風が、さわさわと気持ちいい。

 木々の間に見えた屋根を指差し平次は言った。



















「ココや。今日の寝床」









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 春休みを利用して、工藤新一と服部平次は北海道へツーリングに来た。





 ずっとバイトして貯めて、ちょっと両親の助けも借りて買った念願の新一のバイクは、とても綺麗なアメリカンレッドの最新型。

 かたや平次もバイトをしまくり、父親から無利子の助けを経て購入したのは、背もたれが付いていたのがこれに決めた要因だという、オフロードタイプだ。



 色は、ブラック。









 この前二人で免許を取りに行って、持ち前の器用さと運動神経で難なく試験はお互い一発OK。



 そして今日。

 前々から計画していた旅行となったのだ。

 



















「凄いな、コテージか」







 それは旅館とかホテルとかの類ではなく、一個一個が独立した家になってるコテージだった。

 少し離れた所に管理人さんの建物があり、そこでチェックインを済ませた二人は、鍵をもらって指定の番号の扉の前に辿り着く。 









「風情があってええやろ?」

「そうだな。いいな」







 木だけで造られた家は、雰囲気からして暖かく新一の瞳に映る。

 その新一の雰囲気までも、柔らかくして。



 メットを抱えてリュックを背負い、入り口までの階段を昇る。

 鍵を開けて中に入ると、木の好い匂いがした。















「・・・・・工藤」







 ドアが閉まると同時に、新一は平次の気配をすぐ後ろに感じる。

 背中から、荷物の感覚が消えた。









「もう我慢の限界なのかよ」

「うっさい。焦らすのもええ加減にせえや」







 荷物を放ると、平次は新一を床に押し倒す。

 間髪入れず唇を塞ぐと、直ぐさまその舌を絡めだした。













「・・・・・ん」









 待っていたように新一の手も平次の首に回る。

 だが背中にあたる木の感触が少し痛くて、ちょっと眉根を寄せた。



 やっぱり我慢できずに平次の頬を引っ張る。











「痛ってー! 何すんねん!?」

「・・・ば・・馬鹿野郎、力任せに押しつけやがって」









 口で荒く息をはき、背中の腰骨をさする。













「ベッドまで行く距離も待てねぇのかお前は・・・」

「よお言うわ。あんなトコで誘っといてからに」

「俺がいつ誘った?」













 相変わらずの赤いその瞳。

 口の端だけ上げて笑うその計算し尽くされた表情は、新一の得意な武器だ。















 

「服部」

「・・・何や」

「鍵、掛けただろうな」













 新一は側のソファにゆっくり腰を下ろし、平次を仰ぎ見ながら上着を脱ぎ捨てる。





 返事の代わりに再び降りてくる影。

 与えられる感覚に酔いながら、新一は平次に手を伸ばした。




























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 お昼過ぎに寄ったパーキングエリア。

 そこで、ラーメンを食べている時に隣に座った女の子の二人連れが居た。



 ひそひそと耳打ちしてこっちの様子を伺っているのを見て、新一はピンときたのだ。





















 ────────・・・また服部か。



















 こんな視線の時は決まってこいつだ。

 大体、いつもそう。











 二人で歩いている時も。

 大勢で居る時も。



 殆どの女の子達の視線の先に居るのはこの男、服部平次。























 ・・・・・生まれつきの浅黒い肌。

 均整のとれた、体つき。



 服の上からでも充分伺い知れるそれは、どんな時も周りの目を引いていた。















 食後の珈琲を買いに、平次が食堂入り口の自動販売機に行った時だった。

 新一は食堂の上の方に備え付けてあるテレビでニュースを見ていたが、なかなか平次が帰ってこないので、メットを二つ抱えて様子を見に行こうと席を立った。







 その時、視界に入ったのだ。

















 ・・・・・・・さっき隣に座っていた女の子達が、楽しそうに平次と会話している姿が。

 新一は、何故かその場に立ちつくしてしまった。

















 別に何でも無い事なのに。 

 あんな場面、学内でもしょっちゅう見てるのに。









 ただ、会話してるだけ。



 ・・・それだけの事が最近凄く気になる自分が、新一は嫌だった。





















 元の位置に戻って視線をテレビに戻す。

 でも目に映るその情報は、新一の脳には届かない。

 

 やがて、平次が姿を現した。

 缶珈琲をひとつ差し出す。















「すまんすまん、ちょお捕まってしもた」

「ん」









 受け取り、ぷしと開けて、こくこく喉を動かす。

 ・・・・・・あくまでもポーカーフェイスを、新一は保ちながら。



 平次は、視線を新一から外さない。

 それを感じる度、新一は息が詰まりそうになる。









 乾きを増す、喉。

 結局一気に新一はそれを飲んだ。

















「・・・そろそろ行こか」

「トイレ寄ってくる」











 メットを平次に渡し席を立つ。

 止まらない動悸を押さえ、足早に食堂を出た。

















 ────────・・・・・あんな匂い、もらってくるんじゃねえっつの。





















 手を洗いながら、新一は鏡の自分を睨んだ。















 戻ってきた平次にまとわりついていたのは、女物の香水の匂い。

 しかも、新一の嫌いなタイプの香りだった。







 決してつき合ってる訳でもないのに、最近の女子大生は意味もなく身体をすり寄せてくる。

 とにかく平次がその手の女にやたらと人気があって、コンパに呼ばれる度にもらって帰ってくる移り香。





 それが嫌で、新一はそんな後の平次には決して会おうとしたことは無かった。





















 ・・・・・・複雑な気持ちとは、この事だ。

 平次と予想もしない身体の関係をもってから、とみに移り香に敏感になってしまった。











 タチの悪い独占欲。



 別にあいつが何処でどうしてようが、俺には関係ないのに。

 あいつの、自由なのに。







 ・・・・・・俺は、すごく気分が悪くなってしまう。











 でも。

 それを自覚する度に、自分の気持ちを再確認せざるを得ない。













 思った以上に。



 多分、服部が思っている以上に──────────俺は・・・・























 鏡に映る自分から、瞳を背ける。























 新一は自分の顔があまり好きではなかった。



 ・・・・・・・・・・・服部は、一体自分の何処が好きなんだろう?

























 女優だった母親似だと言われているから、造形の悪い部類ではないとは思う。

 でも、こんな顔ならそこら辺に溢れているだろう。









 肌は弱いし、目も悪い。

 女にもてると言っても興味本位のファンレターばかりで、実際の俺に告白してくる女なんて今までいない。



 年中、女に呼ばれているのは服部の方なのだ。

























 ―――――――――・・・その服部が俺を好きと言った。





























 女に困らず過ごしてきたあいつが、男の俺に。





 どう考えたって男の自分より、女の方がいいはずなのに。

 男の俺を抱くより、女を抱く方が気持ちいいはずなのに。

















・・・・・でも疑問はいつも波にさらわれ、俺は何も聞けずに身を委ねてしまう。





























 こんなのは、一時の感情の迷いだ。

 服部も、すぐ気付くに違いない。







 のめり込んでは、いけない。

 自分を失ってはいけない。















 いつでも戻れるように。



 何も無かった、ただの仲間に戻れるように。





















 ────────・・・・触れられて気付いた、自分の心。























 この気持ちも、身体の快楽が連れてきた都合のいい感情かもしれない。



 『好き』と思おうとしている事で、『抱かれる』ことを納得させようとしているのかもしれない。

 あの動きに翻弄され、しがみつく手の理由にしているのかもしれない。

















 だから、ここまで来たのだ。

 東京を離れ、二人きりになれる所へ。

















 ・・・・・・・向き合って、自分の気持ちも服部の気持ちも確かめる為に。 






























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 ────────・・・服部は、とても綺麗な目をしていると思う。



 黒く深い、吸い込まれそうな目を ────────・・・・・

































「・・・っ・・ぁ」











 視線が合うとますます新一の息は上がる。



 至近距離の平次の目には、間違いなく自分が映っている。

 それだけで、堪えようもない疼きが沸き起こる。







 ・・・・新一は平次の視線に弱いのだ。

















 ある事件で身体を小さくされていた時に出逢った、服部平次。

 そいつに大学の入学式で再会した時だった。















『よお、工藤』

『服部?』 











 逢わない一年もの間に、あいつは身長も体格も声さえも変わっていた。

 でも、相変わらずの関西弁と場を和ます雰囲気は変わらずに。





 それから、気が付くと平次と視線が合うのだ。

 振り向く度、気配を感じる度。











 ・・・・・・・痛いくらいの視線を投げつけて。



 新一は、ついに耐えきれなくて平次に聞いた。

















『お前、なんでいっつも俺見てる訳?』

『好きやから』





















 いともあっさりと、そいつは言ってのける。

























『・・何で?』

『さあ、何でやろ』



















 それも図書館の本棚と本棚の間で。

 まるで人が空気を吸うのが当然と言うのと同じ口調で。



 その時、ぽかんと大きく瞳を見開いていた新一の唇を平次が掠め盗った。

















『・・・やっと気付いてくれたんやな』



















 嬉しそうに笑う平次。

 暫く新一は、思考が正常に働かなかったのを覚えている。









 ・・・・・それからこんな関係になるのに、時間はかからなかった。































「何、考えとんねん・・・・」

「・・・・・な、にって」











黒く滑らかな首筋に腕を絡ませ、息を漏らす。

それに合わせて自分の中でだんだん大きくなる存在を、新一はたまらず更に締め付けた。















「・・っ・・・・・」









 殆ど服は着けたままでの行為。

 平次は必要な箇所意外空気に晒しては居ないが、新一の足は無防備に、その肌をまだ照りつける日の光に露出している。



 時折仰け反った視線の先に窓からの空の青さを見つけ、まだこんなに明るいことを思い知って、新一はしがみつく腕を強くした。  







 きつく瞳を閉じる。

 こんなに明るい場所で事に及ぶのは、初めてだった。











 どんな表情も、汗も吐息も。

 隠しようが無いほどに全て見られている。











 ・・・・そして、それが更に身体の中から甘い疼きを引き起こすのだ。

























 その沸き起こる中心に平次の先端があたる度に、信じられない波が新一を襲う。

 無意識のうちに漏れる吐息は艶を帯び、声は上擦る。



 身体の中から与えられる熱い心臓が膨らむ度、連動して大きくなる自分の欲望。

 それは、しがみつく身体と身体の間で服に擦れるのも重なって、二重の快感を新一に与えていた。















「・・も・・・・・・」









 限界近い事をその声と表情で平次に知らせる。

 だが平次は、そんな新一をもっと狂わせてみたい衝動に駆られてしまうのだ。



 旅先。いつもと違う場所。

 しかもちょっとの音なんて出しても気付かれない聞かれない、独立したコテージ。









 ・・・・・・その状況が新一の気持ちを高ぶらせるのだろう。





















 いつもなら、絶対にさせてはくれないはずなのだ。

 こんな明るいうちからは。







 ・・・・・・目の前で震える新一を平次は暫くじっと見た。















 手に入れたかった、ずっと。

 初めて逢った時から心は既に奪われて、元に戻る日を心待ちにして。















 ・・・・・・・・そうして『コナン』じゃない『新一』に逢えたのは、寒い冬の日。



























 平次の前に現れた久々の工藤新一は、初対面のあの頃のまま面影も変わらず。

 でも視線の角度が前の時より下がったのに、平次は息を呑んだ。







 ・・・・・・コナンだった期間の成長が止まっていたのだ。

























 そして改めて自覚する動悸。

 焦燥・・・・甘い葛藤。





 コナンの頃のままの無邪気な笑顔を向けられた時に受けた、激しい目眩。 

















 ・・・・・ずっと、手に入れたかった。

































「・・・・・・・は、服部・・・・・・はや、く」









 なかなか待ちわびている波が来ないのに痺れを切らした新一は、閉じていた瞳を少し開け、更に目の前の頬を引き寄せて耳元にそう囁いた。

 平次は、お互いの間に震えている新一の中心をそっと掴む。













「まだや・・・もっとその顔・・・見してもらうで」

















 そう呟くと、最奥まで押し込んでいたものを入り口付近まで引き戻した。





























 予想通りの、筋書きだった。


 昼に寄ったパーキングエリア。

 やたら肌をすり寄せる、あの女達の浅ましい行為を突き放さなかったのは、移り香を残させるため。













 ・・・・ちょっと、やきもちを妬かせたかったのだ。

























 人前では殊更クールな工藤新一。

 その身体を手に入れても、触れ合っている以外はつれないことこの上ない。



 自分が他の誰とどうしてようとも興味なさそうな表情。



















 ────────・・・・本心が、知りたい。



































 だから仕向けた。

 ・・・・・・結果は、思った以上に成果を上げた。





























「・・・・!?」









 新一は、寸前まで来ていた波を押し戻される。

 絶頂を迎えるはずの疼きがほったらかしにされて、達せないもどかしさが身体中を襲った。





 中心は、為す術もなく僅かに脈打つ。

















「どないして欲しい?」















 にやりと微笑いを浮かべて、平次は新一の瞼を舐める。



















「言ってくれな・・・・こんまま引き抜くで?」

「・・・てめ」









 新一はたまらなくなり、右手を自分自身へと伸ばした。

 しかし、平次が直ぐさまそれを止める。

















「アカンて・・・」













 見上げた瞼から覗く瞳に映っているのは、汗ばみながらも冷静な平次の目。

















「そんな事したら、ホンマに抜くで」

「っ・・・・・」











 此処まで熱を引き上げておいて、止められては堪らない。

 新一は、ごそごそと平次のシャツの中に指を這わせ始めた。













「あほ、何す・・・・・!」









 なぞるように手のひらでその肌を滑らし、胸の突起を探し出す。

 新一はにやりと微笑うと、それをくりくりと転がし出した。









「!」











 一瞬、身体の中で平次が跳ねる。

 同時に色っぽい表情を見せたのを新一は見逃さなかった。 







 つい右手を離して、平次はソファで自分を支える。

 不意打ちの攻撃と予想外の自分の上げた声に、呆然として肩で息をした。





 ・・・・顔が赤い。

 よっぽど今のが不本意だった様だ。

















「な、何すんじゃい!?」

「・・・・・・服部もそんな顔するんだな」

「うっさいわ!」











 いきなり形勢逆転されて平次は面白くない。

 その表情がまた可愛くて、新一は笑いを抑えられなかった。













「・・・・・・俺だけ焦らされてたまるかよ」

「な・・何やねん・・・・・って、お前その手どけいっ!」

「こっちはどうかな」

「わ、ちょおよせ・・・・・・っ」













 時既に遅し。

 ・・・今度は、反対側の突起を摘まれてしまった。











 そして、指の腹でゆっくり遊び出す。



























「・・・・・・・・っ」















 胸からくる刺激に触発されたのか、入り口付近で停滞していた平次がどくんどくんと大きく脈打ち始めた。

 それは新一にもダイレクトに伝わる。



 休まず指先を動かし続けると、既に受け入れ態勢は充分すぎる程のその場所に吸い込まれるように進み出す。









 相変わらず適度に狭い内壁。

 擦り合う粘膜の感覚。





 その最奥に到着したとき、新一から甘い吐息が漏れた。

























「・・・ん・・・・・・・」











 その感覚に酔いながら場所を変えて指先を動かすと、同じ間隔で自分の中の物が伸縮し始める。

















「っ・・・・・・」















 平次の口からも、時折吐息が漏れ始める。









 ・・・・・・その艶っぽい表情と声が、自分の与えている動きから出ているという事実。

 新一はそれを目の当たりにし、自分の本来の男の性欲が掻き立てられた。





















 何だかんだと言ってもその手を振り払わない所を見ると、平次も楽しんでいるらしい。

 暫く新一のされるがままに与えられる感触に酔うと、目の前の乾ききった唇を舐めた。























「・・・・・やらしい指使いやな」

「お前に言われたかねえ」















 くすくすと微笑う新一の前に、観念したように平次は軽く息を付く。





 やきもちを妬かせるのには成功した。

 でも、結局こうやって上手く新一にあしらわれてしまうのだ。













 足を抱え上げ、更に腰を引き寄せる。

 そして奥深く繋がったまま、平次は規則的に抜き差しを始めた。



 挿入されている平次の先端が、ぶつかっては離れるのを繰り返す。









 何とも言い難い快感が腰から足先へと何度も何度も走り、新一はたまらず首を振る。

 断続的な息づかいを至近距離に確認し、平次はその唇を塞いだ。





 ・・・・・・・舌を絡められ始めると、新一はもう与えられるのを待つだけになる。

 平次の胸に触れていた指はそのまま滑らかな背中に回り、もう一方の手も衣服の裾から潜り込んだ。

























 ・・・・・・・・もう・・・大丈夫だな。























 平次の策略とは知らない新一が、もう匂わない香水に安心する。

 ふわりと笑みをこぼしたのを平次が気付いた。















「何や・・・」

「・・・・もう・・いいだろ?」













 答えず、求める。





















「・・せやな・・・俺ももう限界や・・」

「はっとり・・・・・・上、脱げ」

「そんなん気にすんな」

「俺が、嫌だ」

「・・・・・・・・服に擦れる感触好きなんやろ?」

「それは・・・・」

















 シャツのたるみが、もう限界寸前の新一のものに適度な刺激を与え続けている。

 平次が動く度に連動して擦れ、前と最奥からの二重の荒波が襲う。





















「・・・・・・・ん・・・・!」  

「っ・・・・ 」

















 そう吐き捨てると、新一は大きく背中を仰け反らせる。

 思い切り締め付けられ平次も一気に絶頂を迎えた。



























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 旅行に行きたいと言いだしたのは新一の方からだった。





 本当は夏休み頃に予定していたのだが、せっかく買ったバイクを早く思いっきり乗り回したいのと、あまり暑い時期に遠出をしたくないと新一が言うので、この春休みの時期に変更したのだ。



 二人が肌を触れ合う関係になって、初めての旅行だった。











  と言うのも、今までそれなりに『旅行』らしき事はあったのだが、決まって事件絡み。

 周りに見知った警察関係の人間やらが居ては、甘い雰囲気になれるはずもない。



 だから、新一から『旅行に行きたい』と言われた時、平次は驚きながらも嬉しかった。











 暫くして、新一が戻ってくる。



























「飲むか?」

「・・・・ん」











 冷蔵庫から取り出したビールを渡しながら、平次は濡れた髪から覗く瞳を見た。















「なに」

「外したんか、目」

「当たり前だ。風呂、入ったんだから」











 それはコンタクト。

 大学に入って進んだ視力の悪化に、とうとう購入したのだ。







 眼鏡で済まそうとも思ったが、それでは不便なことも多いので去年買った。



 相性が悪いのか、コンタクト使用のせいで赤っぽくなる瞳の色。

 平次は、それが以外と気に入っていた。





















「それ飲んだら、ちょお外探索せえへん?」

「・・・・そうだな」















 外はまだ明るい。

 湖に面したこのコテージの周辺を、歩いてみようと提案した。 
































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「雨だ」

「・・・まいったなー」













 日が沈んでくるに従って雲が広がりだしていた。

 まだ当分平気だろうと思っていたのだが、急に暗くなり始め、とうとう降り始めてしまったのだ。



 とりあえず近くにあった休憩所らしき所に屋根があったので、其処で雨宿りをすることにした。

















「止むかな・・・早く戻った方がいいよな」











 眼鏡に付いた雫を拭いながら新一は呟く。

 さっきまで適度に暖かかったのに、雨の気配を感じてから急に冷えだした。















「もうちょい待ってみよ。小降りになるかもしれんし」

「ああ」













 二人はとりあえず濡れていない所に腰を下ろした。



 その時、向こうから歩いてくる人影を確認する。

 大きめの傘をさしていたその人物に見覚えを感じて、平次は『あ!』と手を振った。

















「ちょおすんません! 管理人さんのトコの人やろ?」

「え?」













 意外な所から呼ばれて、その人も驚きを隠せなかったらしい。

 でも平次の顔を確認して足早にこちらへやって来た。















「お客様・・・何をしてるんですか。こんな所で」









 その人物は、コテージの管理人の所にいた従業員の女性だった。

 鍵の受け渡しをしてくれたのが、この人だ。

















 ・・・美形だ。





 ミディアムショートの栗色の髪。北国特有であろう、白い肌。

 整った顔立ちに加えて、女性では高いだろうその身長。





 でも目の前に来るまでそれを感じさせないのは、小さい頭のせいだろう。

 手足のバランスが、モデル並にいいのだ。



 声も少し低くて、落ち着いた口調で言葉を話す。













 ・・・・・・・平次は、考えるようにその女性を見ていた。





























「あのー・・・・」









 言葉を発しない客人に、女性は怪訝な顔をする。

 慌てて平次が状況を説明した。













「いや、ちょお散歩しとったら雨に降られてしもて・・・・・・・傘、あったら貸してもらえんやろか」

「ええと・・・確か『301』の方でしたよね。車でお送りしましょうか」

「ホンマですか?」















 この山道は雨では足下が危ないらしい。

 じゃあ車を持ってくるので、と管理人室に戻る彼女に手を振っていた平次は、ふと後ろの視線に気付いた。

 

 新一が、無表情でこっちを見ている。

 何故かどきりとした。















「助かったな」

「あ、ああ。全くや」

「お前、好みだろ」

「・・・・・あほか。俺の好みはお前や」

「へえ」

「要らん心配すな」



















 ・・・・・・そう言うと平次は笑う。

















 車窓から覗く雨。



 その雨は、一向に止む気配を見せなかった。
































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「夕食は七時にお持ちしますので」

「どうも、すんませんでした」

「いえいえ。何かありましたら、備え付けの電話で呼び出して下さい」

「有り難う御座いました」











 にっこりと微笑うと、女性は二人を降ろして来た道を戻っていった。

 走り去った車が見えなくなっても、平次は暫く視線を車の残像に向けている。



 扉の前で待つ新一に気付き、慌てて平次は鍵を取りだし開けた。













「うわ」







 一瞬の温度差に曇る眼鏡で、新一の視界は塞がれ足が止まる。

 外して、テーブルの上に置いた。









「ほい」

「サンキュ」







 平次が風呂場から持ってきたタオルで、二人とも雫を拭う。

 適度に暖まった室内で、濡れた服が気持ち悪くて新一はすぐに脱ぎにかかった。



 いきなり上半身を目の前でさらけ出されて目を見開く平次だが、その顔さえ眼鏡を外した新一には見えない。













「この際だから、もっかい入ってくる」













 それだけ言うと、新一はバスルームに向かった。



































「・・・・・・・・」















 平次も濡れたシャツを脱ぎ捨てると、テーブルの上に置いてあったタバコを取り火を付ける。





























 ────────・・・・・思い出したで。

















 さっき隣に座って運転していた、あの女性が誰かに似ているとずっと考えていた。

 そして、思い出したのだ。









 あの人は、自分が以前好きだった人と、とても良く似ていることに。































 綺麗な顔立ち、そして声。

 中学の時好きになった・・・・・篠崎先輩に。





























 ソファに座って深く寄りかかる。

 目を閉じて思い出すあの頃の想いは、既に記憶の引き出しにしまい込んだものだ。



 なのに。



















 ・・・・・・・・恋の始まりのようなこの動悸は何だろう。































「俺が惚れとんのは、工藤や」

















 自分に言い聞かせる。



 抱きたいと思うのも、自分を投げ捨てでも存在を確かめたいのも、ただ1人だけだ。

 出逢ったその時から恋い焦がれ、何とかして手に入れたかった存在。









 それは、工藤新一。





















 ・・・初めて口付けを交わした時の、あの表情。

 初めて滑らした肌の感触。













 そして、初めてその身体の中に入った時に聞こえた・・・・・・・・消え入りそうな声。

























 それは今でも鮮やかに脳裏に浮かび上がる。

 何度触れても敏感に反応する新一に溺れているのは、他ならぬ自分自身だ。







 平次は頭をぶんぶん降ると、タバコを消す。

 そして新一の消えた先に視線をやると、ゆっくり立ち上がった。





















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 窓を覗くと闇を感じる。





 ぼやけた視界ではそれだけの認識しか出来ないが、もう六時を過ぎているのだろう。

 日が落ちたと思ったら、あっと言う間に暗くなってしまった様だ。



 肩までたっぷりお湯に浸かって、新一は瞳を閉じた。























 随分、綺麗な人だったな・・・・・・・・


 































 さっき車で送ってもらったコテージの従業員。



 いるだけで目立つ存在感を持つ人で、いままで大学でも見たことのないタイプの人間だった。

 男からも女からも好かれるだろう雰囲気を持ち、決して着飾ってもないのに人間的な色気が感じられる。













 ・・・・・こんなに第一印象で好感を持つのは、初めてのことだった。



































 ────────・・・・・・・服部。



























 思い出したく無いのに、脳裏に残るあの時の平次の表情。

 車の中で彼女と会話をする時の顔が、新一の頭から離れない。

















 ・・・・・・・あんな顔をする平次を、新一は自分に対して以外知らなかった。























 いつもいつも抱えていた不安。


 同性同士の関係は、思った以上に神経を悩ませる。 

















 気持ちは止められない。

 あいつが明日も俺を好きだと言ってくれる保証なんて、何処にもない。



 平次の移り香がどうにも気にくわなくて、八つ当たりのように冷たく返していた。

 あれからいくつかのパーキングを経て、その度に焦らすような事をした。





















 お前は、どうして俺を抱く?



 俺はどうしてそれを受け入れる?













 ・・・・・男相手にこんな気持ちになるなんて、誰が予想できたと言うのだ。























 頭では『おかしい』と思っているのに、それに反して反応する自分の身体が信じられない。

 そんな事を思いながらもこの建物に入って求められて・・・・・・







 身体の求める快感のまま、身をまかせて。





















 ・・・・・・そして、何も考えられなくなってしまうのだ。





























「工藤、入るで」

「え?」











 その時バスルームの扉が開いた。

 蒸気と裸眼のせいでぼやけた視界の中に、平次が現れる。











「雨が気持ち悪うて我慢できんわ」

「・・・・」











 シャワーを取り身体を洗うと、平次は湯船に入り新一の隣に腰を下ろした。

 大きく、深呼吸する。













「あれ。今日は怒鳴らんの?」











 いつもなら聞こえてくる『入ってくるな!』の罵声がないのに、平次はつい拍子抜けした。















「どうせ言っても無駄じゃねぇか」

「お。やっと観念したんか」















 平次は天井を見上げた。



 空間が高い。

 それに以外と広くて、浴槽も足を伸ばせるのに驚いた。





















「へー・・・気持ちええなあ」

「なあ、服部」

「もらい」















 新一が口を開いたその瞬間を逃さず、平次が己のそれで塞ぐ。

















「・・・っ・・人が話し掛けてんのに、何をしやがる!」

「こんな状況で我慢できる方がおかしいわ」

「・・・・・!」











 言いながら湯船の中で、平次の手が新一のものを掴む。

 そっと握って親指を先端にあてると、ゆっくり擦りだした。















「・・・・・ば・・・・・やめっ・・」 













 相変わらずの動きに、新一はまた翻弄される。

 自分が与えている刺激によって、一瞬のうちに悩ましい表情を見せるその目元に平次は唇を落とした。



















 ・・・・・・・!?



















 新一は、僅かな変化を平次から感じた。

 自分に触れる箇所から感じる、微かな迷い。

























 ・・・・・・お前・・・やっぱり・・・

























 今の新一は平次の表情がろくに確認できない。

 湯気と裸眼の為にぼやける状況は、余計に新一の不安を掻き立てた。



 耐えきれず新一は、両腕を伸ばして平次を離す。



















「やめろ」

「・・・・・何でや」

「誰のこと、考えてる」 

「!」























 ゆっくりと向けられた瞳に浮かぶ不安の感情。

 瞬間、平次の表情が凍った。



















「・・・・・お前・・・・・あの人のこと・・・・・」

「ちゃう、聞けや」





















 平次に浮かぶそれは言い訳の表情。

 耐えきれず新一は立ち上がると、湯船から上がりバスルームから消えた。





















「・・・・・・・・工藤」















 平次はあまりの自分の情けなさに、お湯に顔を突っ込む。

 そして頬を叩くと縁に顔を突っ伏した。  























 ─────────・・・・・・・気付かれてしもた。































 自分の心が、平次は解らない。

 頭に浮かべると鳴り出す鼓動。























 ──────・・・・・・確かめなければ。





























 この気持ちが、思い出に浸る懐かしさから来るものなのか。

 それとも・・・・











 意を決した平次は立ち上がると湯船をでて、シャワーを頭から浴びせかけた。




























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「・・・・あれ」













 平次が戻ってくると、既に料理は運ばれていた。















「!」

「・・・今追いかければ間に合うぜ。出てったばっかだから」











 瞳を見開いてドアに向いた平次に、新一が後ろから声をかけた。

 冷蔵庫から取り出してきたワインを持ち抑揚のない声で。





 その瞳は、眼鏡だけでは隠せない程の深い色をしていた。













「――――・・・・・・・っ」








 平次は新一が気になりながらも自分の気持ちを確かめたかった。

 だから、今は背を向けてドアを開けた。













 瞬間吹き込む冷たい空気。

 閉じられる扉。









 ・・・・・・新一は、ゆっくりと視線を手元のワインに移した。



















 料理を運んでいる間に交わした会話から、感じられる人柄。

 雰囲気。



 どれをとってもやっぱり魅力的な人だった。

 平次じゃなくても、きっと誰もが彼女に好感を持つだろう。











 ・・・テーブルの上にワインを置くと、側のソファに腰を下ろす。

 数時間前にお互いを確かめ合っていたその場所で、新一は疲れたように瞳を閉じた。



























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「ちょお、すいません!」











 車に乗り込もうとしていた彼女を、平次は呼び止めた。











「どうかしましたか?」

「話しても、ええですか」













 息を切らして走ってきた平次に、その人は笑顔で『ええ』と答える。

 二人は車の脇で並んで立った。





















「・・・・・・・なんでしょう?」















 覗き込む様にその人は平次を見上げる。

 その仕草に、平次はどきりと鼓動が鳴った。













「あ、あの」









 思った以上に動揺している自分が解る。

 あたふたした平次を見て、その人は笑った。









「なんかイメージ違いますね。西の探偵さん」

「・・・え」

「東の人もなんか可愛いかったし・・・」

「・・・・・」

「あ。ご、ごめんなさいっ・・・・・・あーもう、私ってすぐ口にしちゃうなあ」









 狼狽(うろた)えるその人の可愛さに、さらなる高鳴りが平次を襲った。



 別に相手が自分を知っていたから動揺している訳ではない。

 雑誌やテレビに少し出ているから、顔を知られているのは解る。

























 ちゃう・・・篠崎先輩とは・・・・

 て事は何でや・・・・?









 何で俺、こないに顔が熱くなっとんのや?































 改めて平次は彼女を見た。











 線の細い身体は、女性だから当たり前のもの。

 薄い唇も、白い肌も。







 ・・・・・・首筋から覗く鎖骨さえ、男だったら誰もが目が行く。



























 確かに俺は・・・・この人に好意を感じている。



 でも。























 そこで平次は、違和感を感じた。































「で、話って?」

















 くるくるとよく変わる表情の瞳。

























 ・・・同じや。



 そっか・・・・同じ・・・同じ感覚なんや、これ。





































「服部さん?」



『服部?』



























 ─────────────・・・・・・・っ!!!































 その時、彼女の顔に新一が重なって見えた。





















「あほや・・・俺・・・」

「え?」

「すんませんでした。引き留めてもうて」











 平次はフッ切れたような笑顔で彼女を見た。

 そして軽く頭を下げて、コテージへの階段を駆け昇る。





















 何故、彼女を見てこんなに鼓動が高鳴ったのか。



 あの頃好きだった人に似ているのもあった。

 でも、結局は・・・・

























「工藤!」











 乱暴に扉を開け放つ。



 ソファに寝そべっている新一が視界に入った。

 視線は天井を見上げたまま、決して振り向かず。













 ・・・・・無表情の声だけが平次に届く。

























 生乾きの髪もそのままな風呂上がりの新一。

 外した眼鏡が、料理の置かれているテーブルの隅にあった。







 はだけた胸元から覗く白い鎖骨。

 焦点の合わない視線。



 服の上からでも解る線の細い身体。

 渇きやすい、薄い唇。















 ・・・・・・平次は、その光景に導かれるように新一に近づいた。





























 高鳴る胸の鼓動。

 無意識に飲み込む生唾。



 沸き上がってくる想いと比例する、甘い焦燥。





























 ・・・・・・俺、ホンマにアホやなあ。





 何ですぐに、気付かんかったんやろ・・・・・・・・



































「なあ、工藤」

「何」















 努めて冷静に答えようとする新一は、決して視線を平次に向けない。



















「俺、中学ん時・・・好きやった人が居ったんや」











 新一は少し反応を示すが何も返さない。

 そのまま平次はソファの脇に腰を下ろした。



 そして、続ける。

















「最初見たとき誰かに似とる思っとったんやけど・・・・・・・篠崎先輩って言ってな。その人にそっくりなの思い出して驚いてしもたんや」













 平次は視線を窓の外に向ける。



















「二つ上の剣道の先輩で、俺なんかよりめっちゃ強くて、でもすごく綺麗で・・・・・・・・せやけど話してみたら、性格はあんまし似てへんのや。ま、違う人間やから当たり前なんやけどな」

「・・・・え?」















 つい新一は平次と視線を合わせてしまった。



 だが、慌てて逸らす。





















「でも何かどっきどきしよるし・・・・・・こりゃマジに惚れてしもたんかと、顔から火ぃ出そうになったわ」

「・・・違うのか」























 まだ、新一は平次を見られない。

























「ちゃう。解ったんや・・・・あの人は工藤、お前に似とるんや」 

「!?」















 驚きのあまり、視線を遂に交わす。













「な・・・何言って」

「もちろん姿形は全然や。けど、雰囲気や仕草がそっくりやねん」















 新一は、目を見開いたまま暫く瞬きも忘れていた。

















「お前の得意な上目遣いも、意志の強い瞳の光も・・・・・・微笑うときの口の上げ方も」

「けど」

「俺な・・・・あの人の後ろにお前を無意識に重ねて見とってん。どおりで同じ感覚やと思ったわ」

「・・・・・感覚?」



















 新一の問いかけに答える前に平次はソファに腰掛ける。

 そして、その瞳を見た。























「───────・・・・・・お前と居るときの俺の状態や」

「な・・・・・」

























 平次は新一の手を掴み、それを自分の胸へと導く。

 直に触れる浅黒い肌から熱いくらいの高鳴る鼓動が感じられた。



















「さすがに俺も動揺したわ。お前おんのに他の人間に胸ときめかすなんてな・・・・でも『他の人間』やなくて、『お前に似とる人間』やった」

「・・・」

「────────・・・・俺・・・やっぱり工藤だけや」





























 そうして平次はそのまま顔を伏せてしまった。



 新一は、触れてた手をゆっくり離す。

 そして窓の方を向いた。



















「・・・・お前、どうして俺を好きな訳?」

「な、何でて」

「普通なら・・・・女のあの人に行くんじゃねえのか」















 新一は、思ったのだ。

 その人が自分に似ている事で心動かされたのだとしたら、『男』である自分はもう必要ないのではないかと。



 平次はようやく解った。

 どうして新一がこんなにまで自分が好きと言っても、いまいち不安そうな顔しかしないのか。























「・・・・・・・・・あの人は『工藤新一』やないからや」























 その目に、緋色の瞳を映す。 



















「この際だから言うとくわ。俺は別に男が好きな訳やあらへん。性別でどっち好き言われたら、そら女がいいに決まっとる」

「・・・・・ああ」













 新一だって男だ。

 男にどきどきする特異な症状は持ち合わせていない。



 それは、納得する。

















「けど、俺はお前に惚れた・・・・・・・それは『男』だから惚れたんやなくて、惚れたんが『男』だっただけや。まあ、俺も最初はかなり悩んだけどな」

「・・・・・悩んだのか」

「あたり前や。男にときめくなんざ前代未聞やで? しかも・・・」

「?」

「欲情、してもうたんやし」

















 ・・・・・・ひと呼吸おき、平次は微笑う。

























「・・・・・・」

「さすがに自分が信じられなくなってな―――――――――・・・・・・・けど、お前に逢うたんびに止まんなくなってきよって。暫く逢わないでおこう思たんや」

















 だから一年もの間逢わずにいた。









 電話もせず。

 ただメディアを通して、近況を知るだけ。













 ・・・・・・それだけでも変わらない気持ちを自覚し、平次は東京の大学受験を決意したのだ。































「知らんかったやろ? 入学式ん時、どんだけお前にドキドキやったか」























『よお、工藤』

『・・・・・服部?』 





















 あの頃のままの新一。

 初対面の時の、あの鋭い眼差しも変わらず。











 ────────・・・・・そして思い知ったのだ。



















 変わらないばかりか、ますます激しくなっている感情を。



















「それからは、もう開き直って作戦開始や。とにかくずっとお前を見とった・・・・・・俺の事、気になってしゃあなくさせる為にな。成功したと思うんやけど?」

「それは・・・」 

「なあ、ひとつ聞いてええか」



















 膝の上で肘をついた状態で平次は新一を見上げた。

 一瞬、新一はたじろぐ。































「俺ん事・・・・・・好き?」

「え」

「せやかて、一度も言うてくれたことないんやもん」 

「あ・・・あれ?」





















 新一は、改めて思い返してみた。









 ・・・・確かに、言ってない。 

 図書館での出来事から今の今まで、一度も。































「言うてや」

「い、いいだろ今更」

















 新一は恥ずかしさのあまりソファを立つ。

 しかし、直ぐさま平次は腕を掴み引き寄せた。



















「一回でええねん。お前の声で、聴きたい」

「!」

























 座った平次からの上目遣い。

 それは新一に、激しい焦燥を与え付けた。























「・・・・・・一度しか、言わねえからな」























 動悸が激しくなる。

 平次は、黙って新一を見たままだ。























「・・・・す・・・・」

























 それは、数分間にも思える数瞬間だった。



























「・・・・・工藤、聞こえへん」

「うるさい! 読唇術で読みとれ!!」





















 確かに『好きだ』とその口の動きでは解ったが、音に出ておらず。

 しかし新一にはこれが精一杯の様で、そう叫ぶとずかずかとキッチンの方へ歩き出してしまった。



























「しゃあないなあ・・・・」















 それが、自分が惚れた工藤新一。



















「なに笑ってんだ!」

「相変わらず、可愛ええなあ思て」

「!」





















 ・・・・・窓の外から光が反射する。 



 いつの間にか、雨は上がり月が覗いていた。
































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「・・・にしてもちょっと腹立ったな」

「へ」

「いくら似てるからって、ときめくんじゃねえよ」















 見上げられる瞳が潤み、顔に浮かぶ熱の表情。

 食事も終わり食器も下げられ、二人は食後のデザートのプリンを食べていた。

















「お前、酔っぱらっとんな・・・・」

「違う!」

「はいはい」













 寄りかかる身体からも感じる熱さ。

 酒に強いはずの新一が、こんなに酔うのは初めて見る。



 次に見ると、瞳は閉じられ吐息を漏らしていた。

















「あーあ・・・こんな酔っぱらってもうて」













 平次は新一を抱え上げベットルームへと運ぶ。

 大人しく身体を預ける姿に、やはりいつもと違うのを感じた。







 平次は嬉しくてつい微笑う。





















『いくら似てるからって、ときめくんじゃねえよ』





















 ・・・・・・ホンマにな。



 どうかしとったわ、俺。





















 足で扉を開けてベッドに降ろす。

 柔らかな布の感触に頬ずりして、新一はそのまま背中を丸めた。











 静寂に聞こえる息遣い。



 ちょっとため息を付いて、新一に背を向けベッドの端に腰を下ろしたその時だった。

































「・・・・やんねえのかよ」

「おわ!」





















 なんと、新一が後ろから抱きついてきた。

 寝ぼけてるのか、とろんとした瞳を平次に近づける。



















「平気なんか、そんなんで」

「うるせえ口・・・・」

「!」 

















 言葉を唇で塞がれる。





 そのまま新一は、平次の首に腕を廻してベッドに押しつけた。

 尚も、唇は触れたままで。





























 こ・・・・・・これは夢か!?



























 のし掛かる体重に目を白黒する。

 それもそのはずだった。今まで新一から仕掛けてくる事なんて無かったのだ。





 やがて馬乗り状態で触れていた唇が離れた。

 至近距離で、新一は平次を睨む。



















「・・・・・・」

「な、何や」















 何か言いたげに口を開くが、次の瞬間倒れ込むように新一は体重を平次に預けた。

 そのまま再び、吐息が漏れる。





























「やっぱり寝ぼけとったんかい・・・・」



























 拍子抜けした平次。

 左手の時計を見るとまだ九時だったが、今日一日で色んな事があってさすがに精神的にも疲れてしまった。



 のし掛かる気持ちいい重みをちょっとずらして、羽布団をかける。

 寝返りをうって新一は布団に潜った。

















 ・・・やがて平次も目を閉じる。



 規則正しい吐息が聞こえるのに、時間はかからなかった。


































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 不変ではない人の気持ち。



 ・・・・・・でも、だからこそ人はお互いを確かめ合う。



























 何度も何度も声を聴いて。

 触れ合う体温に身を委ねて。





















 いつでも。



 誰もが彷徨う、想い。





















 ───────────・・・・・その想いが、いつか永遠に変わればいい。
































Fin