地球上の総人口が、60億を超えた。




出逢いの確率






「すっげーよな・・・・そう考えるとさ」









 新一が新聞を閉じて、ソファを立つ。

 掛けていた眼鏡も外し、キッチンへと歩き出した。









「何がや?」











 向かいのソファに寝そべる平次。

 バイク雑誌を眺めながら、顔を向けずに問い返す。



 主語を付けない新一の語りだし。

 ・・・いつもの事である。



























「俺とお前が、出逢った確率」

「は?」











 こぽこぽと音を立て香るのは珈琲のにおい。



 カフェオレの新一と、ブラックの平次。

 マグカップで「ほい」と手渡す。





 これまた意味不明な事を言い出した新一。

 何も言わず、平次は次の言葉を待った。









「こうしてる間にもさ、何処かで人は生まれて死んでる。バランスが取れてるようで、でも絶対的に人口は増え続けてる」

「・・・せやなあ。地震や天災で減っとる様に見えても、それはホンの一部や。日本が子供の数減ってきとる言うても、まだまだ他の国は増えとるし・・・・・って、それが何やねん?」









 つい、真面目に返してしまった平次。

 手元の珈琲を飲みながら新一を覗き見る。



 すると向かい側の新一。

 猫舌だからまだ飲めず、両手でカップを支えたまま呟く。









「だから・・・60億なんだぜ? その中で、日本人として生まれて・・・・同じ西暦に生まれて。俺がコナンになっちまったのも、お前が東京に来てくれたのも・・・考えて見れば、凄い確率な訳だろ?」









 夕暮れ。

 西日で染まるリビング。







 紅く色づく、新一の横顔――――――・・・















 平次は、その雰囲気につい見惚れる。















「・・・なに」

「え、あ・・・・いや」













 時々、新一はすごい事をさらっと言う。















 気付いているのか、いないのか。

 ・・・それともワザとなのか。







 その表情は、一瞬にして光に消される。











 ようやくカップに口を付ける。



 平次にとっては温い珈琲なんて信じられないが、

 新一には丁度良いらしい。



 そして飲み終わった後。

 必ず渇く口唇を、自らの舌で舐めるのだ。









「―――――でさ。」

「へっ?」

「・・・はっとりー・・・・・大丈夫か?顔・・・赤いぞ」











 2人の間にある小さなテーブル。

 それを乗り越え、新一は平次を覗き込む。









 上目遣い。



 ・・・肘を付いて覗き込む、完璧な角度。

















「俺の話、聴いてるか?」















 上がる口元。

 計算された視線が平次を捕らえ・・・指に触れる。

















 もう動けない。



 その雰囲気は、平次にとっての強力な引力だ。















「そ、そうやな――――・・・確かに凄いわ」

「そーだぜ? お前が俺を捜しに来てくんなかったら・・・一生出逢わないまま、終わってたかもしれねーし」

「・・・ああ」

「そして・・・こんな気持ちも知らずにいたんだ」













 ふと。

 ・・・新一の雰囲気が変わった。

 

 誘うような表情が消え、縋るような寂しさが現れる。









 瞬間、2人の間に流れる空気が凪ぎ・・・ただ一箇所の接触を生んだ。















「・・・キスして欲しいんやったら・・素直に言ったらどうや」

「それじゃつまんねーだろ?」





















 微笑う小悪魔の表情。

 平次が勝てない、ただひとりの存在。



 触れていた指先が肌を伝い頬に辿り着く。



























 ・・・長めの口付け。







 それは甘い・・・・・珈琲の味がした。






























ひとくぎり



































 現在、地球総人口は60億人を突破。

 その、ほんの僅かな確率。























 ―――――・・人が一生の内に関わり合う人は、その中のいくらでも無い。





























 貴重な出逢い。



 大切な、人。



























 出逢いの、確率。





















 ・・・それは、偶然が生む最高の奇跡。























Fin