そばにおいで[03]





 風が冷たい。

 新一は、羽織ってきたコートの襟を立てた。









 ・・・・・・あれから2ヶ月が経っていた。























 ロスで1月いっぱい過ごした新一。

 日本語を、使いたくなかった。



 この黒い髪ではどこから見ても東洋人にしか見られない。

 だからまず髪を染めた。



















 ・・・・・明るくなった毛の色は、新一のどちらかというと白い肌に似合った。























『どうした新一。何の心境の変化だ?』

『・・・べーつに』

『新ちゃん? どうしたの、お母さんとお揃いじゃない!』

『別に母さんを真似した訳じゃないんだけど・・・・・』













 両親が驚くのは無理もない。

 でも怒りもせずむしろ楽しんでいる所が、放任ならではの家族だろうか。



 髪の色が明るくなった所で今は『不良』とは言わない時代だ。

















 日本人に会っても日本語は使わなかった。

 この髪だし、目も元々茶色いほうだったし。











 ・・・・とにかく家以外での日本語を、新一は使わなかった。































 英語は、楽だ。



 曖昧な表現がないから、楽だ。





















 ・・・・・・『大阪弁』もない。

























 だからひと月は大丈夫だった。

 

 久しぶりのロスは変わらず新一を迎え入れてくれたし・・・・・向こうの友達も大勢いたから、毎日遊びまくって日々を忙しく過ごせた。













『何だか、やっと元気になったな』

『へ?』

『・・・・来たばかりの頃は酷い顔色だった』











 書斎から出てきた父親にそう言われたのは、1月も終わりの朝。

 徹夜を3日も続けて自分こそ酷い顔色で。



















 ―――――――――・・・・・・さすがに父親だと、思った。





















 今まで頑なにロスでの生活を拒んできた新一。

 なのに突然、『正月は、そっち行くから』と連絡を入れた。



 それから長い間滞在しているのだから・・・・・・当然かなとも、思う。

















『それじゃ、行きましょ新ちゃん』

『・・・どこに?』

『身体の調子・・・・・戻らないんでしょう? こっちで一度、徹底的に調べてもらった方がいいと思うわ』

『!』















 元気になったのは内面的なこと。

 ・・・・反対に段々と気怠(けだる)さを増す自分の体調に、不安を確かに抱いていた。









 見抜いていたのだ、この両親(ひとたち)は――――――――・・・・・

























 新一の身体。



 一度劇薬を飲まされ、死に至らないまでも――――・・・・急激な細胞の伸縮を引き起こし、子供の身体に様変わりしていた身体。





 元に戻るまで、幾度となく投与した薬。

 可能性があると思われるものを飲み続けたからこそ、こうして元の身体に戻れたと言っても過言ではないのだけれど。





















 ――――・・・・・・・もう何年も前の事なのに。

 



 今まで、何の後遺症もなくここまで来たのに――――――――――・・・





















 昨年のあの日。



 風邪を引いたあの、11月のあの日から・・・・・どうにも身体の調子が戻らないことに最近、ちょっと考えたくない不安を抱いていた。

























『大丈夫だって』

『駄目だ。何ともなかったらそれで良いんだ――――・・・・・・俺たちも、安心だ』

『そうよ。今朝だって・・・・熱、あるんじゃないの?』

























 そうやって、額に触れた母親の手。

 前にこうして熱を計ってくれたのは、まだ自分がこの人より小さかった頃だった・・・・・・・・





















 観念した新一。

 優作の知り合いだという医者の元に、新一と有希子は向かう事にした。







 何でもないことが解れば良いのだ。

 なんとなく調子が悪いのは、気のせいだとハッキリさせてもらえばいい。



 そうして身体中を検査してもらった結果は、良好。



















『別に異常はないよ。日本とこっちの食生活の違いに、まだ身体が対応しきれてないだけだ』





 そう告げられ胸を撫で下ろした新一。

 2人はホッとした面もちで元来た道を、戻った。







 ・・・・・・・しかし。























『・・・・・ミスター・ユウサク?』

『ドクター・・・・・新一に、やはり何か――――――・・・・』



















 その後、その医者が優作の元に電話を入れていたことを・・・・・まだこの時、2人は知らなかった。

























 そうして2月も後半に入って帰国。

 日本に発つ前、父親が何か言いたげだったのが気になったが―――――・・・・・・・



 機内で一眠りするうちに、忘れてしまっていた。























 まだ身体に怠さは残ってはいたけれど。

 それは恒例の、花粉症や風邪だろうと新一は思っていた。






























ひとくぎり































・・・・・・・・なんでここでアイツに逢うんだよ!?

























 新一は警視庁の表階段をかけ降りていく。

 明るい髪の毛をふわふわさせ、コートの襟元をたて。









 ・・・・・・・寒いはずなのに、訳の解らない体温上昇が起こっている。























 なんで逢っちまうんだ・・・・・・

 こうやって、いつもいつも―――――・・・・・・突然、目の前に・・・・・・・・!

























 新一は戸惑いを隠せない。









 逢っていなかったふた月。

 忘れようとしてた、ふた月。



 平次を『忘れる』のではなく―――――・・・・

 平次への『想い』を忘れようとしていた、2ヶ月だった筈なのに。

























 忘れるどころか・・・・・・・・想いを、強くしただけだった。



































 髪が伸びていた。

 背も、高くなっていた。













 ・・・・・・・・アイツは先に大人になっていく。























 あの腕の感触を覚えてる。

 あの胸の広さを、覚えてる―――――・・・・・





















 忘れ・・・・・られるはずがない。



































「―――――――――・・・・・・はっとり・・・・・・・・」





























 声に出すのも苦しい響き。



 それは心の中で何度も何度も、呪文の様に呟いた響き。





































「やっぱり、ダメだ・・・・・・」



























 風は相変わらず冷たい。

 けれども新一は熱が引かず、気を落ち着けようと視界に入った自販機で飲み物を買うことにした。



 その時。



























「・・・・用、あるのとちゃうんか?」

「!?」



















 聞き間違える筈がない声の持ち主。

 服部平次が、目の前に現れた。





 もちろん新一は驚く。

















「何や。そないビックリせんでもええやんけ」

「・・・・・後、付けてきたのか」

「俺ん行く先に工藤が歩いとっただけや」













 睨む新一をよそに、平次はポケットから小銭を出すと自販機へ入れる。

 珈琲のボタンを押し出てきた缶を渡した。





























「―――――・・・・暇やからヘリ乗せてもらいに来たヤツが、なにが忙しいん?」

「!」
































 曲がりなりにも西で名を馳せている探偵だ。

 それとも相手が新一だから、だろうか。





 ・・・・・・どちらにしろ、あの言葉を聞き逃さないあたりはさすがだ。

























「――――――・・・・・・これから行く所だ」

「俺も行ってええ?」

「・・・・冗談はよせ」

「冗談? 何でそうなるん?」

















 もう、自分が何を言っているのかさえ新一は解らなくなってきた。



















 ・・・・・頼むから俺に話し掛けるな。

 俺の視界に、入ってくるな。













 手のひらの缶珈琲よりも熱いものが、胸に溢れてきて息が止まりそうだった。

























 平次は目の前の新一を、じっと見ている。

 ここで素直に別れるつもりはなかった。

































 やっと逢えたのだ。





 ・・・・・去年から、ずっと逢いたくて逢いたくてたまらなかった存在。

 違う大学に進んだ事を、こんなに後悔したことはなかった。









 そういう意味で惚れていると自覚して。

 でも、想いは打ち明けられるはずもなく・・・・・・・・



 ならば出来る限りそばにいようと―――――――――・・・そう、思ったのに。

 何故かそれから新一は、平次を避けているとしか思えない行動を取り始めたのだ。













 

 電話しても、そっけなく切られ。

 逢う約束をしようとしても『忙しい』の一点張り。





























 ・・・・・悟られたのかもしれない。





 そう思い始めると止まらなかった。













 だから思わぬ土地で逢えた時は戸惑った。



 北海道の時も。

 ・・・千葉で、偶然逢った時も。























 クリスマスの夜。



 忘れたくても忘れられる筈のない想いを――――――・・・・・・・再確認、させられた。



































 朝、ベッドから消えていた新一。

 自分の気持ちを悟られ、だから消えたのだと疑わなかったあの日。











 とっくに冷たいシーツの温度が―――――――――・・・・・・・・すべての答えのような気がした。



































 だけど、逢えた。

 また逢えた。







 そして、やっぱり騒ぐ気持ちが・・・・今の平次を突き動かす原動力だった。















「頼むわ。今日逃したら、しばらく逢えへん」

「え?」

「明日から4月まで大阪帰るんや。オヤジの手伝いもあるしな」

「・・・・・そうなのか」















 平次の声だけが耳に届いていた。

 ・・・・確かに風も吹いていて、凍てつく程の冷気なのに――――・・・・・それはまるで感じなかった。





 手の中の缶珈琲が、わずかに震えていた。

























「なあ工藤・・・・・・・俺ら、最近ずっと話しとらんやろ」

「・・・・逢ってなかったからな」

「ずっと気になってたんや。お前、突然消えよったから――――――・・・・・」

「・・・・・それは」



















 突然消えた。

 それは、クリスマスの夜。





 ・・・・・・・あれから今日まで1度も逢ってはおらず。









 紙切れ1枚だけ残して消えたから、特別こんな感情を持っていなくとも気になって当然だ。

 だから、平次は普通に聞けた。

















  ―――――・・・・・・しかし、新一はそれ以上口を開かなかった。

























「・・・俺、なんぞ気に障ること言うたか?」



















 目を伏せたまま、ただ新一は首を横に振る。

 視線を絶対に合わせようとしていない。



 やっぱり、おかしいと平次は思った。























 あんなにいつも自信満々で。

 何事に対しても冷静沈着な、工藤新一なのに。



 ・・・・・・明らかに何かに怯えている。















 それは傍からみれば、まったく気付かない程の違いだけれど。

 解らない平次ではなかった。

















 ―――――――・・・・・このまま新一の反応を待っていたら、らちがあかない。

 だから、力ずくで行動に出る事にした。



















「工藤、ちょお俺と来い」

「え?」









 ようやく向けられた視線。

 揺れる前髪から覗く、綺麗な琥珀色の瞳。



 相変わらず意思の強い光を放っている。















 そうや、これや。



 ―――――――・・・・俺の好きな、工藤の目。

















 缶珈琲を持っている腕を掴まれ、新一はそれを離してしまう。

 まだ中身を伴ったそれは、鈍い音をさせて液体を散らした。



 ・・・・・・風に吹かれカラカラと転がる。















 平次はそれでも、腕を離さない。



















「・・・・ちょ、ちょっとおい! 何すんだよ!?」

「こうでもせんと、お前また逃げるやろ」

「!」

「俺には時間がないんや。あと2ヶ月はまた逢えへんなんて・・・・・・そんなん、耐えられへん」

















 最後の言葉は、小さくて新一の耳まで届かない。





 でも、何か思いつめたような目をする平次に勝てる筈もなく――――・・・・・・新一は抗うのを止め、大人しく掴まれたまま後をついていった。


























ひとくぎり


























「――――――・・・・・この寒いのにバイクで来たのか」

「不満か?」

「別に、んな事言ってねーだろ」







 ひょいとメットを渡される。

 オフロードタイプの平次のバイクは、男2人が乗っても余裕な大きさだ。



 新一は素直に跨る。









 その時だった。

 ――――・・・ショルダーに入れてあった携帯の着信音が聞こえたのは。















「ちょっと、悪い」

「―――――・・・・・・」













 背中に新一の気配を感じたまま、平次は嫌な予感が胸をよぎる。

 バイクの排気音で声が聞き取りにくいらしく、新一はその場を離れた。



 その細い背中。

 平次は、ただじっと見つめることしか出来ない。

























 ――――――――――・・・・・・なんでこないに好きなんやろ。







 なんで・・・・・俺も工藤も、男なんやろ・・・・・・



























 今まで何と自問自答してきた言葉。

 いくら考えてみても、持って生まれた性は変えることは出来ない。





 確かに世の中には色々な方法で男が女になったり。

 女が男になったりが、可能ではあるけれど。



















 ・・・・・・・そんな事ではないのだ。





























 男が好きな訳ではなく。

 好きになったのが、『工藤新一』という『男』の性をもつ人間だったという事。





 ただ、それだけのこと。













 ただ、それだけのことなのに―――――――――・・・・・・

 世間一般には認められない『感情』だ。



















 関係ない――――――――――・・・・・そう言ってしまえば済むかもしれない。

 だが、やっぱり理性がそれを押し止める。











 何よりも新一本人にそれが知られた時、どういう反応を返されるか・・・・・・・

 そうでなくとも最近の新一は逢ってもくれない―――――――――・・・・



 まるで、避けられているかのように。





















 ―――――――・・・・・・気づかれたんやろか、やっぱ。

























 ここ数週間。

 眠れない日が続いた数週間・・・・・







 ・・・・こんな自分は、初めてだった。

















 ロスから帰ってこない新一を忘れようと、誘われるまま女の子と遊んでいても。

 何故か性欲が湧いてこなかった。























 いつでもどこでも。

 浮かぶのは、あの鋭い光の主。









 







 ――――――――――――・・・・・・手を伸ばせば確かに届くはずの、この東の名探偵だけだった。























 やがて新一が戻ってくる。

 その表情で、平次は自分の嫌な予感が的中したと悟った。











「・・・・・・・どないしたん」

「え、ああ・・・・蘭がさ、今うちに来てるって言うから」

「そうか。ならしゃあないな」

「え?」

「引き止めて悪かったな。蘭ちゃんによろしゅう言っといてや」

「ちょっと、おい!」













 話し掛けるのもろくに聞かず、平次は大きな排気音を立てて走り去った。

 残された新一は呆然とするばかり。



 冷たい風が、身体を包んだ。


















「・・・・・・・・何でこうなるんだよ」

















 電話は蘭からだった。

 新一の家に旅行のお土産を持って来たのだが、まだ帰ってないようだったからと電話してきた。



 用があるからすぐには帰れないと言ったら『別にいい』との返事。

 自分もこれから行くところがあるし、『このまま玄関先に置いておくね』と言葉を残し電話を切ったのだ。























 ―――――――――――・・・・・・だから、このまま一緒に行くつもりだったのに。





















 多分、気を利かしてくれた。











 ・・・そりゃそうだろう。

 今までだって、あいつはそうだった。







 けど。





















 強引に連れて行こうとしてくれて本当は嬉しかった。

 捕まれていた腕が、妙な熱さを伴っていた。









 ・・・・久しぶりのバイクの音。



 自分よりも確実に広い、肩幅・・・・・・













 ――――――――・・・・・・思い出すのは、あのクリスマスの夜のことばかり。























「・・・・・・どうしたら良いんだよ」















 追いかけることも出来ず。





 ・・・・待っていることさえ、出来ない。











 ただ単に。

 自分たちは、気の合う仲間同士でしかないから。




















 ・・・・・・・・・・『恋人同士』では、ないのだから。




























ひとくぎり

























 風が冷たさを増してゆく。

 新一は襟元を掴みながら、駅への道のりを歩いていた。



 辺りはすっかり闇が覆っている。

















「・・・・ん?」













 ポケットに手を入れた時に振動が当たる。

 それが携帯が起こしている物だと理解し、慌ててウインドウの表示を見た。







 ・・・・・・知らない番号だった。



























「誰だよ・・・・・・」













 新一は、他人に番号を教えることはまずない。

 目暮警部や高木刑事くらいならば、緊急用に教えてはいるが・・・・・・・念を押しているから漏れることはないはず。



 一度大学に入りたての頃にどこから知ったのか、知らない女からかかりまくる時期があって、即効契約解除した事があった。





 唯でさえ有名人。

 登録してない番号の呼び出しに、新一は出ない。









 無視を決め込んだまま放っておき、やがて地下鉄の駅に着いて階段を下りていくと・・・・・電波が届かなくなり振動は止まった。
























ひとくぎり



















 米花駅で降り新一はホームのベンチに腰を下ろした。

 まだまだ人は沢山行き交い、喧騒が耳にまとわり付く時間帯―――――――――・・・・・



 そして、無意識に誰かの影を捜している自分に気づく。





















 ・・・・・・馬鹿か、俺は。























 いるはずがないのに。



 大体、あいつの住んでいる所はこの駅とは何の関係もないのに。















 

 それでも・・・・どうして、あの電車の扉から出てくるかもしれない・・・・なんて思ってしまうんだろう。





























 5分置きには電車の入る路線。

 夜中の2時を過ぎるくらいにならないと、この場所は静かにはならない。



 会社帰りの疲れた背中。

 これからデートに向かうのだろう、恋人達の笑い声。















 ・・・・・・それぞれが、それぞれの日常の物語を創っている。



























「来るわきゃねーっつうの・・・・・」









 伏せ目がちに呟く言葉。

 伸びてきた前髪とともに、それらを風が揺らす。



 ポケットに両手を突っ込んだまま右手にあたる携帯を握り締める新一。

 そこでふと、平次の言葉を思い出した。

















『明日から4月まで大阪帰るんや。オヤジの手伝いもあるしな』























 ――――――――――――――・・・・・そうだ・・・・・・・あいつ、確かさっき。























 明日から暫く、大阪に帰ると言っていた。

 ・・・・・・すると約2ヶ月間。







 大学はこの時期授業はなく、来学期が始まるまで休みと同じだった―――――――――――・・・・・





























 ・・・・・・耐えられるのか?















 いや。

 今までこのふた月以上、隠してきたのだ。



 それに――――――――・・・これからもずっと、隠していかなければならないのだ。



















 早く慣れなければならない。

 服部がいないことに、慣れなければ・・・・・・













 じゃなきゃ俺はこれから先。

 どうやってこの気持ちと一緒に付き合っていけば良いのか、解らない。



















 ・・・・・大丈夫だ。







 ポーカーフェイスには、自信がある。





















 気持ちを隠すことなんて。



 慣れれば、なんてことは・・・・・・・





















 相変わらずの人の群れ。

 多ければ多いほどに自分の気持ちの淋しさは浮き立つ。



 俺が女だったら。

 あいつが女だったら・・・・・・この関係は上手くいっていたのだろうか?







 いや。



 大阪と東京に離れていた俺達が出逢えたのは、同性だったからこそだ。

 同性だったから今まで一緒に来られたのだ。

















「――――――――――――・・・・・あーあ」















 同じ事をぐるぐる考えてしまう。

 こんなことは、もう去年この気持ちに気づいてから幾度となく自問自答してきた事。



 決まった答えなんて、ありはしないのを思い知るだけ。

















 30分もそこにいただろうか。

 すっかり身体が冷え切った新一は、いい加減立ち上がろうと腰を上げた。







 ・・・・・・・上げた、つもりだった。





















「―――――――・・・・?」













 目の前が急に暗闇に襲われ、新一はそのままもとのベンチへ座る。

 頭を、2・3度振った。























 ――――――――――――・・・・・ちょっと寒さで麻痺しちまったかな・・・・・感覚が・・・

















 気を取り直し、もう1度。

 今度は何ともないようだ。



 その時再びアナウンスがかかり、人混みに捕まらないうちに改札口を出ようと新一は急いで階段を上っていった。


























ひとくぎり

























『原因が解らないって・・・・・』

『新一が例の薬で小さくなっていたことが、原因だろうな』

『それお医者様に・・・・?』

『言ってないさ。言った所で・・・信じてはもらえないだろう』











 ロスの工藤邸。

 優作と有希子は、居間のソファで深刻な面持ちで話し込んでいる。







『やっぱり、こっちで一緒に暮らしたほうが・・・・』

『・・・・そうだな』

『なら、早くしなくちゃ・・・・っ・・・・・・・じゃないと、新ちゃん・・・・』

『落ち着け、まだそうなると決まってる訳じゃない』

『そうならないって決まってもないじゃない! こうしてる間にも・・・・っ・・・もしかしたら・・・・』









 有希子の声が掠れていく。

 両手で顔を覆い、涙を流していた。







 ・・・・・優作は掛けてやる言葉が見つからない。





















 あの時。

 新一が受けた、検診。



 その後に優作の元にかかって来た、1本の電話。













 それは――――――――――・・・・・























 ・・・・・・・・・新一の身体に、原因不明の事態が起こっているという知らせだった。

























 医者の目から見ても明らかに体力消耗が激しく。

 顔色も、良いとは言えない。



 けれどもレントゲンや心電図には何も写らず――――――――――・・・・・









 ただ、今まで色々な症状や病状を診てきた経験から。

 どう考えても『何か』潜んでいるとしか、考えられないのだと言うのだ。









 もしかすると、何も発症せずに一生過ごせるかもしれない。

 反対に明日『何か』が起こるかもしれない。

















 ・・・・・・・優作は『そうですか』と答えることしか出来なかった。





















 窓が、ガタガタと揺れている。

 それは2人の心も揺れ動かす。















 やがて優作はゆっくり立ち上がると・・・・・・電話の受話器を、取った。