それは、まるで幻を見ている感覚。



























 ・・・・・・雪の中に解けていくような。



 宇宙に、昇っていくような――――――・・・・



























 不思議な、感覚。






宇宙の幻







「・・・・・・お前と出くわすと、いっつも事件や」

「それはこっちのセリフ」

















 北海道のとある街。

 12月の半ばともなると、東京や大阪と違いここはとっくに雪景色。







 東の名探偵と西の名探偵が、出逢う先々。

 まるで2人が引き寄せるかの如く事件はあっちからやってくる。

















 ・・・・・それは、今回も。



























「今日はあのねーちゃんと一緒やないんか」

「お前こそ。あの幼なじみがいないみたいじゃねーか」



















 事件は難なく解決。

 あとは道警に任せ、新一はスキー場と隣り合わせの宿泊ホテルに戻ってきた。



 大学の仲間とのスキー旅行。

 1人で滑り降りている時、ロッジに妙に人が集まっていたから妙な胸騒ぎがした。





 その群衆に、平次を発見したのである。





















 ――――――今思えば・・・あの胸騒ぎはこの男のせいかもしれない。































「そんないっつも一緒にいねえよ」

「俺かてそうや。今日はオカンの用事のついでに、ちょいと滑りに来ただけやし・・・」



























 そう。



 そして、事件に遭った。

















 ・・・・・・・そして、もしかしたら新一がいるのではないかと思ったのだ。





























 数年前、出逢ってから。

 『東と西の探偵会うところ事件有り』なのだから。



















「工藤ここ泊まるんか。俺も一緒に泊まろかな」

「・・・・・床に寝るのか?」

「冷たいやっちゃな~・・・・一緒の布団入らせてーな」

「この狭いシングルにお前と寝られるか」















 平次は泊まる予定ではなかった。

 車で一時間程走った所の、母親の知人の家に世話になる予定だったのだ。



 しかし目の前にいるのは工藤新一。



















 ・・・・・・・今日はずっと、話していたい気分だった。



























 買ってきた缶珈琲を手で包む。

 新一は努めて冷静に声を出し、ゆっくりそれを口に含んだ。







 ・・・・鼓動が激しくなっている。

























 ―――――・・・・・新一は、ついこの前平次が好きだと自覚したばかりだった。



























「工藤はいつまでここおるんや」

「・・・・明日の飛行機で帰る予定だけど」

「せやったら一緒に居ってもええか? 俺も、明日の飛行機やねん」

「良いと思うけど―――――――――・・・・・・ちょっと待ってろ、あいつらに聞いてくる」

「頼むわ」













 明るい笑顔で平次は新一を見る。

 思わず赤くなりそうな自分を押さえながら、新一は部屋を出た。




























ひとくぎり































「こんなトコで工藤に逢うなんて運命や・・・・」













 缶珈琲を飲みながら平次は独りごちる。





 用事も終わったし、今日はちょっと滑って行こうかと立ち寄った近くのスキー場。

 まさかそこで事件に遭遇してしまうとは。

















 ・・・・・群がってくる人波の中に、想ってやまない人物を見つけてしまうとは。































 相変わらず綺麗な顔立ち。

 ・・・胸を掻きむしられる、声。





 雪の中の新一は、いつもと違う雰囲気を平次に与えていた。

























「やばいで・・・・今回は心の準備してへんから、その分ごっつ嬉しいわ」





















 手で押さえても緩む口元。

 ばしばし頬を叩いて、どうにか表情を戻そうとする。





 ・・・・・・・新一の前で、こんな顔をする訳にはいかない。





















 想いを自覚したのは、つい最近。

 普通の仲間。普通の友達。

















 でも、言う訳にはいかない。

 悟られる訳にはいかない。





 男が男に恋をするなんて。

 いつの間にか『友情』が『恋愛感情』を伴っていたなんて。





















 あいつに知られたら・・・・





















 二度と――――――――・・・・・・・一緒には、いられない。
































ひとくぎり



























 残りの珈琲を飲みきったその時、新一が帰ってきた。

















「別にいいってさ」

「おおきに。後で挨拶しに行かしてな―――――・・・・・あ、工藤」

「うん?」











 平次が新一を手招きして呼ぶ。

 窓の外から、雪がちらついていた。











「あー・・・・・また降ってた。どうりで寒い訳だ」

「工藤、宇宙に昇らせたろか?」

「は?」

「俺、フロントでシングルの予約もせなアカンし・・・・・ちょうどええ、外行こ」













 新一を引っ張り、コートを羽織り部屋を出ていく。

 運良く空いていた部屋を取ったあと外に出た。























 天気は良い。









 ・・・・群青色の宇宙から、白い雪がふわふわ舞い落ちてくる。





















「寒いな・・・・・何だよ?」

「こっちや」













 駐車場の、誰も足を踏み入れていない場所。

 そこで平次が上を見上げた。















「服部・・・?」

「こーやって空を見とるとなー・・・・・昇ってく気いになんねん」

「昇る?」

「ええから、やってみ」

「・・・・・・?」

















 落ちてくる雪。





 ・・・・顔にあたって、冷たい感触を残し消えて行く。

















 風が凍てつく程に寒い。

 最初新一は、何でこんな事・・・・と思っていたが、ふと、その意味が解った。

































「うわ・・・・・・・・・・」























 それは、まさに『宇宙に昇る』感覚だった。











 確かに雪は、空から降って来ていて、自分は地上にいて見上げているだけ。

 なのに・・・・・・













 まるで自分が、宇宙に向かって昇っていっている状態に思える。



























 雪は、まるで宇宙の惑星。

 自分が宇宙船に成ったかの如く、その間をすり抜けていく・・・・・









 思わず、新一はよろけた。























「どや? ええ感じやろ」

「へえ・・・・・・・何か、すっげー感動」

「俺もな、最初見たとき鳥肌たったわ」

















 新一は子供のように無邪気に驚く。

 その様が、異常なまでに可愛く平次の目に映った。















 ・・・・・・再び激しくなる鼓動を押さえる。



























「そろそろ戻ろか」

「俺・・・・もうちょっとここいる」

「へ?」











 一度はまったらはまりっぱなしの典型的B型の新一。

 ぽーっとした表情のまま返事をした。

























 そんな新一の横顔と雪景色。



 それが、黒とも言えない蒼とも言えない色の宇宙が溶け合って絵画の様だった。

























「先帰ってていいぞ」

「いんや・・・俺も、もーちょいここで見てるわ」

「そーか?」













 あいも変わらず新一の視線は上に向いたまま。

 そして、平次はずっとそんな新一に向いたままだった。





















 ―――――・・・・・・もうちょっと見ていたいのは工藤新一。



 見るくらいは、許してもらおう。

















 この視線に気付かれたら、どう言い訳するかって?

























 ・・・もちろん。





 『工藤の向こうの宇宙を、見てただけや』と言うに決まっている。

























 そして、その視線に気付かない新一ではなかった。









 でも。



 ・・・・その視線の先は、自分を越えた宇宙に向いているのだろうと。

 そうに違いないと、考えつく。



















 こんな事を考えているなんて気付かせる訳にはいかない。

 だから、何も言わない。



 以前の自分なら、『なーに見てんだ。気色悪いな』ぐらい言えたのに。



























 ・・・・・・・何も、言えなかった。


























ひとくぎり



























 ・・・・どんなに寒くても。









 寒さが、身体を刺そうとも。





























 そこにお前がいるだけで・・・・何だか暖かい。































 黙っていようと決めた。

 このままの関係を、壊したくない。

























 ――――――――・・・・・・・俺たちが、俺たちでいる為に。





















「あ、流れ星」

「ホンマ?」





















 今年はミレニアム・イヴ。

 あと僅かな、千年紀時代。



 そして・・・・





















 千年紀最後のクリスマス・イヴも、もうすぐ―――――――――――・・・・・・・・





























・・・・・・何かが起こりそうな予感がする。




















Fin