Winter comes around





「俺なあ、週末から合宿入ってまうねん。せやから、コレ」

「・・・・・何これ」



















 11月も終盤。

 たまに暖かい時はあれど、夜は冷え込みが厳しくなってきた。



 こうして外に出るのに、コート系はもう手放せない。













 工藤新一。服部平次。



 冬服になると一層目立つ2人。

 今日も駅前という、目立つ場所の自販機の前で向かい合っていた。

 



















「ヒーターや。空気を暖めるもんやから電気喰うけどな。部屋中ぬくぬくになるで?」

「意味解んねえぞ・・・・」





















 でっかいダンボール箱。

 これを電車で持ってきたのか? まさにそう言う表情で新一は平次を見た。











 大体、これから出かけようとしているはず。

 なのにこの荷物をどうするつもりなのだろうか?



 新一は、訝しげに目の前の男に視線を投げた。





















「―――――――・・・・・ちょお、ここやとな。とりあえず運ぶわ」

「また戻るのかよ」

「鍵貸してくれるんやったら俺が運んでくるし。お前は、スタバとかで待っとけや」

「ならそうする」

















 新一の家は、この米花駅から歩いて15分くらいだ。

 さっき着いたばかりだって言うのに、また逆戻りはご免こうむりたい。



 まだ、身体が震えていた。

 















「・・・・・・『なら、俺も行く』っちゅー言葉は出てこんのかい」

「ふざけんな。荷物があるんなら、先に電話して早く俺の家に来れば良かったんだ」

「せやかて来る途中、急に思いついて買うて来てんもん」

「早く行って来い。あそこにいるからよ」













 道路のすぐ向かい。

 それを指差し新一は、ほいと平次に鍵を渡した。



 新一が付いてきてくれると思っていた平次。

 少しばかりの溜息を漏らし、ダンボールを持ち上げる。















 ・・・・その目は、何か言いたげだ。

























「何だ」

「いや、つれないな~ 思て」

「・・・・・お前が見たいって言ってた映画、今日までだぜ?」

「それ、もうエエわ。寒うて我慢でけん」

「? 珍しいな、寒がりでもないのに」













 その言葉に『平次はトイレに行きたいんだろう』と解釈する新一。

 スタバに寄って借りてもいいだろうと、口を開こうとしたそのとき平次は返してきた。















「・・・・・その顔はトイレや思とるやろ」

「違うのか?」

「アホ! もうええ。これ以上は、ココで話せる内容やないし」

「ちょ、ちょっと!!」













 さっきから言葉が遠まわしの平次。

 箱を抱え、反対側の手で新一の腕を掴むと点滅を始めた信号を目掛けて歩き出す。















 ・・・・・・・・結局、新一は平次と自分の家まで戻ることなってしまった。






































ひとくぎり

































 外よりも冷えを感じる室内。

 工藤邸は、1階は床暖房を完備しているが2階にはそれがない。













「コレさえあれば、冬もへっちゃらやで!」

「・・・・別に寝るときしかこの部屋いねえから、要らねえのに」















 そう。

 新一は、この広い家に今は一人暮らしの身。



 寒いのなら、階下のリビングへ行けばいい。











 テレビもあるしソファもある。

 パソコンはノート型だから持ち運べるし、お腹が空けばキッチンが近くだから便利。



 だから新一は家にいるほとんどの時間を、このリビングで過ごしていた。















 着替える時と、寝るとき。

 ・・・そんな時以外は本当に。



















「せやからや」

「は?」

「明日っから4日間合宿や言うたやろ。俺っちゅー暖房器具がなくなるし、代わりや」

「あ。そうだったっけ」



















 忘れてた。



 新一は、そんな表情を素直に見せる。





















「まずはどんなもんか試しや。えーとスイッチは―――――――――・・・コレやな」























 手際よく取り出しコードを繋げる。

 設定を最大にすると、がさごそとダンボールを片付けた。













「しっかし、ホンマ寒いな~ こん部屋」

「下行って、珈琲飲むか?」

「ココでええやん。ココで飲も」     

「服部・・・・・お前、リビング避けてねえか?」

「気のせいや」

「・・・そうか。じゃあ待ってろ」



















 ひらひらと手を振る平次を残し、新一は階段を下る。

 途中、足の裏が冷たいと思いスリッパを履きリビングへ入った。



























 ・・・・・何でだろう。



 なんて、何となく解ってはいるんだけど――――――――・・・・



























 平次はあの時以来、この場所に必要以外は近づかない。









 あのソファで。

 降りてくる影に瞳を閉じたまでは良かったものの、見慣れた天井と身体に馴染みすぎているソファの感触に・・・・・・つい、平次を拒んだ。







 その時はどうしてか自分でも理解できず。

 ただ、それ以上コトに及ぶ事は無理で。













 でも―――――・・・・・・・自室に戻って再び寄り添ったときは、そんな状態にならなかった。

































 そうなのだ。



 俺は、何故かこいつと肌を触れ合う関係になっている・・・・・



















 キッカケも理由もない。

 あるのは、どうしようもない激しい感情。



















 ・・・・・表情になんて出せない、出せる訳がない。



 考えれば考えるだけ出てくるのは抑揚のない言葉ばかりで・・・・

























 一緒にいればいるほど膨らむ想いを、夏の間までは『熱』のせいに出来たのに。

 夏が苦手な自分は、だからさほど欲求はなくて済んだのに。

















 ――――――――・・・・・・寒くなるにつれ、今度は肌が『それ』を求めだしている。





























 服部は、この場所が苦手だ。

 理由は俺が拒んだからという事じゃない。





 ここが、『俺と両親の場所』だという事を理解したからだ。

















 生まれた時から、ずっとこの場所は変わらなかった。







 テレビの位置も
ソファの色も。

 そして座る場所さえも、俺たち3人の中で決まっていた。

























 だからこそ、思い出すのだ。





 ――――――――・・・・だからこそ、家族の残像が見える場所では出来ない。





























 どの家でも、『リビング』というのは不可侵な場所なことが多い。

 その家その家の独特の雰囲気があって、それは暖かいもので・・・・・











 ・・・・・・きっと俺があいつの実家の居間で誘ったりしても・・・・その場所では応じたりしないだろう。

 例え、堪えきれないくらいの性欲があっても。













 まあ―――――・・・・その分、後は大変だと思うけどね。

























 段々考えがイヤらしくなってきて新一は赤くなる。

 珈琲を入れながら軽く深呼吸をすると、自分の分にはたっぷりとミルクを入れた。


























ひとくぎり



















 暖かくなってきた部屋。

 平次は、ベッドを背に腰を下ろす。



 最近は16時には電気が必要になるくらい、日が落ちるのが早くなった。























 ―――――――――・・・・・『なんで苦手なん?』なんて、よう聞くで全く。































 さっきの新一の言葉。

 原因は、忘れたくても忘れられない出来事で・・・・



















 ・・・・・・あんな拒絶されたら、誰だって躊躇するっちゅーねん。



























 それは今年の初めの出来事。

 何となくお互い想っていた気持ちが結びつき、触れ合った時から何度目かの夜。







 それまで多かったのは、東京の住まいである自分のマンションでの逢瀬。

 もしくは新一のこの自室、だったのだけれど・・・・



 あの夜は、ちょっとお酒も入ってて。

 お互いがそれこそソノ気分だったのは確かだったのだが。













 勢いでリビングに雪崩れ込んでコトに及ぼうとした時にそれは起こった―――――――・・・・・・・



























 肌は、既に熱を伴い。



 ・・・・寒さも手伝って、互いが互いを激しく求め合う。

























 ソファの柔らかな感触。



 お互いしか映さない、瞳。





















 そして・・・・・・

































『・・・・・・工藤』

『ご、ごめん―――――――・・・ちょっと・・・・・やっぱ部屋、行かねえ・・・・?』

























 最初は拒絶だと思った。

 口付けの途中で身体を押し返されたのだから、無理もない。





 寒さとは違う震え。

 視線も、しばらく合わせず。

















 ・・・・・しかし。



 部屋に入った途端、キスして来たのは・・・・・・新一の方からだった。



























「うわ。すげえ、暖ったかいな」

「そやろ」









 新一が帰ってきた。

 扉をしっかりしめ風が入らないようにすると、トレイに乗せてきたカップを平次の前に差し出す。



 もうひとつほわほわと湯気を出すそれを、新一は自分で取り隣に座った。

 こくりと、喉を通す。











「晩メシどうする? 今日、外のつもりだったから用意してねえんだけど」

「まだ6時やし。後でどっか食いに行こうや」

「・・・・・そういや、我慢がどうとか言ってたよな。ソレどうした」

「今から解消しよかな~ と、思てたりするんやけど」

「は?」

















 いつの間に飲んだのか。

 既に平次側のカップは空になっている。



 猫舌の新一には信じられなく、目をパチクリさせている所に――――――・・・・・

 手のひらが、頬を触った。













「わ、お前、手、冷てえよ!」

「スマン」

「こっちの我慢が利かないってコトかよ・・・・・・・成る程な」

「せやかて、ホントだったら明日っから4日間は一緒のはずやったんやで? なのに急に『大会前だから、合宿することになったからな』なんて・・・・映画観とる場合やないわ!」

「・・・・頑張れって。俺、試合見に行ってやるからよ」

「工藤・・・・」















 捨てられた犬みたいな目でこっちを見るから、つい新一はその頭を撫でる。

 すると平次の手が、頬から身体全体に廻り抱きしめてきたから・・・・・



 新一も、手を添えた。

















「はは。服もお前もまだ冷たいな・・・・・・なのに空気が暖かいなんて、変な感じ」

「工藤も凍っとる・・・・」

「・・・・・なら、さっさと溶かせ」

















 ベッドの下に、カップを2つ押しやる。

 新一のはまだ中身が入っていたから、零れないように。













 そうして・・・・・

























「く・・・工藤?」

「あったけー空気のせいかなぁ・・・・・なーんか、ボーっとしてきた・・・・」

「へ?」

「つーかさあ・・・・・俺も結構楽しみにしてたんだぜ? なのにしばらくヤれねえなんてさ・・・・・・見ろ、疼いてきちまったじゃねえか・・・・・・責任、取れ」

「どわ!!」
















 


 新一は、平次をベッドに押し倒した。


























ひとくぎり



























「なあ、服部」

「ん?」

「――――・・・・・冬っていいな」

「何でや」

「・・・・・お前の体温が、うっとおしく感じないから・・・・・かな」





















 幾度かの波を終え、眠りにつく前。

 近寄りすぎず離れすぎず、2人は背を向け合う。









 ヒーターは電源は切った。

 それというのも途中で暑くなってきてしまい、今度は『暑いから寄るな』に状態になってしまったからだ。





 慌てて平次がコンセントを抜きに行ったのは、当然の事。





















「工藤」

「ん?」

「俺もな。冬がいっちゃん好きやねん」

「へえ、何でだよ」

「―――――――・・・・寒がってる工藤がめっちゃ色っぽいから・・・・・・やな」

「何だそりゃ?」





























 今日の、待ち合わせの時だった。





 想像していたより冷たい気温。

 寒さに震えていた、新一。















 ・・・・・・駅で見かけたとき、周りに人さえいなければ確実に抱きしめていた。



























 風が髪を揺らすたび襟元を立てていた。

 そんな光景に、自分は逆に体温が上昇してしまったのだ・・・・・































 ―――――――――・・・・まったく。



 工藤がああ無防備な顔して、大学に通っとると思うと・・・・・・気が気やないわ。





























 惚れたと自覚して以来、男も女も関係なく敏感になっている自分。

 アホやなあと思ってはいるが、どうしようもない。







 その時、新一が寝返りをうつ。



















「・・・・・お前、明日何時に出てく?」

「午後からやかし、1時くらいやな」

「ふーん。じゃあ、ゆっくり寝られるな・・・・・オヤスミ」

「お・・・・おやすみ」













 背中に吐息がかかった。

 そっと、自分も逆を向く。











 ・・・・・・・こちらを向いたまま眠りについてしまった新一。



 平次は、しばらくその寝顔を眺めていた。


























ひとくぎり































 11月はもう終わる。





 ・・・・20世紀は、もうすぐ終わりを迎える。























 今回の冬は、世紀を渡る『冬』になる―――――――――――――・・・・



























Winter comes around.















・・・・それは、ある寒い一日。





















Fin