すれ違い





「なあ、剣道って面白いか?」

「何じゃい突然」













 平次の部屋。

 そこの脇にたたずんでいる、一本の竹刀。



 それを手に取り新一が呟く。















「まーな。一本決まったときの音がなんともいえへんし」

「へえ」

「・・・・・工藤は、何でサッカー止めたりしたん?」

















 ベッド脇にもたれかかっている平次。

 ぱらぱらと雑誌をめくる手を休め、問う。



 新一はフローリングに寝そべり雑誌を見ていた。























 ・・・・ふわりと前髪が空気に揺れた。

























「元々・・・探偵の為の体力づくりだったからな」

「嘘つけ」

「何で嘘なんだ」

「見りゃ、解るっつーの」















 見てるのはサッカー雑誌。

 しかも『気合を入れる時にだけ掛ける眼鏡』を装備している。



 単なる体力づくりで終わってはいない証拠だ。





















 ・・・・・なにか、他に理由があったのだろうか?















 新一が、その時ふっと微笑った。



























「お前、考えすぎ」

「へ?」

「もしかして、他に理由があったんやろか~? とか思ったろ」

「!」

















 当たり。

 全く、表情がバレバレらしい。















「高校でサッカーやってたら余計に時間が取れなくなる。俺には、もっとやらなきゃならない事があるからな」

「工藤・・・・」





















 なら、どうしてそんな顔をする?



















 ・・・諦めたような。



 たまらない、表情を。





























 ―――――――――・・・この間終わったオリンピックをテレビで見ていた時の新一は。



















 わくわくして。

 どきどきして。





 まるで、そこに自分もいるかのようにプレイに熱中していた。

























 大体、新一の部屋に転がっているサッカーボール。





 ・・・良く磨かれてあって。

 でも、決して新しくは無かった。



























 平次は思うのだ。



 この自分が剣道と学業と探偵業を両立しているのに。

 この工藤新一に出来ない訳はないだろうと。









 やはり・・・・他に何か要因があるとしか、思えない。



























「なあ、お前強いの?」

「何ゆうとる。剣道やっとる奴で、俺んこと知らん奴はおらへんで」

「・・・見たことねーからなあ」

「あ。そういや決着ついとらんのは1人おるな。そいつくらいやなー 俺とはれる奴、ゆうたら」

「へえ、誰だよ」



















 新一は興味を示した。

 身体を起こし、そばにやってくる。





















「京都の沖田っちゅうー奴や。あー・・・・・そういや、お前に顔似とったな」

「へ?」











 新一は、眉をしかめる。











「せや! そやから俺、お前に興味持ったんやった! いっや~。新聞とかテレビで見て、ああ、こいつ沖田そっくりやな~ しかも探偵? なんやと? って思うたんや。で、それからチェックしとったんやけど、暫く姿見んようになって・・・・・・・東京まで、捜しに行ったっちゅーわけや!」















 はっはっは~ と平次は笑う。

 隣の新一はというと・・・・







 かなり、不機嫌だった。























「―――――――・・・・俺・・・・・・・帰るわ」

「え!? 何で??」











 その言葉に、平次は焦る。











「なんか急に気分悪くなっちまったんでね」

「へ、大丈夫なん?? そんなら帰らんと、ここでゆっくり休めや、な?」

























 ・・・・・・・・このアホウは気付いてやがらないのか・・・?



























 ああ、胸がムカムカする。

















 この俺だって信じたくはないが・・・・これは嫉妬だ。

 ああもう、自分で自分が嫌になる!























 ・・・・・・俺が『そいつ』に似てたから、気にするようになった・・・?



 よくもまあ、さらっと言えたもんだ・・・・・





























「いいからどけ」

「ちょ、ちょお工藤!?」













 引きとめようとすると腕を払われる。

 視線が、刺すように鋭かった。













「・・・ちょっと朝からだるかったんだよ。風邪かもしんねー。でも、お前は来るな。うつしたらヤバイだろ。もうすぐ大会なんだし」


















 だるかったのは、本当。

 でも、我慢してた。何故だか解るか?







 ・・・・まあ、うつしたらヤバイなんて言いながら・・・でもここに来た。
 それも何故だか解るか?

























「工藤・・・・・せやけど」

「じゃあな」





















 返す言葉を許さないと言った響き。

 それを残し、新一は去った。























 下手に追いかけたら、余計機嫌を悪くする・・・・

 平次はそう今までの経験から思ったから、もうその扉を開けなかった。



 が、新一は。







































 一度、後ろを振り返り――――――――・・・・また背中を向けた。






































ひとくぎり































 言葉が、少し足りない2人。























 なんとか想いが通じて。

 今までの気持ちが、報われたけど・・・・

































 ・・・・・・・・・それは同性同士の2人にとって、葛藤の始まりでもあった。

































 俺は女じゃない。

 だから、嫉妬やみっともない独占欲は見せられない。

















 表向きは普通の友達。

 絶対、気付かれてはいけない・・・・























 でも、2人きりの時くらいは別に・・・・・・とは自分でも思うのだが。



 工藤新一の性格では、まだ無理らしい。



























「ああ・・・何で俺っていっつもこうなんだろ」























 10月も半ばに差し掛かる。

 夜の風はもう、充分秋の気配となっている。















 新一は・・・・眼鏡をくいと直し、駅へと急いだ。




















Fin