The name of the feelings







 ・・・・・夢を見たんだ。







 真っ逆さまのまま、星を見上げてたら――――――・・・・・

































 お前の、夢を。




































ひとくぎり





































「・・・・・・」























 新一は真夜中、目を覚ます。













 まだ空は闇が色濃く。

 枕元の時計は、3時を差していた。























「・・・・・・何であいつが出てくるんだ」























 思い出せない『夢』。

 でも、登場人物だけはハッキリと脳裏に焼き付いている。







 それは服部平次。

 新一が小さくなっていた頃に出会った、大阪の同い年の探偵。











 目を細め横たわったまま大きく息を付く。

























 ―――――――――・・・夢ん中でもノーテンキな顔しやがって。



























 元の身体に戻ったのは、ほんの1ヶ月程前。

 寒い寒い冬の、長い夜だった。







 ・・・それでも全てが解決した訳では無く。



 殆どの謎を残したまま、組織の黒幕も解らず『沈黙』したと言う方が正しいのだろう。

























 でも、新一は元の身体を取り戻した。

 同じく小さくされていた『灰原哀』と名乗っていた少女も、自分の本来の姿に戻った。











 そうして生活は全て元通りになる筈だった。





























 ・・・・なると、思っていた。





























「ちくしょう、喉渇くな・・・・・・また熱でも出てきたか」





















 けほけほ咳こむ。

 口内も口唇も目も、何もかもが水分を欲しがっている。













 ・・・・・・・・元に戻ってから何だか身体がだるい。



























 長い間子供の身体で居たから、しばらくは不調が続くと。

 確か灰原がそんな事を言っていた。



















 ・・・・慣れるまでひと月以上は掛かるらしい。



 自分の身体なのに面倒な事だと、新一は思った。























 そう言えばこの間の日曜日に電話が来た時。

 『声おかしいで? 大丈夫なん?』と服部は言ってたっけ・・・・・





 ・・・機械を通してる声で、よく気が付くなと。

 妙に感心したことを新一は思い出す。























 ・・・・その時、何処からか風を感じた。





























「?」















 窓は閉まっている。

 当たり前だ。今は冬だ。



























 ・・・・気のせい?































「うわっ」



























 そう思って再び寝ようと布団に潜ろうとした時、突然激しい振動音が鳴った。

 携帯電話のバイブ機能だ。







 驚き、その表示を見る。

























 ――――――――――・・・・そして更に驚いた。































  起きとる?


































「まさか・・・・」

























 送信者は服部平次で。

 その短いメールが意味するものは・・・・





 起き上がり、新一は窓を開けて外を見た。





























「・・・・マジかよ・・・」























 ・・・そこには。







 道路でこっちに向かって大きく手を振っている影。

 それはまぎれも無く・・・・

















 夢に出てきた服部平次であった。






































ひとくぎり































「今何時だと思ってんだ?」

「3時過ぎ」

「・・・・俺が起きてなかったらどーしてたワケ?」

「そやな。ファミレスで時間潰しとったかな」

















 こんな時間じゃ大声で怒鳴る訳にもいかず。

 とにかく新一はメールで『とっとと入ってこい』とだけ返信した。

















「・・・何で丑三つ時に、俺はお前と珈琲飲んでんだ」

「飲みたい気分やったやろ」

「は?」

「なんか、工藤渇いとるし。雰囲気」

「・・・・」

















 リビング。

 とりあえず、テーブルを挟んで2人、珈琲。













 ・・・何度も言うが今は3時過ぎである。





















「俺が何でココにおるんか不思議そうなツラやな」

「――――・・・・そりゃあ」

「せやかて、工藤もとに戻ってから素っ気ないやんか。ちいとも逢いに来てくれへんし」

「だって用ねえもん」

















 半分ホント。

 でも半分は、体調不良が原因だ。



 完全に具合が治ったら遊びに行こうと思っていたのだが、それは言わず珈琲を飲み込む。



















「つれないやっちゃな~ 相変わらず」

「お前こそ話逸らすんじゃねえ。何で来た?」

「・・・・・夢、見たんや」

「夢?」

「――――――・・・・・なあ工藤。お前、ますます痩せてきてへんか?」



















 平次は目の前の手首を掴んだ。

 突然の事に、新一はギョッとしてカップを落としそうになる。











 ・・・少し残っていた珈琲が揺れて跳ねた。

























「な、何だよ!?」

「こんなに細い腕してへんかったよな・・・・」

「悪かったな、元々こんなだ」

「・・・それに熱い」

「あ。そ、それは―――――・・・・」



















 しまった、という顔をした新一。

 慌ててその腕を引き剥がすが、その反動で目眩を起こす。



 揺れ、テーブルに手を付いた。

























 少しの静寂。

 時折聞こえるのは、車の通る音。









 ・・・・平次が息を付くのが聴こえ、新一は顔を上げた。































 何故か―――――・・・・哀しそうな顔。

































「・・・・工藤が消えてまう夢やったんや」

「え?」

「せっかく元の身体に戻れて喜んどった工藤が・・・・ある朝、起きたら自分の手えがちっさくなっとるの気い付いて・・・・・顔真っ青になって――――――・・・そんまま消えてもうた」

「なっ・・・」

「・・・・・・電話してても落ち付かへんし・・・せやから、バイク飛ばして来てもうた」

























 寒いからだろうか。

 それとも、何かを失うかもしれない事への恐れか。



 平次のツナギが微かに震えているのが新一にも解った。



















 ・・・・こんな平次は初めて見る。































「服部――――・・・・・」

「スマンな。お前は、こーやってちゃんとおるのにな」





























 予知夢という訳では無いが。

 平次は、たまにこういう夢を見ることがあった。











 当たって欲しくない予感。

























 ―――――・・・昔、飼っていた犬を亡くした時もこれと似ていたから。











































 新一は言葉に詰まる。

































 ・・・・・・そういや、俺が『コナン』だった頃にもこういう時があったっけ。



 あの時もこいつは――――――・・・・こうして気にしてくれて、それで・・・・・



























 結局、自分が・・・・・・



































「バーカ。何て顔してんだ・・・・・ったく」

「・・・工藤」

「何度も言ってっだろ。俺を勝手に殺すんじゃねえ」





















 立ち上がり、2つのカップを持ちキッチンへ向かう。

 そうして戻って来た手には、再び珈琲。



 ほらよ、と差し出す。

















「んなカッコで来んなっつの。うつっても知らねえぞ、風邪」

「やっぱ具合悪いんか」

「――――――・・・・元の身体にまだ『俺』が馴染んでねえから、だとさ」

「へ? 誰がんな事・・・・」

「灰原・・・じゃなかった、ええと今は『宮野』っつーんだっけな確か」

「ああ、実はちっさくされとったっちゅー姉ちゃんか」



















 そう言えば『宮野志保』となった『灰原哀』は、まだこの男に会ってはいなかった筈。

 明日にでも隣に行って会わせてやろうか? と言うとやっと笑顔を見せた。



















「2人とも無事に戻れて、ホンマ良かったなあ」

「まだ・・・・何も解決しちゃいねえけどな」

「警察も本格的に動くんやろ。これからが始まりや」

「そうだよな―――――・・・・元の身体に戻れたんだから、これからだよな」





















 何度か試して、やっと出来た解毒剤。

 今までに投与されたせいで、その度に免疫が出来て苦労もしたけど。





 でも。





















 ・・・・・どんなに苦しくて辛い痛みが伴っても、僅かな可能性に賭けてきたから『今』が有る。

































「なあ服部」













 こくりと。

 喉を珈琲が通り、響く言葉。















「ん?」

















 共鳴するかの様に。

 こっちも、こくりと。





















 ・・・・・湯気が天井に向かって消えてゆく。





























「―――――――・・・・背、また伸びただろ」



























 何故か。

 喉まで出かかった言葉を飲み込み、他愛のない話題を口に出す。







 ・・・どうしてか聞けない、あの幼馴染の彼女の事。

























「どーなんかなあ。自分じゃよお解らんけど」

「嘘付け。前に俺が『新一』に戻った時より全然目線上だぞ」

「工藤かてすぐ追いつくて。オトコの背えなんて、ハタチ過ぎてもガンガン伸びる言うし」

「・・・・・だと良いけど」





















 そう質問に答える平次も。

 さっきから、ちらほらと部屋を見渡し気になるのに聞けない事があった。

















 ・・・・ずっと体調の思わしくない新一。



 なのに、この家は随分と綺麗に片付いてる。





















 考えられることは・・・・・・ひとつ。



























『蘭ちゃん、毎日看病に来とんのか? 仲良くて羨ましいで』



『和葉ちゃん元気にしてる? 今日は、一緒じゃないんだな』































 丑三つ時もとうに過ぎ。

 もうすぐ、夜明けがやってくる。













 ・・・・日も長くなってきたから、そろそろ外も明るくなっている頃。



























「工藤、そろそろ寝た方がええって」

「――――・・・・お前は?」

「俺はこのソファでも何処でも大丈夫や」

「んな訳に行くか。隣の部屋のベッドで寝ろ」



















 風邪を移す訳にはいかないから。

 そんな理由で言った筈なのに、どうしてか新一は『別の何か』が心に引っかかった。



 そして平次も、何となく胸が苦しくなる。

























 階段を、ゆっくり昇る。

 そして新一の部屋の扉の前。















 ・・・足が、止まった。



























「そういやさ・・・・・」

「?」

「覚えてねーんだけどさ。見たんだ俺も」

「・・・何をや」

「お前の夢だよ」























 振り向いた顔は薄闇で良く解らなかったけど。

 伸びていた前髪から、相変わらず印象的な眼差しが見えた。





 平次が『コナン』を『新一』だと見破ったのは、この『瞳』があったからだ。



 独特の光を放つ、圧倒的な存在感は・・・・・・・例え姿を変えてもふたつと有るものでは無かった。





















「だから驚いた。お前が窓の外に見えた時」

「ほー・・・・」

「じゃ、おやすみ」



















 微かに笑みを浮かべ、新一は扉の中へ消える。

 ・・・・そして、平次も隣のドアノブに手を掛けた。
































ひとくぎり

































 ・・・・・夢を見たんだ。

















 真っ逆さまのまま星を見上げてたら――――――・・・・・







































 お前の、夢を。























 お前の・・・声を。









































 ・・・・・・・2人はまだ知らない。



































 自分の気持ちが何であるか。

 なんと言う『名』を持つのか。





























 それは―――――――――――・・・・・・・














































Fin