ミレニアム☆イヴ☆クリスマス





「服部、コレも」

「ええ加減にせえや・・・・俺を破産さす気か?」





















 街中に鳴り響く、心躍る音色。





















「何だよ。バイト料入ったから、何でも買ってやるって言ってたのは嘘か?」

「アホ! 限度があるっちゅーねん!」





















 今日は、クリスマス・イヴ。

 千年代最後のこの日は・・・・金曜の夜。



 世界中の恋人達が、互いの温もりを確かめあうであろう、記念すべき日。





















「じゃあ、そう言えってんだ」

「あのなあ・・・常識でモノを考えられんのか? たかだか大学生のバイト料やで? 
んな時計やら靴やら、買えるかアホ!」

「あ~もう、うるさい・・・・駄目なら良いよ別に・・・
他に買ってくれるヤツなら、いっぱい居るし―――・・・お前じゃなくてもさ」

「何やと!?」

















 すたすたと。

 マフラーを押さえながら、新一が先を歩く。



 つい2・3日までは、そんなでも無かった気温。

 だが、本格的に昨日から下がりだし・・・・今は凍てつく程に寒い。









 そして、今日一日おねだりされた新一ご希望商品が、
平次の両手を塞いでいる。





















「・・・ん?」



















 ふと、新一の歩みが止まった。

 ショーウインドウの前で、じっと何かを見つめている。



 近づき覗き見た平次。

 ・・・・そして、納得したかのように微笑(わら)った。





















「欲しいんか、コレ」

「え?・・・別に、見てただけ。俺、この色系、好きだし」

















 鮮やかなブルーのスーツ。

 よく見ると、そこは新一が好んでいるブランドショップだった。

















「――――・・・早く帰ろうぜ。寒いし」

「ええんか?」

「だから、見てただけって言ってんだろ?」





















 そう言うと、またもや先に歩き出す新一。





















 人通りの多い中。

 持ち前のフットワークで、するりと波をすり抜けていく。























 平次は、追う。



 追って、追いつき・・・・その腕を掴んで引き寄せた。

























「――――・・・・服部」

「お見通しやっちゅーねん。せっかくやから、引っかかったるわ」

「な、何のことだよ」

「・・・あんなあ・・・・・・
お前の事や。もの欲しそーにしとったら、買うてくれると思っとんのやろ?
 バレバレや」

「・・・あっちゃー・・・・・」



















 ちぇ、と舌をだす新一。

 どうやら、本当にそのつもりだったらしい。













 新一は、平次が自分に惚れている事を知っているから。

 自分の言うことなら、ある程度我が儘を聞いてくれるのを、解っているから。





 だから、仕掛けてみたのだ。

















「あれくらい、お前が買えへんわけ無いやろ。
まったく・・・・・人ん心試す様なマネ、止めてくれんか?」

「――――・・バーカ・・・・やっぱ解ってねーなあ、服部」

「なぬ?」























ふわりと。



・・・・艶やかに、新一は平次を覗き込む。























「自分で買ったって、意味ねーの。お前に買ってもらうから・・・嬉しいんだぜ?」



























 その、上目遣い。

 何度も何度も。それこそ文字通り、何度も。



 ・・・幾度経験しても慣れない、誘いの角度。























 『工藤新一』の、強力な武器。



























「こーの・・・小悪魔が」

「わり。でも、こんな俺が好きなんだろ?」

「―――・・・ホンマに謎やで。
こんな自分勝手なヤツに、何で惚れてもうたんかなぁ・・・」































 溜息を漏らしても、それは甘く。

 街中だから、小声だけれど。









 多分、いま思っていることは――――・・・同じ事。





























「――――・・・はよ、帰ろ」

「もう9時か」







































 帰ろう。



 今日と明日は、新一は平次の部屋で眠る日だ。

 それが意味するものは―――――・・・・































「服部、その前にケーキも買って」

「ホンマに我が儘なやっちゃなー・・・・・生とバタークリーム、どっちや」

「生に決まってんじゃねーか」

「へいへい・・・」

























 ポケットから財布を取りだし、近くの店に入る。

 そうしてご希望の品を買って、それも平次に持たせ、家路を辿った。























 ・・・もちろん、さっきのスーツも。



 クリスマスプレゼント仕様で――――・・・新一の手元に在る。




























ひとくぎり



























「寒い。服部、もっとこっち・・・」

「服着て食えば、ええんやないか?」

















 平次の腕の中。

 何とかケーキを食べようと、奮闘中の新一。






















「どーせまた脱ぐのに、めんどーくせえ・・・うん、旨い」

「そらそーやけど・・・あ、俺にも食わせろや」















 ソファの脇。

 ベットにも行かず、此処で雪崩れ込んだ2人。



 エアコンが効いているとはいえ、全裸はやはり冷える。















 大きなベットカバーを被っている平次。

 その平次の腕の中で、新一は今、ケーキを食べている。



 かけらをフォークに差し、平次の口元に運ぶ。























「・・・イケるやん」

「だろ?」

「―――・・・工藤、クリーム・・・・」

「え?」























 新一の口唇。

 それにちょこんと付いていた、生クリーム。



 それを、平次は自らの口唇で舐めとる。

























「・・・いいって・・・・・まだ食うし・・・」

「せやかて・・・・なんや、ごっつイヤラシイんやもん・・・
工藤の――――・・・・」

「・・・・俺、の・・・?」





























 その後は、何も言わず。



 新一の手元から、ケーキ皿を取り――――・・・ゆっくり、もう一度。





























「――――・・・っ・・・・ん・・」

「駄目や、もう復活してもうたわ―――・・・ええよな」





























 返事の出来ない新一。

 代わりに瞳を閉じ・・・腕を背中に廻す事で応える。





























 ――――――・・やっぱ、ヤラシイで・・・・・





 ・・・・工藤の、雰囲気は・・・・―――――・・・・・・





























 新一と逢っている時は、すぐ家に帰りたい衝動に駆られる。























 別に、身体だけが目的では無い。



 でも・・・・普通の恋人同士の様に・・・人前で触れることが、出来ないから。



















 だから、こうして誰の目も気にする事ない場所。



 そこに・・・早く行きたくなる。























 好きだから、いつでも触れていたい。



 ・・・誰かとくっつくのが楽しい、冬だからこそ――――・・・・・





















 その時、部屋の置き時計が24時を告げた。



























「クリスマスだ・・・・」

「―――・・・千年代、最後のクリスマスやな・・」

「はは・・・すげー時代に生まれて来たな、俺たち・・・・っ・・・」

「・・・寒いんか?」























 新一が瞬間ふるえるのを、平次が感じる。

 冷気が何処からか、入り込んで来たのかも知れない。



 その体温を確かめるように、抱き締める。



















「へ、平気だっつの!・・・過保護だぞお前」

「ええやん。こーゆう時くらいしか、工藤甘えてくれへんし・・・」

「―――・・・ったりめーだ・・・ぁ・・・」















 素肌に降る、平次の生暖かい感触。

 敏感に、何度目だろうと・・・・新一は新鮮な反応を返す。

























 ――――・・・「東の名探偵」のこんな姿を知っとんのは――――・・・・







 俺だけやろな? 工藤・・・・



























「・・・あったりめーだって言ってんだろ・・・・・」

「へ?」



























 何に対しての返事なのか、平次は驚く。

 だが、新一にはそんな表情からさえ・・・お見通しであった。

























「・・・・俺に触れる事を許したのは、お前だけだ」



























その、まさに王者の風格。





支配者の、眼差し。

























「抱かれる」立場にあっても。

「抱く」平次と、必ず同等な―――・・・もしくはそれ以上の立場に居る新一。



















 それが、「工藤新一」たる
所以(ゆえん)――――・・・



























「そらー・・・・光栄やな」

「解ればいーんだよ」

「ほんなら・・・ちょいと腹ごなしと行かしてもらおか」

「・・待てって・・・そろそろ、あっち行こうぜ」















 新一が指し示すのは、平次の自室。

 つまり、ベッドである。



















「抱えてったろか?」

「・・・・・・何言ってやがる」

















 すたすたと、全裸のまま歩き出す。

 形のいいシルエットが、人工的な明かりの中から
闇へと消えてゆく。









 ・・・部屋の電気は、付けない。





































「・・・・・工藤」

「解ってんだろ―――――・・・最初は・・・・」

「キス、やろ。なんべん言わすんや」

「うん・・・・な、服部」

「ん?」

















 ふわり。



















 ・・・・感触で、頬に新一の手が触れるのを感じ取る。





 そして・・・・



























「来年も、よろしくな――――・・・・」



















 ちゅ。











 そんな効果音が聴こえてきそうな、可愛いキスが。

 平次の口唇に舞い降りた。





















「くくくく・・・く、くどう??」

「俺、明後日からさぁ・・・・ロスなんだ。正月明けまで」

「はあ!??」

「だから―――・・・俺を淋しくさせねーように、しっかり抱きやがれ」















 多分、もの凄い照れ隠し。

 暗闇に乗じての、新一の行動と、言葉――――・・・











 それでも、平次には手に取るように・・・・その様子が目に浮かんだ。






















「・・・よっしゃ。覚悟しとけや」





















 新一は、もう何も言わない。

 後は大人しく・・・・流に身を任せるだけ。























 クリスマスの夜。









 それは、まだ始まったばかりだ―――――――・・・































ひとくぎり

































 クリスマスの前が、クリスマス・イヴ。

 新年の前が、ニューイヤー・イヴ。







 そして――――・・・

























2000年の記念すべき年代の前の、今年。






それが、ミレニアム・イヴ。

















Fin