すべてはきみの瞳の中に[03]







 瞳を開けている。

 唇が、動いている。

 





 生きている。

 確かに、生きている。















「アホウ。心配させやがって」

「ごめんな・・・・お前、熱あるのに」

「俺ん事はどうでもええ! 無茶すんなっていつも言っとるやろ!?」











 自分の意志とは関係なしに事件を引き寄せる新一。

 いつか、こんな事になるだろうと思っていた。






 


   



「せやけど良かった・・・・・・どや? 気分は」

「大丈夫。ちゃんと受け身取ったし・・・・・・傷も大したことない。脳波も異常ないから、一応今日はこのまま泊まって明日退院できるって」

「そ・・・か」

「はは。でも今はちょっと身体中痛いけどな、筋肉痛かな」















 語る唇に色が戻っている。

 平次は、顔を伏せて深く息を吐いた。



















「・・・・・・もう、こんな思いは勘弁や」

「服部・・・」













 そういえば夏頃、身近な人を亡くしたと聞いた。

 あの頃の彼はしばらく声を掛けられない雰囲気だったのを覚えてる。

 

 今日の出来事は自分でも無茶をしたと、新一は後で思った。

 たまたま人質の女の子も、自分も何とか無事だったから良いようなものの・・・・・・



 下手をすれば、みんな巻き添えにしてしまったのかもしれなかったのだ。













 昨日も風邪を引かせてしまっていたのに。

 今更ながら、新一は後悔した。























「駄目だな俺・・・お前にも迷惑かけてばっかりだ」

「工藤・・・・・」























 呟くような言葉に、平次の心臓は大きく脈打つ。



 



 新一に惚れてると自覚した時点から、平次はこの雰囲気がどれだけ影響を与えているかを思い知った。

 時には有利に働いても、ほとんどは残酷な想いしかそれは残さない。



 頭の良い平次にも、少し考えれば解ることが解らなくなっていた。









 決して新一は誰にでもそんな表情を見せるという訳ではないのに。

 そんなことさえ解らないほど、平次は動揺していた。





















「お前・・・・・・好きな奴いる言うたよな」

「え? あ、ああ」



















 突然の平次の言葉に、新一は戸惑う。





























「実は俺もおんねん・・・・・・かなりマジで、惚れとる奴」

「!」

























 さすがに新一は驚きを隠せない。

 平次は、にっこりと笑う。



























「お互い、頑張ろうや」



























 突然告げられた言葉。

 何だか、遠いところでそれは響いた。





























「・・・・そうだな」

























 ゆっくりと新一は天井を見上げる。

 苦しさが、喉を押しつぶしそうだった。

  































 お互いに想いあっていているのに。

 互いに惹かれあっているのに。









 ・・・・・・・・強すぎる想いは、すれ違う。



























 あの後すぐ看護師がやって来て、新一は再び検査を受けるために別室へと移動となった。

 意識が戻ってからの脳波を調べるらしい。



 ここは完全看護で付き添いは必要ないと言うことと、身体も治りきってない平次は早々に家に帰される羽目になる。

 荷物も何もかも新一の家に置きっぱなしなので、今晩も新一の部屋で寝させてもらうことにした。















「ほんなら、明日またくるわ」

「おう」

















 

 素っ気ない会話を残し、お互い病室を出る。

 吹き抜ける風に身体を竦めて平次はタクシーに乗り込んだ。







































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「新一!」

「・・・蘭」










 検査も終わり病室でうとうとしかけた新一の元に、その娘は駆け込んできた。



 それは新一の幼なじみの毛利蘭。

 父親である毛利小五郎から連絡を受け、横浜から今着いたらしかった。











「大丈夫なの?!」

「平気平気。おれ身体鍛えてあっから・・・・・・なんだよ泣くなよ」

「な、泣いてなんかいないわよ」











 コートも羽織らずバックも持たず、よほど慌てて駆けつけたのが分かる。

 息を切らして新一の側に寄ると椅子に座った。













「ホント無茶ばっかりするんだから・・・・・私がどんなに心配しても、ちっとも言うこと聞いてくれないし」

「来てくれて嬉しいよ。蘭」

「新一・・・」













 微笑う新一を、蘭は不思議な表情で見た。

 その時、面会時間の終了を告げるアナウンスが流れる。



 蘭は静かに立ち上がった。















「じゃあ・・・・・ホントに平気ね?」

「心配すんなって。悪かったな、こんな時間に」



















 閉じられたドアを、新一は静かな気持ちで見つめた。

 しばらく後に聞こえたエンジン音を聞きながら、何故か穏やかな気持ちだった。

































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 コンビニで弁当を買って平次は工藤邸に戻った。


 一人きりの工藤邸はやけに淋しい空気が流れている。



















「おっきいだけに・・・えらい寂しいなあ」

















 この家で何年も一人暮らしをしてきた新一。

 『ひとりはもう慣れた』と言っていた新一。



 自分も今はひとり暮らしだが、一軒家の一人暮らしとは根本的に違う気がするのは何故だろうか。









 考えて、もともと家族がいた家だからだと平次は悟る。

 寝屋川の実家で、もし一人暮らしだったらと考えると・・・・・・・・納得がいった。 





 しかし主の居ない家にいるというのも、どうしてよいやら解らない。

 それにここは新一の家。





























「・・・・・・ある意味拷問や」













 どこもかしこも彼の匂いを残していて、気がおかしくなりそうだ。 

 部屋の真ん中に座って買ってきた弁当を広げる。



 気を紛らわす為に、テレビをつけた。

 同時に側の電話が鳴る。











「・・・・・・出てええんかな」















 悩んだが、緊急の用件の場合もあるだろうし受話器を取った。

















「はい、工藤です」

『服部?』

「・・・・・工藤?」



















 それは新一からだった。























『はは。お前が工藤とかって出るの、なんかおかしいな』

「アホ。どないした」

『シーツ、汗かいたのそのままだろ? 隣の部屋のタンスに新しいのあるから、それと換えてから寝てくれ。あー・・・・・・・・どうせなら敷き布団ごと換えた方がいいな。それも一緒に隣にあるから』

「すまんな。気にさして」

『・・・・・さっきさ、蘭が来たんだ」

























 ぽつりと。

 呟くように新一は言った。





















「蘭ちゃんが? 良かったやん」















 言いながら平次の表情が少し曇るが、電話の向こうの新一にはもちろん気付かない。

 しかし新一の表情が見えないのは平次も同じ事だった。





















『・・・・・・蘭にはもう、別の相手がいるけどな』

「え?」





















 平次は問い返す。

 だが、新一は二度は言わなかった。























『じゃ、寒いからもう切るぞ──────・・・・・・明日11時には出れるから、頼む』





























 平次の言葉を待たずに新一は電話を切った。







 高校の頃確かに好き合っていた幼なじみ同士。

 それは端から見ても、悔しいほど仲が良かったのに。

























 ─────・・・・・・・・2人の間に何があったのだろうか。

































 幼い頃から新一は蘭が好きだった。

 蘭も、新一が好きだった。



 それは新一がコナンになってから、よりいっそう強くなったはずの想いだった。



































「・・・・・・・俺と和葉はそうならんかったけどな」















 平次にとって和葉はもう姉弟同然だった為、逆にそんな気持ちは起こらなかった。

 和葉が平次をそれ以上に思っていたことは知っていた。



 あんなにあから様に態度に出てれば、解らない方がおかしい。















 でも、その気持ちに応えることは出来なかった。

 だから気付かない振りを続けた。



























 でも高校卒業と同時に上京する事になったあの日。

 新幹線のホームで別れ際に和葉が何かを言おうとした、あの時。





















『平次・・・あんな、アタシ・・』

『和葉』













 鳴り響く発車のベルが聞こえる。

 ドアが閉まるその瞬間。



 次に出てくるだろう言葉を遮る自分の言葉。





























『・・・・・スマン』

























 

 和葉が何を言おうとしているのか、解ってしまった。

 だから、言わせたくなかった。









 その時の自分の顔はどんな顔をしていたのだろう。 

 強ばる和葉の表情。



 別にその時他に好きな女もいなかった。

 新一の事も普通に友達として好きなだけだった。





 でも。





















 俺はあの時、住み慣れた大阪を離れ・・・・・・・・

 大学生活をあいつと共に過ごすことを選んだのだ。






























 

 俺は電車に乗り込んだ。

 多分これからも幼なじみ以上としては見れないだろうから。



 そして扉が閉まる瞬間に見た、あいつの口から読みとれた言葉は・・・・・



































『・・・・・知っとったよ』























 和葉はどんなに想い続けても叶わないことぐらい知ってたのだ。

 小さな頃から見つめ続けてきた幼なじみは、決してそれ以上に自分を見てくれないだろう事を。



 だから、和葉もきちんと終わりにしたかった。



















 ほんの1年前の事を思い出して平次は苦笑した。



 今となってはもうそんなに連絡を取ることもなくなってはいるが、会えば普通に話せる『幼なじみ』だ。

 弁当を平らげて片づけると、新一の指示通りにベッドメイクを始めた。  

































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 雨が降っていた。

 久しぶりのその天気にベットの中から暫く外を平次は見ていた。



 相変わらず寝心地の良いシーツの感触。

 それに頬を寄せていたが、新一を迎えに行く時間も迫ってきていたので起きあがることにした。







 昨日打ってもらった注射のお陰か体調はもうすっかり良くなった。

 クローゼットから新一の服を拝借すると、適当に着替えを揃えて車に乗り込んだ。































「工藤─────────・・・・・あれ?」



















 覗き込んだ病室に、新一の姿はなかった。



 平次は時計を見る。

 10時半前。遅くなった訳ではない。

















「・・・・あれ」


「あ。早いじゃん」















  声に振り向くと、新一がドアからひょっこり現れた。













「工藤」


医師(センセイ)に呼ばれててさ・・・・・・・それ着替え?」













 紙袋を受け取ると、新一はベッドに備え付けのカーテンをひき着替えに入る。



 平次は窓脇によって外を眺めた。

 雨のせいで空は暗く、空気も冷たい。













「そーだ、お前朝飯食った?」

「まだやけど・・・・・」



























 ───────・・・・・・っ!?



























 そうして振り向いた声の先に見えたのは新一の白い肌。 

 カーテンの隙間から現れたその上半身に、平次の心臓は大きく跳ねた。























 ・・・・・・・い、今の俺にそんな格好見せんなや!

























「・・・・・服部?」

「あ、ああそやな、何食おか」

「どうした・・・・・まだ具合悪いのか?」

















 平次は頭を降る。

















「ちゃうちゃう! ええから早よ着替えや寒いやろ!」

「? ああ」













 身支度を整えた新一に、やっと平次は平静な目で視線を向けることが出来た。 

 平静といっても表向きだ。













「ほ、ほんじゃ行くか」











 必死で動揺を隠そうと、必要以上に素っ気ない口調になってしまうのが自分でも解る。 



 目を合わせたら全て悟られてしまう気がしてしまうのだ。 

 電話だと、普通通りに出来るのに。



























 電話──────・・・・・・



 そうや。新しい携帯、買わなあかんな・・・

























「服部。後で携帯買いに行くぞ」

「へ?」

「解約もしなきゃなんないだろ」

「ちょお待て、何かお前が買うような口振りやな」











 同じ事を考えていたことに少し驚くが、それよりも再起不能になったのは自分の携帯だ。

 平次はとっさに新一が罪悪感でそれを言っているのに気付いた。















「・・・・・買わせてくれ」

「落ちたんは俺の意志や。風邪ひいたんも俺のミスや。お前は関係あらへん、そんな気、使うな」























 急に新一の表情が変わった。

 凍り付いたような目だ。





















「─────・・・・・・・関係ない、か」

























 ぼそりと。

 平次には聞こえない小さな声で、新一は呟いた。



























 ・・・・・・・工藤?





















 いつもの新一と反応がやはり違う。

 なんだか、雰囲気が知らない人のように。

























「じゃあ、いい」

















 そう言って新一は顔を背けた。

 その瞬間、平次の心臓が締め付けられるように痛んだ。

























 ・・・・・・・ちょお待て。



 なんでそないな顔するんや?



















 好きな人がいると言っていた。

 こんなに苦しいのは、初めてだと言っていた。













 ・・・・・こうも気持ちは雰囲気を変えるものなのだろうか?































 こんな工藤新一は知らない。



 見たくない。























 俺やったら、絶対そんな不安な顔させへんのに・・・・・・・・・・・

































 自分がそうさせていることを平次はまだ気付かない。









 お互い同性を好きになってしまった事実に動揺してしまうばかりで。

 昨日まで単なる友人だった存在に、こんなに心動かされる事に戸惑うばかりで。 



 そして今までにないくらい、気持ちがコントロール出来ないことが信じられなくて。











 ・・・・・・生まれ持った洞察力も思うように働かない。























 2人は、黙って病院を出た。








































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 駐車場の新一の車まで来た平次は、鍵を渡そうとして止めた。



















「お前まだ運転しない方がええ」

「もう平気だ」

「嘘つけや。腕かばっとるくせに」

「!」















 振り落とされた時にとっさに身体をかばい、ガードレールに右腕を打った。

 紫色に痣になって残っていたが大した怪我ではない。















「事故ってからは遅いんや。俺はまだ、死にとーない」

「・・・わかった」

















 上目遣いにそう言われ、不覚にも平次は手から鍵を落としてした。

 大人しく新一は助手席に向かう。



 大きく深呼吸をして、平次は鍵を拾い鍵を開けた。

















 エンジンをかけた所で音が聞こえる。



 新一が後部座席を見る。

 そこで服部は『ああ!』と叫んだ。









「そや、忘れとった・・・・・警部はんからお前の携帯、預かっとったんや」

「携帯?」

「お前と一緒に転がっとったらしいで。現場にな。ほい」











 渡された携帯はバイブ機能で振動音を出していた。

 新一は少し汚れてしまったそれを受け取り液晶を見るが、発信者がわからない。



 とりあえず、出た。



















「はい、もしもし・・・・・」

『新一か!?』

「・・・・・と、父さん?」

『新ちゃん? 新ちゃんなの? 今どこ?』

「母さんも?」













 平次にまで聞こえるくらいに響く声。

 それは、新一の両親からの電話だった。















『目暮さんから聞いたぞ。まったくお前は、無茶ばかりして!』

「どうして・・・・・」

















 新一は信じられない。

 この声の聞こえ具合からいって、国内からのものだからだ。

















『退院したんだろ。今どこだ』

「車ん中・・・・・いま病院出たばっかりだけど」

『何!? そんな身体でまさか運転してるんじゃないだろうな!』













 その轟く声につい受話器を新一は離す。

 次の瞬間、苦い顔をしていた新一の手から携帯の感覚が消えた。















「へ?」

「・・・・すんません、服部です」















 新一の携帯を取り、なんと平次が会話をし始めた。

 ぽかんと口を開ける新一を制し平次は続ける。











「俺、運転しますさかい、成田に連れてけばええですか?」

『服部くんか! 良かったじゃあ頼むよ、編集者が付いてきてて動けそうもないんだ・・・・・・2時の飛行機で帰らなきゃならなくてね』

『服部君? よろしくお願いね』

「解りました」

















 平次は電源を切った。

 ほい、と新一に渡す。

















「昨日お前の意識がまだ戻らんかった時、警部はんが連絡してたんや・・・・・・いま着いたんやな」

























 どう考えても国内からの電話。

 多忙な新一の両親。予定にない帰国。



 慌て具合から見て、いま成田に到着した所だという服部の読みは当たった。

 まさに今新一の無事を確認しようとこちらに向かうところだったのだが、ロスから付いてきた編集者が張り付いていて、原稿を催促しているのだろう。



 それなら、こちらから成田に出向けばという平次の機転が見事に的を得たのだ。











 1年に1回帰国するかしないかの新一の両親。

 さすがに一人息子の一大事に、いてもたってもいられなくなったのだろう



 新一は嬉しそうな顔をした。















「空港からだったのか・・・・」

「とにかく行こか。2時ので帰る言うてたで」









 ギアを入れ走り出す。

 止みかけてた雨が、また強くなってきていた。 

















「・・・・・会うの、どれくらいぶりなん?」

「正月以来かな」

「俺、初対面やで・・・・・緊張すんなあ」

「何でお前が緊張すんだよ」











 平次は新一の両親に会った事がなかった。

 しかも相手はあの有名な小説家と元女優だ。



 別にミーハーではないが、やはりドキドキする。









 平次は新一を見た。

 表情が緩んでいる。よほど突然の再会が嬉しいらしい。



 そんな新一にこっちまで嬉しくなってしまう自分に、口の端が上がるのを感じて平次はそれを手で隠した。





















「──────・・・・半分、頼むわ」

「え?」

「・・・・・携帯代」





















 口を押さえたまま平次は呟く。

 その目は、進行方向を見つめたまま。



 新一はそれがさっきの返事だと解るのに数秒かかった。

 なんだか嬉しくなるが、あからさまにそれを表情に出せるほど新一は素直ではない。























「・・・おう」

















 それだけ言うと、視線をサイドミラーに移す。



 そして指を伸ばしラジオを付けた。

 高速を走る間、流れる音楽をただ2人はなんとなく聞いていた。








































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 成田空港に着き、新一は両親との久しぶりの対面を果たした。



 ロビーでノートパソコンを開いていた工藤優作と、そわそわと周りを見回していた工藤有希子。

 新一の姿を見つけるや否や、2人とも走り出してきて感動の抱擁である。















「新一!」

「ちょ、ちょっとまだ身体痛いんだから・・・」













 実に絵になるシーンだと平次は思った。

 さすがに新一を創った遺伝子を持つ両親である。



 暫くして、優作が平次に気付いた。











「・・・・君が服部君だね?」

「は、はい」

「まあ! 貴方が服部君? うちの新一がいつもお世話になって・・・・・」





















 ・・・・・ほわー・・・・・・工藤、このオカンの血ぃ受け継いどるんや・・・・・

























 目の前の工藤有希子はまだ、30代と聞いた。



 若くして結婚したとは聞いていたがこんな大きな子供がいるようには見えない。

 でも、明らかに新一と同じ作りのその母親を見て、平次はちょっと赤くなった。





 その時、優作が腕時計を見る。



















「ああー! もう出発か・・・・・新一」

「何?」

「一緒にこっちで暮らす事、真面目に考えろ」

「・・・え」

「そうよ新ちゃん。別に大学も、こっちだっていいでしょ?」

「ちょ・・・・・2人とも何言って」

「お前は危なっかしくて1人で日本に置いておけん。ああ、服部君すまないが帰りも新一を頼むよ。有希子行くぞ」













 早口でまくし立て優作は慌てて搭乗ゲートに向かった。

 有希子が最後の抱擁を新一にすると、平次に軽く会釈して手を握った。



 しかし平次は呆然としていて、暫く新一の両親が去ったのも気付かなかった。





























 ・・・・・・工藤がロスで暮らす?



























 優作が言った言葉は、平次の頭を真っ白にするものだったからだ。









 両親の元で暮らすと言うことは日本を離れるということ。

 大阪と東京などという距離感など問題にならない、国の壁。



 新一に惚れてると自覚してしまった平次にとって、これは問題だった。



























「服部? 何してんだ、帰ろうぜ」

















 新一は変わらぬ様子で平次に話し掛ける。

 車に乗り込んで暫く考え事をしている平次に、新一は缶珈琲を渡した。



 空けて一口飲むその姿を、新一は少し目を細めて見る。

 熱すぎるその缶を、新一はしばらく手のひらで遊んだ。

















 少しの間、静かな車内に2人無言だった。



 ・・・・・先に言葉を出したのは、平次。



























「行くんか」

「は?」

「・・・ロス」

















 語る目はいままで見たことのない光を宿していた。

 新一は、何故か視線を外せない。























「何、言ってんだ?」 























 きょとんとした目は、平次の心を苦しいまでに締め付ける。































 薄暗い駐車場。

 ちょっとした密室の車内。













 ・・・・・そして、目の前に新一。





























「行くなや・・・・・・」

「服部?」

「俺ん前から・・・・・消えたら、許さんで」

























 新一は影と共に近づいてくる声を聞く。

 信じられない言葉を聞いた気がして、頭の中で整理しようとしたその時。

































「・・・・・!」

































 ――――――――――────・・・・・視界を塞がれた。