手強い好敵手







「工藤、塩は?」

「左上の棚」

「しょっちゅう使うもんは出しとけやも~」

「滅多に料理しねえから」



















 工藤邸。



 キッチンで忙しく動いているのは、西の名探偵と呼ばれる服部平次。

 そしてリビングで珈琲を飲みながら新聞を読むのは、東の名探偵である工藤新一。









 今日は2人で釣りに行こうと言っていたのだが、あいにくの雨。

 代わりに『どこに行こか』という平次に対し、新一は『家でごろごろ』との返答で。

 


 だから平次が、この家にやってきたわけである。





























 現在、お昼過ぎ。

 しかしそのキッチンに立っているのはこの家の住人ではなく服部平次だった。

























「料理できんかったっけ?」

「材料もったいなくて作んねえだけ」

「上手く作れば安うなるで~? 味も、好みに出来るしな」

「・・・お前は単に、こっちの食いモンが合わねえだけだろ」

















 ばれたか。と平次は笑う。

 口と手を上手く動かし、いつのまにか3品も出来ている。



 いい匂いにつられて新一がやってきた。















「これに本当なら魚料理が加わるはずだったのか。残念」

「ホンマやで。けど俺は別に雨でも構へんかったのに」

「俺が構うっつーの」

「せやけどアレ工藤のなん? 凄いの持っとるな」

「ん?」
















 平次が視線をリビングの横に移した。

 そこには、今日活躍するはずだった釣り道具一式が佇んでいて。



 素人目にも高価な物だと解る。



















「――――・・・ああ、父さんのだよ。あっちじゃやれないらしくて、家に置いてあんだ」

「やっぱな~。何かそーゆーの似合いそうやな、あの人」

「俺も昔から連れまわされてたからお前よりは上手いと思うぜ? それを今日、証明してやろうと思ってたんだけどな」

「お。えらい自信やんか」

















 テーブルの上に出来上がった料理を並べてゆく。

 その平次に、新一は上目遣いで微笑った。



























「・・・お前に敵わないのは体力だけで十分だ」

























 瞬間、止まる。

 その言葉の意味が、解らない平次ではない。



















「そ、そういや船の運転も出来るんやったっけ?」

「海の事は一通りな。あと空もちょっとは」

「・・・ヘリも操縦するんやったな。みんな親父さんか」

「ああ、はまったのは射撃かな。あれは面白い。硝煙の匂いがたまんねえ」

「危ないやっちゃな~。ええから早よ食べ」





















 苦笑して箸を渡す。



 狂気の雰囲気を醸し出す新一に、平次は何とか理性を抑えると一度深呼吸をして食事を始めた。






























ひとくぎり





























 薄暗い。



 4時を過ぎた頃には、既に部屋は明かりを必要としている。



















「服部、やろうぜ」

「・・・・ん―――・・・・?・・・・・・」

「お前の寝顔見てたらムラムラしてきた」















 ソファで寝そべって雑誌を見ていた平次。

 いつの間にか眠っていたらしく、耳元に囁きかけられる声で目を覚ます。



 そこには自分を覗き込んでいる新一。





















「・・・・・・嬉しい事言うてくれるやんか」



















 けれども未だぼやけた声。

 伏せ目がちな視線が新一を捕え、動く口唇に喉が鳴った。

























 ・・・・こういう服部は本当にたまんねえな――――――――――・・・・・・・

























 新一は最近平次に欲情する事が多い。

 急に肌寒くなったせいかもしれない、と自分では思っているのだが・・・・・・・・





















「せやったら工藤からしてもらおかな」

「へ・・・・?」

「俺、こんまま寝とるから―――――――・・・気持ち良くさしてや」



















 にやりと微笑う顔。

 ソファに身体を横たえたまま、新一を見据える。

























「・・・・臨む所だ」



















 応えて新一も微笑う。

 そして形のいい腰に手を当てると、そのまま顔を近づけ誘う口唇を塞いだ。
































ひとくぎり





























 前半戦終了。

 そして、ハーフタイム突入。



















「あ――――・・・真っ暗になっちまった・・・・・」

「マラソン終わっとる頃かな」

「テレビ付けるか?」

「ええよ後でニュース見るし」

















 ふと見ると、6時を過ぎている。

 高橋尚子のベルリンマラソンはどうなったんだろう?



 それに長嶋巨人のドーム最後の試合もあったっけ・・・・・・・新一はそう思いながら、平次自身が入ってる身体を浮かし抜いた。















「んっ・・・」

「いちいち抜かんでもええのに。すぐ続きするんやろ」

「んな訳にいくか」

















 入ったまんまじゃ身体が休まらない。

 平次も本当はそれを知っているから、暗闇でも解るくらいニヤニヤして言った。

















 明るいのは好きじゃない。

 だから、常夜灯を付ける。

















 ・・・・平次の褐色の肌が艶かしく浮かび上がり、再び新一の熱を上げた。



























 ソファに寄りかかる影。

 服は着たまま穿いたまま、ただ一箇所だけが露になっている。



 自分は、シャツ一枚。



















 冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し、脱ぎ散らかされた衣服を足でよけ、新一は平次の元へ戻る。

 持ってきたそれを渡そうと手を出すと、腕ごと引っ張られ倒れこんだ。



 ・・・・広い胸に顔をぶつける。



















「な、何だよ危ねえな!」

「休憩終わりや」

「入れられる方は身体キツイんだって何回も言ってっだろうが・・・・・もうちょっと休ませろ」

「ええ~」

「じゃあ俺がお前に入れてもいいのか?」

「は!?」

「本当は疲れる事したくねえけど、お前にこのだるさを解らせるにはそれしかねえみたいだし・・・・・・」

「わ、解った、解りました! ほな、せっかくやしこの珈琲飲もか!」















 迫ってくる新一の表情が本気としか思えなかった平次。

 思いっきり素に戻ると渡された缶を開け、一気に飲み干した。





 ふと見ると新一が笑っている。















「・・・・興味あんのはホントだぜ? 俺だって男だし―――――・・・・・最近お前みてて妙な気分になっちまうしな」

「ちょ、ちょお工藤さん?」

「―――――――・・・・今度一回させてくんねえ?」





























 新一の思わぬ言葉に、平次は止まる。

 そして耳を疑った。























・・・暫くして新一が、喉の奥から微笑い出す。

































「だから冗談だ。マジに取んな」

「・・・・・へ・・・・?」

「なんて顔してんだ、ったく・・・・・」























 あまりにも情けない顔をしている平次。

 それがちょっと可愛いくて、新一は軽くキスをした。



 でもまだ平次は目を見開いたままで。

 しょーがねえなと小さく息を付くと、珈琲を飲み干し新一はその身体にまたがった。















 ・・・・今度は真正面から深い口付けを与える。























 されるがままだった平次。

 でもやがて、その舌に応えながら・・・・・・主導権を奪い返していった。
































ひとくぎり

































 後半戦終了。

 すでにロスタイム。









 ・・・・今日の巨人は勝ってるのか負けてるのか。

























 時は、午後7時半。

 既に二人とも何度か達した後だが、余韻を楽しむため、まだ繋がったままキスを繰り返している。

























「なあ・・・ちょお聞きたいんやけど」

「ん・・・?」

「・・・・確か、あんま恋愛経験無い言うてたよな?」

「あんまっつーか・・・・・んっ・・・・こーゆーのもお前しか・・・・」

「ホンマか・・・・?」

「・・・・どーゆう・・・・こと、だよ・・・・」

















 至近距離。

 僅かに口唇を離し、新一は眉根を寄せる。



 疑われている事に明らかに怒っている。



















「せやかて・・・・こんな・・・・」

「こんな?」

「―――――・・・・こんなキス何処で覚えたんや?」

「・・・へ」



















 2人は、一瞬見つめあう。

 そして新一は次に、真面目に聞き返した。





















「それって上手いって事か・・・・?」

「慣れてるとしか思えんテク入りまくりやぞ」

「つってもなあ・・・・・俺、ホントにお前しか・・・・・・・・・あ」

「何や!? 覚えあるんか?」

「―――――――――・・・・・・・父さん・・・かも」

「は?」



















 動きが止まる。

 平次は、耳を疑った。



















 ・・・い、今・・・・・工藤の口から出た言葉は・・・・・・空耳か・・・・?

























「中学ん時ハワイの別荘で・・・・・・・・・酔っ払っててさ、俺と母さん間違えやがって・・・・・一回、すげーのされた記憶あるから、それ覚えてたのかも・・・・・」

「って、何フツーに思い出しとんねん!?」

「いやあ、あの後そういや蹴り食らわせて、父さん暫く起き上がれなくて・・・・・キスした相手が俺だったって知って、すげーショック受けてた。母さんには内緒だぞ! って小遣いまでくれたっけな~」

「嘘付けや。そんなんホンマにあるんか?」

「なら今度会ったら聞いてみれば?・・・・・・・・聞けるんならな」























 再び新一の口が妖しく微笑う。















 一体、今言った事は真実なのか。

 それとも真っ赤な作り話なのか・・・・・



















 ・・・・・解っているのは、平次があの工藤優作にそんな事を聞けるわけが無いと言う事だけ。



















「なんか身体も冷えちまったし。もう抜くぜ」

「・・・・そやな」

「・・・っ・・・―――――――・・・・じゃあ俺、シャワー浴びてくる。メシ宜しくな」

「はいはい・・・・・」





















 身体を離し、新一は脱いだ服を拾ってバスルームへと去った。

 残されたのは・・・・脱力感の平次。



 自身をしまい、部屋の明かりを付けテレビも付けた。





















「お~。きゅーちゃん世界記録達成したんや」















 ニュースで流れる、高橋選手の朗報。

 同時に長嶋監督のインタビュー。







 平次はそれを暫く見た後、夕食を作りにキッチンへと向かった。


































ひとくぎり



























 雨。



 まだまだ止みそうも無い雨。

























 ・・・・・・・結局今日も、新一に振り回された一日。























Fin