「新一・・・・雪だ」

「どーりで寒いと思った」











 東京、渋谷。

 久しぶりに天気が悪いと思っていたら、ちらほら落ちてきたのは雪。













「積もっかな」

「んな訳ねえだろ」

「――――・・・・ほんとロマンないよねえ新ちゃんてば」

「今はロマンより暖だ。俺は暑いのも嫌いだけど、寒いのもイヤなんだ」

「はいはい。信号赤なんだから大人しく待ってなさいって」















 スクランブル交差点。

 人々が、四方八方を囲んで『青』を待つ場所。



 上のほうから舞い落ちてくるそれに、皆が曇り空を見つめている。







 マフラーをもっと口元まで持ってくる新一。

 それでも、鎖骨に冷たい風を感じてまた身体を震わせた。













「今日って24日か。なんか予定あんのか?」

「新一とこーやってデートしてんじゃん」

「夜の話をしてんだ。お前、『昼は空いてるぜ~』って事は夜は駄目なんだろ」

「まあね。新一もだろ? さっきから時計気にしてるし」















 現在、16時過ぎ。

 

 街のイルミネーションも、今日明日だけのクリスマス仕様が多く目立つ。

 恋人達だけじゃなく何だか空気全体が浮き足立って見える。

 













「お。よし青だ」

「寒い~ 早くどっか建物ん中行こうぜ~」

「解ったって。んじゃあそこまでハイ、頑張って歩く!」













 センター街へと入って行く2人。

 適当な所に入ると、暖かい場所で暖かい飲み物を頼んで、それぞれの約束の時間まで過ごす事にした。








刹那さと吐息の狭間で






「―――――――・・・・・・やっとご登場かい」

「わ・・・悪い」















 東京駅。



 新幹線の改札を抜け、少し歩いて京葉線ホームに向かう所にある無印良品前。

 腕組みをしながら立っていたのは服部平次。





 『やっと休みや待っとれよ!』との平次に、『じゃあ迎えに行ってやるよ』と答えたのは新一。





 待ち合わせ時間は18時ジャスト。

 今から、もう1時間も前の時刻である。

















「で、電話しても通じないし・・・・」

「そらそうやな。ココ無理やな」

「・・・・・謝ってんだからいい加減機嫌直せっつーの」

「何やと!? それが悪いと思とる態度か?」













 しおらしく謝ったかと思うと途端に態度を変える新一に平次はカチンとくる。

 そして背を向けてさっさと歩き出してしまったから今度は焦った。



 慌てて追いかけその腕を掴む。

 すると新一は過剰に反応し、その手を振り払った。









 ・・・・さすがに平次はおかしいと気付く。

















「おえ工藤―――――・・・・腕、どないした」

「・・・・どうもしねえよ」

「ちょお見せろ」

「痛っ!・・・」











 しかしコートにセーターを着込んでいる新一。

 まさかこの場で脱がす訳にも行かないから、右腕の袖口を少し上げただけだったが・・・



 そこに僅かだが赤い血痕と包帯が見えて、目を見開いた。



















「・・・・工藤?」

「ちょっと、あってさ・・・・たいした事ねえんだけど」

「たいした事あるやろ!?」

「大声出すんじゃねえ。とにかくこーゆー事だから外食はパスだ」

「わかった。即効、帰ろ」











 言うや否や、平次は新一の右側にまわり歩き出す。

 それが自分の怪我している腕を庇うためだと悟った新一は、表情を変えず体温を上げた。


































ひとくぎり































 そして、工藤邸。



 大体の事は駅を降りてこの家に着くまでの途中で聞き出したが、改めて今その腕を見せてもらって平次は僅かに顔をしかめた。











 ・・・・・右手首付近の包帯に血が滲み出ていて、他にも数箇所の切り傷が散っている。





























 実は。

 あの時間を潰す為に入った喫茶店で、ひと事件が起きた。







 今日はイヴという事もあって、店内は恋人同士が多かった。

 その中の一番奥の窓際の席で、新一と快斗はケーキセットを食べていた。



 普通ならば空しい図だが、この2人の場合は別で。

 他の誰より整った容姿と雰囲気のせいもあるが、何より『相手がいなくて仕方なく友人といる』空気は微塵も感じられなかったから余計に目立っていた。











 それに、この店の中の誰もが。

 店員すらも自然に新一と快斗に視線が行ってしまっている。













 ・・・・そんな視線は、普段から2人は慣れっこだった。





















「俺達そろうと無敵だね」

「あーあ。あそこのカップルの男・・・・・こっち睨んでるぜ」

「カノジョが俺達に惚れないように、カレシには頑張ってもらわないとね~」











 工藤新一は、もちろん有名人。

 黒羽快斗は『怪盗キッド』としては有名人だが、勿論正体は不明だから特別『快斗』としては有名な訳ではない。





 しかし、新一と似た容姿を持つ彼はやっぱり目立つ存在で。

 ・・・・・更にこうして2人揃っているのを見ると、かなり派手なビジュアルだった。



















 そろそろ時間かな? と新一が腕時計を見た時だった。

 ふと隣の席が騒がしくなったのだ。



 どうやらカップルが喧嘩を始めたらしく、段々と会話は激しくなっていく・・・・















「快斗。そろそろ出ようぜ」

「そだな」

「――――・・・なによ! アンタのそういう所が嫌なのよ!」

「待てって! おい!」

「うわっ」













 新一が立ち上がった時だった。

 声を荒げたその席の女が突然立ち上がり、ぶつかって来た。



 バランスを崩した女を支えたのは勿論、新一。











「ご、ごめんなさい」

「いえ。」

「新一大丈夫か!?」

「え・・・・し、しんいちって・・・・工藤新一?」









 目の前の人間が、あの『工藤新一』だと知り女は驚いた。

 いつもテレビや雑誌で見ている顔がアップで視界に入り、途端に顔を赤くする。







 ・・・・・・それが相手の男の気に障った。

















「おい・・・・有名人だか何だか知らねえけど、人の女にちょっかいかけてんじゃねえよ」

「は?」

「ちょ、ちょっと何言ってんのよ」











 なんだか面倒くさい事に巻き込まれそうだ。

 直感でそう思った新一は、さっさとその場を離れようとした。



 しかし、その目つきが男は余計に気に食わなかったらしく―――――――――・・・・・・











「ムカツクんだよ!」

「!」











 ・・・・・突然、新一に殴りかかったのだ。

























 一応受身を取ったがショウケースにぶつかった新一。

 激しい音と共に倒れ、苦い顔をして右腕を押さえる。











「新一!!」

「―――――――・・・ってー・・・・」

「や、やだ工藤君大丈夫? ごめんなさい、ほんとにごめんね」

「その男の事をかばうのか?」

「バカじゃないの!? いい加減にしてよ!」









 大きな音が響く。

 女が、その男を平手打ちにしたのだ。



 快斗は新一に駆け寄る。

 右手からかなりの出血が見え、愕然とした。











「新一・・・・・その手・・・・・」

「・・・ああ、ちょっと切っちまったな」

「く・・・工藤君、血、凄い出てる・・・・・大丈夫?」

「お客様大丈夫ですか? すぐ近くに病院ありますから、こちらに」

「―――――――・・・・てめえ・・・・・・よくも新一に・・・・・」

「快斗、俺は平気だから落ち着け」











 新一は自分の事よりも、快斗が気に掛かっていた。

 何故なら快斗は――――――――・・・・











「・・・・・・覚悟出来てんだろうな」

「はあ? テメエは何だよ? 2人して女みてーな顔しやがって、邪魔すんじゃねえ―――――――・・・って・・・・え?」

「他人のゴタゴタには興味ねえけどよ・・・・・・・こいつに手を出した事だけは、絶対に許せねえ・・・・」

「ちょ・・・・・ちょっと・・・・」



















 ・・・・・・新一に何かあると我をなくすのだ。



























 さっきまでの人懐っこい表情は消え。

 獲物を捕える獣の鋭さで、相手を威嚇する。



 しかも自分より数センチは高い相手の胸倉を掴み、右手ひとつで持ち上げながらだ。





















 ・・・・・・・その男は自分の身体が確かに宙に浮いているのを感じ、背筋を凍らせた。























「おい、快斗やめろ! 相手は素人だぞ!?」

「・・・・けど」

「あ、すみませんが勘定済ませてくれますか? それから、自分で病院行けますんで、場所教えて下さい。ほら快斗行くぞ!」

「―――――――――・・・・・わかったよ」











 ち、と舌打ちして快斗は手を離した。

 その場に崩れた男に明らかな『見下し』の視線を投げ、そばに寄った女に言葉を吐く。













 ・・・・・あまりにも格好悪くて、男はもう何も言えなかった。





















 その後2人は病院に行き、新一の手当てをしてもらった。

 破片が結構深く刺さっていたが、神経にも骨にも異常はなく。



 ふと時計を見るととっくに約束の時間が過ぎていたから、2人はそれぞれの場所へと別れて行ったのである。
































ひとくぎり



























「黒羽がキレるとそんなんなるなんて、想像つかへんな」

「服部と結構いい勝負なんじゃねえか?」

「剣道でか? それともケンカか」

「基本的に何でも出来るんだ・・・・・喧嘩も無駄に動かねえで、まず相手の心理読み取って言葉で攻めるし」

「・・・・・・・工藤と一緒やんか」













 新一は微笑う。

 決して否定しないのは、自信過剰でも何でもない。



 ただ『事実』なだけなのを平次は知っている。















「痛むか?」

「そりゃな」

「しっかし。お前も黒羽も、もーちょい自分らのコト自覚した方がええで」

「・・・・・何それ」













 ただでさえ目立つのに。

 その風貌はやたらと異性のみならず同性からも目を惹き、良く問題も起きる。







 自らが望まなくとも。



 今回の、様に。























 ――――――――・・・・たった数ヶ月逢わへんだけで、えらい綺麗になっとる。






 オトコでもそーなるもんなんやろか・・・・・・?







































 リビング。



 ソファの前のカーペットに座り込み、新一の包帯を替えていた平次。

 それが終わって片付けていた時にぽつりと声を出す。

















「東京と大阪はやっぱ遠いで」

「・・・そうだな」

「こんな怪我しても、そばにいてやることも出来へん」

「平気だ。ひとりには慣れてるし、怪我も病気も一般的な対処法は解ってる」











 また新一は微笑う。

 何も求めてはいない、無欲な表情。









「・・・・そんなんに慣れんなアホ」

「今日はお前がいるし」

「へ?」

「・・・・・・・痛くなったら、お前がまた包帯替えてくれるだろ?」















 新一は確かに平次を見ていた。

 なのに、視線は遠くを見つめていた。









 そしてその目に惹き寄せられ―――――――・・・平次は薄く開く口唇を塞ごうとした。







 ・・・・でも。

























「なあ、ケーキ食おうぜ。昨日買って来といたんだ」

「っ・・・・」

























 ・・・それは新一の手のひらによって、やんわりとかわされてしまった。































 夏が終わってから平次は1度も東京に行かなかった。

 本当は、日曜の度に飛んで行きたかったのに。











 ・・・・・・・新一がこの日まで、平次が逢いに来る事を許可しなかったのだ。























「今日はイヴだ。別に信者とかじゃねえけど、一応な」

「工藤!」











 明らかに新一は本題に入ることを避けていた。

 呼ぶ平次にも答えず、立ち上がってキッチンから箱とフォークを持ってくる。



 リビングのテーブルの上に置き、挟んで反対側へ新一は腰を下ろした。













 それを、開ける。

























「へー・・・・ロウソク付いてる。火、つけてみるか?」

「・・・・・」

「お前ライター持ってんだろ。貸せ」









 平次は無言でポケットからジッポーを出した。

 不機嫌な表情で、新一の立てたロウソクに火を灯してゆく。











 ・・・・・そして全部に点いたとき照明が消えた。

























「!?」

「――――――――・・・・・へー。結構イイ感じじゃん」





















 新一が手にリモコンを持っていた。

 それで電気を消したのだと解った平次は、また始まった理解不能な行動に息を付いた。



















「俺を焦らして楽しいんか」

「・・・・・焦らす?」

「そやろ。お前が言うたんやぞ? 今日のこの日まで気持ちが変わらんかったら、応えてやるて」

「――――――・・・・ああ、そういや言ったかな」













 淡々と語る新一の抑揚のない声。

 そうして目の前のケーキに灯された明かりを見つめながら、あの時の事を思い返した。

























 半年前。





 ・・・・・熱い、暑い夜。

























 冷房の効いた部屋で2人は酒を飲みながらテレビを見ていた。



 何の映画だったのかは覚えてない。

 けど、その主演女優を見てぽつりと平次が呟いたのがキッカケだった。















『この女優、工藤に似とるわ』

『ええ?』

『顔やなくて、雰囲気っちゅーか・・・・・なんつーか、人を惹きつけるオーラっちゅーか・・・・・似とる』









 その女優の役どころは、自分の美貌を余すところなく使い男を振り回す、小悪魔的な主人公。

 新一は不満気に平次を見た。









『一緒にすんな。俺ならもっと上手く誘う』

『ほ~ 言うやんけ』

『その気になれば、お前だってな』

『・・・んなアホな』

『試してみるか?』















 ・・・・新一は、本当に小悪魔的な表情で微笑う。

 囁くように耳元に息を吹きかけると、まず男なら誰しもが弱い部分をゆっくりと撫で始める。












 本当にものの数分も掛からなかった。



 決してそういう趣味はない平次から、新一にキスをさせるのに・・・・・・

















『く・・・工藤・・・』

『―――――・・・・・・どうした? 息、上がってるぜ』

『ちょ、ちょおタンマ・・・・・』

『何だよ? してきたのはお前からだぜ―――――――・・・・・やるなら、最後まで気持ち良くさせてくれ』

『へ・・・?』

『まあ・・・・・・さすがに挿れられんのはパスだけど。一応、お前トモダチだし』



















 至近距離で囁かれる言葉は、甘く。



 ・・・・聞きなれてる新一の声が堪らなくいやらしく響く。















 自分の上に乗っかっているのは、確かにあの工藤だ。



 この目も、口も顔も何もかも、違わない・・・・・

























 ―――――――・・・・・・・・頭のいい奴は、こんな事まで上手いんやろか?

























『・・・・どんな気分?』

『お前・・・・こんなん、どこで覚えたんや』

『さあね。それよりソレどうする? 放っておくとキツイぜ』

『余計なお世話や!』









 新一が股間を指差し微笑った。

 どうにも格好のつかない平次は、でも取り合えずそれは正論だから・・・・





 そそくさと、トイレに向かう。

















 あの夏の日は、確かに新一はそういう性格だった筈。

 そして、あれからどうにも新一が気になって仕方なくなって・・・・・













 ・・・・・・夏が終る頃に『惚れてる』と自覚したのだ。























 最初は電話でだった。

 思い立ったら吉日な平次は、単刀直入にこう言った。













『工藤。俺、お前に惚れとるわ』

『―――――・・・は?』













 受話器の向こうで呆けた声が聞こえる。

 呆れてる顔が解る。



 でも返ってきた言葉は、普段通りの声だった。











『それで・・・・・・なんやけど』


『で?』

『・・・で、て』

『他に用が無いなら切るぞ』

『ちょ、待てや工藤!』











 淡々とした声。

 表情が想像付きすぎる程に、冷静な返答。













『―――――――・・・・何だよ』

『何も思わんのか? 男に、こんな事言われて、変とか嫌とか・・・・・』

『別に』

『・・・・・あ・・・そーなんや』













 何だか拍子抜けした平次。

 ずるずると、身体が崩れてベッドからずり落ちる。



 新一が続けてきた。













『でもまあ・・・・お前からそんな事言われるとはな。まさか、あん時の事で俺が忘れられなくなったか?』

『え? い、いや、っちゅーか・・・・まあ、キッカケにはなったかもしれんけど』

『・・・・・ふーん』











 間。

 少しの時間が、2人の間に流れる。









 ・・・そして。















『―――――・・・・・・寒くなれば、頭も冷えるか』

『は?』

『クリスマスまで保留だ。その日まで気持ちが変わらなかったら、応えてやる』

『・・・・こ、応える?』

『俺と寝たいんだろ』





















 耳に入ってきた新一の声は衝撃的過ぎて、相手が電話を切ったのにも平次は暫く気付かなかった。

 切った後も、放心状態のままベッドに突っ伏す。

























 ・・・・・そうして12月。



 その、24日。











 クリスマス当日を控えたこの日。

 平次はやっとこの家に辿り着き、目の前に新一を視界に入れているのだ。
































ひとくぎり



























 気持ちは変わらなかった。

 それは、平次自身も不思議な事だった。





 今まで友達だった。

 単なる、『東京』と『大阪』に住む『探偵』同士なだけの関係だった。













 ・・・・・・・単なる好奇心だけで臨んだ『戯れ』だった筈なのだ。





















 それなのに。

























「この通り変わらんかったで―――――・・・・ホンマ、自分が一番ビックリや」

「お前は・・・・」

「ん?」

「俺の、何がいいんだ」









 新一は平次にフォークを渡した。

 もう一本を自分で持ち、丸いケーキの反対側を崩してゆく・・・・



 視線は、その生クリームに向いたまま。











「解らん」

「・・・え?」

「いくら考えても、ムカツクとこばっかやし」

「―――――・・・・・それで惚れてる事になんのかよ」

「せやから解らんのや」











 平次もただ、ケーキに視線を移してそれを頬張っていた。







 ・・・・薄闇の中。

 段々目が、慣れてくる。















「甘いな」

「・・・せやな」

「珈琲飲むか?」

「そやな・・・・・」













 その返事に、新一が立とうとした時だった。

 平次が新一の右腕を掴んだ。







 ・・・・途端に表情を歪める。















「何だよ」

「――――――・・・・・怪我しとるトコ痛いんやろ? 俺に言えばええやんか」

「・・・・これくらい何でもねえよ」

「左手でフォーク使こてる奴の台詞かっちゅーねん。ええから座っとき」











 平次が気付かない訳が無かった。

 右利きの新一が、フォークを左で使っている事に。



 そうして改めて解った。

















 ・・・・・・・これが、今までひとりで生活して来た新一の性格。

























 誰にも弱音を吐かず。

 弱さも見せず。



 どんな時も冷静な判断を求められる『工藤新一』の、自ら築き上げてきた性格。

















 プライバシーなど殆どなく。

 力を抜けるのは、この自分の家の中だけで。

















 ・・・・・でもこうして、自分以外の気配が家にある時はそれすらも出来ない。





















 俺の前で、こいつはいつも『工藤新一』を演じてた・・・・・・・・



























 記憶を辿って、平次は珈琲を入れる。

 高校生の頃に何度かこの家には来た事があって、その時も確か飲んだのは珈琲だった。



 カップ2つを持ちテーブルへ戻る。









「ほい」

「・・・・・サンキュ」

「俺、解った」

「何が?」

「工藤が可愛くないから、惚れたんや」

「―――――・・・それが男に惚れる理由かよ」











 平次が、再びケーキにフォークを刺した。

 そうして大きな口を開けて食べると珈琲を飲む。











 ・・・・・・・・次に深呼吸をして、新一を正面から見た。



















「そか。お前オトコやったな」

「おい・・・・」

「せやかてそんなん関係あらへんもん。『工藤新一』っちゅー人間が『男』なだけやし」

「―――――――・・・・12時だ」

「へ?」













 その時新一が呟いた。

 視線を、平次の後ろの壁時計に向けて。





 ・・・・針は真夜中の12時を指していた。

















「約束のクリスマスだ。応えてやるよ、お前に」

「・・・・工藤」

「本気で俺が好きか?」

「好きや」

「なら態度で示せ―――――――・・・・・・・・俺に、その本気を解らせろ」

「!」





















 その言葉の意味する所はひとつしかなかった。



 ・・・・合図の様に、新一の目が閉じられる。

























 テーブルと、ケーキを挟む2人の距離。

 ロウソクの火を吹き消すと、平次はそれを乗り越える。


 ・・・・・・・・そして今度こそ確かにクリームの甘さの薫る口唇を塞いだ。






































ひとくぎり





































 ・・・・・・どこからか舞い込む冷気が、肌を撫でる。























「・・・・・工藤?」

「ん・・・・」

「包帯替えよか。解けてきとる」

「・・・・・・・本当だ」

















 ベッド特有の音と共に平次は布団を出た。

 身体を竦ませながらシャツを羽織り、そばに置いてあった救急箱を持ってくる。

















「まだ血い滲んどるな」

「結構キズ、深かったからな・・・・それにお前は容赦ねえし」

「本気見せ言うたんはそっちやろ」

















 既に時計は3時。



 ・・・・平次はずっと新一を離さなかった。

















「お前オトコ経験あんの?」

「あるか。工藤しか興味ないし」

「・・・・・それにしては手馴れてた気がするけど」

「自分とおんなし野郎の身体やで? オンナ喜ばすより楽や」

「それもそうか」













 新一は微笑う。

 全くもって、本当に綺麗な顔で。





 見惚れながら平次は聞いた。













「なあ――――――・・・・工藤は、ちょっとは俺んこと好きやろ?」

「嫌いじゃねえよ」

「なら、またココ来てもええ?」

「・・・・好きにしろ」

「ホンマか? 冗談は無しやぞ?」













 突然のガッツポーズに新一は面食らう。

 ・・・・そして抱きついてきた身体の確かな体温に、戸惑いながら目を伏せた。




































ひとくぎり







































 ・・・・・・捕まえた。











 初めて逢った時から、欲しくてたまらなかった・・・・・・・・・































 ・・・・どうにかして自分を見て欲しくて。

 でも、言える訳がなくて。

















 あの夏の日―――――――――・・・・・・酒に酔ったふりして仕掛けた。































 本当は心臓が飛び出そうだった。

 上手く誘いに乗った服部からキスされた時、俺は気がおかしくなりそうだった。

























 ・・・・・それからあいつは大阪に戻り。

 俺は東京でいつもの生活に戻り。





 本当は期待していなかっただけに、あの電話は本当に嬉しかった―――――――――――・・・・・・































 クリスマスまでの数ヶ月。



 その日から俺の一日がどんなに長かったか解るか?















 いつ諦めても良いように、心の準備だけはしっかりしてた。

 夏の幻だったと言われてもいいように過剰な期待はしないようにしてた。























 『工藤新一』を日々演じながら・・・・・





 ・・・・冬が深くなるにつれて、不安だけが強くなりながら俺はお前を待ってた。

























 そして今日を迎えた。

 逸る鼓動を抑えながら、その時間を待った。





 ・・・・ちょっと怪我もしたけど、そんなのはいいから早くお前に逢いに行きたかった。

 1時間も遅れた時は、流石にもう待ってないかもしれないと不安だった。

























 でもお前はいてくれた。





 相変わらずの俺に呆れながら、心配してくれた・・・・・・





























 そして約束の日を針が示すまで待った。

 服部の様子を伺いながら、待った。























 ・・・・・・・・だからやっと直に体温を感じた時、情けないけど身体が震えたんだ。







 もう―――――――・・・・ばれてるかな。



































「なあ工藤」

「何だ」

「もっかいキスしてええ?」

「―――――――・・・・いちいち聞かなくても、それくらい勝手にしろ」















 相変わらずの口の悪さ。

 だがそれは今に始まった事ではなく・・・・・




 ・・・・・・言われた通りに勝手に口だけじゃなく、身体中にキスをし始めた。






































ひとくぎり





































 ・・・・・刹那さと、吐息の狭間。





 そこにあるのは――――――――――・・・・・狂おしい想いの
破片(かけら)



































 でもそれは、2人の間でゆっくり解けてゆく・・・・・・






















































Fin