風邪の特効薬





「・・・・・腹具合おかしいわ」

「は?」



















 朝。

 涼しい、朝。



 ・・・昨日は思ったより暖かかったから、うすい布団1枚で寝た。



 ところが。















 『きゅう~?』という腹の音で、服部平次は今目を覚ました。
















「ちょ、ちょおトイレ!」

「マジかよ?」

















 一気にベッドを降り、部屋から平次は出てゆく。

 『バカじゃねぇの~』と思いつつ自分を見ると・・・・・・・全体の四分の三の布団が自分に掛かっていた。

























「あれま・・・」













 夜半から気温が下がりだした気がする。

 だから多分、寝ている時に無意識に引っ張ったのだろう。















 ・・・・・新一は、ちょっと罪悪感を覚えた。
































ひとくぎり



























「はー・・・ちょおヤバイかも・・・」















 げっそりとした顔をして平次はトイレから出てきた。

 腹をさすりながらベッドに戻ると、新一が居ない。



 『なんやも~』とぼやきつつ、ちょっとまだだるいから再び横になった。










 ・・・・・今度は布団を独り占めにして丸くなる。





























 顔が熱くなってきた・・・・

 喉も、いがいがする。









 頭痛もするこの症状は――――・・・・

























「ああ、俺アホちゃうやん・・・良かったわ~」

















 『アホウは風邪ひかん』

 なんてベタなことを思ってしまうあたり、もう駄目かもしれないが・・・・・・





 ひとつふたつ咳き込む。

 その時、部屋の扉が開いた。











「腹具合はどうだ?」

「サイアクや・・・」

「熱は?」

「・・・36度6分・・・・・」

「そりゃ平熱だろうが」











 冗談をかます余裕があるから大丈夫だろう。

 新一は、持って来たトレイの上のカップを渡した。













「オラ、特別だ」

「・・・・ん?」

「珈琲にブランデー。お前好きだろ」

「工藤・・・」

「熱は・・・・ああちょっとあるな。とりあえず薬、飲んどけ」















 一緒に持って来た薬。

 それと水も。



 新一は、枕もとに置く。















 ・・・・・・平次は、ゆっくりとその香りを楽しみながらカップに口を付けた。























 優雅な、朝のひととき。

 そう思ったが・・・鳴り響く新一の非情な声。















「おい、ちんたら飲んでんじゃねえ。今日は部屋の模様替えだって言ってあるだろう? さっさとパジャマ着替えて、手伝え」

「なんやと?? それが人にモノ頼む態度か? 大体、誰のせいでこんなんなったと思とるんや?」













 あまりの言葉に、反撃にでた平次。

 ・・・しかし。















「へえ・・・誰のせい? 教えろよ」

「え、いや、そらもちろん・・・」

「もちろん?」















 その視線は完璧に『俺じゃねぇだろうな』と語っている。

 だから、平次はこう答えた。



























「・・・・夜の冷気のせいやがな」
































ひとくぎり



























 ・・・そうは言ったが。



 珈琲にブランデー。

 それに加えて薬を飲ませたのだ。







 こんな状況、眠たくなるに決まっている。

















 本心は『ゆっくり寝させてやろう』と思っているのに。

 どうしてか口からは反対の言葉しか出てこない。



 まあ・・・下手に優しくなったりした方が、悪化するかもしれないし。



 そんなことを、新一は思ったりするわけで。





















 確かに布団の大部分をぶん取ったのは俺だし?

 でも、取り返せば良かったんだし?










 だけどここは俺の家で俺の部屋だから・・・・まあ、遠慮するのも当然か・・・





























 さすがに言い過ぎたかな~ と反省の色を見せた新一。

 ちらと上目遣いに覗き込み・・・・









 他の部屋へ行き、羽根布団を取り出してきた。

































「冗談だ冗談。コレかぶって寝てろ」



















 ぽけっとする平次。

 少し顔が赤い、新一。







 その布団をベッドに放り投げると、大きな音をたてて扉を閉めた。


































ひとくぎり































 ・・・その日一日ベッドで眠った平次。





















 夕方目を覚ますと、脇の椅子に腰掛けている新一が、寝息をたてていた・・・・





















Fin