Boys Allways Be Boys







「・・・・・服部」

「ん?」

「珈琲、入れて」

「へいへい」

















 今日は昨日と違って寒い。

 寒い、朝。







 ・・・・もぞもぞと、平次は温もりから抜け出す。





















「さむっ! てめ、冷てー空気入れんじゃねえ、早く行け」

「ホンマ今日は寒いな~」

「・・・・まったくだ」

「あ。おえ工藤また寝んなや!」

「うるせー・・・お前のお陰でこっちは疲れてんだよ・・・・・」



















 瞼が開けきらない新一。

 無くなった湯たんぽの代わりに枕を抱き、消えそうな声を出す。



















 柔らかな髪。



 合間から覗く、閉じた瞳。





















 ・・・・平次は剥き出しの左腕に不意打ちの口付けを落とした。

























「うわ!?」

「寝んな言うとんのに」

「だ、だからってなあ」

「せやかて美味そうなウデなんやもん」

「――――・・・・おい。何だこの手は」

「クチにも欲しいやろ?」

















 突然の感触に跳ね起きる新一。

 そして、何時の間にか顎に添えられたのは・・・・





 この身体の隅々まで知り尽くしてる骨ばった手のひら。



















 ・・・・新一は微笑う。





















「てめえはホント朝から元気だよな・・・・まあいっけどさ、俺、その前に何て言った?」

「へ?」

「珈琲。そっちが先」



















 数センチという距離で、やんわりと間に入れられたのは新一の手のひら。

 

 ・・・・平次は思いっきり眉根を寄せた。



















「んだよ。不満か?」

「・・・せやかてまた直ぐ気い変わるんやろ」

「それはお前次第」

「・・・・・」















 未だ2人の間には手のひら。

 至近距離の見つめ合いと言うよりも、睨み合いの2人。



 しかし。















 ・・・・・段々と平次の目に威力が無くなって来た。
























「ったく・・・・・そんな顔すんじゃねえ。解った解った」



















 素直な表情をする平次に新一は弱い。

 だからその首をくいと引き寄せ、軽く口唇を合わせた。



















 ・・・少し驚いた顔。



 それがまた可愛いから、おまけでもう1回。

























 しかし。

























 ・・・・・・・ちょっと長めでサービスしてやったら、もの凄い力で覆い被さって来た。































「おい・・・・ちょ、ちょっと・・・・っ・・・・服部てめいい加減にしろ!! 珈琲が先だって言ってっだろ!」

「ええやんどっちが先でも」

「さっさとしねえと今日は俺がヤっちまうぞ。それでも良いのか?」

「ほー。やれるもんならやってみい」

「・・・・・あっそう。じゃ、遠慮なく」

「どわ!!」

















 さんざん人の身体を舐めつくし攻めつくし。

 やっと眠れたのはほんの2時間前で。











 ・・・・・・それでも眠い目を擦りこんなにサービスしてやったのに。





















 少し頭にきた新一。

 だから平次を剥がし布団を落とし、その身体をシーツに押さえ付けた。



















「・・・あ、あれ?」

「抵抗出来ねえだろ」

「ちょ、ちょお工藤? 冗談はやめときや、な?」

「―――――――・・・・お前さ。力じゃ負けねえと思ってただろ。残念だったなあ・・・あいにく、俺も場数踏んでてさ。こんなのコツさえ解ってれば体格差なんて関係ねえの」

「・・・・な、なんやと・・・・っ・・・」

















 身長差は約3センチ。

 見かけは、新一より遥かに体格が良く見える平次。



 なのに。

















「ほ・・・・・本気か? お、お前、本気で俺をヤる言うんか??」

「そ」

「寝言は寝て言うもんやろ!!? アホ言わんと離せっちゅーんじゃ~~~!!!」























 ・・・・・身体を押さえつける細腕を、何故か振りほどけない。





























 妖しく綺麗に微笑う新一。

 その端を上げていた口唇が、近づいてくる・・・・・・







 至近距離のその顔に平次は見惚れるのが通常なのだが、今はそんな余裕はなかった。



























「・・・っ・・」















 触れた口唇から割り込んでくる舌。

 巧みな動き。













 繰り広げられる展開に平次は頭が真っ白になってくる―――――――・・・・





























 ぎょええええ~~









 ――――――――・・・・な、なんつーイヤラシイ舌使いすんねんコイツは~~~っ!!































 クチだけでは無く。

 耳にも、首にもそれは触れ・・・・・







 ・・・・あげくの果てにはシャツを着ていなかった胸にも降りて来て。

























「!?」















 そして冷たい手のひらが薄い布の上から股間を撫で始めた時、本当に身の危険を感じ身体中の力を振り絞って新一を突き飛ばした。



















「痛って――――っっ!!」

「あ、ス、スマンっ」

「なんつー馬鹿力だテメエは・・・・」

「珈琲やな珈琲!! 確か、砂糖1個にクリープやったよな!?」

「・・・・そーだよ」

「待っとれや! めっちゃ美味いやつ、直ぐ持ってきたるからな!!」













 背中を打った新一。

 手が離れたと悟った瞬間平次はベッドから降り、シャツを着てそそくさと部屋を出た。





 やがて、だだだだという激しい階段を降りる音が聞こえてくる。





























 ・・・・そして部屋には新一が残された。




































ひとくぎり

































「本気にしてやんの」













 窓際に寄りかかり、ふうと息を付く。

 そして微笑う。


















 ―――――――――・・・・・興味は、有るんだけどね。





















 こんな関係にになって。

 なんとなく、初日の雰囲気と体格差で自分が受ける側になったけど。























「・・・・・あそこまで露骨にヤな顔されると腹立つんだよな」





















 同じ男なのに。

 別に、どっちがどっちでもいい筈なのに。



















 ―――――――――・・・・俺が受身なのが当たり前だと思ってるのがムカツク・・・・































「・・・・こーゆー感情ってのは、あいつには解んねえのかな」















 ごろんとまた横になる。

 見上げる逆さの空が、目に映る。







 感じる寒さに、また布団に潜る・・・・・























 俺だって、お前に欲情するのに。

 お前の気持ち良さそうな顔を見ると、堪らなく淫らな気持ちになるのに。















 ・・・・・・・・俺は、お前をもっと気持ち良くしてやりたいだけだ。





























「しっかし・・・・・何でそんなに挿れられんの嫌なんだ? だったら最初っからその立場の俺はどうなるっつーんだよ」



















 うむむと考える新一。







 ・・・・プライドが有るのも解るけど。

 同じ男なんだから、どっちがどっちに廻ってもいい筈だ。






















「―――――――・・・・・・オンナ相手じゃ経験出来ない事だもんなあ。ホント、人間の身体って面白く出来てるよなあ・・・・・」

























 変な所に感心しながら新一は目を閉じる。









 布団が気持ち良い。

 外気温とこの温もりの余韻の差が、また意識を手放そうとしている。























 ・・・・・やがて足音が近づいて来た。




































ひとくぎり



































「寝とるんかい・・・・・」















 平次は恐る恐る覗き込む。















 閉じられてなお綺麗な顔。



 少し跳ねた髪が、空気によって揺れている。





















「・・・・キレーな顔して悪魔やでホンマ」

「ん――・・・・」

「お。珈琲のニオイで起きよったな」















 ゆっくりと開けられる瞼。



 段々と見えてくる、琥珀色の瞳・・・・・



















「ほい。冷めんうちに飲めや」

「ああ・・・・サンキュ」

「どや?」















 ベッド脇に腰を下ろす平次。

 起き上がり受け取った珈琲を口に含んだ時、そう問われ新一は『?』という表情をした。

















「・・・美味しいけど」

「そおか? いや、そら良かったわ!」

「何だ?」

「おかわりもあるで。遠慮せんと言うてや?」























 ・・・・・・・・・ははーん・・・

























 その時、新一は悟る。

 この機嫌を伺う様子は・・・・・・・・どうやら、さっきの事が気になってるらしい。























 ちょっと、微笑った。























「バーカ。そんなビクビクすんな」

「べ、別にやな」

「もう襲ったりしねえって」

















 そうして、またひと口。

 ・・・・新一の喉を通るその動き。



 どんな仕草も本当に絵になるなあと見惚れてしまう―――――・・・・

 だから見ながら、平次は呟いた。





















「・・・・そんなにしたいん?」

「ん?」

「けどな、コレだけはいくら工藤の言う事でも聞けへん。スマン」



















 関西弁の独特の響きがゆっくり流れる。

 新一は、視線を合わさない。

















「・・・へえ」

「俺は工藤に惚れとる。せやけど、抱かれたいとは思わへんし想像も出来へん」

「何でだよ。俺が好きなんだろ?」

「そうやけど・・・・無理なもんは無理や」

「ずいぶん勝手じゃねえか」















 『想像も出来ない』と言われ、新一は隣の男を睨んだ。









 別に、いいやと思ってたのに。

 気持ち良いのは確かだし、奉仕されるのは楽だから。

















 ・・・・なのに、こうして平次は話を蒸し返し。

 そして。

























「何が不満なん? 俺、1度かてお前んこと女扱いした覚えもないし・・・・・・無理矢理した記憶もないんやけど」

「・・・・服部」

「それとも全然気持ち良うないんか? されるの、ホンマは嫌か・・・・・?」



























 ・・・・こんな至近距離で。





 こいつは、捨てられた子犬のような表情を見せる――――――――――・・・・・































 ずるい。









 ・・・・・・本当に、お前はずるいよ服部。























 自分の声や顔や言葉が、どのくらいの武器になるのか。


 好意を持ってくれてる人間に対して、どの程度の態度を示せば良いのか全部計算し尽くした上で、こいつはいつも・・・・こういう台詞を吐く。












 ・・・・・どういうのが俺に対して、最大に威力を発揮するのかを知っているのだ。

































「・・・・嫌なら今日までさせてねえ」

「せやったらええやん」

「俺は、ただお前も・・・・もっと気持ち良くなって欲しいだけだ」

「へ?」





















 ・・・本当に。



 あんなに気持ち良いものだとは、知らなかったから。

























 体験してみないと絶対解らない。

 好きな相手を、直に身体に感じる事の快感はきっと―――――――――・・・・だから。































 新一の言葉に、きょとんとする平次。



 ・・・・今のはやっぱり意外だったのだろうか。































「な、なに固まってんだよ」

「・・・・そっか。工藤、俺見とるヒマないんやな」

「は?」

「いやいや。そーかそーか、そんなに俺に惚れてくれとるなんてなあ~ うっわーめっちゃ嬉しいわ~~ どないしよ~」

「な・・・・うわ!?」



















 見てるほうが恥ずかしくなる程の笑顔。

 そんな締まりのない顔をしつつ、平次は新一のカップをもぎ取ると下へ置き、その身体をベッドへと押し倒した。

















「珈琲の注文は完了したで? 次は、こっちや」

「・・・忘れてなかったのか」

「いつも夜やし電気消しとるし、しゃーないわな―――――・・・・俺がお前ん中に居る時どんな顔しとるんか、よう見とき」

「え?」

「・・・・・めっちゃ気持ちええ顔しとる思うで?」






















 新一は平次の想いを知らない。





























 自分の腕の中にいてくれる事が、どんなに嬉しい『事実』か。



 手に入らないと思っていた存在が目の前にいる事が、どれほどの『奇跡』か。



























 ・・・・・・今こうやっている『現実』は本当に『現実』なのだと。



 目が覚めた時、隣をつい確かめてしまう程の想いを・・・・・・・・・・・



































 最初から惚れていた。

 手に入れたいと思っていた。



















 ・・・・綺麗で強くて傲慢で我侭。



 でも。







































 何処か脆そうに見えた雰囲気の、彼を・・・・・・



































 何年も掛かって叶えた想い。

 届いた、願い。

























 ・・・・それがまさか両想いだったなんて本当に奇跡。





































「服部・・・・・」

「ん・・・?」

「・・・・・や、やっぱ・・・・カーテン閉めろ・・・っ・・・・・・」

「何でや」

「―――――――――・・・・お、お前見えてると・・・・集中・・・で、きねえ・・・・・っ・・・」

「そおか? 俺にはえっらい感じとる様にしか見えへんけどなあ・・・・・・・・?」





















 新一を抱え自分の上に乗せて。

 言った通り、明るい光の下で平次は表情を見せつける。














 ・・・その姿は本当にイヤラシイ服部平次で。



 だから。





































 ――――――――・・・・新一はその艶かしい肌に、口唇を寄せた。










































ひとくぎり







































 やがて2人は再び眠りの中。















 ・・・・・そのまま、お昼過ぎまで互いの体温の中。










































Fin