ポーカーフェイス・ライフ





「あ。これカッコイイ」

「ん?」











 駅ビルの1F。

 すぐ入った先にある、時計専門店。



 新一は、硝子ケースの中のあるひとつの腕時計に目をやる。











「アニエスか。俺もいくつか持っとるで」

「え? してんの見たことねえぞ」

「俺のイメージちゃうし。せやから貰ったけど付けたことあらへん」

「なんだソレ。もったいねえ」













 平次の言葉に苦笑する新一。

 どうやらそれらは女達からの貢ぎ物らしい・・・・





 けれど、どれも2万は超えるもの。

 だからもったいないとしか言い様が無い。















 その時、平次が新一を見た。

 新一は次に何を言われるか容易に想像がついた。





 だからつい眉根を寄せる。

















「もし要るんやったら・・・・・」

「冗談。欲しけりゃ自分で買う」

「・・・・・何怒っとんねん」

「怒ってねえ。あ、コレ見せて下さい」















 と言ってる新一だが、明らかにそれは『怒っている』表情で。

 近くの店員に時計を出してもらい、平次の目の前で装着し腕を突き出した。















「どうだ?」

「・・・・よお似合っとると思うけど」

「だろ。どの色にしよっかな」















 新一が選んだものは、クロノタイプで。

 文字盤がブルー・ホワイト・ブラックの3色が並んでいた。



 今付けているのはブルーだ。

















「どの色が一番人気あるんですか?」

「そうですね。やはり何にでも合うという点で、黒のタイプですね」

「そーですよねえ・・・・」















 店員にも少し新一は聞いてみる。

 何となく気分で新一はブルーを選んでみたのだが、長くどんな時にも付けられるのはやはりブラックだ。















「それでええんちゃう?」

「へ」

















 その時平次が言葉を出した。





















「最初にそれがええ思たから付けてみたんやろ? 直感は大事やで」

「・・・・・」

















 平次の視線は、別に新一に向いてなかった。

 硝子ケースの他の時計を、面白そうに見ているだけだ。














「・・・・言われなくてもそのつもりだ」












 新一は、じゃあコレお願いしますと店員に時計を返す。

 次に相変わらず他の時計を物色している男に、話し掛けた。





















「お前はどんなのが良いんだ?」

「そうやなあ・・・・Gショックとか」

「あ。らしいらしい。じゃあコレとか良いんじゃねえの?」



















 新一はGショックのアナログタイプのものを指差す。

 前はデジタルが主流だったが、最近は多くこのタイプを見かける様になった。

















「俺さ、デジタルよりアナログが好きなんだ。なんつーかこのパッとみて時計! って感じのが」

「解るような解らんような・・・・」

「だから買うんならコレ、買えよな」















 お待たせしました、と店員が帰ってくる。

 カードを渡して会計を済ませ、新一は小さな紙袋を受け取った。






























ひとくぎり





























 店を出て、電車に乗るべく駅構内へ入る。

 歩きならが新一は平次に聞いた。















「そーいやさ。何でお前にアニエスばっかくれた訳? そいつら」

「は?」

「・・・大体、あげるもんってのは最初にリサーチしてから買うもんだろ。そのオンナ達だって好きだと思ったから買った訳だろうし・・・・・そこらへんが解んねえな」

















 どうやら。



 さっきの平次の言葉が新一は引っかかっているらしい。



















「知らんがな。そんなん」

「あっそ・・・・まあいっけどよ」

「のど渇かへん? ちょお珈琲飲んでこうや」

























 平次は、言わない。





 自分が大阪に居た時。

 まだ新一と、こんな関係になっていなかった時。

















 ・・・・・・・自分の気持ちに気づいていなかった、時。

























『何見てるん? 時計?』

『ええなあコレ』

『平次くんこうゆうの好きなん?』

『・・・・あいつ付けたら似合いそうや』

『何かゆうた?』

『へ。ああちゃうちゃう、何でもあらへん』





















 どうしてか。

 ふとした瞬間に、思い出す1人の少年。









 遠いかの地の、東の名探偵・・・・・・























『・・・・俺に?』

『誕生日やったんやて? 言うてくれへんから、遅れてしもたやんか』

















 その当時。

 色んな女から渡された、小さな箱。















 ――――――――――・・・・それは決まってアニエスの腕時計だった。

































 そのとき平次は自覚したのだ。



















 自分が誰をずっと見ていたのか。



 誰を思って、いつも過ごしていたのか・・・・



























 だから。







 もらった腕時計は皆、新一に似合いそうなものばかりだった。


































ひとくぎり



























「おい服部!?」

「え」

「ぼけっと歩いてんじゃねえ。どこ行く気だよ」















 気が付けば地下街の隅。

 薄汚れたその場所は、トイレの近くだからか独特の匂いがしていて。







 ・・・・平次は、ふと新一を見た。























「な、何だ?」

「工藤・・・・俺、今ごっつヤバイ気分なんやけど」

「は?」















 喧騒は遥か遠くに聞こえ。

 誰も来そうに無い場所で、新一は壁際に追いやられる。















「や、ヤバイってそのヤバイか?」

「他にどんなのがあんねや・・・・・・・」

「ココどこだと思ってやがんだ!」

「キスだけやて・・・・・」

「ちょ、待――」























 返事なんか待たない。

 平次は目の前の顎を持ち上げると、喰らいつく。
















 ・・・・・・・・すぐさま舌が入り込んで来て新一の意識を奪った。











































 そして、約60秒。

































「・・・・お前、溜まってんのか・・・?」

「いや・・・その・・」

「なんでいきなり発情したのか解んねえけど――――――――・・・・家まで、我慢しろ」

























 怒鳴られるのを覚悟してた平次。

 でも、返ってきた言葉は思ったより優しかったから驚く。























「何だその顔?」

「・・・蹴り入れられるかと思とった」

「へえ。じゃ入れようかな」

「え、遠慮しときます!」























 微笑う新一。

 その手が伸びてきて、平次の頬を包む。



























「お前、ホント俺にベタ惚れだな」

「く、工藤?」

「・・・・そんなんじゃこの先辛いぞ」





























 最後の方は、小さくて平次には聞き取れない。



 でもその目は何故か哀しそうで・・・・

 だから抱きしめようとしたけれど。





























 ・・・・・遠くから足音が聞こえ、2人は離れた。






























ひとくぎり































 彼等にとって、滅多に無い2人きりの時間。











 日常の中で―――――――・・・・許されない、距離。



































 世間の目の届かないところでのみ、抱き合える関係だから。



 だから、俺たちは。































 ・・・・・・・・・・ポーカーフェイスがやたらと上手くなっていく。


























Fin