『・・・・・・スマン。そっち行かれへん』

「そうなのか?」













 服部平次と工藤新一。

 『東と西の名探偵』と呼ばれる2人は、その名の通り東と西に別れて暮らしている。



 奇異な出逢いから始まった2人の関係。















 ・・・・・それは、2人だけの『秘密』な関係。























『理由、聞かへんのか』

「・・・別にいい」

『なんや。そんなもんか』

「だって来られないんだろ?」













 声が、止まる。



 いつもの事だ。

 ・・・そう、いつもの。













 なんで工藤は、そないアッサリしとるんや?

 どないな顔して・・・・言うとるんや?



















 ―――――・・・・・お前は俺に、逢いたないんか?































『服部?』

「・・・・ほんなら、また今度な」











 手早く電源を切る。

 平次は、しばらくその携帯を見つめた・・・・










Sakura sakura yoizakura









 高校生の頃。

 はっきり言って、一目惚れだった。



 それが工藤新一。











 ・・・・・・何度か一緒に行動することもあって。

 その度に、押さえられない衝動が沸き起こって。









 叶えられるはずがないと思ってた。

 まさか、応えてくれるとは考えてもいなかった。















 あの時。



 まさか・・・・・・目を閉じるなんて、思ってもいなかったのだ―――――・・・・























『お前、俺が好きなのか?』

『・・・・・そうや』

『ふーん・・・』



















 じっと。

 新一は、平次を見ていた。



 ・・・平次の、瞳を見ていた。

 そして言ったのだ。

















『―――――――・・・・・なら、いい。』

























 平次の部屋だった。





 『大ファンのサッカー選手の試合が大阪である』と。

 ホテル代わりに、服部邸に泊まらせてもらっている日だった。



 確かにこの日の新一は、上機嫌で。

 サインを貰ったんだぜ? と、嬉しそうに平次に見せていたのだ。













 ・・・・・・・・そんな新一が、とてつもなく可愛いと平次は思ってしまった。























 部屋に2人きり。

 新一は、自分のいつも寝ているベッドに腰掛けている。









 そして。



 上目遣いに、話しかけれられて・・・・・

















 ・・・・つい、塞いでしまった。

































 その後に耳に入ってきた信じられない言葉。

 夢かとも思ったから・・・・平次は、再び口唇を押しあてた。
























ひとくぎり























 あれは俺の思い違いか?



 お前も同じ気持ちやと――――・・・・・・そう感じたんは、自惚れか?















 大阪府警の一室。

 父親に頼まれた仕事を片づけながら、平次は軽く息をついた。











「平ちゃん、悪いなあせっかくの休みに」

「いつもの事や。かまへん」

「そや。今夜、署の連中で花見やるさかい、一緒にどや?」









 大滝刑事の誘いを『バイクで来たし飲めへん』と断った平次。

 そういえば桜が今綺麗やったっけと、今朝のニュースを思いだした。













 そして―――――・・・・行動出た。

























ひとくぎり



























 刻はもう22時を廻っていた。

 平次はバイクを降りると、その光景に目を奪われた。

















「は――――――・・・・・・やっぱココん桜は豪快や・・・」

















 立ち並ぶ桜の樹たち。

 それは豪華絢爛に、道を彩る。



 ・・・・・・昼間みる青空の桜も良いが、こうして闇夜に浮かぶ桜は、また格別。















 ここは姫路城。

















 まだ平次が、小学校に入ったばかりの頃。

 母親に連れられ、今の季節に此処に来たことがあった。



 その時の見事な満開ぶり。

 しばらく、ぼやーっと呆けて見ていたのを覚えていた。













 以来、この季節に来ずにはいられない。

























 今日は天気も最高に良い。

 樹々の間から見える煌めきが、なんとも言えなく・・・・・





 ふいに、誰かを思いだした。



























 ―――――――――・・・・・工藤みたいやな。























 夜になって更に印象を増す、魔性の輝き。

























「くどーのアホ・・・・・・」

「何だと・・・・?」

「!?」















 突然のその声に平次は驚いた。

 芝生に寝っころがり、ちょいと目を閉じて気持ちいい風に吹かれて。







 ・・・・つい、ぽろっと愚痴ってしまって。

















 そしたら、聴こえる筈のない声が聞こえたのだから。

 飛び起き声に向く。

















「くくく・・・工藤?? 何でここに居るんや!?」

「・・・・・・お前がここだって聞いたからに決まってんだろーが」

「は? 誰に」

「お前の母さん」















 平次は未だ、ちんぷんかんぷん状態。







 まあ無理もないだろう。

 半日前には新一は確かに、遥か東京の地にいたのだ。





























「・・・・・」

「何でそんな意外そうなツラなんだ」

「せ、せやかて」













 新一はと言えば、まるで大学の帰りにそのまま新幹線に乗った感じで。

 身ひとつと、ちいさなショルダーをたすき掛け。



 そして平次の隣に座り。

 次に、大きく伸びをした。













「疲れた~ 座りっぱなしで腰痛てえ・・・・」

「ホンマに・・・・工藤?」

「なんだよ。てめーが『来れない』っつーから俺が来たんだろうが。携帯は出ねーし、家にいると思って電話したらここ来てるって言うし・・・・・・よけいな事させんな」

















 なんと。



 ・・・・・・新一は平次が来れなくなったのなら、自分が行けばいいと素直に思ったらしいのだ。















 事件が入っての事だろうし。



 そう思ったのに、いきなり電話を切られたから。































「けど。東京よりこっちの桜、やっぱすげーな・・・・・寒気、してきたぜ」











 もともと『花見やらへん?』と平次が誘った今日の予定。

 でも関東は満開まで後一歩という感じだったから、ちょうど良かった。



 姫路城の桜を初めて見た新一が、目を輝かせて群をみる。

 本当に、寒気がするほど豪華な桜並樹。













 ・・・・・・平次は、たまらず新一を抱き締めた。





























「オラ。苦しい」

「・・・・ホンマに工藤や」















 口唇に、平次の髪の毛が触る。















 ふわふわと。

 太陽のにおいが、する。

























「服部・・・・・・・・」





























 目を閉じ、新一も久しぶりのその感触を味わう。







 すこし苦しいけれど。

 ・・・それは、気持ちのいい感覚だ。























「くどー・・・」

「ん?」

「・・・やっぱ俺、お前だけや」













 音にならない声で呟かれる言葉。

 ダイレクトに届く、その言葉・・・



















「当然だっつの」













 返す言葉も、小さく。

 ほんの少しだけ・・・・新一は腕に力を込めた。









































 ・・・・・・・・逢えない分だけ、想いは確実に募るもの。























 やがて重なったふたつの影。

 凪いでいた風が、一瞬通り過ぎ・・・・・






























 ・・・・・・・・・桜色の花びらが、雨の様に2人に舞い降りた。





























ひとくぎり






















「・・・・・もうこんな時間やで」

「さすがに疲れたな・・・」















 服部邸。

 姫路城で桜を見た後、平次のバイクで2人は帰ってきた。



 2人での長距離はキツかったが、もう電車も終わった時間だったからしょうがない。













 既に夜中の3時。

 もちろん両親はとっくに寝ているから、そっと鍵を開ける。



 静かに渡り廊下を歩き平次の部屋へ入った。















「は―――――・・・・疲れた」

「なんか飲むか? アルコール入った方が寝付きええで」

「いい・・・・・このまま寝る」











 電車で数時間。

 その後も、バイクで長時間。



 すっかり疲れ切った新一は目の前にベッドを確認すると、それに吸い寄せられるる様に倒れ込んだ。



















「おえ工藤、服脱ぎや。コレ着い」

「・・・?」

「そんまま寝てもうたら、余計疲れるで」









 頭の上に、ひょいと投げられた布。

 新一は起きあがり、それを広げてみた。



 ・・・すると。



















「浴衣・・・?」

「うちは、コレが主流やねん」













 そう、浴衣だった。




 旅館や夏の風物詩としては、見慣れたものだった浴衣。

 だが今は、まだ桜の季節。







 ・・・しかし。


 この純和風な日本家屋な服部邸では、見事にハマっている。









 目の前で着替え始めた平次。

 出来上がったスタイルは――――・・・やけに着慣れているらしい、浴衣姿だった。























「・・・・・・・・」

「何や?」













 障子の向こうの窓から漏れる月明かり。

 形のいい鎖骨が惜しげもなくさらされ、適度な露出を見せている。



 完璧に『そういう格好を着慣れている』姿。

 新一は、瞬間見惚れた。















「ちくしょう・・・」

「は?」

「お前、すげームカツク」













 広い肩幅。

 色素の濃い、肌。







 ・・・・・・自分と同じ「男」の身体。



 けど、違う身体――――――――・・・・・・・
















 コレは、嫌でもそれを強調させてくれるシロモノだ。

























「何か気に障ること言うたか?」

「・・・・・・言ったっつーか・・・そのものっつーか」

「は?」

「何でもねぇよ・・・ったく」













 ワザとなのか。天然なのか。

 それともやっぱり――――・・・・・・計算なのか。























「機嫌悪いやっちゃ。やっぱ酒やな」






















 そうして睨む新一の頭をぽんぽん叩き、平次は部屋を出た。

























ひとくぎり





























「ふう・・・・」













 新一は黙々と着替え始める。

 溜め息を付きつつ浴衣の袖に腕を通すと、きゅっと帯を締めた。







 ・・・目の前に、月が見える。



 新一はそっと障子を全開にすると、その光を全身に浴びた。



























「なーんか――――・・・・うちで見るのと、全然違うよなあ」

















 地球の衛星である、月。


 それは確かに、いつも自分の部屋から見るものと同じもののはず。





 ・・・でも。























「ねみ――――・・・・」





















 やがて、聞き慣れた足音が聴こえてくる。

 だがそれが部屋に入ってきた時、既に新一は穏やかな吐息をたてていた・・・・・





























ひとくぎり




























「・・・・・・こんな時間まで遊び廻って。その上、酒飲む気いか?」

「おわ! 何やねん、まだ起きとったんか」







 冷蔵庫を開けた時に、後ろから声がした。

 平次が気配を感じ取れない相手は、数える程しか覚えがない。





 母親である。















「工藤くん、来てはるんやろ? あんま夜更かししたらアカンで」

「へーへー。多分昼過ぎまで寝とるから、起こすなや」







 ビール缶を2個掴むと、さっさと平次はその場を去る。

 欠伸をしながら戻る母親を確認し、さっさと自室に戻った。



















「くどー。ビールでええや・・・・・」











 ろ? と続けようとして、平次は言葉を止めた。







 なんという光景だろうか。

 ここは、本当に自分の部屋なのだろうか・・・・?



























 開けられた、障子。

 降り注ぐ月の光。















  横たわる、ひとつの身体――――――・・・・・

































「・・・・・・アカン」

















 平次は頭を、ぶんぶん振る。

























 ここは、自分の家だ。

 自室だ。





 鍵なんて、つけられていない部屋だ。















 同じ屋根の下には、両親だって居る。

 決して理性を無くして良い場所ではない・・・・・・・・・・



















 ・・・・けど。





 その時、その最後の理性の糸が切れる状態が起きてしまった。































「ん――――・・・」

























 ――――――――――・・・・・・っっっ!!?

































 うつぶせ状態だった新一が寝返りをうった。

 既に浴衣に着替えていて、更にそれが着慣れないものだったからだろう。













 ・・・・・・・・胸がはだけ、肩から布がずり落ちていたのだ。





 そして、かろうじで腰の帯で止まっている。























 だから。

 形のいい、長い足も――――・・・惜しげもなくさらされていた。

































 月光に映し出された、青白い肌。













 ・・・・・・・自分とは、違う肌。























 平次はビール缶をそっと置く。

 そして吸い寄せられる様に・・・・・・・・その身体に近づいて行った。
















「――――・・・・・・工藤」















最初は、ただ呼びかけだけ。





















「・・・・・工藤」

「ん・・・」

















 そして至近距離に近づき、その耳元に囁く。

 するとピクリと反応をして目を開けた。





















「服部か―――・・・眠いっつってんだろ・・・起こすんじゃねぇ・・・・」



















 本人は睨んでいるつもりらしいが、

 平次には、虚ろな目で誘われている様にしか見えない。

















「っっっ・・・!??」

「スマンなあ――――・・・・俺は目が冴えて、しゃぁないわ」

「ちょ、おい・・・・っ・・・・!」



















 姫路城の樹の下では、さすがに抱き締めるぐらいしか出来なかった。



 まだ夜桜見物の人が多かったし。

 キスだって、したかったけど出来なかった。



















 月明かりの、新一。

 ・・・・窓から庭の桜の樹も見える。













 それが、青白い新一の肌に綺麗な花びらの影を落としていた―――――・・・

























「・・・・しても、ええ?」

「――――っ・・・ってお前・・・・家の人・・・いるんだろ!?」

「おる」

「か・・・・鍵だって、ついてねーだろ?」

「ない」

「・・・・・なら、出来るわけねーだろ!」













 声は小さいながら怒鳴り口調で。

 でも決して、嫌がっている訳ではないのは表情から解る。

















 新一だって・・・・・・『したい』のだ。



















「・・・・・・声、我慢でけへん?」

「そーゆう問題じゃ、なくて――――・・・んっ・・・・・」















 触ってくれと言わんばかりに露出されている肌。

 既に平次は、久しぶりの感触を味わっている。













「見られたら――――・・・言い訳、出来へんて?」

「・・・・っ」













 そりゃそうだろう。

 いくらこの部屋が一番奥にあるとは言え、さっきみたいに突然母親が顔を出さないとも限らない。





 服部家は、昔から部屋に鍵というものがないのだ。





























「・・・・やっぱ、アカンか」





















 撫で回す手を、名残惜しげに止める。











 解ってはいた事だ。

 新一は、こういう状況は本当に駄目だと言うことを。





 したくない訳じゃない。

 だから新一も、ハッキリと拒絶を示せないのだ。













 ・・・・・・だからこそ、平次が止めるしかなかった。































「拷問やで全く・・・ちゃんと、着いや」

「え・・・・あ!」











 平次が離れ、起きあがった新一は自分の姿を知る。

 布は腰の帯ではだけている事に気付き、慌てて直した。





 そんな新一の姿は・・・

 やっぱり可愛い以外の何者でもない。















「日曜までは、居れるんやろ?」

「・・・・まあ」

「確かオカン、土曜は午後から用事有る言うとったから・・・・・・・オヤジはどーせ居らんし」

「・・・・」

















 新一は、平次が何を言わんとしているのか、直ぐに解った。

 だから夜目でも解るほどに顔を赤くする。





 ・・・・・一応、睨みながら。















 平次は持ってきていたビールをひとつ、新一に渡す。

 ぷしゅと開けて一口飲み、息を吐いた。





 そして、ごろんと其処に寝そべり宇宙を見上げる。



















 窓から、夜桜と月のコントラスト。





 ―――――やっぱり誰かに似てると思い・・・・目を細め、それに見惚れた。



























 その時。



 ・・・・・平次の視界が、塞がれた。

































「・・・・・・!?」

「てめえ・・・・んな目で桜、見んじゃねえ」























 ふいにかかった、香りのいい髪の毛。

 口唇に感じた暖かい感触。












 それは直ぐに離され。



 ―――――・・・・・平次は至近距離に、新一の瞳を確認した。























「何や? どないした工藤」

「許さねえ――――・・・俺以外に、そんな視線向けやがって」

「え、ちょ・・・っ」















 新一は平次にのし掛かり再びその口を塞いだ。

 平次はと言うと、ぱちくり目を見開いたまま。





















 ・・・・・・しばらくして口唇は離れる。

 そして頭をその鎖骨に押し当てた。



















 平次は、その頭を撫でる。

 素肌に触れる髪の毛は、やばいくらいに気持ちが良かったけれど・・・・・・・









 それよりも、何よりも。

























 今この新一がとった行動の意味がやっと解ったから。



 それが、とてつもなく嬉しかった。

























 微笑う平次。

 振動がダイレクトに伝わり、新一は不機嫌な声を出す。



















「何笑ってやがる」

「やーもう、嬉しゅーて笑いが止まらんわ」

「あん?」

「・・・・・桜は、お前やぞ?」





















 胸の上の新一の頬を、平次は両手で包む。





















「・・・何、言ってんだ」

「昼間の桜も綺麗やけどな。夜に見る桜は、また違う顔見せるなあ思とったんや。お前みたいに」























 だから見惚れた。









 月明かりの下の桜を、確かに見てはいたけれど。

 それは・・・・思い浮かべていただけなのだ。





















「自分に嫉妬して、どないするん」



















 そう。



 この・・・・『工藤新一』を。























「・・・・寝る」

「あれれ~? 顔真っ赤やで~?」

「うるせえ、どけ!」

「へいへい、けどちょー待て・・・・・・こっち向き」













 平次を押しのけ、ベッドに入ろうとした新一。

 でも腕を掴まれる。





 ・・・・・・じろりと、案の定睨まれた。

















「ちゃうちゃう!! 浴衣や」

「あん?」

「・・・・着方ちゅーもんが有るんやから・・・・ホレ、腕上げとき」

「あ、悪り・・・」

















 新一の、ただ単に帯を結んでいる姿に業を煮やした平次。



 てっきりまた・・・と思ってしまった自分に焦りながら、

 新一は素直に従う。















「うし。オッケ」

「ふーん・・・・上手いもんだな」

「あったりまえやがな。いくつん頃からこーゆーの着とる思とんねん」



















 そう言いながら、腰に手をあてて平次はポーズをとる。

 それが憎らしいくらいサマになっているもんだから、また新一はムカついてきた。



























 ちっくしょ―――――・・・っ・・・



 ・・・・ほんっとにカッコイイな、コイツ。






 






















 それは、声に出せない言葉。

 ずっと思っていた本音。



























 ―――――――・・・・・・最初に出逢った頃から、変わらない想い。












  






















「・・・・・服部」

「ん?」

「そのビール、くれよ」




 
















 少し上目がちに新一は呟く。

 ・・・その手元には、まだ入っているビール缶を持っているのにだ。















 平次は苦笑する。





 とる行動は驚くほど素直なのに。

 どうしてこういう時は・・・・遠回しにねだるのだろう?

















 だから、何も言わず平次は近づく。


 そうして次にひとくちビールを口に含むと、薄く開けられた口唇に注いだ。





























ひとくぎり



























 サクラ、桜。





 宵桜・・・・・・

































「・・・・・ぬるくて不味い」

「はは。せやろな」





























 もうすぐ、夜が明ける。
































Fin