しゃぼん玉





 今年の夏は、異常な暑さだと思う。



















 何にも、する気が起きない。

 動くのも、歩くのさえ面倒に思える。







 ・・・なのに、事件は気温に関係なく毎日起きやがる。





















「なんや・・・今夜はいつにも増して、不機嫌やな」

















 熱帯夜。風も吹かず。

 ・・・窓を全開にしても、そよとも空気は揺れない。







 だから、冷房は必需品。

 もちろん、眠るときには止めるけど。



















 新一は、窓の外を見上げた。



 月が、覗いている。























「・・・悪りぃ、やっぱ今日、パス」















 25時。夏休みの夜の、久しぶりの逢瀬。

 遊びに来た平次に、新一は溜息を付きながら呟いた。



 何となく、そんな気がしていた平次。

 ビールを煽ると、苦笑する。

















「暑いし怠いし・・・事件やったしな。そう言うと思うたわ」

「・・・・悪い」



















 最近、猟奇じみた事件が多すぎる。

 暑さでみんな、頭がおかしくなっているのだろうか?











 ・・・とても今日は、ヤる気分では無かった。



















 平次は、すまなそうに俯く新一の顎に手を掛ける。

 一瞬の触れ合いに、新一は黙って瞳を閉じた。







 離れて、平次が鞄から何かを取り出す。

 それを新一に渡した。











「・・・何これ」

「お月さんも綺麗やし、外で吹こか」













 昔懐かしい雰囲気を醸しだすそれは、シャボン玉。

 100円コーナーで売っていたものらしい。







 きょとんと。

 新一は平次を見た。





















「・・・お前は何でも一人で溜め込む奴やしな・・・・・・嫌なこととか、辛いことあったら・・・」



















 平次は、一呼吸置いて続ける。

















「ため息の数だけストロー吹いて・・・シャボン玉にして飛ばした方が、気ぃ晴れるで?」

「・・・・・・・」





















 そのあまりにも気障な台詞に、新一は瞬間凍る。

 次に、耳まで赤くなった。

















「こ・・・このクソ暑いのに何ぬかしてやがる!!? 頭どうかしちまったんじゃねぇのか?」

「おー。調子戻って来たやんか♪ 良かった良かった」

「人の話を聞け!!」

「童心にかえるで~?シャボン玉。結構ハマるしな!」

「お、おいっ・・・」



















 そうして新一の背中を押し、平次は部屋を後にする。

 観念した顔をしながらも、新一の口元は僅かに緩んだ。

















 今年の夏は、異常に暑い。

 だから、夏が苦手な新一との付き合いは、ちょっと難しい。



 けど。















 暑さに嫌がる新一の顔は、結構平次は好きだった。



















「・・・やっぱ暑い・・・暑すぎる・・・」

「あとでシャワー浴びたらええやんか・・・ええ加減黙れや」






















ひとくぎり























 夜空に昇る、シャボン玉。























 ・・・見上げながら新一は、また明日の暑さを確信する。



 そしてその溜息を、シャボン玉に換えた。
















Fin