遅刻の原因





「今日、何時に終わる?」

「ん~・・・・6時やな」

「解った。じゃあ7時に迎え行く」















 朝。

 もぞもぞと布団から這い出る、ひとつの影。



 寒そうに衣服を纏い始める。















「・・・工藤は予定ないんか?」

「今日はね」

「ほー・・・・ホンマかいな」

「うるせえな。もっかい寝るから早く行け」

「へいへい」













 名残惜しげに影は口唇を掠め盗る。



 『ばーか』と呟くもうひとつの影。

 それは直ぐ背中を向けると、深く布団に潜ってしまった。




























ひとくぎり

























 工藤新一、服部平次。

 東西の名探偵は現在、東にて共に同じ大学へ通う日々。





 世紀末も本格的になってきた、今日は12月の土曜日。



 平次は剣道の稽古の為に9時から出かけ。

 新一はというと、特に何も予定なし。























「天気もいいし、気持ちいい朝だな・・・」













 さんさんと光が、窓から差し込んでいる。

 2度寝ほど気持ち良いものは無い。



 だからカーテンを全開にしたまま、新一は再び布団にくるまり目を閉じた。






























ひとくぎり



























「あれー・・・うっそ」

















 新一は、まだ夢の中にいるのかと思った。















 何故か?

 それは、目が覚めたら暗闇だったからだ。



 寝ぼけた思考を、起こす。

















 ・・・そうして枕元の時計に目をやると、針は18時45分を差していた。

























「・・・・・なんか、あったよなあ」



















 そう呟いた途端、新一は思い出す。

 確か、7時に服部を車で迎えにいって・・・・そのまま適当にメシ食いに行こうと言っていた事を。



















「うわ、俺、ずっと寝こけてたワケ?」















 すっかり暗くなった部屋。

 しかも裸で寝てたから、瞬時に寒さも思い出す。



 新一は身体を震わせながら服を着た。























 ・・・・ちょっと髪の毛がはねてるけど顔くらいは洗っていかねーと!!























 洗面所で水の冷たさを我慢し。

 ハーフコートを引っ張り出してきて、マフラーを巻く。



 玄関前の鏡でとりあえずチェックする。

 そしてあわただしく、新一は飛び出した。






























ひとくぎり



























「―――・・・何しとったん?」

「ご、ごめん」

「今何時やと思うてんねん」

「だから悪かったって言ってんだろ!」

















 19時40分。

 急いだけど、やっぱり道は混んでいて・・・・



 携帯で連絡でも入れれば良かったのだが、急いでたから部屋に置いてきてしまった。

















 多分、平次も何度も電話している筈。

 帰ったら一体いくつの『着信あり』があるのだろう?



 新一は運転席でハンドルを握り締めたまま、つい怒鳴った。



















「何や、逆ギレかい」













 解ってる。

 平次も、本当は解ってる。



 新一が悪気があって遅刻したことでは無いことくらい、解ってる。

 時間にルーズな彼では決して無いのだ。

















 でも。



 口から出るのは、いつもこんな言葉ばかり。

























「・・・・何、しとったんや」

「な、何って」















 平次は、最初の質問を繰り返す。

 新一は何故か理由を言いにくそうだ。



 そこに、また腹が立ってくる。

















「俺には言えんことか?」

「・・・・笑うなよ」

「は? 笑う?」

















 小さく呟く新一の声。

 でも、その言葉に疑問符を投げかける。









 ・・・・・そして新一は、大きく息を付いて平次を見た。































「寝てたんだよ・・・・お前が行ってから、ずっと」

「へ?」















 平次は素っ頓狂な声を出す。

 新一は『やっぱりな』と、呟いた。










「俺も驚いたんだよ! 気持ちよく寝てたら、なんか寒くてさ・・・あれ? と思って起きたら暗いし。時計見たら・・・もう7時になるトコで・・・・・・」



















 そして、もう一度大きな息を付く。




 耳まで真っ赤な新一。

 その様は、平次の凍てついた身体を溶かしていく・・・



























――――――――――ホンマにもー・・・・・可愛ええっつーか何つーか・・・・・・・































 けれどそんな事。

 絶対に、口に出しては言えない。









 ・・・・だから笑った。































「わ、わははははは! アホやなお前!!」

「だから笑うなって言っただろうが!」















 新一はむくれる。

 そして、ブレーキを上げウインカーを出し国道へ出た。



 急発進に、平次はつんのめる。















「危ねえぞ・・・・シートベルトきちんとしやがれ」

「どっちが危ないんじゃい!」

「つべこべ言うな。俺は腹減ってんだ。だから怒らすな」

「ちょ、ちょお待て! 怒っとるんはこっちやぞ!?」





















 荒っぽい新一の運転。

 睨む、瞳。





















 ・・・・とりあえず、無事に目的地へ着くまで黙っとこうと平次は決めた。
























Fin