すべてはきみの瞳の中に[04]






 塞がれたのは視界だけではなかった。

 新一は、ぼやける距離で平次の閉じられている目を見た。

 



 持っていた缶が引力に惹かれて落下する。

 その音に、平次は唇を離した。



























「・・・・・」

























 放心状態の新一。

 瞳は見開かれたまま、逸らすことなく平次を映している。



 





















 ・・・・・・・・どうしていままで平気でいられたのか不思議だ。



 そう平次は思った。



 



























 柔らそうな髪質に、色素の薄い瞳。

 出逢った時から変わらない白い肌。



 形の良い薄い唇は、いま自分が確かに触れたもの。

 その濡れた唇は確かに自分が与えたもの。











 ・・・・・そう考えただけで、とたんに口が渇いたのが解る。



 無意識に、平次は喉を鳴らした。























 





 ・・・・・・アカン、もう止まらん。























 





 新一は何も反応を返さない。

 しかし目が伏せられた時、平次はようやく声を出した。





























「くど────」

「・・・・・さっさと車出せ」





























 静かな口調。

 それは平次の沸き上がっていた感情を、一気に覚まさせるのに充分で。




 だから。































「・・・解った」















 

















 平次は、黙ってエンジンをかけた。 




































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 走り出してから当然のように2人の間に会話はなかった。

 新一はずっと、視線を左の窓に向けたまま。





















 『俺ん前から・・・・・消えたら、許さんで』











 新一の頭から離れない平次の言葉。

 とても淋しい響きが感じられた、さっきの言葉。



 その後に突然与えられた唇への感触。





























 ・・・・・・そんなまさか。























 新一は、あの行動言動が何を意味するのかを知っている。



























 服部が、俺を・・・・・・・?

































 信じられない。

 単なる冗談かもしれない。



 自分でもあいつを好きなのを信じられないのに、向こうも同じ気持ちでいるなんて・・・・・・・

 そんな都合の良い事、ある訳ない。







 新一は逸る鼓動を気付かれない様に、ただ視線を逸らし続けるしかなかった。

























 そうして霧雨の中、車は新一の家へ着く。

 エンジンを止めると静寂と薄闇が2人を包んだ。 







 平次は・・・・・・言ってしまった後のこの気まずい雰囲気を、どうすればいいかずっと考えていた。



















 言った言葉を取り消す気はない。

 謝るつもりも、毛頭ない。





 新一にはもう、平次がどういう意味であの行動をとったかなんて・・・・・・

 とっくに解っているはずなのだ。

























 ───────・・・・・・お前に惚れとる相手がいるからって、諦めたりせえへん。



 そいつより、俺の事しか考えられん様にすればええんや。























 そして平次は、新一が降りようとして助手席のドアをロックした。

 カチャと音がして、開かなくなったドアに新一は驚きの表情を見せる。



















「・・・何のマネだ」

「俺の質問に、答えてへんやろ」

「質問? ・・・・・って、痛っ!」











 痛めた右腕を掴まれ新一は声を上げた。

 竦ませた身体が平次に向いたその時、掴まれたままの腕を引き寄せられバランスを崩す。



 それでも腕を離さない。

 やがて、平次の顔が近づいてきた。















「・・・離せ!」

「力ずくで・・・・・やってみいや」

「!?」

















 再び塞がれた唇。



 新一は反射的に身体を離そうとするが、あちこち痛みを残したこの身体は思うように動かない。

 そして平次は、こんな反応の相手を大人しくさせる方法をいくらでも知っていた。















 ・・・・・ゆっくりと。



 潜ませていた自分の舌を新一のそれを捜しだし絡ませる。

 その返ってくる反応は、新一がまだこんな事さえ未経験だという事を証明していた。































「こんなん初めてや・・・どうにも、止まらへん」

「・・・・・っ・・」  























 完全に力の抜けた新一見て、平次は確かに今自分は欲情している事を自覚する。













 次から次から沸いてくる激情。



 比例して反応する自分の身体。

 逸る鼓動、上がる体温。残る感触、膨らむ欲望。

































「・・・・・・・・お前が好きなんや」

「!」


































 冗談を言っているようには決して見えなかった。

 囁くようなその言葉と共に、力が入らなくなっている身体の下腹部に甘い疼きを新一は感じる。



 しかし次の瞬間新一の身体に重力がのしかかり、平次の身体が崩れかかってきた。

















「は・・・・・服部、ちょっとおい?」















 平次の身体がおかしいことに気付く。

 触れた身体が、熱をもっていた。

















「お前・・・・・・」













 やはり病み上がりの長距離運転はかなり堪えたのだろうか。

 そうでなくとも精神的な緊張も重なって、それが一気に反動として返ってきたようだった。



 慌てて新一は運転席に身を乗り出しロックを解除すると、平次を引きずって車庫から直接家に通じる道を通り中に入る。











 しかしこの体調では意識のない平次を2階まで運べる力がない。

 自分より重い身体をどうにかリビングのソファに横たえると、枕と掛け布団を取りに2階へ向かった。






































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 自室に入った新一はいつもと違う雰囲気に戸惑った。

 ベッドも部屋も平次は乱したままにはせず、きちんと整えられていたのだが・・・・・・・・



 枕の位置などから感じられる違う匂い。

 自分のものではない、平次の匂いだ。



























 ・・・・・・・・・別にあいつを泊めたのは、昨日や今日が初めてじゃねえのに。





























 なのに意識し始めてからこんなに敏感になっている。 

 新一は頭を振って気を落ち着かせると、掛け布団を取って足早に下に降りていった。































「あ・・・」

「すまん・・・俺、気い失ってたんか?」













 平次が目を覚ましていた。



 だがその目は少し閉じかけていて明らかに熱のある火照りの表情。

 しかし失われていないその瞳の奥の色に、新一はさっきまでの事を一気に思い出した。





















 あの目はさっき自分を映した目。

 あの腕はさっき自分を離さなかった腕。















 そして――――――――――――・・・・・・・・・・あの口はさっき、自分のそれを塞いだ口唇。





































 そう。



 確か、にさっき・・・・

































 ・・・・・・・確かめてみよう。

















 本当にこいつは俺のことが好きなのか。

 誰にでもあんな事をする奴だとは思ってないけれど、自分だってこの気持ちを信じられないのだ。





 新一は平次に近づきそっと額に手をあてた。

 伝わる熱い体温に、次に自分のそれと重ね合わせる。

























「工藤!?」

「・・・・・熱いな」

















 突然の至近距離にまたも平次はそれを押しのけた。



 ソファの脇に膝を付いた新一。

 そこで上半身を起こした形で自分を見下ろす平次の視線を、受け止める。

















 ・・・・・・新一はゆっくり平次の右手を取ると自分の喉にあてた。

































「俺は女じゃない。それは解ってんだろ?」

「・・・・・もちろんや」























 細い首筋の体温を感じさせる間もなく、新一は次に自分の左胸にその手を下ろした。































「そう、胸もないし正真正銘俺は男だ。なのに何でお前は・・・・・・・」



























 逸る鼓動を悟られる前に平次の手を戻す。

 そして、平次を覗き込んで言った。





































「・・・・・・・・・俺が好きなんだ?」









































 新一の漏らす直接的な言葉。

 平次の表情に、動揺と驚愕の色が浮き出る。



















 ・・・・・・こんな平次を見るのは初めてだった。



































「何でやろ・・・・・・俺にも解らへん。こんな気持ちになったんも、つい最近やし・・・・せやけど」

「・・・・・けど?」

「前から惚れてたんやと思う。意識の底で、お前に」

























 大きな骨張った手のひらが新一の頬をそっと撫でる。





 かすかに残る擦り傷に、平次は目を細めた。

 新一は逃げずにその視線を受け止める。

























「・・・・・俺は男を好きな趣味は持ってない」

「知っとる」

「俺には、好きな奴がいる」

「・・・・・知っとる」

「それでも俺を好きか?」

「しゃあないやんか・・・・・・・お前が誰に惚れてようが、俺はお前に惚れとんねん」

























 言うと平次は軽い目眩を覚えてせき込む。

 新一から手を離し、ソファに仰向けになりすこし楽な体勢を取った。



 そうして、ひと呼吸。

































「諦めよ思たんや・・・・・・・・こんなん、どう考えたっておかしな感情や」



























 顔は天井を見上げたまま視線は新一に向く。

 その苦しげな息づかいが、耳に届いた。



















「本気・・・なのか」

「・・・・冗談にこんなに神経使うほど、俺は暇やない」



















 新一は腰が抜けたようにその場へ崩れ混んだ。

 その目は見開かれたまま、動かない。



























「工藤?」















 平次は次の瞬間、真っ赤に変わる新一の表情を見る。

 乾ききった口唇が――――――――――・・・・・平次の視線を捕らえて離さない。 





















「俺は・・・・」































 どうしよう。


 好きな相手が自分のことも好きだと知った瞬間とは、こんなにも体温が上昇するものなのか?

 苦しい様で甘い疼きが胸の奥から沸き上がる。




 このまま『俺も』と応えてしまえばいい。

 それだけでここ数日の自分の想いは、願いは叶えられる。











 たった・・・・・・一言だけでいいのだ。



































「俺は、お前のこと・・・・・・・」



























 そうしてそのまま、数瞬間。





















「・・・工藤」

「っ・・・」






















 何でだ?

 なんで俺はこんな簡単な事が言えないんだ?





 言えば目の前の存在は自分のものになるのに。

 自分だけに、その存在を確かめさせてくれるのに。



















 ・・・・・・・その葛藤は平次の表情を曇らせた。



























「もうええ。お前の気持ちは解っとる」

「え・・・・」

「いくら嫌でも・・・・・友達突き放すなんて事出来んお前の性格、逆手にとったんは俺や――――――――――・・・・・・・何とかしてお前の心ん中に俺を住まわしたかった。寝ても覚めてもそいつより、俺ん事しか考えられん様にな」































 ・・・・・・・そんなの・・・とっくに。





 お前よりも、先に────────・・・・・・・・俺の方が・・・・・・































 今一度、新一は自分の瞳の中に浅黒い肌を映す。

 息の荒いその顔に近づき頬に手を添えた。





 あれ程止まらなかった鼓動が落ち着いていた。

 それはまるで、台風の前の静けさの様に。





























「嫌じゃない・・・・・・」

「・・・・工藤? 」





























 そう囁くと新一はそのまま口付けた。

 さすがに驚いた平次は瞬間固まり目を見開く。





 体温の高さが唇を通して伝わってくる。

 平次にも、新一の震えが唇から伝わってきた。















 ゆっくり平次の手が新一の首筋を辿る。

 触れられた箇所の熱さに、瞬間びくりとして新一は唇を離した。













 ・・・・・何故かそこには冷静な平次の表情。





























「・・・・・残酷な仕打ちやな」

「!」























 新一は目の前の平次の言葉に、呆然とした。



























「同情でこんなんされても、嬉しないわ」

「・・・・っ!」























 新一は声にならない怒りがこみ上げた。







 悩んで、葛藤して、ようやく決心がついて自分から仕掛けた接触を、この男は『同情』と解釈しているというのか?



 すっくと立ち上がり平次の胸ぐらを掴むと、新一は思いっきりその顔を殴った。

 とりあえず病人だが知ったこっちゃない。





















「────────・・・・・な、何すんじゃボケ!!」 

「うるせえ!! てめえは熱で頭までイカれたのか!? 同情だと? そんなもんの為にわざわざこんな事したと本気で思ってんのか?」























 ソファからずり落とされた平次は、怒りで身を震わせている新一を見上げた。



 頭上から浴びせかけられる怒鳴り声。

 その中に少し、震える声が混じっているのを感じ取る。





















「せ・・・・せやけど」

「俺も、お前が好きなんだよ!」

「へ?」























 ・・・・・聞こえた言葉を、平次は頭で繰り返す。

 頬に残る鈍い痛みを押さえながら、息を震わせ肩を上下し叫ぶその姿を平次は呆然と見た。



























「ちょ・・・・ちょお待て、お前俺が言うてんのはフツーの好きやないで? 最終的には、行くとこまで行きたいっちゅー、好きやで?」

「普通の好きも何もあるのかよ!? 男相手にフツーの好きも何もねえだろうが!!」

「・・・・・」



























 今度は新一が絨毯に座り込んだ。

 ソファに寄っかかっている平次に、向かい合う。































「・・・・俺は、お前のこと・・・・・・とっくに好きだったんだ」 



































 さっき言えなかった言葉を、ゆっくりと。

 二度とはもう言えないその言葉を。







 新一は、確実に平次の耳に届かせた。

































 平次の目が閉じられた。



 ぐらりと身体が揺れ、新一は驚いて手を伸ばした。

 もたれかかった平次は嬉しそうに微笑う。





















「なんや、気い抜けてもうたわ・・・」

「寝るんなら自力で2階に上がってくれ。今の俺じゃ、お前抱えて上れない」





















 見上げた新一の顔が赤い。

 同調するように平次も赤くなると、重い身体を起こした。








































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「ほら、薬」











 平次をベットに寝かせて例の解熱剤と水を渡す。

 さっき渡してあった体温計を受け取り新一は目盛りを見た。









 ・・・・・大きく息を付く。



















「とにかく大人しく寝ろよ」

「・・・なあ工藤」

















 飲み終わったグラスを新一に返して、平次はじっとその顔を見つめた。























「・・・・・なんだよ」

「行かんでくれ」

「何・・・言ってんだ?」



















 やたらと真面目な平次に鼓動が早くなるのを感じる。  

 そう言えば今日何度もそんな言葉を聞いたと、新一は思い返した。



 そしてふと両親との別れ際の会話を思い出し『ああ!』と顔を向けた。

















「何・・・・・・もしかして俺がロスに住むとか思ってた? 父さんも母さんも逢う度に言ってんだもんなー・・・・・・・・でも今回はちょっと本気っぽかったな」

















 ぼそりと呟き、身を乗り出してる平次を覗き込む。



























「・・・・でも行かないよ俺は」

「ホンマか?」



























 表情が明るくなる平次に、新一は体温が上がる。





































「・・・・・・行ける訳ねえだろ」





































 お前がいるのに。



 お前がいるこの場所から、離れられる訳がない。









































 想いは叶えられた。

 仕掛けなくとも、図らなくとも。







 出逢いからその存在を認めて互いにその存在を刺激しあって。

 好きだと気付くのも同時期だなんて、出来過ぎな恋愛映画みたいだけれど。























 俺は出逢ってしまっただけなのだ。







 難解なパズルに巡り会えた時と同じ様な感覚に。

 自分と同じ色彩を放つ、この存在に。





















 いつしか、恋愛感情に変化する程に――――――――――・・・・・









































「蘭さ・・・・・・彼氏、出来たみたいなんだ」

「は?」

















 唐突に振られた話題に、つい平次は眉根を寄せる。





















「昨日、夜病院に来たって言っただろ? あいつ・・・・・・・コートもバックも持たずに、駆け込んで来たんだ」

「よっぽど心配で慌てとったんちゃうんか」

「免許も持ってないあいつが財布も持たないで、こんな寒い中コートも羽織らないで来たって事はだぜ? 誰かの車で横浜から来たってことだろ・・・・・・・夜中に、車飛ばしてくれる誰かとさ」





















 静かな瞳で淡々と新一は語る。

 そんな新一を、不思議な表情で平次は見た。



















「すごく妙な気持ちだったよ・・・・まあ、しょうがないんだけどさ。俺がこんな調子だったし・・・・・・・ろくに電話も、してなかったし・・・・・・」

















 プライベートで話すのが苦手で、自分からはよっぽどの事がない限り電話など掛けない新一。

 その上好きな相手には思うように行動に出れず、蘭とは両想いだったのにも関わらず事故の様に触れただけのキスが一度だけあっただけだった。





 そのまま蘭は横浜の短大に進み、なんとなく連絡も途切れ途切れになって。























 新しい恋に歩き始めた『幼なじみ』に――――――――――――――・・・・・・・・・





 新一はあの時、穏やかに微笑んだ。













































「・・・そっか」

















 平次はそれだけ言う。 

 ふと、新一のこめかみに傷を確認した。



















「工藤。頭痛とか、ないやろな」

「別に・・・・何で?」

「手の調子がおかしいとか、バランスが取れへんとかは?」

「・・・・・・どうしたんだよ」

「なあ、今日一緒に寝えへんか?」

「なっ・・・・!」















 唐突な言葉につい手が出そうになるが、平次の表情があまりにも真剣だったのを見て動きが止まった。







 以前、こんな平次を見たことがある。

 こんな深い目の色をした平次を──────────・・・・・・





















 そうして新一は気付いた。





































「大丈夫だ。俺は・・・・・・お前に黙っていなくならない」





























 せやけど、という口の動きを封じて新一は続ける。  

























「頭は打ってないんだ。転んだとき、ちょっと顔擦ったぐらいだから」

「・・・ホンマやな」



















 その時の平次の表情に、新一はつい笑みを漏らす。























「しょーがねえな・・・・・」











 立ち上がると、平次の身体を布団に押し込め新一は部屋を出た。

 がたがたと音を立てて隣の部屋から布団一式を運び込むと、ベットの脇に敷き始める。





















「これなら安心か?」

「・・・・・・」






















 突然この世から存在を消した平次の友人の弟。

 全身を打って運ばれた新一にそれを重ねるなと言う方が、無理なのかもしれない。



 頭を打っていたのなら、その後も油断ならないのだ。

















「お前こそ、俺の心配してないで早く治せ」

「・・・・・そうやな」

「聞きたい事、いっぱいあるんだからな・・・・・・」





















 お互い自分に嫉妬してたなんて、今となっては笑い話だけれど。







 あの時ほんとはどう思ってたのか?

 電車の中や、映画館。そして海や車の中での事など、聞きたい事はそれこそもっと他にもたくさんある。





















 でも、今はまず───────────・・・・・・































「俺、風呂入ってくっから。大人しく寝ろよ」















 肩口まで布団を掛けてやり行こうとする腕を、平次が引き止めた。

 何をされるのか予想がついた新一は、逆に腕を振り払い胸ぐらを掴む。



















「俺に風邪をうつす気か?」

「うつるんならもう、うつっとるやん・・・・・・・ダメ?」

「ばっ・・・!!」













 馬鹿野郎! と叫びたいのは山々だが、熱のせいでちょっと気怠いその表情。

 そして甘えた関西弁の平次に新一は、くらっとしてしまう。

























 こいつ・・・・・今までこの手で、女落として来たんじゃ・・・・・?



























 惚れた弱みとはこの事だ。

 掴んだ襟元をそのまま引き寄せて、新一は自分から唇を合わせた。

























「・・・・・続きは治ってからだ」

「ええ?」

「俺だって我慢してんだから、耐えろ!」

















 平次はその言葉に動きが止まる。

 身体も心も確かに相手を求めているのだが、肝心の理性がどうしても新一を押しとどめているらしい。



 眉間を寄せて自分の感情を抑えている表情と言葉に、観念するしかなかった。



























「わかった・・・・・」



















 もう悩む必要はないのだ。

 望む相手の瞳の先に住むのは、自分。

























「完璧に治るまで、キスもお預けだからな」























 言われた瞬間の平次の顔。

 にやりと笑みを残し、新一は部屋を後にした。


































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 湯に浸かりながら身体に残る内出血の痕を見た。

 まだ身体は所々痛みが残る。









 でも、胸の痛みは消えた。

















 叶えられた想いは膨らむ一方だけど、それまでの締め付けられる様な苦い焦燥などはもう感じない。

 信じられないくらい気持ちが落ち着いている。





































 ・・・・・・・・瞳は気持ちを映し出す鏡。











 思えば、色んな想いがあいつの瞳の中に見えていた気がする。





































 新一は目を閉じた。



 蒸気が肌を濡らし、雫は水面に同化してゆく。 































「・・・・・・・・・・・・」





























 ・・・・・・・そのまま暫く、穏やかな液体の中に身を委ねた。



































 迷いかけた心の地図は、いま確かな航路で。



 寂しさもときめきも、優しさも戸惑いも。



























 ・・・・・・・・すべては、きみの瞳のなかに。








































Fin