体温という名の海





「工藤、女の子やて」

「ん?」

「雅子様。今生まれたらしいで」

「へー・・・・良かったけど、またそりゃ大変だな」















 2001年12月1日。

 日本の皇室に、新たな命が誕生した。



 暗い話題が多かったこのご時世に、真に嬉しいニュースである。

















「そやな。まあでも、命に変わりはないやろ」

「そりゃそーだ」

「工藤―――――・・・何しとん?」

















 机に向かってそう言えば、さっきから何かを書いている。

 平次はテレビを消し新一のそばに来た。















「今日、届いたからさ。さっさと書いちまおうと思って」

「年賀状? はー気い早いやっちゃなー」

「そういうお前は、毎年年末になって焦るタイプだろ」

「あらら、バレとる?」



















 一生懸命書いていたのは年賀状の宛名書き。

 交友関係が一応広い新一は、その数も半端じゃなく多いのだ。



 ・・・・今の時代、パソコンでちゃっちゃと済ませれば簡単だと思うのだが。

 文面は印刷だとしても、相手の住所などは手書き主義らしい。













 B型なのに、変な所で几帳面な新一である。



















「俺のは書いたん?」

「お前にはやらねえよ」

「何でや!?」

「・・・欲しいのか?」

「あったりまえやがな! 工藤からのモンやったら何だって欲しいわ」

「へえ」



















 そんな素っ気無い返事だが。

 表情を変えずに肌の温度が変わる新一が、最近平次は解るようになった。





 だから、微笑う。























「何だよ」

「べつに~?」

「・・・・・お前最近、なんか妙にムカツクんだよな」























 新一自身、気付いてないのだ。

 他の誰にも見せない表情を、平次の前では見せている事に。















 ・・・・・無意識のそれは以前よりずっと平次を惹きつけてやまない。





























「――――・・・あのなあ工藤、昼間っからそないな顔されたら」

「ちょ、ちょっとっ!?」

「どーにも止まらんて前から言っとるやろ?」

「うわ、ど、どんな顔したよ俺が!」



















 背後からいきなり腰に手が廻ってきたと思ったら、あっという間に平次は新一のジーンズのジッパーを下ろした。

 そして間髪入れず、目的のものを掴み出す。

 





 新一は驚き立ち上がろうとしたが、肩口に平次の顎が乗っかり後ろから完全に椅子に押さえつけられてしまっていた。

















 ・・・・耳もとに、吐息と共に甘い声が聞こえてくる。

























「気にせんで、続きしとってええで」

「出来る・・・っ・・わけ・・・・ねえだろが・・・・・」





















 何時の間にか、平次の左手がシャツのすそから中に入り込んできていた。

 既に固くなりかけたそれを探し当てると、ゆっくりと転がしてゆく・・・・





 最初は我慢していたが、ついに新一は堪えきれずに机に突っ伏してしまった。

























「・・・・は・・・・はっとり・・・・・っ・・・・」

「工藤、顔上げて」

「じょ、冗談・・・っ・・・・」

「ついでに声も出してくれや」

「―――――・・・っ・・・ば、ばかやろ・・・・窓、全開だろうが・・・・っ・・・」

「へ?」

























 言われて平次は、窓に向いた。













 ・・・・本当に全開。

 風も無く穏やかな天気だったから、空気の入れ替えの為に開けていたのを忘れていた。

















 ならばこれ以上進めるのは無理だ。

 新一が何かを気にしながら行為に没頭できない事は、平次が一番良く知っている。











 ・・・だから。



























「そやな~ すまん、ちょっと調子乗りすぎたわ」

「だ、だからってこのまんまにする気か?」

「解っとるがな。どっちがええ? 前か? 後ろか?」

「―――――・・・お前に見られたくねえから、このままでいい」

























 オッケイと微笑うと、平次は止めていた手の動きを再開した。



 ・・・・椅子に座ったままの身体を、巧みな動きで平次の手が這う。





























 右の手で中心を。

 左の手は胸や腰や首など、届く範囲を撫でまわす。



















 確かな熱と震えが手から伝わる。

 滑らかな感触は、滑るたびに新一から吐息を導き出す。



 そうして暫く刺激を加え続けた平次だったが・・・・ふと見た新一の瞳が『あること』を訴え出していた。





















 にやり。



 ・・・平次の口の端が上がる。























「何や?」

「・・べ、別に・・・っ・・・・」

「後ろからがええ言うたんはお前やぞ?」

「だから、何でも・・・・ねえ・・・・・」

「・・・・遠慮せんと、素直に『イきそうやから口でしてくれ』て言えや」

「――――――・・・っ・・・・!」



















 ここは風呂場でもトイレでも無い。

 だから、こんな場所で自分の欲望を解放してしまえば後始末をしなければならない。













 ・・・ましてや自分の机。





 シーツの上でもない所で、そんなものを出す訳には行かなかった。





















「な?」

「言うか・・っ・・・つーの・・・・!」

「もー・・・・強情やなあ」

「・・・・・てめえ・・・・しねえなら、2度と俺に触らせねえぞ・・・・・っ・・・・・良いのか・・・・?」

「―――――・・・おいおいおいおい・・・・そうきたかい」























 平次は息を付く。

 一体どっちが脅していたのやら。















 でも、そんなのは困るから――――――・・・・・・言われた通りに新一の前に移動し、望むものを与えた。


































ひとくぎり





























「・・・・・お前もう俺んち来るな」

「ええ!?」

「発情期のオスには付き合ってらんねえ」

「酷いやんか! 俺は工藤にしか発情せえへんで!?」

















 暗闇が支配し始めの、午後5時。

 新一はぐったりした身体を起こし、カーテンを閉めた。

















「そこがおかしいってんだ。男だったら、普通に女に欲情しろ」

「変やないやろ。惚れとる奴にムラムラしとるだけや」

「・・・・」

「工藤かて、そうやから俺とこうなっとんのやし?」





















 結局あれで止まらなかったのは平次の方で。

 そのまま椅子から新一を引きずり降ろし、その身体に覆い被さった。







 新一はとにかく声を抑えるのに必死で。


 ・・・・気が付いたら既に夕暮れも過ぎていた。





















「俺は別にお前に欲情しねえけど」

「工藤は気付いとらんだけや」

「・・・何にだよ」

「それより腹へっとらんか? 何かつくろか。それとも食いに行くか?」

「なあ、何なんだよ」





















 布団から出ている上半身が、寒さに震えていた。

 その視線が答えを欲しがっている。



 自分自身の感情が未だ解ってない新一。





 ・・・・・・平次の隣で平次と同じく素肌でいることがどういう事なのかさえ、まだ。































 じっと。

 まだ新一は、平次を見ている。













 ・・・平次は小さく言葉を出した。





























「キスしてくれたら教えたる」

「ええ?」

「簡単やろ?」

「――――・・・・そりゃ、簡単だけど」

























 そのまま顔を下ろし触れる口唇。

 熱いのに、相変わらずそれは乾いていて・・・・・・





















「で?」

「それが答えやねんけどな~」

「・・・てめえ」

「もっかい、しよ?」

























 ・・・・再び2人は体温の海に泳ぎだした。








































ひとくぎり







































 そばにいる時には気付かなかった想い。



























 新一は、もうすぐそれを知る―――――――・・・・・・・・












































Fin