A Happy greeting kiss







「冷めんの、早えー・・・・」



















 自室。机の上の、暖珈琲。

 机上ライトだけを付けて、昨日届いたばかりの海外の小説の新作を読んでいた、新一。



 ちょっと夢中になっていた間に、もう冷珈琲になっている。

 仕方なく、冷たいそれをぐいと飲んだ。









 今日は12月31日。

 千年代、最後の日。







 ブラウン管の中では色々な番組が行われているだろうが、新一はそういうのには、てんで興味が無い。

 だから、後少しで2000年に突入するというこの時にも、いつも通りの時間を過ごしていた。









 刻は、23時45分。

 カウントダウン目前である。



























「・・・・そろそろ来るな」























 そう呟いて本を閉じた時、インターホンが鳴り響いた。

 と同時に、携帯も鳴る。



 液晶表示も見ずとも解る相手。

 新一は「開いてるぜ」と応えると、足音が階段を昇ってきて、部屋の扉を開けた。











「遅かったな」

「聞いてくれや!も~めっちゃ道路混んどんねん!!」

「・・・・ま、そんなこったろーと思ったけど」











 てっきり怒られると思っていた平次。

 顔を上げた先に見えた新一の表情が、思いの外穏やかだから、驚く。






「今日どこのニュースでも言ってたぜ。この時間帯は、みんな同じ事考えているから、混むって」















 そう。

 今年のこの瞬間は、特別なもの。



 千年紀と、二千年紀を跨ぐ、記念の瞬間なのだ。

 その刻を、一緒に過ごそうとする恋人同士が多いのも当然だろう。





 初日の出を見ようと、海へ向かう人々が多いのも、

 容易に想像がつく事態なのだ。

















「でも、間に合ったじゃねーか」

「へ? せやかて、これから海行こう思ってたやろ?そこで新年迎えよーて・・・工藤が言い出したんやで?」













 約束の時間は23時00分。

 新一を迎えに来て、それからお台場まで出かけようとしていたのだ。



 何やら今年は、フジテレビの方に神社が出来ているから

 そこに行ってみたいと。







 しかし、現在時刻は既に55分。

 「どこでもドア」でも無ければ、間に合うはずがない。



 ・・・何が、「間に合った」んだろうか?



















「・・・・なーんか。お台場の状況さっきテレビでやっててさ。あまりの混雑ぶりに・・・行く気、失せちまった」

「何!?・・・・それならそーと、電話くらい寄こせっちゅーんじゃ!こないに急いで来る必要、なかったやんか!」



















 平次はガックリ肩を落とす。

 渋滞の道路をやっと抜け、それはそれは急いできたのだ。



 ぎろりと、新一を睨む。

















「んー。お前のその目、ぞくぞくする・・・・・」

「は?」

「服部のそーゆー顔、見たかったんだよなぁ・・・・」

「わっけ解らんわ・・・」



















 微笑う新一。

 もう怒る気力も失せ、平次はベッドに腰を下ろす。



 そして、よくよく新一を見ると・・・・出かけようとしていた筈なのに、

 その姿は寝間着の上に、毛糸の赤い部屋着を着ている事に気付く。



 つまり、これから出かけようとする意志はゼロという事だ。



















「工藤・・・・・お前、ハナから行く気ぃ無かったんか」

「わざわざ混んでる時間帯に、行きたい訳ねーだろ?」



















 ベッドに腰掛けている平次の足の間に入って、新一はその手を肩に置く。

 そして身を屈め・・・・・・・口唇を、平次のそれに近づけた。





























「・・・千年紀と二千年紀――――――――・・・・キスでまたごうぜ」





































 そう囁くと同時に、新一は平次に覆い被さる。

 さして驚きを見せなかった平次が目を閉じた時、時計のアラームが24時を告げた。





 ゆっくり感触を楽しんだ後、新一が名残惜しげに口唇を離す。





























「・・・・ん・・っ・・・」





























 明かりは僅かな机上ライトだけ。

 月明かりも、すこし覗いて。





























 静寂。



 ・・・車の通り過ぎる音も何も聞こえない。



































 だから、ほんの少し響いたのは――――・・・・キスの音だけだった。









































「・・・ハッピーニューイヤー・・・・・服部」

「謹賀新年、工藤。」

























 平次の表情は、逆光であまり見えない。

 でも、新一の表情は鮮やかに映し出される。



 両手に感じている、新一の腰の感触。

 それに未練を残しつつ・・・・平次は手をその頬に移動した。























「・・・なかなかの、もんやな」

「だろ?こんな事・・・・・お台場じゃ出来ねーぜ」

「そらそうやろ」





















 新一の上目遣いはいつものことだが。

 ・・・こんな風に、新一が平次を見下ろす姿というのは・・・・・珍しい。













 ふわふわと揺れる前髪。

 平次を見るときの、伏せ目の角度。



 また違った印象になって、平次の網膜に焼き付く。



























「どうした・・・?」

「お前、ホンマに綺麗な顔しとんなぁ」

「・・・今更」

「否定せんトコがまた、お前らしいっちゅーか・・・・」



















 そうして、くいと襟元を掴みその口唇を掠め盗る。

 次の瞬間、腰を引き寄せベッドに押し倒した。























「ほんじゃー、新年1発目と行こか」

「・・・・初日の出は見たいから、程々にしてくれよ」

「俺も見たいし。まかせとき」

















 にやりと満面の笑みを浮かべる平次。



 ・・・そんな事を言ったって新一の方が止めたがらない様にするだけ。

 そういう方法なぞ、平次はもう知り尽くしている。





















「なんだよ・・・・」

「いーんや。ほな、新年あけましていただきます」

「ひゃっ・・・冷て・・・・」



















 まずは、目に付いた鎖骨に舌を這わせる。

 続いてはだけさせた胸元に口唇を降りて行かせた。



 まだ上着を着たままの平次。

 それの金具が肌に触れ、新一が竦む。



















「・・・っってめえ、ソレ、さっさと脱げ!」

「ん? 感じるんか?ほんなら、まだ着とこ~っと」

「調子に乗んじゃねぇっ!」







































 ミレニアムの、幕開け。

















 ・・・・世紀が変わっても、2人は変わらない。









































Fin