プライド





「わり。遅れた」

「お―――――・・・どわ! くく、工藤??」

「俺、アイスオーレね」















 平日の午後。

 夏休み前の講義のない、暑い昼下がり。



 服部平次と、工藤新一。

 大阪と東京に別れて暮らしている2人は、2ヶ月ぶりの逢瀬を果たした。



















「・・・・何だよ」

「は――・・・・こらまた明るくなったもんやなぁ」

「ああコレ? 今、してきた」

「今!?」















 代官山の、とある喫茶店。

 待ち合わせ時間に少し遅れて来た新一。



 待ちわびた声に、振り向いた姿が・・・

 今までの記憶と違う所があったから、平次は驚いた。



















「変か?」

「・・・・・似合い過ぎて怖いわ」













 その言葉に、艶やかに微笑う新一。











 そう。

 新一は、たった今髪をカラーリングしてきたのだった。

















 元々、白い方な肌の色。

 色素の薄い瞳。



 そして明るい髪の色とのバランスが絶妙で・・・・・

 漆黒の髪とはまた違った印象を受けた。








 平次は、しばし見惚れる。





















「服部。珈琲冷めちまうぜ」

「え」

「・・・・・こんなトコでじっと見るな」

















 適度に混んでいる店内。

 隣の席にも聞こえないくらいの小さな声で、新一は話し掛ける。



 その微かに上気する表情に、また平次の視線が止まる。

 だが頭を振って気を取り直した。















「な、何かあったんか」

「・・・べーつにい」

「―――――・・・・あったんやな」

「単なる気分転換」



















 『気分転換』

 それは、その字のとおり『気分転換』だ。

























 ―――――――――工藤をここまで行動させるなんざ・・・・・



 よっぽど・・・堪える事があったんやな。



























 簡単に自分の問題を話すのは、男のプライドが許さない。


 ・・・・・・・自分もそうだから、よく解ることなのだけれど。































 ――――――話せば・・・楽になることもあるんやけどな。



 ま、今夜にでも聞き出そか・・・・



























 暫くは工藤邸に世話になる平次。

 2人きりになれば、話してくれるかもしれない。



 だからここは無理に聞かずにおくことにした。

























「でさー、どこ行く? 俺、ちょっと服買いてーんだけど」

「まかすわ。土地解らんし」

「今年、日が強いからサングラスも欲しいんだよな~」

「ええやん。俺も買お」















 髪の毛を、指で遊び光に透かす。

 運ばれてきたアイス・カフェオレを飲みながら見えたのは・・・













 ・・・・指の隙間からの、服部。

































 お前がいてくれるから、俺は『俺』でいられる・・・・



























 誰に、嫌われようと。



 全世界を、敵に廻そうと。























 八方美人にはなれない。

 誰にでも、良い顔は出来ない。



















 自分に、嘘はつけない。









































 ――――――・・・・自分は自分の『信念』を貫くだけ。



































「工藤? 何しとんねん、行くで」

「・・・髪が明るくなれば、気分も晴れるかと思ったんだけどな」

「?」























 自分にしか聴こえない声。

 新一は、小さく息をつくと静かに席を立つ。























 そして・・・梅雨の晴れ間の太陽の下へと向かった。





















Fin