Downpour&Rain





「・・・何やねんなこの雨は・・・・」



























 フロントグラスに叩きつける、雨。ワイパーを最大にしても効かない、雨。

 そして、不快指数150%の湿度・・・



 今日は朝から、土砂降りの雨だった。



















 関東地方は、どこもかしこもこんな天気。

 大雨洪水警報が鳴りっばなしなのである。













 ・・・・・・平次は、軽く溜息を付いた。































「・・・工藤・・・いま何しとんのやろ・・・・・」

























 毎日のように逢っていても。

 ・・・・どんなに夜、一緒に居ても。



 この気持ちは、日々過ぎる程強くなる。















 ・・・自分の知らない居ない時。

 一体何処でどうして、何を想っているのだろうか?















 自分の事を・・・ちょっとでも考えていてくれるのだろうか?





























 強すぎる雨音は、かえって静寂を生む。

 何故か堪えようもない不安を、生むのだ。































 もうすぐ逢える。







 ・・・・・・・あいつに、工藤に。





































「はは・・・俺ってこんなにかわいー奴やったんや・・」

































 車の中は、自分の「部屋」同然。

 ここは、安心できる気持ちのいい空間。

 

 一人で照れ笑いをして、平次は角を右に曲がった。





















 ・・・新一の家が、見えて来た。
































ひとくぎり

































 工藤家の駐車場に入れさせてもらって、玄関までの間。

 容赦なく降る雨は、たった数メートルの距離で平次を全身ずぶ濡れにした。



 逸る鼓動を落ち着かせ、ひとつ深呼吸をしてドアを開ける。

 もちろん、表情は隠して。





























「工藤!・・ちょ、ちょおタオル貸してや!! ・・・ぉわ・・サイアク」























 勝手知ったる何とやら。

 インターホンも押さず、開けたと同時に平次は叫ぶ。



 すると、不機嫌そうな顔をした新一が上から降りてきた。

























「・・・傘持って来なかったのかよ? こんな雨の日に」

「せやかて、俺車やで? 駐車場から此処に来るまでに濡れてしもてん・・・ええから早よう、タオルくれ」

「ほらよ」



















 すると新一は、既に手元にバスタオルを持っていて、それを平次に放り投げる。



 受け取り、滴る雫を拭う間。

 こっちを見ている視線に、平次は耐えきれなくなり話し掛けた。























「なんや。寝ぼけた顔して・・・まさか今起きたんちゃうやろな」

「そうだけど」



























 ―――――・・・は? ホンマに寝とったんかコイツ?





























 気怠い雰囲気の新一は、いつも朝見る表情と同じもの。

 まさかと思って言ってみた言葉は、当たったらしい。



 きょとんとした顔をして答える新一に、平次は溜息を付いた。



























 ・・・・・・俺が、こんなにお前んこと考えてた時・・・当の本人は悠々眠っとった訳かいな。





























 む。

 ・・・平次は、何となく面白くなかった。









 そうして玄関の鍵を掛け、濡れた服を脱ぎ始める。

 何だか身体が熱くなってきて、服がベタベタしてきたのだ。



















「な、何こんなトコで脱いでんだよ!?」

「濡れて気持ち悪いんや・・・よいしょっと」























 新一がビックリしている。

 そんなことはお構いもせず、平次は下着を残して脱ぎきった。



 靴も脱ぎ一段上がると残骸を足で蹴る。

 寝ぼけ眼を間近で確認し、首に両手を廻して耳元に囁いた。





























「・・・お前の身体で渇かしてくれるやろ・・・?」





























 ・・・新一は、びくりと身体を震わせる。



 シャンプーの香りの残る髪が揺れ顔を上げた。































 相変わらず、外の雨の音が響く。





 何も言わない新一。

 鋭い視線だけが、相変わらず平次を映す。

































 や、やっぱ・・来ていきなりはマズかったか・・・?







































 ごくりと生唾を飲み込み、新一の反応を待つ平次。

 ・・・ここで強引に行けないのが性格だろう。



 すると、ふと瞳を伏せた。































「・・キスが、先だ」































 ―――――・・その時の工藤の表情は・・・



  ・・・・悪いんやけど・・誰にも見せられへんわ――――――・・・





















「―――・・お望み通りに」























 薄く開かれた口唇を合図に二人は重なっていく。

 聴こえる筈の接触の音は、激しい雨音に消されて。







 ・・・・自分の胸から聴こえる鼓動だけやたらと耳に響いた。
































ひとくぎり





























 雨。



 土砂降りの、雨。

































 ・・・・俺は、雨は昔から結構好きだった。








































ひとくぎり

































「・・・全然止まなねぇな・・・」





























 午後も5時を過ぎて新一が起きた。

 窓から差し込む光は朝から殆ど無く、薄暗い。





























「・・――――・・・早く来ねぇかな・・・」



























 ぽつりと漏らす声。

 それは、激しすぎる雨の音で新一の耳にさえ届かない。



































 ・・・今日の夜、服部が来る。







































 朝、普通に起きた。

 新聞にも目を通しニュースも見た。



 そして、昼前に何もする事が無くなった。















 あることはあったのだが・・・する気が起きなかった。

 だから、もう一度寝た。

















 ・・・待っている時間は、結構心臓に負担がかかる。

































 やけに鼓動が早くなって、まともな思考が働かないのだ。









 だから、寝た。

 寝れば、その分考えなくて済むからだ。





















 あいつの事を、考えなくてすむから・・・





































 熱い珈琲を飲みながら窓の側で外を見た。



 相変わらずの激しい雨。

 暖かい湯気に、硝子が白く曇った。



















 くすりと、新一が微笑う。















































「・・・はは。なーんか俺ってばかわいーじゃん・・・」





























 誰かを待つことの楽しさ。

 こんな感覚は、嫌いじゃない。





 こんな自分は、嫌いじゃない。





















 東京は、大雨洪水警報が発令中。

 久しぶりの、梅雨らしい雨。

























 でも、雨は嫌いじゃない――――――――・・・















































「工藤!・・ちょ、ちょおタオル貸して!! ・・・ぉわ・・サイアク」



































 その時ドアが開く音と同時に聞こえた、平次の声。

 新一は、今まで浮かべていた表情を隠して玄関に行った。

















「・・・傘持って来なかったのかよ? こんな雨の日に」

「せやかて、俺車やで? 駐車場から此処に来るまでに濡れてしもてん・・・ええから早よう、タオルくれ」

「ほらよ。」















 新一の手には既にバスタオルがあった。

 こんな事は既に予想していたらしい。



















「なんや。寝ぼけた顔して・・・まさか今起きたんちゃうやろな」

「そうだけど」















 きょとんとした顔をして答える新一に平次は溜息を付いた。

 そうして、玄関の鍵を掛け、濡れた服を脱ぎ始める。



















「な、何こんなトコで脱いでんだよ!?」

「濡れて気持ち悪いんや・・・よいしょっと」

















 パンツを残して全て脱ぎ去った身体は、まだ雫を伴っている。

 そうして靴を脱ぎ上にあがり、新一の耳に低く囁いた。

























「・・・お前の身体で渇かしてくれるやろ・・・?」























 夕闇と土砂降りの雨。

 多少の声も漏れない程の、強い雨。

































「・・キスが、先だ」

「―――・・お望み通りに」











































 雨は、だから嫌いじゃない。




























Fin