訪問者







 ・・・・・・・・ちょっと、雰囲気を出したかっただけだった。































「ひゃ~ こっえ~」

















 新一は、家に見合う大きさのテレビの前で、丸くなって画面に釘付けだった。



 木曜夜10時からの、テレビドラマ。

 原作と違う形で進んでいく物語は、以外に新一の興味を引いている。



 これがちょっとしたホラードラマで。

 雰囲気を出すために、今日はリビングの明かりを小さくして見ていたのだ。



















 なかなか効果絶大。

 ホラーやミステリーは大好きだったし、犯人探索に夢中で、すっかりハマって浸りきっていたその時。











 ・・・・・・・突然、部屋の明かりが消えた。



























「――――――――――・・・・・・!?」





















 新一は、これには心臓が止まるほど驚いた。

 ・・・・・・・何故かというと、今テレビの中の風景も突然明かりが消された場面だったからだ。



























 ・・・・・・・なな、何だよ?























 何故か、立つことが出来なかった。



 テレビの中の登場人物も暗闇の中で見えない相手に怯え、その正体をつきとめようとしている。

























 なんかの拍子で消えたんだ・・・・・

















 ひきつったような微笑いになるのが自分で解る。

 深く考えるのはコレが終わってからにしようと、再度意識をテレビに向けた。





















 ブラウン管の中は、未だに闇の中。

 BGMも無く、効果音の主人公の心臓の音や息遣いだけが響いている。



 ちょっと怖がっている自分に新一は信じられず、失笑した。

























 ――――――・・・・・・け、けっこースリルあんじゃん・・・・はは。

 


















 






 静寂の中。

 今回の放送分が終わった。



 謎は謎を呼び、次回も楽しみだ。そう思って、立って電気を付けようとした。

 しかし。



















「・・・・・?」















 肩に重力がかかっていて、動けなかった。



























 ―――――――――・・・・マ、マジ??

























 振り向けない。

 部屋はテレビから放射される明かりだけ。



 それは今、不気味に青白く自分の肌を照らす。















 ・・・そう言えば、玄関にまだ鍵を掛けていなかった。

 画面に没頭してたから、他まで神経が廻らなかった。



 俺としたことが油断したかもしれない。









 その重力は、次の行動でそれが「手」だと言うことを知った。

 新一の首筋を・・・・ゆっくり這い上がってきたのだ。

























「・・・っ・・ひえ」











 さすがに新一は黙って居られなかった。

 「怖い」という思いよりも、先に身体が動いていた。



 ・・・・・・素早く身を沈めると、背後に向かって回し蹴りを仕掛けたのだ。























「良い度胸じゃねーか! 誰だ!?」

















 その気配をとっくに感じたのか、脚に接触は感じなかった。

 その代わり、声が聞こえた。



























「随分な挨拶やなあ」

「てめ・・・・・服部!?」











 ソファの影に身を隠して、その蹴りから逃れていた影。

 ゆっくり立ち上がると見知った姿となって新一の眼前に現れた。





























ひとくぎり































「何度言ったら解るんだ!? 勝手に人の家に、忍び足で入って来んな!」

「せやかて鍵開いとったし・・・・・・暗いし、何やっとんのかと思うたわ」











 電気も付け、テレビも消し、元通りの夜の風景。

 ただ1人の予定外の訪問者を覗けば。



 平次は平然として勝手知ったる何とやらで、冷珈琲を入れていた。

 ひとつ持ってきて、新一に渡す。













「俺もちょお後ろで見とったけど、案外おもろいな」

「だろ? 結構ハマってんだ・・・・って、話を逸らすなっつーの!」











 忙しい新一の表情を見ながら、平次は嬉しそうに微笑う。

 何でそんなに嬉しそうなのかは、もちろん新一には解っているから腹が立つ。













「フツーに入って来やがれ。あんな登場の仕方、すんじゃねぇ」

「そやなー。工藤、けっこービクついとったもんな」

「黙れ! 不法侵入者!」















 首筋をなぞった、あの手の動き。

 不覚にもゾクリとしてしまった事は、胸にしまっておこう。



 ちろりと目の前の男を睨みながら新一は誓う。













 でも、あれが服部で良かった。

 確かに今そう思うのは思いのほか怖かったからだ。



 もちろん、物語との相乗効果・・・・・・・だとは思うけど。

















「工藤・・・・久々やし、ここで・・・・・やろ?」

「お前は逢うたびに、それだな」

「しゃぁないやん。ガッコも住むトコも違うんやし・・・・・・滅多に、逢われへんもん」

















 大阪の大学の平次と東京の新一。

 月に1度、逢えれば良い方だ。



 こうやって木曜の夜来たと言うことは、明日の授業は無しかサボりか。

 まあ、日曜まで居座る気だろう。



















「・・・・・・・いいぜ。やるか」









 その微笑みは相変わらずの威力をもって平次に突き刺さる。

 何度見せられても、それは慣れることはない。



 カップをフローリングに置くと、新一は後は黙って両手を上げる。

 そのまま呆けて自分を見ている顔を引き寄せ、目を閉じた。











 ・・・・・・・暫く感触を楽しみ、ゆっくり離れる。



























「電気、消すで」











 テーブルライトに触れ、僅かな明かりを灯す。

 次にリモコンで部屋の電気も消した。







 最小限の光の下の新一が、いっそう艶めかしく視界に入る。

 すっとシャツの裾に手を伸ばし、耳元に息を吹きかけた。





 ・・・・ビクリと身体を震わせる。

























「やっぱ、暗い方が気分乗るなあ工藤は」









 甘く低く平次が囁く。

 手際よく外されていくボタンの感触と重なり、新一は息を上げた。



 そして、僅かながらの憎まれ口を叩く。



















「だ、だからって・・・・テレビ見てる時に・・っ・・・・・・電気、消すことねえだろが」

「・・・・・・・何のことや?」























 動きが止まった。

















「な、何って・・・・・・俺がさっきドラマ見てた時、お前・・・・・・電気、消して入って来たんだろ?」

「俺がこん部屋入ったとき・・・・・とっくに消えとったで」

「え?」

























 暫し、沈黙が流れる。



























「・・・って事は・・・・・・どういうことだ?」

「まあ・・・・・何も無かったんやし、気にせんでええんちゃうか?」

「そーゆう問題か??」

「そや。ホレ、行くで」

「ちょ、ちょっと服部・・・・・・・・っ・・・・・!」















 平次の手が直接肌に触れる。

 全て脱がすと床が背中に痛いだろうから、平次は最小限の露出だけに止めた。









 ・・・・・・ゆっくりと、刺激を与え始める。



















 確実に艶を含み始めた吐息。

 声を押し殺す新一の此の姿は、平次が好きなものの一つだ。

























 ―――――――・・・・・久々やっちゅーのに、訳解らん現象なんぞに邪魔されてたまるかい。































 そう。

 1ヶ月ぶりの、ナマ新一。



 ・・・・例え心霊現象だろうが何だろうが、今の平次にはこの『新一との時間』を遮ろうとするものは、全て単なる『邪魔者』に過ぎない。























 どうせやったら、幽霊にも見せつけたろやないか・・・・・・・・





















 そんなアホウな考えまで浮かんでしまう始末。

 しかし、いざ中心へ・・・・・・と、右手を進ませたその時だった。 



























「!」

「・・・へ?」



























 目が一瞬、眩んだ。



 ・・・・なんと部屋の明かりが付いたのだ。



















 これには、平次も驚いてしまった。





























「――――――・・・・・な、何だよコレ・・・」











 新一の熱が一気に引き、代わりに何故か動機が起こる。 

 声は努めて冷静に出しているが、身体が小刻みに震えているのを平次は確かに感じ取った。























「!」













 そして、また消える。

 再び訪れた闇に、新一は思わず平次に抱きついてしまった。















「工藤・・・・・怖いん?」

「・・・ちょ、ちょっと驚いただけだ!」





















 慌ててその身体を、新一は押し返す。











 不覚。

 全くもって、不覚。



 ・・・・・・無意識に、しがみついてしまった。



























 あああああ! 俺としたことが!



 何で、コイツに飛びついちまったんだ!?



























 でも、しょうがない。

 電気が消えたり付いたり、何でだ? どうして!?





 驚くのは無理ないっつーの!























 自分の行動を正当化し新一は気を取り直す。

 気がつけば、目の前の男はニヤニヤしながら、自分を見ている。





 ・・・・・何だか、すっごく体温が上がって来てしまった。

















「何か、言いたそうだな」

「べっつに~?」

「ムカツク。もう触らせてやらねえ」

「おいおい・・・・・・・お前かて1ヶ月ぶりなんやから、引っ込みつかんはずやろ」

「な・・・! ・・・っ・・・あ・・・」























 その通りだった。







 逢えないひと月は、人には長すぎるのだ。

 自己処理には限度があったし、浮気なんて考えてもいない。



 だから、途中まで上げられた熱は――――――・・・簡単には下がるはずもなく。

 頭が冷静に戻ったとしても、身体は燻ったままだった。

















 ・・・・・・・・胸の突起を軽く摘まれただけで、新一はつい声を上げてしまうくらいに。























 アカン・・・むちゃむちゃ可愛ええ・・・・堪忍な、工藤。





























 頬に、口唇に、腕に腹に。

 はだけさせた箇所、あますとこなく平次が触れる。





 何度見ても。体験しても。

 飽きることのない新一の表情。













 ・・・・それは今さっきの不可解な現象も相乗効果となって、新一の反応に艶を加えていた。























 つい、触ったリモコンのスイッチで電気が消えたなんて・・・・・・・今更言える訳、無いやん?

































 そう。





 さっき突然電気が付いたトリックは、種をあかすとコレだったのだ。

 平次の足の指が、ふとリモコンのスイッチを押してしまった。









 それで、消えた。

























 ・・・・・あんまりにも新一が驚くから。

 その姿が、あまりにも可愛いかったから。

















 無防備に腕の中に収まってくる身体が、震えていたから。

 だから、つい平次は黙っていたのだ。

























「痛っ・・・・バカお前、急ぎすぎだ・・・・・・・っ・・」

「せやかて工藤、めっちゃ締め付け・・・・っ・・もう・・・・」

「―――――・・・っ!!」



























 静まり返った、空間の中。





 ・・・・・・・それぞれの想いを胸に、ひとつの波が終わり、まどろむ。

























「・・・やっぱ痛って・・・・・・・二度と床ではゴメンだぞ!」

「工藤、痩せとるからなあ」

「つべこべ言ってねえで、さっさと抜きやがれ」













 途端に憎たらしい口を叩くのは、照れ隠し。

 その証拠に、まだ余韻がある為か・・・・・・眉は寄せられ、触れる指先は僅かに震えている。























「・・・・・・まあまあ」











 含み笑いの平次。

 味ありげに耳元に囁くと、また足下のリモコンをそっと押した。

















 再び驚いた新一が、身を竦ませる。

 しかし。





 満足そうに平次が笑ったとき―――――・・・・・・

 自分の足にもあたったリモコンで、新一は事の全てを理解した。

























「何か妙な音がしたと思ったぜ・・・・・・・」

「あ・・・あら? ど~してこんな所にリモコンが?」

「・・・・・・こんのエセ幽霊め――――――っっっっ!!!」

「すまん! すまんて工藤~!!」



























 でも。



 ・・・・・・・もちろん新一は、本気で怒っちゃいない。

























 これも、単なる照れ隠しのひとつ。

 なんたって・・・・まだ、ふたりはひとつ、なのだから。























ひとくぎり































 何だかんだ言っても、離れられない。

 触れ合うだけで安心できる存在。



















 ・・・・・・・・・それは、確かにここに在る。



























 それにしても、不思議な現象。



























 ・・・・・言うとくけど、最初に電気を消したんは、ホンマに俺や無いんやで?





























Fin