、自分でやるんや』

「!」













 平次は思い切り低く囁く。

 電話越しでもそれは、ダイレクトに新一に届いた。














「な・・・・なに言ってんだ?」

『今やっとったんちゃうんか? なに思いだしたんか知らんけど・・・・・・やらしいなあ』

















 どうしてこの男はここまでカンがいいのか。

 新一は見抜かれているこの状況に、強烈な高ぶりを覚えた。













 ・・・・・・・ちらと見た自分自身は、完璧に収まりがつかなくなっている。 
























『いつもどっちの手や? 右か? 電話落とさんよう・・・・・・・・・しっかり首に挟んどいてな。ゆっくり・・・・ゆっくり、掴んで動かすんや』

「・・・・・・・・い、いい加減に」

『そしたら・・・・・・・・・上手く指使うて(しご)
けや・・・俺にされてる、思てな」

「っ・・・・」













 言われるまま。

 囁かれるまま新一の手は、自分自身へと触れる。













 ・・・・・・まるで実際に、平次の手が伸びてきた錯覚に落ち入る。






















『まだイッったらアカンで。次は、左や・・・・・・・・・左手で、自分の乳首を摘むで・・・・・・・どっちがええかは―――――・・・・・・・・お前が一番、知っとるやろ?』

「ん・・っ・・・」

















 その声に導かれ、シャツの裾から左手を潜り込ませる。



 ・・・・・・そろそろと左胸に指を運び触れた。













 電話が落ちない様にしながらの体勢。

 自分で見られないぐらい淫らだろうことは確かで、新一は自然に瞳を硬く閉じる。





 それがまた熱を煽るのがわかるから、言われるがまま動きを続けた。





















 ・・・・・・・・・・・どうしようもなく身体が
(うず)いている。























 これまで与えられてきた平次の腕や指を思い出しながら、単なる自慰ではない自慰を新一は身をもって体験する。



 声を懸命に押し殺しても、息づかいは電話を通して平次に伝わる。 

 その官能的な吐息に平次も満足げに電話の向こうで微笑った。




















『もっと声聞かせてくれや――――――――・・・・俺も、お前を想像してやってんねんから』

「ちくしょ・・・・・誰か、来たら・・・・どうして、くれんだ














 自分の声でまた平次も自慰行為を施していると知り、その姿を想像する。





 あの浅黒い肢体が何もまとわぬ姿で、既に猛りきった中心をまさぐっている?

 そう思うと堪えようのない疼きが身体中を駆けめぐり、唇から吐息が漏れた。











 平次の声に導かれるまま、自分自身をを撫で回す。





 ・・・・・そろそろ新一は限界に来ていた。



























『今の工藤・・・・・ええ顔、しとるんやろなあ――――――――――・・・・・・・俺も、イきそうやけど・・・・・・ちょお待っとって』

「・・・・・・ま、待つって?」



















 その時。

 静けさの中から、こちらに向かってくる足音を確認する。





 新一はびくりと手を止めた。



























「だ、誰か来た――――――――――・・・・・・・切るからな?」


















 声を潜めてそれだけ言うと、電話の電源を切り息を止める。

 そして通り過ぎるのを待った。





























 ・・・・・・・・・まさか入ってこないよな?





 ここは学生だってもちろん、先生達も滅多に来ない場所のはず・・・・・・・・・

































 しかし新一の思いとは裏腹に、その足音はトイレの中に入ってきてしまう。

 さすがに、血の気が引いた。  
























 ───────────マジかよ・・・・・・・・




























 何となく誤魔化しにトイレの水を流してみる。

 しかしその足音は用を足すでもなく、他の個室もあるのに新一の入ってる個室をノックした。


























 ・・・・・何なんだよ?









 誰だよ? 勘弁してくれよ!!


 冗談じゃねえよ!? 他も開いてっだろーがトイレはよ!




























 異常な行動を起こしているこの足音の主に、新一は恐怖感を覚える。

 しかし次に聞こえてきた声。



 それは・・・・・

































「工藤・・・・・・ここに居んのやろ?」

「は、服部!?」























 ・・・・・・たった今電話で話していた、服部平次だった。




















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