君が好き





 もしも、願いがひとつ叶うとしたら・・・・・・?








































ひとくぎり































 1月も終わり頃。

 冷気に身を震わせながら、新一は夜道を歩いていた。





















 寒かったけど。

 天気は、すこぶる上機嫌な1日で。















 ・・・・・・久しぶりに、のんびりと平日の空いた時間をひとりで過ごした。



































 朝、10時過ぎ起床。

 差し込む日差しの気持ち良さに、暫くはそのまま布団でゴロゴロ。



 そうして何とか11時半近くになって着替え始めて。





















 遅い朝食。

 昨日の晩に作った味噌汁を暖めて、タイマーをセットしてあったご飯を食べる。













 目玉焼きはミディアム。



















 ゆっくり新聞を読んでいるうちに12時の時報。

 顔を洗って、歯を磨いて外に出た。





















 図書館。

 何か新作は入っていないかと探す。





 3冊手に取り奥の机へ。



















 土日ともなると結構混むこの場所も、今はちらほらと人影が見えるだけ。

 だから新一は、大抵平日を選んでこの場所へ来る。















 ・・・特に、一日の内で最高の日差しの時間に。























 やがて1冊を読破。

 意外な面白さに満足し、上機嫌。



 同じ作者のものを数冊借り、その場所を出たのが3時前。

























 ―――――・・・・さてと。























 飛行機雲。

 薄い青に浮かぶ、細長い軌跡。



 深呼吸をして駅前通りに歩いていた時に、ふと目に付いたワッフルの店で一休みした。

























 新しいデジカメも欲しいし。

 メモリももうちょっと積みたいし。





 だから、その次に向かったのはPCショップ。



























 ・・・ふと気が付き腕時計を見る。

 もう5時過ぎ。













 外に出たら、まだ落ちきらない太陽が空の足元を紅く染めていて。

 段々と日が長くなっているのを感じながら首元のマフラーを直した。































 そして駅の改札を通り電車に乗る。

 目指すは霞ヶ関。



 高木刑事と、夕飯の約束。























 でも。































 やっぱりというか何と言うか、途中で事件の連絡が入って。  

 結局一緒に行って、あっという間に解決したのが9時過ぎで。































 見上げれば、霧が出てきているのか月がぼやけて見えた・・・・・・・・・・・・






































ひとくぎり



































 ・・・・もしもまだ、願いが叶うとしたら。 

 そうしたら。

















 俺は、きっと。





























「工藤!」

「・・・・遅い」

「これでも『のぞみ』乗って来たんやで?」

「知るか。待ってる身にもなってみろ」

















 10時23分。

 服部平次、米花駅到着。





















「今回は?」

「月曜はバイト休みもろたから、そん日まで」

「なら食料、明日買いに行かねえと駄目だな」



















 息が白い。

 例年よりも幾分か温かい冬とはいえ、やっぱり冷える。



 新一は身体を震わせながら歩き出した。





















「晩飯は? 食ってきたか」

「ああ、駅弁食うた。けっこー美味かったで」

「じゃああそこのコンビニで酒でも買ってくか・・・・」

















 新一の視線が歩道橋の向こうを差す。

 2人は、その階段を昇った。












 上は、少し風が強い。







 ・・・平次が空を見上げた。



































「どうした」

「お月さん。なんや暗いなー」

「・・・・明日は雨だって言ってたからな」

「そーか」





















 少しグレイがかった月。

 それはもしかすると・・・・・・





 新一の表情が少し翳るが、平次は気付かない。























 追い越し、さっさと降りてゆく。

























「あ、コラ待て工藤!」

「この寒いのに付き合ってられるか」

「相変わらずつれないやっちゃな~」























 ・・・・何ヶ月ぶりの関西弁だろう。



 いや、別にそれ自体は今の東京では珍しくはないけど。































「!」

















 その時目指すコンビニに足を踏み入れた新一。

 ドアを開けたその瞬間、耳に飛び込んできた曲は・・・・・





















「お、ミスチルやん」

「・・・」

「こん曲ええよなー。サビがめっちゃ好きやねん」

「酒――――・・・・何にする?」

「え? あ、ああ。そやな」























 新一は表情に出さず驚いていた。

 今、この時にこの曲が流れているなんて何と言う偶然なのだろう?











 この、服部平次といる時に・・・・























「・・・・・・」

「・・・工藤?」

「え?」

「何ボーっとしとんねん。酒、こんくらいでええか?」

「あ・・・ああ」



















 なら買うてくるわと、平次はレジへ向かった。

 新一の『心ここにあらず』と言った様子に首を傾げながら。















 当の新一は――――・・・終り近くなったこの曲の歌詞が頭から離れない。




























 ・・・・・・マジで『歌詞のまんま』だなんて。







 ホント、とんでもねえ曲・・・・・・・・・



























 音楽に関してだけは唯一の弱点の新一。

 だから、今まで特に好きな曲も気になる歌も無かったのに。



















 ・・・・・この歌詞をテレビで見た時、自分の心を見透かされた気がして涙が出そうになった。



























「ほい。おまち」

「うわ!」

「・・・は?」

「え、い、いや――――・・・うん」

「?」



























 君が好き。

 僕が生きるうえで、これ以上の意味はなくたっていい。







 夜の淵、君を待ち。

 行き場の無い想いがまた、夜空に浮かんで。













 煮え切らない―――――――――――・・・・想いを焦がして。


































 もう聴いていられなくて、さっさとコンビニを出る。

 一瞬にして熱くなった身体を冷気に晒す。

































 何なんだ、ホントに。







 ・・・・・こんな気持ちに、気付きたくなんか無かったのに――――――――――・・・・・・・

































 夜道を再び歩く。

 目的地は、まだ先。





 ・・・・2人、並んで歩く。

























「なんか喉渇いたなー」

「・・・そうだな」

「お、ええトコに自販機あるやん。珈琲飲んでこーや」

「へ・・・・」























 明かりも少なくなってきた道。

 ひっそりと光る、自販機の明かり。



 平次はポケットから小銭を出して缶珈琲を2つ買った。



















 熱いそれ。



 ひとつを、新一に。

























「ん?」

「・・・ちくしょー・・・・・」

「な、何やねん」

「――――・・・・・ホントに願いが叶うって言うんなら・・・・いくらでも願うのに」



























 自分が一番信じられなくて。



 でも、これは事実で。





























 ・・・今日一日、朝起きてから今の今まで。



 ずっと・・・・・・お前の事が頭から離れなくて・・・・・・





























 ・・・・・ずっと。



 お前に逢える、この時間を待ってた―――――――・・・・・































「工藤・・・?」

「何でもねーよ。これ、サンキュウな」

































 夜空には、益々ぼやけてゆく月。





































 ・・・・言うつもりは無い。

 一生、この気持ちは。























 でも。

















































 ・・・・もしも・・・願いが叶うなら。















































 お前も。





















 ・・・・・・俺を・・・・・・





































 息は、ますます白く。

 予報では、関東に明日は雨か雪の気配らしい。

























「そういやさ。ついさっきまた事件でさ」

「ほー」

「・・・・まあ、それは帰って酒でも飲みながらにするか」

「せやな。寒くてかなんわ」







































 それぞれの想い。

 それぞれの、願い。



















 飲み終わった缶珈琲ふたつ。

 ゴミ箱へ、ほおり投げ。













































 ・・・・・・もしも願いがひとつ叶うとしたら。















 服部平次は、一体何を願うのだろうか?
















































Fin