夏の色彩雲







 今日は、比較的涼しい方だった。



 3週間程ずっと30度を越し、決まって熱帯夜。

 でも今日の朝、目覚めた時に寝苦しさは無かった。













「はー・・・いつもに比べりゃ天国だ・・・」















 もちろんクーラーは完備はしているが、一度冷房でえらい目に遭ってから、なるべく使用は控えていた。















 そろそろ、お昼近い。



 エジプトの特集番組を見ながら、アイスを食べていた新一。

 その時突然、ぱらぱらと嫌な音が聞こえてきた。







 ・・・ギョッとして、窓の外を見た。



















「ちょ、ちょっと待て――――――っ!!? 何だこの雨!!? さっきまであんなに晴れてたじゃねーかっ!!」





















 ・・・・天気雨だった。















 ここ最近、良くあった事だが・・・ここまで滝の様な音は初めてだ。

 新一は、疾風の如くベランダに出た。



 洗濯物を、干してあったのだ。

















「あ~・・・良かった・・・間に合った」















 一瞬のうちにどんよりと変貌した、空。

 別室に掛け直して、新一は再び自室に戻り、視線をテレビに戻した。















 そして、ものの5分もしないうち。





 ・・・予想通り、カラッと晴れた・・・





















「っとに・・・・最近の天気は気まぐれだよなー・・・ムカツクぜ」





















 再びベランダに出て、洗濯物を干す。

 特集も終わったテレビを消して、ちょっと昼寝でもしようかとベッドに腰掛けた。



 その時、電話が鳴った。



















「―――――・・・・・・はい。工藤です」

『工藤!! ちょお窓開けて、空見てみぃや!』

「・・・服部か?」

















 突然わめき出す声。

 間違えようもない、服部平次の声だった。















「何なんだよ突然」

『ええから!! お前んトコの窓からやと・・・・右側や!  西の空、雲や雲!!』

「・・・はぁ? 雲?」





















 言っていることが意味不明だったが、とりあえず新一は窓を開けた。

 ちょっと、むあっと温い風が吹く。



 そして、言われた通りに西の空を見上げた。





















『見えるか?・・・・ほそーく、飛行機雲みたいなんやけど・・・でも、ちゃんとした雲や・・・ごっつ綺麗な色の雲、見えへんか??』

「綺麗な色ったって・・・雲は白いに決まって・・・・え!! 何だあれ??」























 そう。



 雲は、白いに決まっているはずだった。

 それ以外の色なんて、生まれてこの方見たことは無い。













 でも・・・・・















 ―――――・・・その時見えた雲は・・・・





























 空一面に広がる、色々な形の雲の中。

 細く、横に伸びる一筋の雲が・・・・風に乗って東の空へと流れていたのだ。







 しかも、色を放って。

























 白と決まっていたはずの、雲の中。





 ミントブルー、スカイブルー・・・・イエローシャーベット。

 そして、ピンクパール・・・・





















 まるで虹のような色彩の雲。

 確かに、それはそこに存在していたのだ。

























 ・・・・新一は、暫く我を忘れて魅入ってしまった。

























「・・・な・・何だよこの雲・・・? え・・・? 目の錯覚じゃねぇよな?あれ、お前にも見えてんだよな?」

『良かった~・・・工藤にも見えてんやな・・いやな、俺も気ぃ付いたときはマジで自分の目ぇ疑ったんや』































 信じられないのも、無理はなかった。

 今まで、こんな現象は見たことがないし、聞いたことがないのだ。









『光の屈折なんやろけど・・・でも、あの一筋の雲だけなんやで?すれ違う他の雲は、全然フツーなんや・・・不思議やなぁ・・』

「ホントだよな・・・でも、すげー綺麗・・・あ、俺カメラある! 撮る!!」















 引き出しからカメラを取り出した新一。

 フィルムがまだ残っているのを確かめ、空に向かってシャッターを切った。







 角度を変え、数枚。

 信じられない現象を、確かなものとして残す為に。



















『撮ったんか?』

「おう。バッチリだ」

『現像したら、見せてな』













 平次も撮ろうと思ったのだが、生憎手元にカメラが無かったらしい。















『おんなし雲、見とるんやな・・・空って、繋がっとるんやなぁ』

「何言ってんだよ、当たり前だろ?」









 くすくすと、新一が微笑う。



















『――――・・・どんだけの人が、この雲に気ぃ付いたんかなぁ』

「そーだよなぁ・・・・」





















 やがて、その色彩雲は他の大きな雲たちに遮られ、その姿を消していった。

 存在時間は・・・・何分くらいだったんだろう?



















「雨上がりだったからな。虹の”雲ヴァージョン”なんじゃねーか?」

『はは。せやな』















 ほんじゃな。と平次は電話を切った。

 新一は、さっきまでの余韻を確かめるように、暫く空を眺めた。











 一瞬たりとも、同じ姿を止めない空模様。

 そう言えばこうして空を眺めるなんて最近無かった。



 大きく、深呼吸する。





















 今のは。



 今見ていたのは、本当に現実だったんだろうか?

















「まさか・・・これ現像して写ってんのフツーの雲だったりしないよな・・・」























 それはちょっと、怖すぎる。











 ・・・・でも。



 服部と、俺と。見た景色は同じものだった。





















 まあ・・・もしかしたら。

 二人一緒に見た幻かもしれないけれど。























 ―――――・・・たまに、こんな気分になるのも悪くない。













Fin