そばにおいで[01]







「どわ! 工藤??」

「――――・・・・・・服部? 何でお前ここに」























 2月。

 寒さも本格的になってきたこの頃。



 昨日東京には、今年初めての雪が降った。











 週末の連休を持て余していた工藤新一。



 警察関係で知らない者はいないとまで言われている彼。

 高校生の時、その推理力と状況判断能力を表舞台にさらしてからと言うもの、まるで事件を自ら引き寄せているかの如くその現場に出くわすようになった。



 探偵と称し、色々な事件の謎解きをしていたが・・・・・高校2年のある時、信じられない出来事が起こってしまった。







 まあ、何とかなったから―――――・・・今となっては笑い話だけれど。





























「・・・・久しぶり」











 以前体験して味をしめたヘリコプター。

 また乗せてもらおうと刑事課に顔を出したのだが、そこに本来ならばいる筈のない見覚えのある顔を発見した。







 服部平次。

 大阪府警、本部長の息子である。







 祖父譲りだという色素の濃い肌。

 優しい顔立ちなのに剣道をやっている為か、身体は結構しっかりしていて。



 何より関西出身だから、特有の響きで言葉を話す。









 剣道の強い大学へ推薦で通り東京に出てきた平次。

 今は、新宿のマンションにひとり暮らしだ。



 その平次が何故か警察に居たもんだから、新一はさすがに驚きを隠せなかった。

 平次は、新一を見る。



















「アタマ、随分明るくしたもんやな・・・・・」

「へ・・・? あーそっか。こーしてからお前に逢うの、初めてだっけ」

















 こーしてから。



 そう。新一の髪の色は今―――――・・・・・もとの漆黒はどこへやら。

 見事なまでの、ライトブラウンになっていた。









 ・・・・・そして。





















「それに・・・・・」

「目ざといな。そ、開けた。似合うだろ」













 平次の視線が自分の耳元に向いたのに気付く。

 明るくなった髪の下から、僅かに光ったのを見つけたのだろう。



 ふわりと右手で掻き上げ、見せた。















 そこにあったのはピアスだ。



 決して派手ではなく―――・・・・・・ちょこんと、小さな銀色が付いているだけの耳元。

 両耳にそれはあった。



















「そらま・・・・・似合わんことないけど」

「ちょっと気分変えたくてさ―――――・・・・結構、好評なんだぜ?」





















 微笑う新一に、平次の刻が止まる。















 もともとの白い肌。

 薄い、瞳の色。







 そして薄い口唇・・・・・

















 色の薄くなった髪の毛がふわふわと、それらに絶妙な色づけをしている。





























 ――――――・・・・・髪の色がちゃうだけで、こないに印象変わるもんなんか?































「それより、何でここにいるんだよ」

「ああ、オヤジの着替え届けに・・・・・・」

「オヤジ?」

「こっちに出張に来とるんや。ホレ、あれや」













 窓の外を平次は指さす。

 威厳のある、全然警察関係者には見えない風格。



 何人もの部下を引き連れて何やら話し込んでいるのが見えた。















「ほーんと・・・・似てねーな、服部」

「俺はオカン似やもん。あんなんならんで良かったわ」

「そーかあ? あの人ほど美形じゃねーだろ」









 冗談だったのに真面目に返され、ちょっと平次はカラ笑い。

 新一が横のソファに座った。









「・・・・工藤は、オカンそっくしやな」

「ん―――・・・・髪、この色にしたら父さんがミョーに喜んじまって大変だったぜ・・・・・若い頃の母さんとうり二つだの何だの・・・・・昔のプロマイドまで持ち出してきて、見せるか普通? 息子にさ」













 相変わらずの工藤夫妻。

 でも、照れながら話す新一の姿は―――――・・・・・・平次がみとれる程。



















「ほんで、工藤は?」

「俺? ちょっと暇だったから、ヘリ乗せてもらおーと思って」

「は?」

「・・・・・でも警部も高木さんもいねえみたいだし」













 警察を遊び場と勘違いしている新一。

 しかし今まで『工藤新一』に世話になっている警視庁。まあ、断れる人物はいないだろう。



 だが一番の窓口となる目暮警部が居ないので、新一は溜め息を付いた。

 平次も深く息を付く。















「相変わらずやな、工藤」

「引っかかる言い方すんじゃねえ。じゃあな」













 ひらひら手を振って新一は立ち上がる。

 明るい髪が、光に反射した。

























「・・・・・・久々やんか。もっと話そうや」























 その背中に、平次がぽつりと投げかける。

 新一の動きが止まった。



 でも、顔は向けない。

















「悪い。俺、行くトコあるから」

「―――――・・・そんな忙しいん?」

「ああ」

「そーか・・・・なら、しゃーないな」















 新一は平次の視界から消えた。

 そして平次はその後ろ姿を――――・・・・辛そうな目で、見送った。































 ソファに沈んだ平次。

 目を閉じて、心の平静さを取り戻そうと気を落ち着かせる。





 ・・・・・・耳に残る声。



























「今年になって初めて逢うたのに・・・・冷たいなぁ」































 ・・・・・この前逢ったのは、いつだったろうか。

















 そうだクリスマス。



 あの日は・・・千年代、最後のクリスマスだった――――――――・・・・・




























ひとくぎり

























「寒いのに雪、降らへんな」

「降ったってベタベタでよけい迷惑だ」

「・・・・どーして工藤には、ロマンちゅーもんがないんかな」











 新一は、友人が個展を開いている関係で千葉まで来ていた。

 平次は親戚の結婚式で君津に行った帰り、千葉に寄っていた。







 ・・・・・2人はまた思わぬ場所で出逢った。



















 今日はクリスマス。

 店の雰囲気も、人々の表情も心なしか浮き足立っている。



























「俺、アフタヌーン・ティー」

「ああ俺もそれや―――・・・・・・って、飲めるようなったんか? 紅茶」















 駅前の大きなビルの中にある『アフタヌーンティー・ルーム』。

 昼時をちょっと過ぎた、そんなに混まない店内。









「ここのは平気。なんか、うまい」

「今まで頑固に珈琲専門やった工藤がなあ」

「頑固って何だ。あ、食後で」







 ウエイトレスの女の子にそう言うと新一は帽子を外した。

 ・・・・前に平次が逢ったときよりも伸びている漆黒の髪が、ふわりと舞う。













 しつこい様だが今日はクリスマス。

 女同士は珍しくないが、男同士はきわめて珍しい。



 それに、かなりランクの高い2人。

 それが一緒に女も連れずいるのだから・・・・・目立つこと、この上ない。



















「・・・・・うしろのドア側。お前のこと見てるぜ」

「知っとる。ふたつ右横は、お前や」













 人に見られることに慣れっこな2人。

 水を口に含んで、微笑う。















 ・・・・そして、瞬間会話が止まる。





















 先に言葉を出したのは、新一だった。



























「今日、クリスマスだぜ」

「・・・せやな」















 視線はグラスの氷に向けられたまま平次の気配を伺う。

 廻りの喧噪が、どこかに消えた。















「何も用事ないんだったら――――・・・・・・俺んちで、飲まねえ?」

「・・・へ」

「父さんに送ってもらったワイン、まだあるからさ」

「せやけど・・・・」

















 平次が瞬間、怯む。

 それもそのはず。



 今まで何度となく、そういう誘いをかけていたにも関わらず・・・・新一は拒んできたからだ。















「・・・・・・先約有り?」

「いや―――――・・・ホンマにええんか?」

「ああ、助かる」



























 ――――――助かる・・・・?





























 答えになってない言葉。

 その意味が解りかねて、平次は新一を見た。



 思い詰めた表情に見えるのは―――――・・・・・・自分の考え過ぎなのだろうか?

















「あ、来た」 

「・・・・・」













 途端に、いつもの顔に新一は戻る。









 何もかも見透かすような。

 いつもの、冷ややかな眼差しに。







































 服部平次。



 彼は、今どうしようもない想いに捕らわれている。



















 ・・・・彼には、好きな人が、いる。



























 そして工藤新一。



 彼もまた―――――・・・・胸の奥から沸き上がるたまらない想いが、身体中を支配し始めていた。





























 どうして、こんな気持ちになったのか。

 何故こんな想いをしなければならないのか。









 ・・・・・・誰に相談も出来ない。



 出来る訳が、ない。























 隠さなければならない。



 一生、悟らせるわけにはいかない。

























 ―――――――・・・・ずっと、ずっと。



 生きている限り、ずっと。































 こいつと―――――――・・・・・・・同じ場所に、いるために。


































ひとくぎり























 食事を終え適当に時間を潰した後。

 あまり遅くならない時間に、2人は新一の家に帰ってきた。



 天気は良い。

 痛いほど寒い気温の中、新一が空を見上げる。





















「降らねーと・・・やっぱ駄目か」

「?」













 門の前で上を向いたまま止まっている新一。

 しばらく、目を細める。



 だが――――・・・瞬間、強い気を放った。















 振り向き、闇夜を睨む。























「工藤、鍵」

「え・・・・? あ、ああ」















 その時、平次が新一の腕を引っ張り急かす。

 慌てて鍵を取り出して開け、家の中に入った。







 ・・・・後ろ手でしっかり鍵を掛けて。



















 リビングに入ろうとした新一が、向きを変える。

 マフラーを外し、コートを脱いで平次に渡した。





















「先、行っててくれ」

「・・・ああ」











 言われるまま階段を平次は上がる。

 久しぶりの、その軋む音を足で感じながら。









 ・・・・・・扉をゆっくりと開けた。





















 久しぶりの新一の部屋。

 窓から覗く月の角度で、以前とは違う季節なんだと知る。





 その視線を下に移しベッドを見た。



























 ―――――・・・・鮮やかに、記憶が蘇る。





























「あれ・・・」









 新一の机の上で目が止まった。

 ちぎられた紙の様な物が、無造作に散らばっている。


 近づいてよく見ると・・・・便せんに文字が書いてあったようだ。

 側のゴミ箱の中にも、同じ様な紙切れがいくつも捨てられていた。



















 ――――――――・・・・・嫌な、予感がした。



























「服部、お前コレ――――・・・・あ」











 その時、新一がワインとグラスを持って部屋に入ってくる。

 机の側の平次に瞬間表情が凍り付いた。



 諦めたように、微笑う。 















「片づけんの忘れちまったてたな・・・・」

「工藤、お前まさか」

「ストーカー・・・・・っての? まったく、気味悪りいよ」



















 手に持っていたものを机の上に置く。

 そして、散らかっている物達をゴミ箱へ全て捨て去った。



















「・・・・何かされたんか」

「いや。直接的には何も」

「さっき門の前で感じた気配・・・・・それ、か?」

「・・・・多分な」

「いつから!?」















 平次の声がつい荒くなる。

 しかし新一はくるりと背を向けると、またワインを持ってベッドの側へ行き腰を下ろした。





















「いつからって言われてもな・・・・そうだな、酷いのはここんとこかな」

























 世界的小説家の工藤優作。

 そして、元女優の藤峰有希子。



 その血筋は、既に新一の最初の事件で新聞に大きく取り上げられていることで証明済みだ。











 加えてこのルックス。



 ・・・・決してタレントではない人間にファンがつくのは、珍しくない。



















 それを有名税と取っては簡単だが・・・・・この世界は、向こうはこっちをテレビや雑誌で見ていて知っているが、こっちはもちろん相手の顔も何も知らないのが通常。



 ほとんどの常識人ならば、暗黙の了解事なのだが・・・・中には勘違いをして、果てには激しい思い込みに発展し、終いにはストーカーと呼ばれる常軌を逸っする行動をとるのである。



















 ――――・・・・・・今回の新一の悩み事も、そうだった。

































「服部。こっち来いよ―――――――・・・飲もうぜ」



















 新一の手が絨毯をぽんぽん叩いて、ここに座れと示す。

 向けられる視線に逆らえるはずもなく、平次は大人しく移動した。











 2人の間にはワインを乗せてきたトレイ。





 ・・・・その境界が、邪魔でもあり―――・・・・・理性の壁となっていた。





























 新一からグラスを手渡される。

 その緋色の液体は・・・・新一の口唇の色に似ていた。

















「・・・何だよ」

「え、いや――――・・・・俺も、注いだるわ」

「サンキュ」































 とくとくとく・・・



 妙に、その音が耳に気持ちよく届くのは・・・・・・何故だろうか?











 平次は、つい見とれてしまったのに気付かれて焦った。

 だがすぐ気を取り直す。

























「ほんじゃ、色男2人での淋しいクリスマスに乾杯や」

「・・・・まったくだ」


























  微笑う、新一。













 ――――――――・・・・いや・・・・微笑ってない?



























「お前・・・・・」

「どうした。飲めよ、うまいぜ」

「何、あった?」

















 空気が瞬間澄む。

 新一は・・・・その問いに、応えた。





















「・・・昨日、いきなり届いたんだ」

「届いた?」

「―――――『婚姻届』・・・って言うのがさ」

「こんいんとどけえ!?」

「わっ」















 予想もしてない言葉に驚いた平次は、つい身体を思いっきり横に向く。

 その時、手元のグラスからワインが飛んだ。













 ・・・・その先にいたのは、新一。



 反射で避けたが、遅かった。





















「おーい・・・・」

「ああああ!! スマン工藤っっ」

「勿体ねえなぁ・・・・・高いんだぜコレ」















 思わず出した左腕。

 それに掛かった液体を・・・・新一はぺろりと舐めとる。





 別に、怒る風でなく。

 あくまでも冷静に。

















 そんな新一に、平次の表情が途端に赤くなる――――――――・・・・



























 高いのはワインか・・・それとも、そのシルクの様なシャツか。





 ・・・・・工藤新一か?





















 次の瞬間、ちらと上目遣い。

























「俺の住所も名前も書いてあってさ。そこらで買ったんだろうけど、三文判も押してある訳さ。俺はもちろん破り捨てんだけど――――・・・・気になって、市役所にも行って確認しちまった」





















 そのまま続きを話し出したから、一瞬平次は慌てる。

 でもそれは内心で気付かれない様に。















「現実に、出されとる訳やなかったんやな」

「ああ。血の気が引いた」

「・・・・・・」

「一回も話したことも、逢ったこともねーのにな。『目が合った』だの『微笑い掛けた』だの・・・・そのうち、俺の大学生活も覗いてるみたいで――――・・・いつ、誰々と話してたとか・・・何時に部屋の電気が消えただとか・・・・見られる事には慣れてたつもりだったけど・・・いい加減、疲れてきてさ―――――・・・・」















 声は段々低くなり最後に新一は、俯むく。





 そして、次に胸のボタンを外し始めた。

 平次はぎょっとする。





















「な、何しとんのや?」

「・・・・濡れたし、ちょうど良かった」

「工藤?」

「―――――・・・・・悪いけど、ちょっと協力してくんねーか?」























 夢を、見ているのかと・・・平次は思った。

















 紅い模様が入ったシャツは、足下に落とされ。

 髪の毛と同色の、漆黒のTシャツさえも―――――・・・・・・脱ぐ。







 現れたのは・・・・自分と違う、肌の色。

































 ―――――――――・・・何や・・・何のつもりや・・・?































 新一は次にベッドに上がった。

 特有のギシリという音を立てて、平次に向く。



 案の定な表情をしている平次に・・・・向く。



























 窓にはカーテンも引いていない。

 月明かりが逆光になり、肝心の新一の表情は読めない。





























「協力て・・・・」

「外の通りから―――――――・・・見てるらしいんだ、そいつ。さっきお前も気配、感じただろ? だから」

「まさ・・・か」

「俺が『そういう趣味』な奴だって解れば・・・・気味悪がって、もうまとわりつかなくなると思うから」

































 平次の目が見開く。

 何を言われたのか・・・・瞬間、頭が真っ白になった。





























「こっち来て、窓際で・・・・・ただ軽く、抱き締めてくれればいいから」



























 抑揚のない声。

 ただ静かにそれは部屋に響く。











 ・・・・・・・寒さに、新一の身体が震えている。









































「解った」





















 言うと同時に平次もベッドへ上がる。

 綺麗な月と共に、夜空が新一を照らしていた。















 平次は新一の表情を見なかった。

 いや、見れなかった。







 それはすぐに目の前の身体を抱き締めたから。



















 ・・・・・・・・とてもじゃないが、顔色を伺う余裕なんてなかった。







































 ――――――・・・・う・・・・わー・・・・・やば・・・・



























 平次は、その抱き締めている身体の感触に戸惑う。





















 思っていたよりも細い。

 ・・・・いや、薄いのか?













 すっぽりと自分の腕の中に収まる新一。

 自分の口元に当たる髪の毛から感じる、くすぐったい香り。













 押さえようと思っても、鼓動は段々早まってくる。





























 ―――――――――・・・アカン・・・・・・工藤にバレる・・・・・・っ































 密着している身体。

 自分は衣服を身に纏っているとはいえ・・・・新一は、素肌だ。



























「・・・・服部」

「な、何や」



















 そのとき腕の中から静かに声がして、平次は焦った。

 つい上擦った声をだしてしまう。























「見えるか? 表の―――――電信柱近辺・・・・」

「え?」

























 言われて、何の為に『こういう事』をしているか平次は思い出す。

 気を取り直し視線をそっちに移した。













 ・・・・影が動いた。



 そして、光った。























「―――――・・・・・ちょ、マズイで、写真、撮られてしもたで!?」

「・・・解ってる」

「は? お前、それでええんか?」

「――――――・・・・どうせ、ロクに写っちゃいねぇよ」

「工藤・・・何でそないに」























 その投げやりな態度。











 工藤新一とは、こんな性格だっただろうか?

 こうやって大人しく、常軌を逸した行動を放っておく性格だっただろうか?





 警察が身近に居るにも関わらず、何も相談せず。

























 ・・・・一体、新一に何が起こったというのだろう?

































 表の通りの気配はもうなかった。

 フラッシュを放った後、すぐ立ち去った様だ。









 それが解っても平次は新一を離せなかった。



 確かに自分は新一に、友情以上の感情を持っているが―――――・・・・それだけではない『何か』が新一を離そうとはしなかったのである。































「服部・・・・苦しい」

















 寒い肌だ。

 冷え切っている、身体だ。











 その心も――――同様に・・・?































「――――――・・・・もういねえんだろ? 演技は終わりだ・・・・・悪かったな」

「・・・・・・」



























 上目遣いの新一。

 縋るようにも見えるのに、突き放すようにも見える。



























  完璧な『工藤新一』の表情――――――・・・・

































「・・・・っくしゅ! ・・・あーもう、風邪ひいちまうだろ」

「あ、スマン」

















 平次は慌てて両手を離した。

 もうひとつクシャミをした新一は、ベッドを降りて上着を羽織る。



 暖房のスイッチを押した。























「気色わりーコトさせちまって、ホント悪い――――――・・・でも、助かった」



























 背中越し。



 ・・・もちろん、どんな表情かは見えない。























「俺は・・・・全然、解決しとらんと思うけど?」

「そんな事、ねえって」

「―――――・・・・お前がそう言うんならええけど」



























 新一がベッド脇に座る。

 差し出されたグラスを、もう一度平次は受け取った。























「とんだクリスマスになっちまったな」

「・・・・・誰のせいやねん」

「お前に今日逢えて―――――・・・嬉しかったよ」

「へ・・・?」























 ぐいとワインを飲む。

 ひと息付くと、更に自分で注いだ。

























「・・・・やっぱ、お前といると落ち着く」

























 ちらりと横の平次を覗き見る。

 その視線は、酔いを帯びて。





 平次は言葉が出ない――――――――――――・・・・

 いや、出せない。

























 さっきから自分の目に映る奴は、本当に工藤新一なのだろうか?

 同じ問いを何度か繰り返すが・・・・工藤新一に、他ならない。













 だとすると――――――・・・・・・?





























「・・・らしくないやん。振られたか?」

「誰に?」

「だ、誰て・・・・前、言ってたやろ。そーゆう奴、おるて」

「――――あー・・・・そうだっけ」



















 カマをかけてみても上手くあしらわれるのも、いつも通り。

 相変わらず、自分の内を新一は見せない。





























「もう、駄目かも」

「・・・・・?」

「俺―――――・・・もう、そいつのそばにいるの・・・・・辛いんだ」



































 淡々と語る口調。

 冷ややかな、視線。



 じっとグラスの氷を、新一は見つめてそう言った。



















「言ってみもせんで、諦めんのんか・・・・らしくないで」

「俺らしい・・・? 俺らしいって何だよ」

「せやかて、向こうも同じ気持ちの可能性だってあるやろ? 何ビクついとんねん」

「・・っ・・・お前に何が解んだよ!」



















 新一が声を荒げた。

 張りつめていたものを、一気に吐き出すかの様に続ける。





















「・・・・俺は・・・・答えの決まってるものは平気だ・・・・でも!」



















 目を瞑り膝を抱える。

 暖房が効いてきて、寒くはないはずなのに―――――・・・・・・震えが止まらない様だった。





























「せやから、らしくないっちゅーとんねん!」

「何だと!?」





























 平次の返しに新一は睨む。

 うっすら顔が上気するその姿を近くで見て、平次は瞬間戸惑った。



























「お前フル奴なんて、お前んコト解ってないだけや・・・・気にする事あらへん」

「――――いい、もう、寝る」

「え、おえコラ!?」























 のそのそとベッドに這い上がり布団を被ってしまう。

 ぽかんと平次は、口を開けてしまった。

























「・・・・お前から誘っといて何やその態度・・・・俺の寝床は、どこやねん!?」

「どこでも勝手に寝ろ」

「む。なら、そうさせてもらおか・・・」

「―――――ちょ、ちょっと、入って来んな!!」

























 新一のベッドはダブルでも通用する程に広さがある。

 裾のほうから侵入してくる平次に、新一は足で抵抗し出した。



















「バカヤロウ! 客間となりに有るの知ってっだろ!? そっち行け!」

「・・・・嫌や」

「狭いっつってんだ!」

「―――――・・・寒いし、ちょうどええ」





















 結局、平次は隣に堂々と寝そべる。

 窓の方に顔を向け、新一は固まってしまった。



















 ・・・・・・・・すぐ後ろに、生暖かい体温を感じる。





































「も・・・勝手にしろ」

「しとる」























 布団に隠れて、髪の毛ちょこっとしか新一が見えない。



















 ・・・・・・それ以上、2人は何も喋ることはなかった。







































 ほんの少し、眠ってしまった様だ。

 平次は枕元の時計を見る。









 ・・・・・24時を、過ぎた所。

























 千年代、最後のクリスマスが―――――――・・・・音もなく通り過ぎたのを知り、少しだけ目を細めた。




























ひとくぎり





























 眠れるはずがないと思った。

 でも気が付くと、眠りについていた。







 次の日、新一は隣にいなかった。


 ・・・・代わりに置かれていたのは、一枚の紙切れだった。































 『暫くロスで暮らす。昨日は悪かった、感謝してる』























 ・・・・・・・綺麗な字で、ただそれだけ小さく。





























「工藤――――――・・・・・」





















 温もりは既に冷たい。

 いなくなって、かなりの時間が過ぎているのを物語っている。

































 そんなに疲れていたのだろうか?



 自分に何も相談してくれず、悩みを独りで抱え込んで・・・・・・






















 ・・・・・・・・俺では力不足だったのか?































 平次はその紙切れを握りつぶした。

 出ていった気配にも気付かないなんて、自分が情けなかった。











 そんなに思い詰めてるなんて、思っても・・・・・・・いなかった。









































 クリスマスは終わった。

 夢の時間は、もう終わったのだ。





















 ・・・・・・・現実に、帰ろう。





















 帰って―――――――・・・・・・・自分も、もう一度考えてみようと、平次は思った。