想いの距離





「・・・・じゃあな。風邪、引くなよ」

「工藤こそ」

「今度来る時は、みやげくらい持ってこいよな」

















 東京駅。

 ここは、その中にある新幹線の改札口前。





 昨日の夜遅く突然新一の家に来訪した平次。

 それから、今の今までずっと一緒に過ごして・・・・・













 そして今。

 とうとう最終の新大阪行きの新幹線の時間。



























 東京と大阪に離れて暮らす2人。



















 明日からまた。



 ・・・・再び、別々の生活へと戻る2人。

























「ほら、乗り遅れるぜ」

「・・・せやな」





















 ちっとも行こうとしない平次。

 その目が、また新一の心を掻き乱す――――・・・・・











 だが、此処は天下の往来東京駅構内。

 他の恋人達の様に別れを惜しみ抱き合うわけにもいかない。























 そう。





 ・・・・・・・2人は、誰にも秘密な感情を共有している関係なのだ。

































「工藤、コレ」

「ん?」

「―――――・・・今日、14日やろ」

「って・・・」





















 そっと手の中に渡されたもの。

 それは、ラッピングされた小さな包み。















「何で・・・・俺、お前に何もやってねーじゃん」

「アカン、もう行くわ」

「ちょ、ちょっとおい!?」



















 いつものスポーツバックを背負い、平次は背を向け改札口を通る。

 そのまま振り返ることなく。



















 ・・・・姿は人込みに紛れ、見えなくなった。

































「コレって・・・・ホワイトデーのアレ、だよなあ・・・・・・・・何でだ?」





























 新一は意味が解らない。

 そのまま暫く去った先を見つめている。



















 それもそのはず。

 ホワイトデーにこうしたものをくれる、というのは・・・・バレンタインの日に『何か』をあげた、という事が前提のはず。



 しかし。



















 新一は、バレンタインに平次に何もあげてはいないのだ。































「変なヤツ」















 新一は微笑う。

 手の中のちいさな包みを眺め、微笑う。























 ・・・・・・・・・どんな顔してコレ買ったんだろう、あいつ。























 コンビニか。

 何処かの特設売場か。



 どっちにしろ、きっとアレコレ考えての『コレ』なのだろう。































 ポケットにしまい顔を上げる。

 マフラーを直すと、自分の家に帰るべくいつもの路線へと足を進めた。


































ひとくぎり

































 車内は思ったより空いている。

 わざわざ指定席で無くとも良かったかなと思いつつ、平次は席へ座った。























 窓に映る自分自身。



 少し息を付くと、電車は静かに動き出しす。

































 ・・・・・案の定、呆けとったな工藤。























 そりゃそうだろう。

 バレンタインにチョコも貰ってないのに、お返しをあげたのだ。



 誰だって『なんだ?』と思う筈。





























 ―――――――――・・・けど・・・・・ホンマに嬉しかったんや。

































 嬉しかった。











 互いが互いを『そういう感情で想ってる』事に今年になって気づいて。

 気付いたけど、一緒に居ることは出来ない東京と大阪の距離にも同時に気づいた。





 休みの度に、逢いに行こうと思った。



 けど。











 ・・・・・・・工藤は別にそういう風に考えてないのかもしれん。



 そう思うと、行けなかった。



























 自分だけが、こんなに好きなのかもしれない。

 この強すぎる想いは、自分だけかもしれない。







 以前は思ったら直ぐ行動に出して東京に行ってたのに―――――――・・・・

 こんな自分に、自身が一番驚いていた。



































「けど・・・・ホンマ、モノやないんやなあ・・・・・・嬉しいんは」























 それは、2月も14日を終えようとしている時だった。

 毎日の稽古も終わり、夕飯も食べ風呂も入り部屋に戻って来た平次は机の上に置いてあった携帯にメール着信のマークが付いてる事に気付いた。













『誰やろ』











 受信トレイを開く。

 件名は『よう』。



 そして中身を見ると・・・・





















 ひさしぶり。前の携帯とうとう

 駄目になっちまってさ、買い換

 えた。

 そしたらメール機能付いてたか

 らさ、確かお前のも付いてたな

 と思って。驚いた?けど文字打

 ちにくくて腹立つな・・・あ、

 いや、何が言いたいのかと言う

 とな、別に用は無いんだ。ただ

 ちょっと連絡しとこうと思った

 だけだから。じゃあな。






























『・・・工藤?』











 この番号は確か新一。



 新一の携帯は確か2年前くらいので、メール機能は付いてなかった。

 そういや調子悪いって言ってたっけ。



























『ほー・・・・とうとう買ったんや』















 返信を送ろうと思ったが、間違って閉じてしまう。

 しかしその時、まだ未開封のメールがある事に気付いた。









 それもまた新一から。



 今度は件名も無いそれに『?』と思いつつ、ボタンを押した。




















































 お前に逢いたい


























































 途端、平次は身体中の温度が上昇する。















 たった一行のそれは、きっと一番言いたかった事。

 電話じゃとても言えない、メールだからこそ言える気持ち――――――――・・・・・・





























 送信の日時は1時間くらい前。



 もしかすると・・・・



























 ―――――――・・・まさか電話のそばで・・・・・返事待っとるんや・・・ないやろな・・・?



































 自惚れかもしれない。

 けど、何故か確信していた。



 今電話すれば、新一は出るという確信が。

















 気持ちは通じ合ったけどすれ違いが多かった2人。

 平次はすぐ新一の携帯に電話を掛け、数コール目で新一が出て。







 ・・・・何となく他愛のない話をした。































 そして、終わった後平次は。









 ・・・・・やっぱり今の電話では言えなかった『言葉』をメールで返したのだ。




































ひとくぎり































 それが平次の『バレンタイン』。

 新一はきっと、あのメールとバレンタインを関連付けてはいないだろうけど。



 平次はポケットから携帯を取り出し、受信トレイを開いた。









 件名も何も無いメール。

 保護が掛けてある唯ひとつのメール・・・


















「・・・・こんなん、とっといてあるなんて言うたら・・・・工藤どんな顔すんのやろ」































 平次は微笑う。





 昨日の夜に押しかけ、そして今日1日ずっと一緒に過ごした事を思い出す。

 ただ、何するでもなくただ一緒に居たことを。





















 今度はいつ逢えるんやろなあ・・・・





























 やがて平次は目を閉じる。

 電車の振動は酷く心地よく、薄く開く口唇から吐息が漏れ始めるのに時間は掛からない。

































 手元の携帯電話。





 その時、それが僅かに揺れた・・・・


































ひとくぎり





































「・・・・寝ちまったかな」

















 電車の中。

 新一は小さく息をつき、返事の来ない携帯を見つめる。















 この時間だと、出発してから20分くらい。

 多分もう眠っているんだろう。



 諦め、コートのポケットにそれをしまう。



























 ―――――――・・・・今度は、俺から押しかけてやるからな。



























 いつもいつも。

 逢いに来てくれるのはお前の方から。











 だから、今度は。

































 ―――――――――・・・あ、でもアイツんち・・・・実家か。




 やべえかな・・・・・?

































 さすがに堂々とじゃれあえないなあなんて思う新一。

 表情に出さずに苦笑すると、寄りかかってる扉の硝子を見る。













 ・・・そこに映っている自分が何だか凄く幸せそうに見えて、思わず照れた。































 手元の時計が静かに日付を変える。

 今日からまたいつもの生活が始まる―――――・・・・・・・・・



























 ・・・・・それは、確実に次に平次に逢える日へと続いている。






















Fin