「良かったな、風やんで」

「・・・・・せやな」

















 あれからすぐ平次の携帯が鳴った。

 静けさを破るその音は、2人の時間の終わりを告げる音となった。





 そうして会話もないままボートは岸に戻り。

 視線も合わせないまま、すっかり暗くなった桜並木を歩いていた。

































『・・・・・・・嫌だ』

































 平次の脳裏に残る言葉。

 そして、その音。







 今まで聞いた事のないその声は、鮮やかな残像と共に焼き付いた。























「いたいた! も~ 暗いと全然解らへんやんか! 平次保護色やし」

「うっさいわボケ」

「まあまあ。遅くなってごめんねー。2人とも何してたの?」

「ボートで桜見てた。綺麗だったぜ? 今度一緒に乗ろうな、蘭」

「え? あ、うん。そうね」



















 新一からそう言われ蘭は頬を赤くする。

 和葉はしきりに『ええなあ蘭ちゃん!』を連発し、視線を平次に向けていた。





















 ・・・・でも、さっき平次は和葉ではない別の人間が好きだと言っていた。






























 和葉は知ってるのだろうか?

 ふと新一は思った。





 そう言えた義理でも、思う資格も心配する立場でもないのに。































 ・・・・・・それで、お前の好きな奴って?




























 聞けなかった。

 聞いたら、答えてくれただろうか。











 でも、それを聞いて俺はどうする―――――――――――――・・・・・・?



























「じゃあこっちこっち! アタシらな、ええ場所見つけたんよ」

「そうそう。すっごい綺麗なの!」

「酒は? 花見なんだから、アルコールは必要だろ」

「そーやんなあ。ちょお暖かいし、やっぱビールやろ」

























 それはとても暖かな夜だった。





 3月だと言うのに、気の早い桜前線は日本列島を渡り。

 春休みにはこうして見頃を迎えた夜だった。























 ・・・・・それからの夜桜見物の事は、2人はあまりよく覚えていない。



 それは。



























 その後、夜明けを迎えるまでの数時間が――――――・・・あまりにも衝撃的過ぎたからだった。

















桜思想[05]







「工藤。そこのコンビニ寄ってもええか」

「ん?」

「何や、全然飲み足りんわ――――――・・・・もうちょお酔いたい気分や」

「それなら家にあるよ。けどお前まだ飲む気? 俺なんか、結構足にキてんだけどな」















 蘭と和葉を毛利の家まで送った頃には24時を過ぎていた。

 平次は横断歩道の向こうに見えるコンビニエンスストアの明かりに、視線を向ける。





 ・・・・決して新一を視界に入れないように。





















「弱いな~ジブン。2本しか空けてへんのに」

「・・・・『コナン』からこの身体に戻ったら、体質変わってたって前に言っただろうが」

「そーやったっけ?」

「ったく・・・・」
















 信号待ち。

 人もまばらな、深夜の駅。






 ・・・・隣りから小さく吐く息が聞こえ、平次はどきりとしてさっきの事を思い出した。

























 そうなのだ。

 新一は、たかだか数本の酒でその肌を紅くしていたのだ。





















 桜の樹が良く見える、屋外の4人掛けの席。

 当然の様に新一と蘭。そして自分と和葉が並んで座る。










 ・・・・・目の前に来たのは、新一。


























 隣りにいるのならばまだ視界に入らないのに。

 その場所には蘭がいて、自分の隣りには和葉がいて。





 端から見れば、二組のカップルが仲良くお花見という構図なのだが――――――・・・・






















 喧騒。

 舞い落ちる、花びら。



 ぼんやりとした灯りの下、薄く紅く頬を染めている新一。



















 ・・・・・・夜の闇の中でも解るそのほろ酔い加減に、平次は高鳴る鼓動を抑えるのに必死で何を喋っていたのか覚えていなかった。








































 ・・・・・そうでなくとも今日はなんだか暑くて。


 まだ3月だと言うのに、上着が邪魔になる程の陽気が夜も続いていて。











 ――――――・・・・アルコールも加わり体温が上がった新一は途中でジャケットを脱いだ。

































 ・・・・真っ白なシャツの首元は大きく開き。





 腰で留められたベルトが、細さを際立たせる。





























 見慣れている筈のスーツの新一。

 けれども・・・・・・



















 白く眩しくそれは、平次の脳裏にいつまでも焼き付いていた――――――――――・・・・・・・






























「おい服部!?」

「へっ?」

「目え開いてんのかよ。信号、青だぞ」

「あ、そ、そやな」

「ったく・・・・お前も酔ってんの? しっかりしろよな」











 その時平次はとうとう目を向けてしまった。

 突然の声に、その方向を見てしまったのだ。





 勿論その先に見えたのは・・・・・





















 ・・・・・・・少し酔いが廻って眠たそうな目をして、ふわりと微笑いながら先に歩いて行く工藤新一。




































 ゆっくりと歩き出す足取りが重い。

 でも、目の前に居る新一に向け確実に距離を縮めて行く。



 その時、生ぬるい空気が大きく揺れた。



















「・・・・・何でこんなに強いんだか、風」

「また頭に付いとるで、花びら」

「今日は桜に好かれてんなー 俺」

「ホンマ目の毒やっちゅーねんなー・・・・・・」

「・・・・何か言ったか?」

「いや。取ったるし、じっとし」























 小さく呟くそれは、自分にしか聞こえない。





 平次にも降りかかった筈のそれは、そのまま落下したのに。

 何か強い引力に惹かれているかの様に、数枚の薄桃色の花びらは新一の頭の上で止まったまま動かない。























 ・・・・桜は見事に新一を引き立てている。



 そう感じながらも平次は、『それ』さえに嫉妬して髪にかかっている花びらを残らず取り去った。
































ひとくぎり

































「――――――・・・・酔わなきゃやってらんねえっつーの」






















 また来た。

 来て、しまった。







 ・・・・・この想いを自覚してから、平次と2人きりの夜を迎えているのは何度目だろう?



























 慣れない。

 全然、平気にならない。



 それ所か・・・・・・膨らんできている気持ちの置き場がなくて、どうしようもない。























 刻が過ぎる毎に―――――――――・・・・・・着実に胸の苦しさは増して行く。






















「お。工藤やん」

「え?」

「これいつ撮ったんや? 嬉しそーにインタビューしとるのー」

「わー!!! 見んな!」













 家に着き、リビングに入った所で新一は直ぐにテレビの電源を入れた。

 何か他の音がなければ、この状況をやり過ごす事は難しいと思ったからだ。



 しかし付けた先でやっていたのはスポーツニュース。

 間近に控えたワールドカップ関係を話題にするのが多くなったこの時期にありがちな、メンバー有力選手へのインタビューが流れていた。





 そのインタビュアーが、工藤新一だったのだ。













「何やねん? 今更恥かしがってどないすんねや~うっわ、こらまたえっらい笑顔振りまいとるやんけ」

「うるせえ!! 消す!」

「あ」











 真っ赤になってそう叫んだ新一は慌ててリモコンで電源をオフにした。

 身体を画面の前に乗り出し、まるで『キーパー』の様にガードして。



 ・・・・・平次はたまらず笑い出す。













「何がおかしい!?」

「せやかてな~ テレビなんて出慣れとるやろ? 何がそんなに駄目なんかな~ 思て」

「・・・・ど、どうでもいいだろ! 酒、持ってくるからそこらへん座ってろ!!」

「へいへい」













 ソファを指してそう叫ぶと新一は足早にリビングを出た。

 地下の倉庫に向かう途中で一旦止まり、深く息を付く。









 ・・・・・どうにもこうにも心臓が忙しなかった。




























「お前が見てると変に緊張しちまうんだよ―――――――――・・・・・・」
























 頬が熱い。

 呼吸が、熱い。









 ・・・・・・息が苦しい。


























 ―――――――――・・・・・・明日になれば、お前は大阪へ帰る。








 あの幼馴染と。

 2人で一緒に、また俺の知らない日常を過ごす。
























 ・・・・・そしていつかは、俺の知らない誰かと―――――――――・・・・・・
































「畜生――――――・・・・・・・もうこうなったら冗談ぽく襲っちまうか・・・・?」




















 冷たい階段を降りながら、新一は自嘲気味の微笑いを漏らす。














 叶う事のない願いなら。

 決して、報われることのない想いなら。









 ・・・・・・・いずれ離れなければならないのなら、一度くらいはあの肌に触れたい。



























「なーんてな・・・・・」












 扉を開けると、ひんやりとした冷気を感じる。

 新一は静かに中へ入ると、ふらつく足取りでアルコールの強い瓶に手を伸ばした。






























ひとくぎり

































 ・・・・・・新一が戻って来ない。





































「なーにしとんねん工藤――――――・・・・・・・」













 約30分。

 ボーッとソファで待っていたが、段々と体勢は崩れ、現在横になりながら壁の時計を平次は見つめている。





 ・・・・・・さすがに眠くなってきた。










 このままでは寝てしまう。

 そう思った平次は勢い良く起きると、窓際に近付き外を覗いた。




















 煌く、月。





 ―――――――――・・・・・そして視線を落とすと。



















「・・・・・工藤!?」
















 そこには、庭の唯一つの桜の樹を見上げている新一が居た。



































ひとくぎり





























 平次は暫く動けない。

 何となく、話し掛けられない。

















 ・・・・・枝を見上げる瞳は切なく。



 時折髪を強く揺らす風が、まだ咲いて間もない花びらを舞わせていた。




















「――――――・・・・・」








 月夜に浮かぶ顔色は蒼く。

 闇の中でそれは幻想的な色を醸し出す。








 ・・・・・・ふわりと枝に伸ばす手首の細さがやけに切ない。




















 自分は確実に少年から大人に変化しているのに。


 彼は、あの時出逢った頃のまま時を止めている・・・・・




















「工藤!?」








 その時、視界の新一が揺れた。

 咄嗟に窓を開けてその名を呼んでしまう。






 ・・・・・・当の本人が、驚いた表情で振り向いた。














「な、何だ?」

「――――――・・・・あれ? 今ぐらっと来てへんかったか?」

「へ?」

「・・・・ん?」

「ああ、こいつが突然足元に擦り寄って来たから――――――・・・・・近所の飼い猫なんだけど、ここらへん通り道らしくてさ」

「あ・・・・猫、ね」












 見ると新一の足元に一匹の小さな猫が居た。

 慣れているらしく、逃げようともせずにくるくるとその周りを廻っている。




 ・・・・・ひょいと抱え上げ窓際の平次の所に持って来た。












「ほら、可愛いだろ」

「女の子か。べっぴんやな~」

「解った解った、今離してやっから――――――・・・・っと。ほらコレ」

「ん?」

「セラーの奥にミニボトル見つけてさ」










 じたばたと動く仔猫を離してやると、あっという間に庭の隅へ消えて行く。

 新一は淋しそうに視線を落とすが直ぐに表情を戻し、ポケットに入れてあったボトルを二つ出した。



 手のひらサイズのそれはワインのミニチュアだ。










「ちっさいな~ 足りるんか?」

「足らせろ。夜も遅いんだ」

「・・・・せやな」












 小さく微笑い視線を落とすと新一の素足が目に入った。

 そう言えばよっぽど寒くない限り、靴下は嫌いだから履かないと言っていた。



 ・・・・サンダルから覗く足首。

 それもやっぱり蒼白かったから、また目を細めた。














「――――――・・・・何だよ」

「いや。ほんなら俺も外出よかな。玄関廻ってくるわ」

「あ、いい。庭用サンダルまだあっから取って来る。お前先に飲んでろ」










 そう言うと新一はボトルを渡し、ぺたぺたと物置小屋の方へ消えて行った。































ひとくぎり






























「うわ~・・・・・・暗くて全然見えねえ」










 月が出ているとは言え、深夜。

 灯りもない所を歩いてきた新一は、ようやく辿り着いた物置小屋の扉を開け呟く。












「懐中電灯持ってくりゃ良かったな―――――――――・・・・・目が慣れるまで駄目だ」










 埃と、むさ苦しい湿気の臭い。

 ろくに掃除もしてないから足元に何が転がっているかも解らず下手に歩けない。



 と、その時何かが飛び跳ねて奥に入るのを感じた。












「何だ??」








 『それ』は棚からダンボールから乗り移り、ガタガタと移動を繰り返して止まる。

 しかし次に『にゃあ』という鳴き声が聞こえてきた事で、猫だと知った。





 多分さっきの仔猫だ。

 ・・・・・しかも、細い声を出している所をみると出られなくなったらしい。












「おいおいマジかよ~ ああもう、全然見えねえっつーの! どこ行ったんだ~?」











 ちっとも視界が良くならないが、しょうがなく新一は少しずつ足を前へ動かす。

 しかし布やらダンボールやらが散乱しているらしく、まともな足場がない。












「ちくしょー・・・・やっぱマメに掃除しとくんだったな~ 駄目だ、やっぱ家戻って懐中電灯・・・・・うわ!」














 とてもじゃないが危ないと思った新一。

 一度引き返そうと身体を反転させて、右足を踏み出したその時だった。













・・・・足の下にボールか何かあったらしく、思いっきり踏んでバランスを崩して転んだ。





















「っ!!!」










 派手な音を出して背中から倒れる。

 連動して棚に乗せてあったものも引っかけたらしく、身体の上にいくつか落ちてきた。



 でも、今の拍子で逃げ道が出来たらしく、白い物体が小屋の外に出て行く。

 それに新一は安心するが――――――・・・・・・倒れる時に打ったらしく、背中が鈍い痛みを訴えた。












「ちくしょー・・・・・ててて・・・・・・うわ、何かすげえホコリ塗れ?」

「工藤!?」

「・・・へ」

「暗くてよー見えへんな~・・・・そこに居るんか??」












 次に聞き覚えのある声。

 それは勿論平次で、突然物が崩れる音がしたから驚いて玄関から廻ってきたのだろう。








 ・・・・・・戸口のシルエットが近付いてくる。












「ああ俺――――――・・・・ちょっと転んじまって」

「起きれるか?」

「平気だ、これくらい」










 そう言って身体を起こす。

 しかし、背中に走った痛みについ声を漏らした。









「っ!」

「おえ工藤?」

「・・・・痛い、かも」

「腰打ったんか? せやなあ・・・・ちょおそのまま待っとれ。真っ暗で俺までコケそうや・・・・・灯り、どっかあるか?」

「玄関入った所の、シューズクローゼットん中に懐中電灯がある」

「解った」








 言うと平次は走り去る。

 気配が消えたのを感じ取ると、新一は大きく息を吐いた。
























 ――――――――――・・・・・・ったく・・・・・・何やってんだ俺・・・・・・・・























 情けない。

 ほんっとーに、情けない。






 服部が居なければ、俺はこのまま自分んちの物置で遭難だ。
















 ・・・・・でも。


















「すっげードキドキしてやがる・・・・・・こんな暗くなかったら、ぜってー顔赤いのバレてんな」






















 背中も腰も、痛いけど。

 それ以上に苦しい鼓動が胸を満たす。




 顔を、身体を熱くして――――――・・・・・・・





























「・・・・・・・なーんでこんなに好きなんだか」





























 そうしてまた考える。

 しつこいくらい自問自答してきた事を、繰り返し。







 ・・・・・・きっと、ずっと、考える。



























 そばにいられるだけで、良いと思うしかないのに。

 東京と大阪に離れていて、こうしてたまに逢えるだけでも良しとしなければ―――――――――・・・・・・



































 ・・・・・・・だってこれは、いくら願った所で叶わぬ想い。


































「辛いなあ――――――――・・・・・・」















 辛いけど。

 逢えなくなるよりは、いい。





 こうして、このまま今まで通りに――――――――――・・・・・

 友達でいられるなら話せるならこの距離で。




























 これから先、あいつに彼女が出来たとしても。







 ・・・・・・・友達なら今までと変わらない距離に居る事が出来る。

































 だから、これくらいの苦しさぐらい耐えられる―――――――――――・・・・・・・




























 遠くから足音が再び聞こえてくる。

 どうやら、平次が戻って来たらしい。








 ――――――・・・・・・・・・新一は大きく息を吸い込んだ。
































 さあ、演じろ。












 俺は工藤新一。

 東の名探偵と謳われ、数々の難事件を解決に導き続けている『工藤新一』。




















「工藤~ なんやあの有り様? 探すのえらい苦労したで~ ちょおあそこ片づけんとマズイやろ」

「・・・・うるせえよ。早く助けろ」
























 ・・・・・・お前の『友達』である『工藤新一』。





























ひとくぎり
































 平次が物置を照らす。

 少し奥の、ダンボールが散乱している所に新一は埋まっていた。



 ・・・・顔も身体も誇りまみれで。










「色男が台なしやな」

「眩しいっての! 俺に光り当てんじゃねえ」

「ちょお待っとって―――――・・・・・ったく、ホンマ埃くさ・・・・・ココもたまには掃除せえよ~」

「黙って助けろ」

「へーへー」








 『助けてもらっている』立場なのに態度の大きな新一。

 まあそんな彼にも慣れてる平次は、さして気にせず右手の懐中電灯を渡した。








「?」

「持っとけ。ほんなら、行くで」

「へ? ちょっ・・・・・痛って―――――っ!! てめ、何処触ってんだバカヤロウ!」










 受け取ると同時に身体が浮くのを新一は感じる。

 急に視界が揺れ、腰と背中に激痛が走った。



 つい、大きな声を出す。









「アホ。こんな時間に近所迷惑や、大人しくせえ」

「・・・・・ばっ・・・・んな事、言ったって・・・・・・・お、お前の手が・・・・・・痛いとこ、ちょうど・・・・っ・・・・!!」

「せやったら俺の首にでもしがみ付いとけ。少しは楽やろ」

「畜生・・・・っ・・・・・も、さっさと運びやがれ!」












 新一は気が付いていなかった。

 痛いのに夢中で、自分がどんな格好で運ばれているのか。







 ・・・・それ所か言われた通りに平次の首に手を廻し、素直に少し身体を浮かせた。














 悪い足場からとにかく逃れ、外に出る。


 月明かりの下、平次は新一を『お姫様抱っこ』状態のまま――――――――・・・・・・

 開け放しにしてあった縁側の方へと歩き出した。





























 左の耳元。

 かかる、至近距離の新一の息遣い。









 ・・・・・平次は目眩しそうになる。





























 暗闇の中。

 月明かりの下。



 風に舞う、桜の花びら・・・・・・


























 ・・・・・・今腕の中にいる彼の髪の毛にも、ちらほらと舞い落ちる桜。
























「桜には魔力が有るて――――――――――・・・・・・何で聞いたんやっけなあ」

「・・・・・・・何、言ってんだ?」

「こんな月の夜に・・・・桜の樹の下で願い事唱えると叶うんやって。ちっさい頃、誰かに聞いた事あんねん」

「そーかよ・・・・・って、んな事いいから・・・・・っ・・・・あそこの、縁側、早く下ろせ」

「――――――・・・・・ホンマに効くんかな」

「え? ちょ、どこまで行く気―――――――――――・・・・」












 工藤邸の裏庭。

 一本の枝垂桜が、月明かりに煌く場所。








 平次は縁側へと向かう足を止めそこへ向かった。


























 ・・・・・・・新一は痛みに耐えながら、どうしたのかとその顔を上げる。

































「・・・・え・・・・・・?」























 枝の間から月が見えていた。

 桜の花びらが、風に乗って自分に降りかかってきていた。








 ・・・・・・同時に視界は塞がれ。



















 その時。


 目に髪の毛が入って痛いので瞑ると、生暖かいものが口唇に触れた―――――――・・・・・・・・・・