このマンションから近くの駅までは、歩いて10分程。

 そこから、新一の住んでいる最寄りの米花駅まで乗り継いで40分。



 決して近くはない距離。











 日は沈んでいるのに、アスファルトに残る熱さが新一を襲う。

 予想以上に怠くなってきて、余計気分は最低だった。











 駅の前。

 耐えかねて、冷たい缶珈琲を自販機で買う。



 シャツが身体に張り付いて気持ち悪く、早くシャワーを浴びたいと思った。















 ・・・その時。



 見覚えのあるバイクが、視界に入った。



























「・・・・・・・・服部」













 メットを外して浮かび上がる影。

 それは、確かに平次だった。













「・・・・何で」

「乗れや」









 言うなり、もうひとつのメットを投げる。

 慌てて受け取ると再び平次は自分のを被った。





 エンジン音が鳴り響く。

 平次はそれ以上、何も言わなかった。





















 ・・・・・・新一は黙って後ろに跨った。






キスより熱い温度[02]







 ものの数分もしない内に、マンションに着く。

 所定の場所に止め、直通のエレベーターに乗るべく右の通路へ歩き出す。



 もの凄い不快な風が前髪を揺らした。











 お互いメットを抱えたまま、一言も交わさないまま。

 静まり返った地下に、足音が鳴り響く。



 やがて音が鳴り扉が開くと二人はゆっくり乗り込んだ。

 

















 すぐに襲う、浮遊感。

 息が詰まりそうな湿った空気。



 怠そうに顔を上げて階数表示を見る新一に、ぽつりと平次が呟いた。























「痛かったやろ。スマン」

「え・・・・」











 突然の声に新一はつい振り向く。

 平次の視線は、口唇に向いていた。















「ホンマ情けないわ・・・」

「・・・・服部」



















 その時の平次の表情は、今まで見たことのないものだった。





















 数十秒の簡易的密室。

 数時間前に、不意打ちのキスを受けた場所。





 でも今は、来ない。

 新一は・・・・・・・何だか少し期待していた自分に驚いた。





















 再び沈黙になり目的の階に着く。

 自分の部屋の前までくると平次は、鍵を開け新一を先に入れた。







 

 ・・・・・・涼しさに、軽い息が漏れた。



 























「何で追いかけて来たんだ」

















 何かを期待するように新一は平次を見た。

 その表情は、未だ曇ったまま。













「せやから、スマンて」

「何に対してだ」

「・・・・・何にて」

「そうか。解った」















 自嘲気味の笑みを漏らし新一は顔を伏せた。

 



 平次は何が何だか解らない。

 どうして新一がそんな顔をするのか、解らない。

















 ・・・・・・・・工藤?



















「言ってる事が支離滅裂や。解るように説明・・・・・・」

「うるせえ。もういい、俺はもう寝る・・・・・・・・今日は側に、寄ってくんじゃねえぞ」

「は?」















 新一は、やはり帰ろうとも考えが一瞬のうちに却下した。

 外の暑さにもう二度と触れたくは無かったし、とにかく何だかもう疲れたから、直ぐに休みたかったのだ。





 平次はどんなに考えても、こんなに新一が怒る理由が思いつかない。

 大体怒っていたのは、こっちの筈だ。

 



 ロスに行かれ、ひと月以上も音沙汰無し。

 やっと帰って来て久々の夜だと言うのに・・・・・・・・新一は高木刑事と約束をしていた。





















 ―――――・・・・・・・平次はまた腹が立ってきた。







 













「ちょお待てや! さっきから聞いてりゃブツクサ意味不明なこと言いくさって・・・・・・・ムシャクシャしとんのはこっちやぞ!? さっきはさすがに悪いと思うて素直に謝っとんのに、何やその態度?」

「追いかけてくんな!」

「工藤!」













 先を歩く新一の腕を掴み、大きな音を立てて壁際に押しつけた。

 その力は強く新一は振りほどけない。







 だるくて、足にも腰にも力が入らなかった。

















「痛つ・・・!」

「俺んトコにいる以上、夜は付き合うてもらうで・・・・・・・大体、何日振りや思てんねん?」

「・・・・・っ!」













 低く囁かれたと思ったら強引に口唇を押しつけられる。

 頭が痛くなるほど強く吸われ、その後シャツの裾から手が伸びてきた。

















「・・んっ・・・・・」











 少し開けられた隙間から言葉が漏れる。

 探し出した胸の突起を巧みに転がし、新一の吐息を誘った。





 平次の指は熱く、新一は瞬間跳ねる。

























 ・・・・・・・・もう、立っていられない。



























 妖しく歪む、新一の端正な顔。

 口唇から淫らに漏れる、吐息と声。

 









 ・・・・・・久しぶりの感覚。





 元々敏感な身体。

 こう弱点ばかりを攻められては、抵抗なんか出来ない。

















 やがて、懸命に縋り付いてきた両腕。

 平次は満足げに微笑った。



 





















「続きは・・・・・・・部屋の方が、ええやろ?」 

「・・・・・・っ」

 











 甘く低く、耳元に囁く。

 収まりが付かなくなっている新一自身を、平次は布の上から手のひらで撫でている。





 ・・・・・新一は頷くしかなかった。

 




























ひとくぎり

































 本当に涼しいリビング。

 けれども、平次の部屋に足を踏み入れ途端に新一の表情が変わった。



















「どないした?」

「い、いや」













 平次の部屋は、外と変わらないくらい暑かった。

 この部屋の冷房を止めていたのだ。









 ・・・・・振り返ると、冷ややかに笑う顔が見えた。

























 ぷっちーん・・・

























 新一の中で、何かがキレた。





 瞳が、マジだった。

 新一は本気で怒っていた。





















「・・・・・・・そんなに俺の嫌がる顔が見たいかよ」

「そら見たいわ」

「何で・・・・・」

「めっちゃ色っぽいねんもん」

「フザけんな!」











 その瞬間、面白いまでに新一が紅くなる。

 飛んでくるその手をぐいと引き寄せた。











「嫌がる工藤が、見たい」

「このヤロウ・・・・・」

「苦痛に歪む顔も、快感に変わるときの顔も、全部」

「いい加減にしろ!」

「俺はマジや」

















 引き寄せたまま、その身体を床に押し倒す。







 平次の身体の熱さ。

 そして、この空気の熱さ。









 ・・・・・触れられる肌の熱さが新一を押さえつけた。























「何であの人を名前で呼ぶようになったんや・・・・・?」

「あの人・・・・?」

「高木はんや」      

「・・・・・・ああ、ロスの俺ん家に・・・・・・一週間いるうちに、つい」

「はあ?」















 突然何を言い出すのかと、新一は思った。



 予想もつかない事実を告げられ、平次は目を見開いた。

 押さえつけた腕に力がこもる。













「目暮警部と、一緒に来てたんだよ・・・・・・出張でさ。それで居る間、うちに泊まってたから・・・・向こうは会話にファーストネーム使うだろ? それで、つい日本語の時もそうなっちゃって」

「ほー・・・」

















 という事は一週間もの間。

 新一と、衣食住を共にしたと言う訳だ。













 ・・・・・平次は面白くない。























「俺とはいくら一緒にいても、名前・・・・・・・呼んで、くれへんのに」

「なっ! お前なんか名前で呼べるか!」















 途端に新一の体温が急激に上がった。





 開きかけたシャツの間から見える肌。

 見える箇所が、紅く染め上がる。











 ・・・・・・・・のし掛かる体重を押しのけて、新一は上体を起こした。





















「何でじゃい」

「言っとくけど、お前が俺の名前を呼ぶのも許さねえからな!」

「なんでやねん!?」















 さすがに平次はカチンと来た。

 他の友達などには平気で呼ばせているくせに、この言われよう。



 ただでさえ暑いのに余計に熱が上がる。











 でも、新一は答えず平次をずっと睨んだままだった。

































 ―――――・・・・・・・言える訳が、無い。





 お前に名前で呼ばれると、俺は俺でなくなるだなんて、そんな事。





























 たった一度。

 呼ばれたことが、あった。









 服部は覚えていないかも知れないが、最中に一度だけ。

 一度だけ、耳元で名を囁かれた。





















 その時の声ときたら―――――――――――――――・・・・・・・































 今も耳に残る、妖しい色香を含む響き。

 それが自分の名を呼んだ。

























 俺は、それを聴いただけで・・・









 身体の奥から沸き上がって来てしまった、どうしようもない想いと疼きを。

 止めることが出来なくなってしまった。























 他の誰でも全然平気なのに。

 服部から呼ばれるのだけは、耐えられない。













 あれはまずい。



 もし人前で名前を呼ばれたりなんかしたら・・・・・・・・・・どうなるか、解らない。

























 だから許さない。

 だから、俺もお前を名前でなんか呼ばない。



















 ・・・・・・・コナンだった頃に呼んだように、もう無邪気な気持ちで呼ぶことはできない。































「あああ!! もう、解った、わっかりました! せやから、そんな顔せんといて」

「・・・・・・・」

「も~ 俺、マジに怒っとんのに。なのになー! くっそー!! 何でお前目の前にすると、駄目なんやろ・・・・・はあー・・・」

















 平次はガックリと項垂れた。





















 どんなに我が儘でも、どんなに冷たくされても。

 どんな理不尽な事を言われても。









 ・・・・・・・新一を、嫌えない。























 惚れた弱み。

 情けない程、惚れた弱みだ。























 ・・・・・何でこんな奴に惚れてもうたんかなあ。



























 自分から逸らされた視線。

 体温の熱さは、室温だけが原因じゃないだろう。





 新一は決して逃げようとしていなかった。




























「こんなの・・・・・長く、続く訳ない」













 ぽつりと、新一が言葉を漏らす。

 顔を横に向けたまま小さく言葉を。













「こんなのって、どんなんや」

「・・・・・・・」

「男同士がそんなに不安か」

「・・・お前は平気なのか」

















 つきまとう不安。

 同性同士の、恋愛感情。



 行き着く先に何も見えはしないのに。













 ・・・・・・・・どうして、こんな感情を持ってしまったんだろう?



















「先が見えへんのは男も女も一緒や。どんな関係も、一緒や」

「それは・・・・・・」











 それくらい新一も解っている。

 新一が解っているだろうという事も、平次は解っている。





 新一は、何とかしてこの気持ちに理由を付けたいだけなのだ。











 ・・・・・身体を起こし大きく息を付く。

 まともに平次の顔が見れなかった。
















 解ってる。







 どんなに不安でも手放せない。

 一度この体温を知ってしまったら、もう知らない振りは出来ない。























 それだけ気持ちのいい感覚。

 安心できる、空気。





 でも。





















 ・・・・諦めるなら。

 離れるなら、今しかないと思った。

























「工藤。俺な、お前の居ない1ヶ月で身に染みたんや」

「・・・・・何が」

「お前いないと、つまらん」

「・・・・・・」















 新一は無表情のままだった。

 鎖骨から首筋が汗ばみ、気怠そうに息を漏らしている。









 ・・・・・平次はもう観念した。

























 立ち上がり、ベッド脇の上に備え付けて有るクーラー。

 そのリモコンを取りスイッチを押した。













 ・・・・・音を立てて、冷たい空気を送り出して行く。























「・・・・服部」

「大体や。めっちゃ計画考えとったのに、突然『明日ロスだから』とは何事や? 
普段あんま逢えへんのに、よりによって海の向こう行くことないやろ」

「半年前から決まってたんだから、しょうがねーだろ」

「高木はんとミョーに仲良くなりよって・・・・・・そんで、昨日ワザと腕時計忘れる小技まで仕込むとはな」

「!」







 





 新一は目を見開いた。

















「見事にやられたわ。満足か」


「・・・・あれは本当に忘れただけだぞ? 浴びたのも、ホントだけど」

「何!?」



















 ・・・その時振り向いた平次の表情。

 思わず、新一は笑った。

















「誰がそんな手の込んだ事するか。ワタルさんとお前が、会わなきゃそもそも始まらねえのに」

「せやかて―――――・・・・・ええ?」













 涼しさを増してきた空気。

 引いてきた熱に、新一は少し気力を取り戻してきた。



















「――――・・・・・・・あの人、佐藤刑事に一生懸命でさ。未だに告白出来なくて・・・・それで日本に帰ってから、色々捜査の着眼点とか判断基準を俺に聞きたいって電話があったんだ。どうにかして佐藤刑事に男として見てもらうには、自分がもっと仕事出来るようにならないと駄目だって」













 高木刑事も、無能ではない。

 それなりに優秀なのだが、爪が少々、甘いだけ。



 年はかなり若い新一だが、その秀でた能力は誰もが知る所であり、ロスで急激に仲良くなったので、今回非番の時を頼み込んで、新一に色々話を聞いていたのだった。













「だから、貸す本もあったし家に遊びに行ったんだ。そしたら、思いっきり雨に降られちゃってさ・・・・・・ほら、凄かっただろ? 昨日の夕方の土砂降り。本庇ってたから、もうズブ濡れでさ。気持ち悪くってシャワー借りたんだよ」

「・・・・・あの雨か」

「その後サッパリした所で短期講座開始。以上、終わり」

















 部屋は、すっかり涼しくなった。

 すると途端に新一は喉の渇きに気付いた。

















「ビール、飲んでいいか?」

「あ、ああ。持ってくるわ」















 何もないとは思ってはいたが、やはり平次は複雑な気持ちだ。

 思わず顔に出てしまう。



 それはすぐに、新一に気付かれた。















「いい気分だ」

「・・・何がや」

「お前がこうして妬いてくれんの、すっげー嬉しい」

「そら良かったな・・・・・・」

「・・・・・・・」















 ビールを受け取ろうとして新一が手を伸ばす。

 それを無視して、平次は自分でプルトップを開けた。



 そして、口に含む。

















「てめえ・・・・俺の分を持って来てくれたんじゃねーのかよ」

「心配せんでも、ちゃーんと飲ませたる」

















 にや。



 そう微笑ったかと思うと、平次は座り込んでいる新一に覆い被さった。

 そして口唇同士を合わせる。











 ぬるい炭酸が・・・・口の端からこぼれた。





















「・・・・ん」



















 大きく喉を鳴らした時、ようやく平次は新一を離す。



















「・・・・・・まずい」

「はは。せやろな」

「けど」















 新一は、ゆっくりとその腕を上げた。

 寸前に止まっている首に絡ませると上目遣いに微笑う。













 ・・・・・そして、囁いた。





























「お前のキスは、相変わらず上手いよ」
























ひとくぎり

























「にしてもなあ・・・」

「ん?」













 微睡みの中。

 ひと波終わった余韻を感じつつ、平次が思い出したように呟いた。















「お前、帰るつもりやったっちゅーんが腹立つわ」

「どうしてそう考えるかな」

「へ・・・」











 新一は、枕に顔を埋めて淡々と返す。











「確かにワタルさんから俺が忘れた腕時計、持って来てるから届けたいって電話あったよ。お前がコンビニ行ってる時―――――――――・・・・・・・でも今日は断った。家に誰もいないしな」

「・・・・・マジで?」

「けどそれならポストに入れておくからって。明日からまた出張みたいでさ」











 新一は何とか体勢を変え上向きになると、軽く息を付いた。

 冷房が効いているから腰のタオルはしっかりと。











「そ、そーやったんか」

「つうか腹立つのはこっちだっての・・・・・・・お前が連絡の一本も寄越さねーから、こっちは色々考えちまったってのに」









 静かに会話していた筈の空気は、いつの間にやら熱を帯びてくる。

 やっと身体の熱も冷めてきたと思ったのに、また汗ばんできた。











「へ? 時間帯もちゃうし、親も一緒やし電話代もバカにならんちゅーて『してくんな』言うたんは誰や?」

「ちょっと待て。てめえ・・・・まさか、メール読んでないんじゃ・・・・・・・」

「は? メール?」



















 ・・・・・・・・沈黙が流れた。

























 新一は、そっとベット脇の机の上に視線を移す。





 本の間に立てかけて有るノートパソコン。

 明らかに忘れ去られている風な、存在。





















 ・・・・・・次の瞬間、華麗な蹴りが平次を壁に激突させた。





























「く・・・工藤!! お、お前ちょお手加減せえ!」

「うるせえ! どおりで返事が来ねーわけだ!!」

「せやかて、買うてから1度も来たことあらへんやんか! 忘れとったわ!」















 梅雨が終わった頃。

 新一の薦めもあって、購入したノートタイプのパソコン。





 取りあえず接続を済ませ、アドレスの交換をした。

 だが、顔を知っている同士はやはり電話が主流になってしまって、ろくに使わないままだった。



 新一は自分の部屋にデスクトップと携帯用のを1台持っていて、それなりに使い込んでいた。

 しかし平次はどうもあまり性に合わないらしく、そのうち飽きてしまったのだ。















 大体、色んなことが有りすぎた。

 友達だった人間といきなり身体の関係を持ってしまって、悩みまくった時期だ。















 ・・・・・・・そして何とか落ち着いたと思ったら、新一はロスに飛んでしまったのだ。



























 新一は自分から言い出したから、電話できなかった。

 そこで、平次がパソコンを持っている事を思い出したのだ。



 だがしかし。





















 ・・・・・何日待ってみても、返事は返って来なかった。

































「何だ! 離しやがれ!!」













 起きあがり机に向かおうとする新一を、平次の腕が引き留めた。

 何をしようとしているか容易に想像が付いたからである。













「消されてたまるかい!」

「るっせーっ!! あんなもん読まれてたまるか! 削除だ削除!」

「ほー・・・そんな恥ずかしいこと書いたんか。楽しみやな」

「・・・・・・っっ!!」

















 こんなに慌てる新一を見るのは初めてだった。

 顔は最高潮に火照り、うっすら泪も滲んでいる様に見える。













 ・・・・・・むちゃくちゃ可愛いかった。























 そうなると、もう我慢は出来ない。

 一気に体温が上がった身体を思いっきり引き、ベッドに転がす。



 平次の膝の上に寝る形になってしまった新一は、無防備に素肌をさらけ出した。













 真上から口唇に重力を与える。

 さっき傷つけた場所を舐めながら、優しく撫でた。

















「・・・っ・・んん」

「もう復活してしもた。2度目、いこか」











 膝を上げ、ゆっくり顔を引き寄せる。

 何度も角度を変え吸いながら、平次は右手を新一の中心に伸ばした。



 やんわりと握ると、新一は大きく跳ねる。

 そのまま暫く指を使って遊び、連動する震えを楽しんだ。















「ええ反応やなあ」

「ちょ・・っ・・・・・・・誤魔化す、な・・・っ・・・」

「嫌や。もっと見たい」

「――――――・・・・っっっ・・・・・」









 頭が平次の膝に乗っているだけで、他に体重の置き所のない体勢の新一。

 股の間に手を入れられ、必死で両手でシーツを掴んでいたが、遂に堪えきれなくなって褐色の胸に倒れ込んだ。











 ・・・・・・・柔らかい髪の毛が突然飛び込んできても、平次は少しも
躊躇(ちゅうちょ)しない。























「工藤、あっついな」

「・・・・・・な、に・・・?」 

「身体・・・めっちゃ熱い・・・・・口唇(ココ)も熱い、思うたけど」











 囁きながら身体を反転させる。

 素早く新一を横たえると、動きを再開した。











「なーんで冷房効いた部屋で・・・・・・・こんな熱なっとるんや?」

「・・・・・ごちゃごちゃ、言ってねぇで・・・・・・早くしろ」

「やる気やな」

「てめえは焦らし過ぎなんだよ!」











 ぽろっと出た、新一の本音。

 頭で色々考えても、身体は正直だ。



 既に熱をもってしまった欲望は、収まりが付かずに次を求めて波打つ。

 男同士の快感を知って「受け止める側」の気持ちよさを実感してから、一度火を付けられると止まらなくなってしまった。





 うだうだと悩みまくってみたものの、1ヶ月以上のブランクがあったせいか、身体が前より敏感になってしまったらしい。









 でも、入り口は狭く痛みは激しい。

 新一の痛がり様はさっきも含め、身に染みて解っているから平次は慎重なのだが・・・・・・・























「・・・・ちゃんとせな、辛いのお前やねんで」

「あのなぁ・・・・・・こーやって喋ってんのも恥ずかしーんだから、とっとと俺の正気を奪えって言ってんの!」

「!」









 痺れを切らした新一が、今度は平次の口を塞いだ。

 両手を首に廻し逃がさない様に。





 途中、何度も息継ぎを繰り返しながら――――・・・・・・・段々と、激しく強く、目眩を誘う程に。











 お互いから漏れる吐息が、やがて熱く淫らになって行く。

 2人の間にある男の象徴が絡み合い・・・・







 ますます感じて、硬く熱を帯びた。























 ・・・・・・・新一の表情が、妖しく揺れる。

























「っ・・・」







 懸命に押し殺す声。





 中で動き回る、異物の感覚。

 耐えきれず新一は平次にしがみついた。















「・・・・これからやで」

「わ・・・かってるっつーの」

















 答える声。

 震える身体。



 全てが、甘みを帯びている。























 ―――――――――・・・・静かな空間に、外の雨の音が響きだした。













 けれども2人の耳に届くのは。

 互いの鼓動と、熱い吐息だけだった。


























ひとくぎり



























 やがて疲れ果てて、新一は深い眠りに堕ちた。

 静かにタオルを掛けると身じろぎして丸くなる。



 平次は、ゆっくり起きあがるとリモコンで冷房を止めた。

















 窓を開ける。





 ・・・・・・・雨が一時期の暑さを消してくれたらしく、涼しい風が舞い込んだ。





















 ちらりともう一度、新一が眠っているのを確かめる。

 そして、パソコンを取りだし、開いた。































「ホンマや・・・・」





















 見つけた。



 本当に、新一からのメールが届いていた。





















「・・・・・工藤」











 7通。

 こんなに来ているとは思わなかった。



 平次は、逸る鼓動を感じながらそれをクリックする。













 ・・・・最初は、あの性格そのままの調子で。



 お前なんか気にしてないぜ?

 こっちはこっちで楽しんでるから、という感じだった。









 でも、送信の日付の間隔が急激に短くなって来た頃から雰囲気が変わってきていた。





















 ・・・・・そして最後のメールは帰国当日。

 出発前の、早朝だった。











































『・・・・・どうして返事をくれないんだ?』 

















































「―――――――――――・・・!!・・・・・・・っ・・・・」



























 それは、どの文面にも今まで一言も感じられなかった言葉。

 きっと押し殺してきた言葉。























 ――――――・・・音には出せない、ホントの気持ち。

















 その文字から伝わる強烈な想いは、深く、平次の胸に突き刺さった・・・・・
































ひとくぎり























 そして、次の日。







 身体中に残る無数の痕のお陰で、新一は一歩も外に出られなかった。

 その代わりに平次がレンタルのビデオを数本借りてくる。





 適当に観てる内に眠くなり、2人仲良く昼寝を始めた。























 外は相変わらず照りつける太陽。

 容赦ない、湿度。











 すさまじい程の積乱雲。





 聞こえる、蝉の声。





















 ・・・・・・・・・でも2人は涼しい部屋の中。





 向かい合って、気持ちよさそうな吐息を立てていた。

































 夜になって、多少涼しくなった頃。

 『冷蔵庫の中身が心配だから帰る』と新一が言い出した。



 さすがに連チャンで引き留めるワケにも行かず、しぶしぶ平次は送り出す。

 まだ身体に名残が残っているので、車で届けることにした。













 地下駐車場へ向かう、マンションのエレベーターの中。

 簡易的な密室。





 ここぞとばかりにキスを、また平次は仕掛けてみた。

































「―――――・・・」

















 新一は、やっぱり瞳を閉じない。

 幾らかマシになったとは言え充分不快な湿度と気温。



 また、きっつい言葉が飛んでくると確信していた平次。















 でも・・・



























「!?」

「ん・・・」













 思惑とは裏腹に、密着してきた身体。

 ゆっくりと瞼は閉じて行き、両手は平次の髪の毛をまさぐる。



 積極的な口付け。

 平次は目眩に似た感覚と共に、下半身への熱を覚えた。



















「く・・・どう・・」

「・・・バーカ。誘ってんじゃねえ」















 扉が開くと同時に、名残惜しげに離れる。



 先に出る新一。

 満面の笑みを浮かべて、平次は後を追った。






























ひとくぎり































 ・・・・・家に戻った新一は、メールを開いて驚くことになる。

























 その後、口を押さえて真っ赤になって。

 音に出来ない文字を、また返すのだ。





























 キスより、熱い温度。















 それは・・・・・こんな時の、胸の内の熱さなのかもしれない。






















Fin