The plan crime






「服部、昼なに食う?」

「昨日残っとった飯あるやろ。もったいないし茶漬けにしよ」

「それもそーだな」















 日曜の昼。

 12時を過ぎて、キッチンで冷蔵庫を覗く新一。

 平次の言葉に頷き、振り向く。

 少し曇っている空模様が、その表情に薄い影を落としていた。















「・・・・・」

「ん?」

「あ、きょ、今日は何時からやったっけ?」

「8時。ったく、忘れてんじゃねーよ」















 器にご飯をよそいながら新一は微笑う。

 整った顔立ちの彼は、微笑うと本当に綺麗で・・・・・



 平次は、騒ぐ鼓動に最近戸惑いを感じていた。






























ひとくぎり



























 そうして夜はやって来る。

 夕食も早々に終えた2人は、リビングにワインを用意し準備万端で『その時』を迎えた。













「・・・始まった。よし、乾杯!」

「何でキックオフで乾杯やねん」

「つべこべ言うな。ほらグラス合わせろ」

「へいへい」











 とにかくずっとそわそわの新一。

 歴史的な一瞬に絶対する! と意気込んで乾杯。



 平次はそんな彼がどうしてか可愛くてしょうがなく。

 またそんな自分がヤバイと感じつつ、グラスを合わせた。











 大きなテレビの前。
 テーブルを挟み、ふかふかのソファで新一は膝を抱えて見入る。


 ボールがラインを割るたびに息を付き、口の渇きを潤す為にワインを飲む。
 そして試合は、ブラジル・ドイツ互いに堅い守りのまま得点なしでハーフタイムに入っていった。















「あああ~ やっぱすげえなあ・・・・」

「キーパーはキツイやろなあ。雨でかなり滑るし」

「そうだな。そこをどう決めるかが勝負だ」

「そ、そうやな」













 酒に強いはずの新一。

 しかし、サッカーがいい肴になっているらしく、まるで酔ったように頬を赤く染めて平次に向いて来た。



 次に、深呼吸。













「なあ、ドイツとブラジルどっちが勝つと思う? 賭けようぜ」

「へ?」

「そうだな~ 俺はやっぱブラジルだな。お前は?」

「って・・・・・それやったら俺はドイツにせんと賭けにならんやんか」

「まあそうか」













 すると唐突に提案してきた新一。

 呆気に取られつつも、平次はその賭けに一応乗る事にする。



 内心は自分もブラジルだと思っているクチなのだが・・・・















「で? 何賭けんねん。欲しいもんでもあるんか」

「・・・・勝ったら言うよ」

「ほー」















 この探偵は一体何が欲しいのだろう?

 気になりながらも、今のうちにトイレに行って来ようとソファを立った。





















 ・・・・少しの間ひとりになる新一。



 少なくなったワインを注ぎ足し、一気に飲む。



























 そうして一息付くと天井を見上げた。
































ひとくぎり





























 セカンドハーフが始まり、ブラジルの猛攻で先取点・追加点と続いた。

 2人は大興奮のまま午後10時を迎える。



 結果は勿論ブラジルの勝利。







 大喜びの新一を横目に、平次はリビングへ行き冷蔵庫からビールを取る。

 そうして、聞いた。















「なあ、何や」

「ん?」

「ブラジル勝ったやん。俺は、何をやったらええんかな」

「・・・・ああ、そうか」











 思い出した様に新一は平次を見る。

 次に目を逸らし、少し考えるように顎に手を当てた。



 数秒後に聴こえてきた言葉は・・・・・













「いいや。アレ、なしなし」

「へ?」

「考えてみたら、別に欲しいもん買うくらいの金は有るし」

「はあ? なら最初から言うな」

「それより飲め飲め。まだあんだからよ、酒」

















 ・・・・実に拍子抜けするものだった。





















 ほんのりと頬の赤い新一。

 それは多分、アルコールのせいだろうけど。



 そして、ワールドカップの余韻のせいだろうけど。

















「服部。冷蔵庫の近くにあと1本あるから、持ってきてくんねえ?」

「自分で行けや」

「俺もう足に来てるみたいでさ~ へろへろなんだよ」

「ならもう止めんかい!」

「いいじゃん自分の家なんだし・・・・・・酔いつぶれたら、部屋まで宜しくな」
「・・・人をあてにすんな。アホウ」















 無邪気に自分に向く表情。

 その目に自分が映っているという事実が、たまらなく胸を騒がす。















 ・・・・これは、なんや?





















 勝手気ままに自分を使うのは、今に始まった事じゃない。

 彼自身も解ってて使うその強力な武器は――――――――・・・・・・

















 ・・・・自分には効かないと思っていたのに。



























 とどめの言葉。



 それが、結局言われた通りにソファを立ちキッチンへ向かう平次に届いた。



























「そう言いながら、いっつも取りに行ってくれるんだよなあ服部――――――――――・・・・・・だから好きだぜ?」
































ひとくぎり































 結局その1本を2人で飲み尽くした。

 平次は特に、飲まずには居られなかった。



 吐息を立てて新一は眠っている。

 ソファを独り占めにし、気持ち良さそうに頬を赤く染めたまま。









 テーブルを挟んで平次は、その寝顔をじっと見つめる・・・・・・















 寝顔というのは、性格が出るものだ。

 どんなに綺麗に着飾った人間でも意識の無い状態になると『その人なり』が解る。

















 

 ・・・・・工藤新一は、寝顔までとんでもなく綺麗だった。























『そう言いながら、いっつも取りに行ってくれるんだよなあ服部――――――――――・・・・・・だから好きだぜ?』

























 どうしようかと思った。

 聴こえてきた瞬間、時が止まった。



 新一の目の前でそれを聞かなくて良かったと思った。





















 ・・・・・あまりの動揺に、キッチンのテーブルに手を付いてバランスを崩してしまったからだ。



























 アカンなあ。





 オトコ相手に、マジになってどないすんねん・・・・・・オカシイでホンマ。





























 テレビからは、相変わらず流れてくるワールドカップ関連のニュース。

 既に見てはいないが平次は消すことが出来ない。



 この状況で音を無くしたら、自分は新一に何かしてしまいそうだからだ。











 グラスに残っているワインを飲み干す。

 すると、その時新一が寝返りを打ち・・・・・・



















「んー・・・・」

「!?」





















 ・・・・・平次の正面にその閉じた瞼を見せた。

























 何となく直視出来なくて平次は目を逸らす。

 逸る鼓動に持て余し始め水を飲もうと立ち上がり、ソファの脇を通り過ぎた。



 すると。























「服部・・・・・」

「!」

「・・・いるか?」

「お・・・おう、起きたんか」

「んー・・・・なあ、部屋・・・・・連れてってくんねえ?」

「!?」

















 のそのそと新一が起き上がり、ソファの背に手をかけた。

 次に声が返って来るキッチンへ向く。





 平次は、その声に手に持っていたペットボトルを落としそうになった。





















「な、何ゆーとんのや? 起きたんなら自分で行け」

「―――――・・・・・ブラジル勝っただろ? だから言うこと聞けよ」

「それはなし言うてたやんか!」

「あっそ・・・・それじゃーいーよ。自分で行けばいーんだろー・・・・・」

「そうそう」

「・・・・・っと、ととと」

「おえ工藤?」

















 ぼけぼけな顔をしてゴーイングマイウェイな新一。

 来てくれない平次にふて腐れ立ち上がろうとして、バランスを崩す。










 ・・・・・・・どうにもこうにも足にきているらしく、再びソファにダイブした。



















 慌てて駆け寄る平次。

 普段見られない新一の姿に、思わず吹き出す。















「んだよ・・・・笑ってんじゃねー」

「せやけてなー 工藤がこない酔っ払うん珍しいし」

「うっせ~」

「解った解った。連れてったるから大人しくせえ」















 未だ笑いの止まらない平次。

 だるだるな身体を抱え上げ、2階へと向かった。


































ひとくぎり

































「お前なあ、少しは自分で歩こうと思わんのか?」

「ん~」

「こんの酔っ払いめ・・・・ホラ着いたで」











 男にしては軽い新一だが、全体重を掛けられては平次も辛い。

 必死に階段を昇り部屋に着く頃には息も絶え絶えになり、平次はやっとの思いで新一をベッドに横たえた。


 電気を付けようとリモコンに手を伸ばす。

 しかし、新一はその手を掴み止めた。













 

 ・・・・・驚いたのは平次だ。























「な、何やねん」

「いいよ付けなくて・・・・・」

「へ?」

「水飲みてえ―――――・・・・持ってきてくれ」

「はあ?」

「・・・も、喉カラカラ」

















 布団にうつ伏せ状態で、ちらりと平次を見上げる仕草。

 僅かな月明かりしかない暗い部屋で、新一は平次に柔らかな命令をする。









 ・・・・・表情が見えなくとも、そのシルエットは充分に艶めかしく。



 平次は段々と強くなっている心臓の音を聞かれまいと立ち上がった。















「しゃーないなあ・・・・・・」

「宜しくな」















 視界に映るのはひらひらと振る手のひら。

 そして耳に残るのは―――――・・・・・・・























 ・・・・・・・・・ついさっき自分に向けられた、掠れた甘い声だった。


































ひとくぎり































「ったく・・・・・・・本当に可愛いよな服部って」



















 平次が部屋を出て行った後、新一はゆっくりと仰向けになり天井に向いた。



 ・・・・口の端を上げ、薄く微笑いながら。



















「でもこーんなに誘ってんのに――――――・・・・・・いまいちノッてこねえなあ。俺の上目遣いも、威力落ちたかな・・・・・・」



















 そう。

 新一はずっと誘っていたのだ。





 平次が自分の事を気にしているのが解っていた上で、素知らぬふりして。

















 ・・・・・あんなに解りやすい性格の平次だ。

 気付かない方が、おかしい。

















 同性から『そういう目』で見られる事に新一は慣れていた。



 完璧とは思わないがそれなりに整った顔立ちだし、そこらへんの女より肌も綺麗だし。

 大抵の男も女も自分に見惚れるから面白くてしょうがない。











 頭脳にしろ、風貌にしろ。



 ・・・・・両親の良い所を受け継いでいるこの身体。

 思う存分効果的に使わなければ、もったいないではないか。




















「さあて、どーすっかなあ・・・・・・」















 まだ新一は微笑を続けたまま。

 そしてその頭の中では、これからどう行動していくかを考えている。
















 ・・・・・・・男相手も、いい経験かもな。



 ガキ出来る心配もねえし―――――――・・・・結構、ヤミツキになるって話も聞くし。



























 んー・・・・・・・




























 酒の残る思考。

 足にキているのは本当だから、身体のだるさも本当。























 ワールドカップの余韻で俺も興奮してんのかもな。













 ・・・・・・・ま。



 あいつがキスしてこれたら、考えてやるか。



























 やがて階段を昇ってくる足音が聞こえて来る。

 そして数秒後、扉は開く。





 新一は仰向けのまま、目を閉じて眠っているフリをした。

















 ・・・平次がベッドを覗き込む。

























「ほれ工藤・・・・って、人に頼んどいて寝とるんかい」

「ん・・・・・」

「―――――・・・ホンマに眠っとるんか?」

「・・・・」

「・・・・・・工藤」



































 ・・・・・さあて服部、どうする?










































Fin