記念日は、刻とともに





 日差しは暖かいが、風はまだ冷たい、火曜日。

 5月の国民の休日。



 

 今日は、5月4日。



























「・・・・・なんだこれ・・・・」























 朝早く、届いた「ゆうパック」。

 差出人は、服部平次。



 中を見てみて、ちょっと新一は眉根を寄せた。

 入っていたのは・・・・短針しかない腕時計だったのだ。































「・・・・・・・・・・・・どう言うつもりなんだ? あいつ・・・」

























 いつもの事だが、あいつのやることは訳が解らない。

 新一がその時計を取り出してみると、その下にメッセージカードが添えられていた。



 書かれていたのは、こうだ。



































 ―――――――― 工藤へ。



 この腕時計の謎、解けるか?











































「・・・・・謎、ねぇ・・・」























 すると新一は、くすりと微笑った。













 ポケットから携帯を取り出すと、短縮に入れてある番号を押す。

 時計を握ったままソファに腰を下ろすと、相手が出るのを待った。



 4コール程して、聞こえてくる明るい大阪弁。

























『なんや工藤、もう解けたんか?』

「・・・・俺を誰だと思ってんだ」

























 クリアな音質。

 その予想通りの状態に、新一は苦笑いする。 



















「鍵、開いてるぜ。さっさと入って来い」

「へ!?・・・・そこまでバレバレ?」

「ああ、バレバレだ」





















 ・・・・そして新一は、電源を切る。

 そのまま溜息を付いて腰を上げると玄関へ向かった。

  


























ひとくぎり























「やっほー工藤! 誕生日、おめでとさん♪」

「・・・はいはい」



























 タイミング良く開けられた扉から、声と共に現れたのは服部平次。









 相変わらず気持ちの良い笑顔で。

 ・・・相変わらず、心を揺らす声で。



 でも決してそれを悟らせず、新一は素っ気なく答える。



























「全く・・・・お前のは、長針だけの時計なんだろ」

「あったりまえやん。俺と居る時は、それしかしたらアカンで」































 そう。



 これは、ふたつでひとつの、腕時計。



































 ――――――――・・・・・短針しかない腕時計は、君に。



 そして、長針しかない腕時計は・・・・・僕が持とう。 

































 今を知るには、二つ揃わなければならない。

 これは、今流行の恋人に贈る腕時計。



 平次は、ニヤリと笑い、左腕を見せた。























「・・・相変わらず恥ずかしい奴だな」

「ええねん、してくれんでも。持っとってくれれば」























 その時、新一が何か言いたげに瞳を向ける。

 でも、すぐ逸らしてしまった。













 そして、口を動かす。



 でも、平次は聞き取れなくて聞き返した。































「・・・・・けだ」

「え?」

「・・・今日だけだからな!」



























 覗き込んだ新一の顔。



 ・・・耳まで真っ赤で、まるで風呂上がりの様に上気している肌。

 覗いている鎖骨までが、平次の視線を捕らえて離さない。



 細い指が、震えている。

























「・・・貸し」















 新一の手から、もうひとつの腕時計を取る。

 平次は、大人しく差し出す左腕に時計をはめた。



 そして靴を脱ぎ一歩上がる。





























「抱きしめてもええ?」

「・・・・・別に」

























 相変わらずの、返答。

 でも、抵抗は全然無く。











 ・・・・頬にかかる髪がくすぐったいと感じた瞬間、背中に廻される腕の感触。

































 今日は、生誕記念日。





 工藤新一が、この世に生を受けた記念日。



































 だから、今日は二人だけで。



 電話も取らず、携帯の電源さえも切って。



























 ・・・・刻を忘れるぐらい、近くにいよう。



































「来てくれて・・・・・ありがとな」 

























 腕の中で呟く声は、やけに素直で。

 平次は、更に腕の力を強くする。





























 そうして、玄関の扉の鍵も閉めて。



 郵便が来ても、来客さえも通さず。







































 ――――――――・・・・ やがて二人の間に鳴り響く、規則正しい刻の音。

































「今日だけだ」

「・・・そやろな」

「だから、夢だと思え」

















 すると、これは白昼夢か?

 平次は意地悪く微笑う。



















 赤いソファに、映える白い肌。

 服の間から覗く、滑らかな感触。









 ・・・・降りてくる、影。



























「夢なら、夢らしくさせてもらおか」

「言ってろ・・・・」

























 語尾は、唇に吸い取られる。































 そうして長く甘い接触を楽しんだ2人は、充分余韻を残して、遅い朝食をとりにキッチンへ向かった。



























 ・・・・・・・焦らなくても、まだ、今日は終わらないだろう?


































Fin