The amour with the telephone


「おう。何だどうした」

『いや~ 風、凄いんやろ?』

「まあ台風だからな」

『対策とかしたん? テレビで見とると結構、被害でとるみたいやけど』

「雨戸も閉めたし、別に吹っ飛ばされそうなもんは外にねえし。何お前、俺のこと心配してんの?」

















 10月1日。火曜日。

 今日は、関東に戦後最大級の台風が到来した。



 雨も凄いが、何よりも風が強い。

 丁度この日は何も用事が無く、新一は朝から家で過ごしていた。











 現在、夜10時。



 その猛威はピークに達しているらしく、さっき風呂に入っていた時は窓を閉めているにも関わらず、うるさい程の空気の揺れる音がしていた。













『ったり前や。いつでもどこでも、工藤の事しか考えてへん』

「へー。なら今すぐ俺のトコ来てみやがれ」

『・・・・・行こう思たけど、空も陸もアカンかってん』

「わ、解ってるっつーの。真面目に返すな」















 受話器を肩に挟みながら新一はキッチンに立っていた。

 目の前のやかんをじっと見つめ、お湯が沸くのを待っているのだ。



 さらりと耳を掠める、平次の言葉。

 だからこっちも、さらりと返してみたのに。

















 ・・・・・あまりにも素直に『逢えなくて寂しい』という感情を伝えてくるから、新一は真っ赤になって声が震えてしまった。

























『――――――・・・工藤。今、照れとるやろ?』

「照れてねえ」

『そーかー? 俺の勘違いなんかなー?』

「・・・・切るぞ」

『なあ工藤――――――・・・・今、どこおんの』

「っ・・・!?」

















 突然、平次の口調が変わった。

 ・・・能天気な明るさが消え、低く甘い声が耳をくすぐる。







 受話器を耳に当てているから、余計に響きそれはそのまま・・・・・・・新一の下半身を直撃した。





















『なあ・・・・どこや?』

「ど、どこだっていいじゃねえか―――――・・・・っ・・・うわ、あちちちち!!」













 その時、丁度やかんが鳴る。

 お湯が沸いたのを知らせる、信号だ。



 新一が慌てて火を止めようとして、つい空気穴の上に手をかざし、熱い湯気に当たってしまった。







 平次はそれでキッチンだと悟る。

















『そこやと―――――・・・・ちょお具合悪いし、リビングのソファに移動しよか』

「い・・・・移動してどーすんだよ!」

『俺らもう3週間逢うてへんねんで? 工藤の声聞いてたら、何やえらい興奮してきたわ・・・・・・しようや』

「な・・・・っ」



















 それは誘い。

 平次からの、突然の誘い。













 ・・・・新一は体温が上がった。



























「・・・お前は部屋なのか」

『廊下でこんなん言えるかい』

「そ、そりゃそうか」

『強制はせえへんで? 別に電話やし、嫌やったら切り』

「―――――・・・・・ソファは駄目だ。いま風呂場に行くから」

『・・・何でや?』













 平次の声が艶を増してきている。

 どうやら、向こうの大阪の自室では既に自身への行動を始めているらしい。





 その疑問に新一も熱を帯びた声で答えた。





















「――――――・・・・・・その方が後始末気にしねえで・・・・・没頭出来るだろうが」


































ひとくぎり



























 東京と大阪。

 それぞれの地で、それぞれの生活を送る2人。







 春までは普通の友達だった。

 普通の仲間だった。



















 ・・・・なのに、梅雨に起こった館山の事件で、旅館に泊まったあの日に事は起こった。



































 興味本位だった。



 別に、恋愛感情なんか無かった。









 その日、ふと立ち寄った本屋にあった雑誌。

 それに書かれていた同性愛についての記事が、目に留まったのだ。













 ・・・・その日の夕食の後、ついぽろっと新一が口にしたのが始まりだった。

























『なあ。男同士って、どう思う?』

『は?』

『・・・・ちゃんとデキるんだよな、男と女みたいにさ。どんな感じなんだろうな』

『あ―――――――・・・昼に読んだ週刊誌の記事んことか。さあなあ』

『・・・・してみねえ?』

『へ・・・?』



















 大浴場から上がってきた頃には敷いてあった布団。

 その上で、ゴロゴロしながら新一が突然呟いた。



 備え付けのテレビでナイターを見ていた平次は、素っ頓狂な声を上げる。

















『愛だの恋だのは御免だけどさ、あれだろ? ひとりでやるのを、『してもらう』って感じだろ?』

『・・・・・工藤、もしかして熱あるんか? それとも酔うとる??』

『これも探偵のサガって奴かな。解んない事あんの、嫌なんだよ・・・・・それに服部なら別にヤじゃねえし・・・・・・なあ、試してみねえ?』

『やっぱ酔っ払っとるなお前!?』

『何だよ意気地ねえなあ・・・・別にお前に挿れさせてくれって言ってんじゃねえぞ。それとも俺が相手じゃ気持ち悪いか?』

















 酔っていた。

 新一の目は半分閉じ、頬は赤く息も熱かった。











 ・・・・・・・だから中々引き下がらない。























 平次は困った。

 困り果てた。

















 そうしてるうちに――――――・・・・・新一の方からキスをしてきた。



























『!?』

『・・・・俺のキスじゃ、その気になんない?』

























 どこまで本気だったのか。

 それとも、全部が演技だったのか。





 でも確かに。



 その『キス』は、甘くて気持ち良かったから。























 ・・・・・・・・・だから平次は覚悟を決めて新一を抱いてみた。





































 案の定、気まずかった翌朝。

 自分の身体が思うように動かない事に、動揺していた新一。





















 ・・・・・でも、それから2人が再び素面で肌を合わせるまでに時間は掛からなかった。

























ひとくぎり


































「――――――はー・・・・・・・・ホント、電話って耳元で聴こえるから・・・・・・効くな・・・・・・」

『・・・・工藤の今ん顔、見たいなあ』

「バーカ・・・・・」



















 風呂場。

 外に声が漏れるのが心配だったが、あまりにも風が凄く、少しの声など自分にも聴こえない程で。









 ・・・・新一は裸体を火照らせたまま満足げな笑みを浮かべる。





















『ホンマ凄い風やな。こっちまでよう聞こえとるで』

「明日は29度まで上がるって。ったく、今更暑いのは勘弁だっての」

『・・・・工藤』

「ん?」

『―――――・・・・』



















 そうして暫く、平次は黙った。

 ごうごうと吹き荒れる音の中、無音の受話器が新一を包む。









 約、30秒。



































「・・・・おい、寝たのかよ?」

















 返事は無かった。

 しかし直ぐに聞こえてきたのは・・・・・





















 ・・・・・・・・・・微かな、吐息だった。







































「―――――・・・・バーカ」



















 新一は微笑う。

 そうして、静かに電源を切る。









 ・・・・・・一体、どんな格好でいるのか。

 そのまま寝ても大丈夫な格好なのだろうか?











 朝、母親に見つかっても大丈夫な格好なのだろうか・・・・・・・?





 そう思い、新一は微笑った。



























「さてと―――――・・・・俺も今日はシャワー浴びて寝るかな」























 そうして新一は受話器を脱衣所に置いてドアを閉める。







 明日は快晴。

 台風の後は、暑いくらいの気温が待っている。





















 ・・・・それに少々ウンザリしつつ、気持いい気だるさの身体にお湯の雨を降らせた。






































Fin