降り注ぐ月の光。

 以前と同じく、殺風景な部屋。







 蘇る・・・・あの時の想い。

























「―――――――――――・・・・・まだあの紙切れ、残っとるやん」























 机の脇のゴミ箱に目をやる。

 すると、確か去年のクリスマスの時に投げ捨てた筈の紙切れが入っているではないか。







 ・・・・・・あのままロスに行ってしまった事実をまた思い知らされ、平次は苦笑した。



























 電気も付けずベッド脇に腰を下ろす。

 静寂な空間に自分の心臓の音が響き、深呼吸した。



































 良かった。





 逢えて、追いついて良かった。





























 まだ今日は終わってない・・・・・









 まだ――――――――・・・・そばにいられる時間は、なくなってはいないのだ・・・・・



































 駅での感触が残ってる。

 あの、苦しそうな表情が焼き付いている。























 ・・・・・・抱きしめたかった。





 震える口唇を、自分のそれで止めたかった・・・・・・・



























『・・・・・・泊まるだろ』

『へ?』

『もう遅いし、泊まるよな・・・・・?』

『・・・・そやな』





















 あんな瞳で見られたら逆らえるはずがない。



 あんな声で言われたら・・・・・・



























 ――――――――――・・・・もう自分を・・・・押さえきれない。



































 思い出しただけで下半身は熱を持ち。

 同時に湧き上がる堪らない疼きが、今までのどの気持ちとも違うことを示していた。





























「!?」













 そのとき平次は窓の外に何かを感じた。

 それまでの熱っぽい感じはどこかに消え、緊張感と共に立ち上がりベッドに乗る。







 ・・・・ゆっくりと窓を開けた。











 階下の木々の辺りが揺れた気がして平次は眉根を寄せる。

 そして、数回閃光が見えた。



























 ――――――――――――・・・・・・まさか・・・・・またあの時の?































「工藤!!」









 光った辺りは確かバスルーム。

 平次は、窓も開けっ放しのまま部屋を飛び出した。
















そばにおいで[06]











「来た来た――――――――――――・・・・あれ?」

















 新一は階段を駆け下りてくる足音を確かに聞く。

 しかし、それは何故か玄関へと消えていったから拍子抜けした。



 暫くしてガサゴソと裏で音がし声が聞こえた。



















「は、服部? お前そこにいるのか?」

「――――・・・てて。逃げられてもうた・・・・・」



















 窓1枚隔てた外の庭。

 聞こえてきたのは、確かに服部平次の声。



 窓を開け新一は声を掛けた。















「何してんだそんなトコで?」

「いやな。上から見てたらここら辺光っとったから・・・・・・てっきりまたあいつやと思て――――・・・・・・っくしょい!」

「バカ! 早く入れ、寒いだろーが!!」

「工藤こそ早よ窓閉めや? ごっつ風冷たいで・・・・これで雨降ったら、カンペキ雪やぞ」



















 確かにひんやりとした空気を感じ、新一は身震いして窓に手を掛けた。

 でも。





 ・・・・・何となく閉められない。

 平次の足音が、未だ玄関に向かわないからだ。



















「お前・・・・何してんだよ。何でいつまでもソコ、いるわけ?」

「へ? ああ―――――――・・・・寒いけど気持ちええねん。冬の空気ってめっちゃ好きなんや、俺」

「けど上着も着てねえだろ?」

「・・・・・・この方が頭冷えるし。暫くいるわ」

「・・・え」















 表情が解らない分その声は低く感じ。

 新一は言葉を続けることが出来ずに、静かに窓を閉めた。



 そして冷えた身体を湯船に沈める。

 一度目を閉じ、お湯をすくい顔にかけた。













 ・・・・・・外の気配はまだ消えない。





















「服部――――――・・・・・まだそこにいるか?」

「・・・・おう」

「俺、今から行くから待ってろ」

「なぬ?」

















 突拍子もない新一の言葉に平次は変な声を出した。

 一体、何の為に今風呂に入っていると思っているのだろうか?



















「・・・・・俺も頭冷やしたいんだ」

「アホ! そんで倒れられたら困んのはこっちやで!?」



















 つい叫ぶが返答がない。

 すぐに窓の向こうで扉が閉まる音がして、平次は新一が本気でこっちに来ることを悟った。







 ・・・・・平次は複雑な心境で息を付く。



















 今新一が倒れても自分は明日から大阪に帰らなければならない。

 看病していられない。



 していたいけど、それを理由にあの父親に逆らえないのだ。









 新一の周りには、隣に住む阿笠博士を始めとして毛利蘭もいる。

 それにもと灰原哀と名乗っていた宮野志保も。


 自分がここに残る意味なんて全くない。























 ―――――――――――・・・ホンマ、いっつもいっつも人の気い知らんと自分勝手なやっちゃ。































 プライドは人一倍高いし。

 我侭だし。





 ほっそいくせに、喧嘩には強いし。

 顔に似合ってるのかいないのか性格は最強で。

















 ・・・・・・・・他人の気持ちには敏感なくせに、自分の事となるとさっぱり。

































「誰なんやろ・・・」



















 工藤の、好きな人は一体――――――・・・・





















 あの性格から想像するにバカな女には惚れはしないだろう。

 顔は――――・・・まあ、面食いかもしれない。





 ・・・・・自分より劣る人間に心を許しはしないだろうし。

 でも。















 毛利蘭以外に―――――――――――・・・・そんな人物は、思い当たらない。

































「・・・・なに浸ってんだよ」

「どわ!」

「ホラ、上着」

「あ――・・・すまん」















 足元までのロングコートを羽織ってきた新一。

 平次にさっきまで借りてた上着を渡し、一緒になって壁に寄りかかった。

















「星、見えないな」

「・・・・・雨降っとったからな」

「何で頭、冷やすんだ?」





















 眼前の上目遣い。

 寒さに震えている新一が小さく聞いてきた。



 平次は、とくんと心臓が鳴る。



















「工藤こそ・・・・何でや」

「俺? お前に醜態晒しまくりだったからな―――――――・・・・・はは、ホントごめん」

「頭・・・・もう平気なん?」

「ああ。薬も飲んだし」



















 飲んだなんて嘘。

 けど、こうでも言わないとまた平次は心配する。





 その時、風が凪いだ。





















 ・・・驚くほど無風。





 2人は、自分の心臓の音がやたらと響いているような錯覚に陥った。































 ・・・・・先に口を開いたのは、新一。































「和葉ちゃん元気か・・・・?」























 今にも消えそうな声。

 目は、伏せたまま。



 平次はと言うと突然出てきた幼なじみの名前に戸惑う。



















「元気やと思うけど――――――――・・・・何や急に」

「良かったな。明日からまた会えて」

「工藤・・・・?」



















 良かった?

 何がや?







 そりゃあ、こっちに来てからろくに帰ってないから会えるのは楽しみだけど――――――・・・・・・そんな事より、もうすぐ工藤と逢えなくなる事の方が重要なのに。



 そう平次が思っていることなど、新一は知らない。

















 『コナン』になっていた時から知っていた和葉の平次への想い。

 解っているのかとぼけてるのか、平次はまったくの兄妹感覚で。









 あの頃は『早く気づいてやれよな』なんて、思っていたのに――――――――――・・・・・・





















 新一はコートのポケットの中の手を握り締めた。

 そして、ポツリと言葉を出す。

































「長かったよな今日は・・・・・・」

























 宇宙に星は見えない。

 けれども、そこには確かに星は在る。





















「・・・そやな。けど、まだ終わってないで」

「え?」

「すまんけど我慢しいや」

「――――――・・・・・な、何だ?」



















 いきなり新一は肩を掴まれる。

 何事かと思う前に、身体に暖かい感触が被さってきて―――――――・・・・・・全身を包んだ。





 それは、つまり抱きしめられている状態。

 





























 ちょちょ、ちょっと何だこれ――――――――――・・・・・・?

































 両手をどこへ置いたらいいのか解らない。

 それ以前に、この状態が何なのかが全く解らない。



 どうして平次は自分を『こう』しているのか、解らないのだ。

















「は、服部・・・・・?」

「後ろの木の陰、また光っとったんや―――――――・・・・・お前のファンは、しつこいな」

「!? あいつ、まだいるのか?」

「こうなったら・・・・・いっそ、決定的瞬間見せとこか」

「決定的瞬間?」

















 耳元で囁かれる言葉が、どうにもくすぐったくてしょうがない。



 寒い状況の中でここは酷く居心地が良く。

 思わず目を閉じた時、姿を見せない『そいつ』に感謝した。



























 待て。



 今、服部は何を言った・・・・・?



































 新一の背の方向がまた光る。

 平次は抱きしめる手を強くすると―――――――・・・・その闇へ睨み、薄く微笑い・・・・・・































 ・・・・・髪の毛をくいと引き、うすく開く新一の口唇を塞いだ。









































 ―――――――――――・・・・・・え・・・・・・・?













































 風が途端に揺れだす。

 冷たい冷気に、新一はつい身を震わす。



 それでも平次は離れない。













 新一は、目を閉じることすら忘れ。














 代わりに平次の―――――――――・・・・・・閉じられている瞼を見た。





























ひとくぎり





































 どれくらい経ったか。

 数秒か、数分なのか・・・・・



 平次はゆっくり目を開ける。

 気配が消えたのを感じ取ると、ようやく口唇を離した。







 途端に、新一は全身で息を吸う。























「・・・・・・ええ加減これで諦めるやろ」

「だ、だからって何もここまで」

「せやから最初にスマン言うたやんか」

「そーゆう問題じゃねえ! ホントに信じらんねえなお前ってやつは!!」























 新一は走った。

 当たり前だ。こんな顔で平次に向ける訳がない。















 熱い。



 寒いのに、とてつもなく身体中が熱い。



















 ・・・・・・心臓なんて、飛び出しそうな程に。





























 玄関に飛び込み階段を駆け上り、ベッドに突っ伏す。

 すぐさまコートを脱ぎ布団に潜った。



















 ――――――――・・・・ど、どういうつもりであんな事。





























 本当は、自分が仕掛けようと思っていた事だった。

 窓の外から見ているだろうそいつの前で、自分から平次に・・・・



 けれども。























 ――――――――――――・・だから、優し過ぎんのは残酷だって言うんだよ・・・・・・・・・

































 服部は誰にでも優しい。

 それは、男女平等に悔しいくらいに。







 あんな事まで・・・・・してくれる程に。



























「ちくしょ―――――――――・・・・・なんか、泣けてきた」

























 さっきの野望は、どういう形であれ達成出来たのに。

 寂しさや苦しさは増すばかり。









 ・・・・・指で触れた自分の口唇が、震えているのが悔しい。



























 本当なら自分から行動して。

 それに驚く服部の顔が見たかったのだ。



 ・・・・・全く平気なフリして。

 笑って、いつもの状態に戻ってやるつもりだった・・・・・・

























『せやから最初にスマン言うたやんか』





























 あいつはあの後、なんて事ない表情で俺に話し掛けてきやがった。































 キスなんて、どうってことないのか?

 そういうもんなのか?







 けど・・・・・相手は男だぞ?

























 考えれば考えるだけ解らなくなってくる。

 大体、この名探偵と謳われる俺が解らないなんて事自体、腹立たしいのに。







 自分のことが・・・・どうしてこんなに理解不能なんだろう?





















 新一は布団から顔を出す。

 何で風を感じるんだろうと思ったら、窓が開けっ放しだった。



 ガラスに手を掛け下を見た時、まだそこに平次がいるのに気づいた。

 どこか遠くを見ているその姿に何故か少し胸が締め付けられる。





































 ――――――――――・・・なに、してんだよ服部。































 少し様子を伺う。

 すると、ポケットに突っ込んでいた手を出し・・・・・・・・・





















 指を、口唇に当てた。





































 ―――――――・・・え・・・・?

































 新一は後ろを向く。

 そしてすぐに窓を閉めた。





 壁際に寄りかかり、呼吸を整える・・・・

























 今のは何だ?

 俺は、何を見た・・・・?















 どんな意味で―――――――・・・・服部は、あんなこと・・・・・

































 でもそれは自分でも到底信じられない事だった。

 期待すら生まれないことだった。



 やがて、ひとつの足音がこちらに向かってくる。

 新一は何故か緊張して・・・・・・扉が開くのを待った。
































ひとくぎり

































 ・・・・怒っとったなあ。





 そら、そうやろなあ・・・・・・



























 平次は走り去った新一の残像を目で追う。























 ・・・・なのに俺・・・



 何でこないに、冷静なんやろ・・・・・



























 本当はこんなことするはずじゃなかった。

 抱きしめて、キスするフリするつもりだった。



 けど、新一の背方向にフラッシュが見えた時、頭の中に『チャンス』という声が響いて・・・・





















 それからは―――――――・・・・自分でも、よく覚えていない。



















 自分が見せ付けたかっただけなのだ。

 新一といる所を、あいつだけにではなく―――――――・・・・誰にでも。















 相変わらず自分の胸に収まる身体。

 まだほのかに香る、暖かい風呂上がりの身体。









 ・・・・・頬にあたる髪の毛がくすぐったくて。















 浮かび上がる蒼白い肌が脳裏から離れなく。

 次の瞬間、目に飛び込んできたのは――――――――――・・・・乾いた口唇だった。



























「―――――――・・・・・ええ加減諦めなアカンのは、俺やな」



















 こんなに抑えが利かなくなってる。


 このままでは―――――――・・・・無理やり、何するか解らない。









 深呼吸し星のない夜空を見上げる。

 そうして未だ感触が残っている口唇に自分の指をあてたとき、上の方で窓の閉まる音がした。











「・・・・さて、と」











 また風が強くなっている。

 平次は視線を窓に向け、その場所へと向かうべく歩き出した。
























ひとくぎり



























 平次は新一の部屋の前で立ち止まる。

 息を吐くと、ノックして扉を開けた。













「工藤・・・・・・・入るで」











 返事はない。

 電気も付けてなく、真っ暗で何も見えない。















「もう寝たんか?」

「・・・いや」

「なら明かりくらい付けたらどうなんや」

「もう3時過ぎてるぜ? そこに寝間着おいといたから、着替えろよ」

「・・・・そらどうも」











 話が繋がっているような繋がってないような。

 とにかく言われた通り、平次は着替え始めた。







 ・・・・新一の視線がずっとこっちを見ている。









「工藤―――――・・・・オトコの身体見んの、趣味か?」

「別に」

「あ、そ・・・・」











 会話が続かない。

 妙な雰囲気が辺りを包み、平次は首を傾げつつ寝間着を取った。





 暗闇でもその形のいいシルエットが浮かぶ。

 自分と確かに違う体つきに、新一はまた悔しさの表情を浮かべた。









「―――――・・・で。俺はどこで寝たらええんかな?」

「ココ」

「へ?」

「・・・・俺がクリスマスん時に消えた理由、教えてやるよ」











 ぽんぽんと叩くのは今新一が入っているベッドだ。

 一緒に布団に入るのはまさにあの時ぶりで、平次は少し躊躇した。



 だけど、この暗さではそんな表情は新一には解らない。











「・・・・・お邪魔します」

「おう」









 布団に潜り枕の下に手を突っ込んで窓の外を見ている新一。

 その横で、平次はとりあえず仰向けになった。







 2人とも、表向きは静かだが――――――・・・・内心の葛藤は激しい。











「ほんじゃ聞かせてもらおか? 消えた理由」

「服部・・・・」

「ん?」











 新一の声が聴こえる。

 いつもの調子で返事し、そしてその声に向いた平次。



 しかし次の瞬間。

 声は身体を伴って、擦り寄ってきたから驚く。











「く、工藤??」

「・・・・っ・・・・・・・わり・・・・ちょっと、このまま・・・・・・・・」

「・・・・工藤? ど、どないした!?」











 擦り寄る。

 いや、正確に言えば『丸まって』きた新一。



 どこが痛いのか、頭か胸か――――・・・・・・?

 必至に痛みを我慢している表情が見て取れ、平次は『救急車!』と思いベッドから降りようとした。









 ・・・・しかし、新一の手がそれを止める。













「――――――・・・・いい・・・・大丈夫、だから・・・・・・・っ・・・・」

「どこが大丈夫やねんな!? どう見たかて――――」

「とにかく呼ぶな!! 頼むから・・・・・すぐ、治まるから―――――――・・・・」

「・・・・どういう事や・・・お前、これが初めてちゃうんか・・・?」















 力なく微笑う新一。

 自分を止める手が、まだ震えている。













 平次には―――――――・・・その手を離すことが出来なかった。





























 汗が滲む額。

 閉じられた、瞳。





 寒さとは違うものが、新一の身体を震えさせ。

















 ・・・・・・呼吸を、荒くさせている。

























 やがて落ち着いたのか目を開けた。























「――――――・・・・ごめん・・・・・やっぱちょっと身体、冷えすぎちまったみたいだ」

「いつから、こんなんなっとるんや」

「こんなって・・・・単なる風邪だ」

「風邪やと? お前、俺バカにしとんのか!?」









 どう見たって風邪の症状じゃない。

 確かに熱はあるみたいだが、あんなに苦しそうなのは絶対に違う。











「落ち着けよ・・・・・俺も、そうじゃねーかなと思って・・・・・・ロスで調べてもらったんだ。けど、やっぱ風邪って言われたんだから」

「・・・へ?」

「それが、クリスマスに消えた原因。消えたっつーか・・・・・前からあっちに行く予定だったんだけどな。お前に言ってなかっただけで」

「――――・・・・・なんやそーか。なら、あんな意味深な書置き残すなっちゅーねん」

「イミシン? そうか?」











 笑いが、口から零れる。

 だんだんと元気が戻ってきた新一に、平次は安心して息をついた。













「せやけど気いつけや? 『コナン』から戻って調子おかしいんやろ? 無理だけはすんなや」

「・・・・え」

「俺がそばにおれたらええねんけど――――――・・・・・そうも、いかんしな」















 自分は暫く大阪へ帰らなければならない。

 だから、近くにいることは出来ない。





 平次は確かに『そういう意味』でこの言葉を言った。









 身体を小さくされ、暫く7歳という身体に閉じ込められた17の新一。

 それを解っているのは自分と阿笠という人物と、同じ環境だった灰原哀・・・・あまりにも、それは少ない。

















 だから、またこんな症状が出たとき。



 ひとりならまだしも誰かがそばにいたら―――――――・・・・大変な騒ぎになるだろう。





























 ・・・しかし。



 新一には、違う意味で聴こえてしまったのだ。

























『俺がそばにおれたらええねんけど――――――・・・・・そうも、いかんしな』

























 ――――――――・・・俺は『お前の』やないから。





 せやから、そばにいる訳にいかへんのや――――――――――・・・・と。

























 それはキスへの戒め。

 勘違いはするなと言う、遠まわしの拒否。

























 ―――――――――――・・・・・・・解ってるのに、そんな事。























 期待なんてするわけないのに。

 服部は深い意味なんて、これっぽっちもなくただ俺が困ってたから・・・・・だから、してくれただけ。

















 そんな事、解ってる――――――――――・・・・

























「・・・寝ようぜ。もう眠い」

「いて!」

「どうした」

「なんぞほっぺた当たった・・・ピアス・・・・・?」

「あ。悪い・・・・・・寝るときに外したやつ、落ちたんだ」













 枕にあたるとピアスは痛い。

 風呂で外し忘れた時、よく新一はここで取って枕もとに置くクセがあった。













「プラチナか?」

「ああ」

「ほー・・・・綺麗やな」















 窓からの少しの光で平次はその小さな粒を照らした。

 指と指の間で煌く銀色に、誰かを思い出す。







 ・・・・・・・隣にいる誰かを。































――――――――――――・・・・だから平次は、そのちいさな粒に軽く口唇をあてた。





























 もちろん、その様を見ていた新一はぎょっとする。









「ちょ、ちょっと何してんだお前!?」

「―――――・・・おまじない」

「は?」

「・・・俺の代わりやと思うて、いつもコレしとってな」

「い、意味が解んねえんだけど・・・・・」

「意味?」











 平次の目が据わっている。

 様子が、違う。

























「そんなん――――――――――・・・・・・・これしか、あらへん」

「・・・・・っ・・・服部?」























 次の瞬間。



 もともとの闇は更に深くなり―――――――・・・・・新一に重力が加わった。



























 口唇に生暖かい感触。

 身体には、自分以外の体温。















 ・・・・・・新一は目を閉じる事が出来ない。



























 これは何だ?

 夢か?













 俺は――――――・・・・もう、夢の中にいるのか?





























 そう思っていると少し口唇が離れた。

























「・・・・・逃げへんの?」

「逃げる・・・・?」

「俺・・・・お前にキスしとるんやけど」

「・・・そうだな」

「・・・・・・」



















 至近距離で見つめ合う2人。

 身体を押さえつけても居ないし、逃げようと思えばいくらでもそうできる状態。



 なのに新一は金縛りに遭ったようにそのままで。

















「この状況・・・・解っとるんか」

「・・・だって夢だろ」

「―――――――――・・・・・そやな、夢や」





















 ・・・そうして再び口唇は重なり。

 湧き上がってくる甘い感覚に、全身が包まれる。


















 そして何度も何度も、ついばむようにそれは繰り返され・・・・・・・
































 やっぱり夢だ――――――――――・・・・・・・新一はそう思うと、意識を手放した。