きみを忘れても





 今日は、月曜日。



 野球も今日は休みの日・・・・・






























ひとくぎり



























「なあ服部・・・・」

「ん~」

「・・・・俺がお前の事忘れたらどうする?」



















 夜は10時を過ぎ。

 テレビを見ていた新一が、画面から目を逸らさずに呟く。



 どうやら、今見ているドラマがその手のものらしく。

 どういった『答え』を期待して聞いているのか、平次は迷った。















「そうやな・・・・そん時考えるわ」

「あ。すげー冷たい」

「そういうお前はどうやねん? 俺が工藤ん事忘れたら、どないするん?」

「そうだな。俺も忘れる、お前の事」

「なぬ!?」



















 ソファの上に、うつぶせ状態になってテレビを見ている新一。

 足をぱたぱたさせながら、せんべいを咥えて平次の質問に答える。













 その淡々とした口調。

 カチンとくるが、これが新一なのだからしょうがない。





 気を取り直し、隣の部屋からバスタオルを持ってきた。





















「俺、風呂入ってくるわ」

「おう」















 リビングから平次の気配が消える。

 やがてシャワールームの扉が閉まる音がして、ようやく新一は身体を起こした。





































 ――――――――――・・・『記憶』は、人間を構成する大事なもの。







 それが無くなってしまったら、きっと立ってはいられない・・・・



































 まだまだドラマは続いていて。

 登場人物たちの想いが、音楽と共に流れてゆく。



























 ・・・・・新一は、時々この手の物語が正視出来なくなる時がある。

































 忘れたい記憶は、確かにある。

 でも、それは『これまでの自分』を否定してしまう事。



















『そういうお前はどうやねん? 俺が工藤ん事忘れたら、どないするん?』

『そうだな。俺も忘れる、お前の事』





















 服部が俺の事を忘れたら。

 解らなくなったら。





















 ・・・・きっと俺は・・・・・・・・・

































「・・・・『忘れさせへん』くらい言えねえのかよ」



























 今度は仰向けになる。

 ソファの上から、天井を見つめる。



 リモコンでテレビの電源を消す。



























 シャワーの音が遠くに聞こえる――――――――――・・・・









































 そうだな。



 何度思ったか知れないな。























 ・・・・お前へのこの気持ちが、忘れられればどんなに楽だろうかと。

































 苦しい。



 寂しい。

























 そばに、いたい・・・・







































「どーせずっとそばにいる事なんて出来ねーのに・・・・・バカは俺か」

























 自嘲気味に微笑い、目を閉じる。

























 どんなに近くにいても。

 毎日の様に肌を重ねていても。























 あいつを捕まえていられるのは繋がっている時だけ――――――・・・・



































 俺達が自由に暮らせるのは、今のこの時期だけだ。

 学生の、この時だけ。



 年を重ねる毎に、この関係は難しくなっていく――――――――――・・・・・・



























 新一は少し考える。

 そして、ぽんと手を叩いた。























「そっか。あっちから離れられなくすりゃいーんじゃん」

















 起き上がる。

 そして、ぺたぺたと素足のまま風呂場へ向かう。



 そして予告も無く扉を開けた。

























「どわ!? ・・・・ななな、何や工藤っ?」

「あ、悪り。服脱いでなかった」

「は?」

「・・・・今日は風呂場でヤりたい気分でさ」

























 ちょうどシャワーを浴びていた平次。

 頭の上から、絶え間なく降り注ぐお湯の雨・・・・













 滑らかな腰のライン。







 ・・・綺麗な鎖骨が、新一の瞳に映る。

























「やっぱ濡れてるお前って最高」

「ったく・・・・どーなっても知らんで」

「ちょ、待て、今、脱ぐ・・・っ・・・」

「アホ・・・人の楽しみ奪うなや」

「・・・それもそうだな」















 その首に、新一は腕を絡ませる。

 降り注ぐ熱い雨が、至近距離で囁きかけるのと比例して相乗効果を生み出し―――――・・・・・2人の間に艶の雰囲気を醸し出す。





 いつになく挑発的な表情。

 平次は口唇をぺろりと舐め、その誘いに乗る・・・・























 自分から服を脱ごうとした手を止め。



 口唇を塞いだまま――――――・・・・平次は巧みに、衣服を剥いでいった。
































ひとくぎり





























『そういうお前はどうやねん? 俺が工藤ん事忘れたら、どないするん?』

『そうだな。俺も忘れる、お前の事』























 服部が俺の事を忘れたら。

 解らなくなったら。



























 ・・・・きっと俺は・・・・・・・・・

































 でも、そんな事にはさせやしない。









 俺を、忘れたりなんかさせない―――――――・・・





































「・・・・工藤」

「ん?」

「俺ん事忘れるなんて、2度と、言うなや・・・・」

「え」

「心臓、止まるかと思うたで―――――――――・・・・・アホウ」

























 長いキスとキスの間。

 息継ぎの瞬間に、囁きあう言葉。















 立ったまま、濡れる2人・・・・



























「心配せんでも・・・そん時は、こーやってキスしたる」

「服部・・・・」

「・・・変態て罵られようが、思い出すまでなんぼでもしたる――――――――――・・・覚悟せえ」





























 けど俺、すぐ蹴り入れそうな気がするけどな・・・・・























 新一は、初めて平次と肌を重ねた時の事を思い出し
微笑(わら)う。

 そして少し、絡みつく腕を強くし・・・今度は自分から目の前の口唇を塞いだ。


































ひとくぎり







































 今日は、月曜日。



 野球も今日は休みの日。



































 ・・・・珍しく新一が、素直に行動に出た日。





















Fin