『今度こそ本当に死ぬかもしれないわよ? それでも試してみる・・・・・・?』






Time after time











「・・・・・っとにキツイなー」





 全身に鈍い痛み。
 喉も、焼け付くように熱く。


 何度体験しても慣れないこの症状に、新一は大きく肩を上下させた。






「俺ってこんな・・・・・色、白かったっけ」






 久しぶりの『工藤新一(もと)』の身体だった。

 あまりにも久しぶり過ぎて、こうして元に戻ってみても現実感が無い。







 ・・・・・・・どうせ、また戻るのだ。









 『コナン』の身体に。
 小さな、子供の世界に。




 でも、行かなければならない。



 服部の代わりに。
 彼女を、助けに。




 ・・・・・・その為に『工藤新一』は今、ここに存在しているのだから。










ひとくぎり











 京都にある梅小路病院。
 その一室に、服部平次は運び込まれた。






「俺も結構、慣らしとるつもりやったけど・・・・・あいつん方が一枚上手やったな」
「・・・・お前何してんだ?」
「ん?」
「まさか病院抜け出す気か? 安静にしてろって言われたろ!」
「このくらい平気や。ええから早よ行くで」




 京都の山能寺の僧侶からの依頼で、小五郎と蘭と共に来ていた小さな新一。
 そして同じ時に起こっていた強盗殺人事件の謎を追っていた平次が、この京都の五条大橋で再会したのは昨日の事だ。




 そして平次と和葉が一旦大阪の実家へと戻ろうとした昨夜、犯人と接触した。


 ある公園で木刀での勝負を挑んできた相手。
 しかし見たこともない流派に躊躇したその時、眉間に熱が走った。


 受けた傷が元で視界不良に陥った平次。
 それを助けたのが、和葉の咄嗟の機転だったのだが――――――――――・・・・・




 ・・・・・そのまま平次は意識を失ってしまった。








「ほんっと無茶ばっかしやがって」
「工藤に言われたかないなー」
「コラ! バイクは止めろ。電車で行くぞ、電車で!」
「ええ~ チンタラ行くんは性に合わんな~」
「・・・・・ったく。病人だってこと自覚しろ」






 そう。

 新一は解っていた筈だった。




 平次は、昏睡から覚めたばかりの『病人』だという事を。
 一度途中で眩暈がして、休んだのだから。


 なのに。







 ・・・・・・・・捜査に夢中で、平次が倒れるその時まで事の重大さに気付けなかった。







ひとくぎり













 情けない、と思った。




 今自分は小さな身体で。
 とても、彼を背負って行ける様な体力もない。


 ・・・・救急車を呼んで再び同じ病院へと運ばれている時、その無力さを改めて思い知らされた。






 けれども刻は近づく。
 捕らえられた和葉を助けに行かなければならない。


 ・・・・・・しかし、平次は絶対安静だ。








「畜生――――――――――・・・・俺が、元の身体だったら・・・・・・・」








 病院の個室。
 眠る平次の寝顔を見詰めながら、新一は考えていた。

 いつもなら、躊躇ためらいなくこの身体のまま犯人に挑むのだが、今回は人質を取られている。
 平次を指名しているのに、明らかに違う人間が行っては逆効果だ。






 ・・・・・・・・・どうしたらいい?






 『工藤新一』の身体なら、背格好は同じくらいのはずだから、彼が着ていた服や帽子を借りれば・・・・・・・・夜の闇が、ある程度誤魔化してくれるのではないか?




 そうだ。

 声はこの変声機ネクタイがある。






 だから、俺が、どうにかしてこの身体を――――――――――・・・・・・・








「・・・・・そういや、灰原あの時」




 阿笠博士に作った薬の中で、あった筈。
 『風邪と同じ症状が出る薬』というものが。

 それと、最初に自分が『新一』に戻る事が出来た『白乾児(パイカル)』という酒が有れば、もしかして・・・・・・・・・・




 ・・・・・・病室を抜け出すと、新一は迷いなく灰原哀へ連絡を取った。









ひとくぎり









「今度こそ本当に死ぬかもしれないわよ? それでも試してみる・・・・・・?」
「 少しの間だけで良いんだ・・・・・・・とにかく、彼女を助けないと」
「・・・・戻るとも限らないわ。ただ、苦しいだけかもしれない」
「何もしないでいるよりマシだ」




 哀が病院に着いた時、新一は暗いロビーに居た。
 険しい表情を向けて。




「・・・・・お酒はあるの?」
「ああ。近くに売ってた」
「どうなっても知らないわよ」
「自分の事は自分が良く知ってる。ヤバくなったら、引き返すって」
「そう・・・・・」




 意思の堅いその瞳。
 哀は、小さく息を付くとショルダーバックからそれを取り出す。


 ・・・・そうしてひとつのカプセルを渡した。






「あのよ。ひとつ頼みがあんだけど」
「なに・・・・?」
「服部の奴、目え覚めたら絶対抜け出そうとすっから・・・・見張っといてくんねえ?」
「・・・・・・解ったわ」
「悪いな」






 小さな身体が病院の奥へ消えてゆく。
 強い意志を秘めたあの瞳に、哀はもう何も言えなかった。




 どうして彼等はこうも無茶をするのだろう?


 危険と解っていて、躊躇いも無く立ち向かって行くのだろう?






 自分以外の誰かの為に――――――――――・・・・・その身を犠牲に出来るのだろう?







「・・・・・・・・」




 ・・・・・・私が同じく捕らえられても、貴方はそうやって助けに来てくれるのかしら?







 ロビーに差し込む僅かな月の光り。
 それを見詰めながら、哀は自嘲気味の微笑を浮かべて椅子に腰を下ろした。











ひとくぎり









 月明かりだけの空間。
 新一は、音を立てない様に病室へ入った。

 平次は良く眠っているようだ。






「えーと・・・・」




 静かにベッドまで行くと、そばに置いてあった衣服を抱える。
 それと靴を掴むと新一はそのまま病室を出た。






 ・・・・・・『コナン』の服を破くわけにはいかねえ。


 どこかに隠しておいて、また小さくなった時に着なきゃなんねーしな・・・・・・・・・






 薬を飲んだ後の自分は苦しさで声を上げるだろう。
 その声で平次に気付かれてしまっては、元も子もない。


 だからあの病室で薬を飲む訳にはいかないし、何よりあの場所で全裸になるのだけは嫌だった。


 向かった先はすぐ正面にあったトイレ。
 個室に入ると新一は衣服を脱ぎ去り、カプセルを口に含んで白乾児を一気に飲んだ。






「!」







 何度体験しても慣れない痛み。
 喉も身体も焼け付くように熱くなり、骨も折れそうに軋む。






「・・・・・っ・・・・・・ぁ・・・・・・!!」






 倒れ込み洋式のそれにうな垂れて、数分後。
 ようやく痛みが治まって新一は目を開けた。






「・・・・何とか上手く行ったみたいだな」






 手のひらが子供のそれじゃない。
 腕も、足も、高校生である自分のものだ。


 しかし懐かしんでは居られない。
 新一は借りてきた服を着込み、左手首に変声機ネクタイを結ぶ。

 鏡を見ながら、こっちは忘れず買っておいたドーランを塗る。
 しかし、薬で発熱しているせいか視界がぼやけて上手い具合が解らない。


 まあ『こんなもんかな』と適当に終わらせ、病院を出ようとした――――――――・・・・・






 ・・・・・・・帽子を忘れたのに気付いた。 






「やっべ・・・・アレねえと意味ねえ」




 朦朧としたまま階段を上ってゆく。
 何とか平次の病室まで辿り着き、今度も音を立てない様にとドアを開けた。


 静かに、中へと進む。






 ・・・・・どこに置いてあったっけ。






 暗闇の中、目を凝らす。
 するとベット右脇の台の上にそれは有った。


 小さく息を付いて近づく。
 そうして、手を伸ばした瞬間。






「・・・・・・・どこ行くねん」
「!?」







 ・・・・・・・低い声と共に手首を掴まれた。









ひとくぎり











「何の真似や・・・・・?」
「は・・・・・・はっとり・・・・・」
「何で身体戻っとんのか知らんけど・・・・・・俺のフリして、和葉助けに行く気か?」
「・・・・そうだ」
「アホ! こんな身体で何が出来んねん!?」
「っ・・・・!」






 平次が目を覚ましていた。
 病人とは思えない目の鋭さに、新一は驚く。


 ・・・・・・・・僅かなドアの音と人の気配に起きたのか。




 やっぱり油断ならないなと、新一は思った。






「心配すんなよ・・・・・・彼女だけは助け出してみせる」
「指名しとんのは俺や。俺が行く」
「お前は絶対安静だ。大人しく寝てろ!」
「元に戻ったからいうてもお前の方がよっぽど病人やんか! 何やこの熱!? そんまま行っても和葉助ける所か一緒に捕まんのがオチや! そん間に『コナン』に戻ってみい・・・・・どう説明する気なんや?」
「・・・・・・っ・・・・」




 当然考えられる事を言われ、新一は返答に詰まった。
 事実、高熱を出してる状態と同じ今・・・・・・まともに戦っても勝率は極めて低い。


 けれども、目の前の平次はやっぱり病人だ。
 怪我もまだ治っていないのだし、頭を打っているのだから今無茶に動いたら・・・・・・今度こそ命に関わる事になるかもしれない。


 ・・・・それに比べたら、自分は傷を負っている訳ではない。
 熱は有るだろうけど、他の機能は正常だ。






 ならば、やはり自分が行くしかないではないか――――――――――・・・・・・・・






「ええな? せやからお前はこんまま・・・・・・」
「服部。俺はお前を、これ以上危ない目に遭わせたくねえんだ」
「工藤!」
「彼女は必ず助ける。俺と引き換えにでも、絶対に」




 そうして新一はポケットから、あるひとつのカプセルを取り出し口に含んだ。




 目を見開く平次。
 その表情に僅かに微笑うと、顔を近づけてゆく。




 ・・・・・そして。







「!?」

「・・・・・っ・・・・・」









 ・・・・・平次の口唇に自分のそれを合わせると、ゆっくりとカプセルを移して行った。













ひとくぎり











 移動した後も、新一は暫く離れなかった。
 平次がカプセルを飲み込もうとしなかったからだ。

 口唇を離せば吐き出してしまうだろう。
 だから、逃れようとする身体をベッドに押し倒す。


 ・・・・・・すると触れた左肩に激痛が走ったのか、平次は軽く呻くと大きく喉を上下させた。






 新一は、ゆっくり離れる。






「悪いな――――――――・・・・・傷に触ったか」
「な・・・・・・・何、飲ませた・・・・?」
「心配すんな。ただの睡眠薬だ」
「って、おえ工藤・・・・・・!?」
「もう行く。これ、借りてくからな」
「・・・・・く・・・・・」






 新一が口移しで飲ませたのは、即効性の睡眠薬だった。
 こんな事もあろうかと灰原から貰っておいたのだ。


 ・・・・・そのまま眠りに落ちた平次。

 目を細めてその顔を見詰め、傍らの帽子を取る。








「ごめんな服部・・・・・・・」








 不自由な子供の状態を助けてくれるのは、いつも彼だった。
 だから、今度こそ自分が助けたかった。

 捕まっている和葉を助け出したいのも本当だけど。
 それ以上に、新一は平次の為に何かしたかったのだ。










 ・・・・・・・東京と大阪に離れて暮らしていたのに、俺達は出逢った。








 小さくされた自分をいつも気遣ってくれた。
 時には命さえ救ってくれた。


 空気の様な存在だと気付いた。






 いつからか、蘭に対する気持ちとは別の感情で――――――――――・・・・・・










 ・・・・・・・・新一は、平次が好きだと感じていた。






 自分には無いものを持っている彼。
 きっと、一生の宝物。










 ・・・・・・・・あの橋で逢った時、その気持ちを確実に強くした。








 月が見ていた。
 それは窓辺から、眠る平次を綺麗に照らし出していた。






 ・・・・・・新一は少し身体を屈めると、薄く開いていた口唇に自分のそれを重ねる。




 やがて名残惜しげに離れると――――――――――・・・・・・・
 帽子を深く被り、病室を出て行った。









ひとくぎり









「ホンマ、あん時は危なかったな」
「ん?」
「工藤がちっさい時、ここで『義経記』に関する事件あったやんか」
「・・・・・そうだったっけ」






 そうして数年後。
 本来の姿を取り戻した新一は、再び京都で平次と出逢った。


 桜の季節はもう過ぎていたけど。


 ゴールデンウイークだし。
 学校も休みで時間も空いたから、何となくひとりで来たのだが。








 ――――――――――・・・・・まさか、あの時と同じ橋の上で逢うとは思っても居なかった。








「そうやで? 人の忠告は聞かんで出て行くし、人ん事クスリで眠らせようとするし・・・・・・・とんでもないで全く」
「るっせーな今更。過ぎた事をイチイチ蒸し返すんじゃねーっつの」




 昼食の為に寄った蕎麦そば屋。
 向かい合わせに座りながらの、会話。




 ・・・・・新一は、未だ止まらない胸の高鳴りを押さえるのに精一杯だった。












 何で、いるんだよ・・・・・




 せっかく忘れようとしてんのに。
 だから、時期の過ぎたこの時に来たのに。








 どうして、またここでお前に逢っちまうんだよ――――――――――・・・・・・?










 平次の初恋の想いが眠るこの地で、自分の想いを風化させたかった。
 だから蘭も誘わず、ひとりで来た。

 あれから、それこそ何度も事件の度に会って来たけど。
 元に戻ってから京都で逢うのは、今日が初めてだった。






「工藤、どこ泊まっとるん?」
「いいだろどこだって」
「冷たいな~ 久しぶりに逢うた友達にそれはないやろ」
「・・・・それよりお前は何で居るんだ?」






 『友達』という言葉に少し反応する新一。
 しかし、持ち前のポーカーフェイスでやんわり流す。

 代わりに投げかけた質問に平次は答えた。




「何でて・・・基本的に好きやからな~ 京都。時間が空くと、良くバイク飛ばして来るんや」
「へえ」
「工藤は何でや? 観光・・・・には、見えへんけど」
「悪かったな。その観光だ」






 ご馳走様。と箸を置く新一。
 するとさっさと席を立つから、平次は慌てる。




 ・・・・・・会計を済ませて外に出ると、また強くなった日差しが二人を照りつけた。








「工藤」
「・・・何だ」
「ちょお、付き合うてくれや」
「え?」




 言うなり脇に止めておいたバイクのメットを渡す。
 そうして有無を言わさず新一を後ろに乗せると、平次はそれを発進させた。









ひとくぎり











「・・・・ココって」
「桜散ってしもたら、結構雰囲気変わるもんやろ」




 暫くして着いた先。
 それは、見覚えのある場所だった。


 山能寺。
 平次が初恋の子と出逢ったと言う、想い出の桜の樹が眼前に見えた。






「それで?」
「まあまあ。こっちや」
「・・・・・?」






 寺の境内。
 その、格子窓。


 僅かに開いていた隙間から、平次は中へと入り込んで行く。
 新一は驚きながらも後を追った。






「おい、良いのかよ?」
「かまへんて。悪さする訳やなし」
「そーゆう問題か!?」
「そーやな・・・・・・・もしかしたら、するかもしれへんけど」
「?」
「やっぱ目線ちゃうと景色も変わるもんやな―――――――――・・・・・格子の隙間から差し込む光りは、そのままやのに」






 懐かしむように平次は目を細める。






 暫く逢わない内に、また大人の顔つきに変わっている。
 そこに加わった日差しとのコントラストに、新一は突然鼓動が騒ぎ始めた。


 気付かれたくなくて、焦り境内から出ようとする。







 ・・・・・しかし、平次が腕を掴みそれを止めた。








「コラ。どこ行くねん」
「お、俺は外の空気吸ってるから・・・・・・だから、離せ」






 思ったよりも強いその力。
 新一は、いつもと違う平次の雰囲気を感じる。

 すると、更にきつく掴まれた。








「・・・・嫌や」
「何でだよ!?」
「――――――――――・・・・そう言うたら、また俺にクスリ飲ますんか?」
「え・・・・?」
「けど、何べんされても絶対飲んだらへんけどな」






 その言葉に新一は目を見開く。
 突き刺さるような視線が、真っ直ぐに自分に向いていた。

 そうして頭に言葉が繰り返される・・・・・・




 すると何か思い当たったのか、新一は蒼白になった。








「・・・・・まさか」
「思い出したみたいやな」
「あ・・・・・あん時、お前・・・・・・カプセル・・・・・・」
「飲むかアホ。奥歯んトコ隠しといて、フリしただけや。そーでもせんと・・・クチ、離してくれへんかったやろ」
「っ・・・!?」






 そう。
 数年前の春、この京都で起こった事件。

 犯人と接触し傷を負って病院に運ばれた平次の代わりに、新一が平次に成りすまして敵地に乗り込んで行った夜だ。


 灰原哀の作った薬と白乾児という酒の融合で、一時的だが本来の姿を取り戻した新一。
 しかし、帽子を借りるために平次の病室へ入った時気付かれてしまい・・・・・






 ・・・・・・即効性の睡眠薬で彼を眠らせた筈だった。






 それだけじゃない。

 その後、眠ったと思っていたから、新一は平次に――――――――――・・・・・・








「そ・・・・それじゃ、あの時・・・・・」
「驚いたで。まさか工藤にそんな趣味があるとは思うて無かったし」
「・・・・っ・・・」
「せやけどもっと驚いたんは――――――――・・・・全然嫌やと思わんかった自分やな」
「へ・・・・?」




 すると、平次は手を離した。
 深呼吸してその場にあぐらをかく。





 新一も、もう逃げようとはしなかった。








「・・・・・・追っかけて行ったらお前は一生懸命俺のフリしとるし。熱のせいでフラフラしながら、和葉ん事必死に守っとる――――――――・・・・・剣もロクに使えへんのに、ホンマに無謀な奴やと思うたわ」
「・・・・・」
「そん時や。俺に、妙な感情が生まれたんは」
「・・・・え?」
「暫く悩んだで? 俺こそ、男に惚れる趣味はなかったんやし」






 真っ直ぐに平次がこっちを見ていた。
 眩しい光りが反射して、その前髪が金色に見えた。






「それからが大変やった。さすがにちっさい工藤ん時は、変な気は起こらんかったけど・・・・・・こうして元に戻ってから事件でお前に逢う度に、自分との戦いやったんやからな」




 

 ざわざわと、樹が揺れていた。

 新一の視界に映る樹が――――――――――・・・・・・・ひとたび、強く風に揺れた。








「・・・・っ!」









 乾いた空気と共に、砂が舞う。
 それを防御する為に新一は目を閉じる。


 すると。








 ・・・・・・ふわりと暖かい感触を口唇に感じ、突然風が凪いだ。










ひとくぎり









「そーいや今日、誕生日やろ。おめでとさん」
「誕生日・・・・・?」
「・・・・・・へ・・・・ジブン、確か5月4日生まれやなかったか?」
「あ!」

 



 そう、今日は5月の3連休。
 その中日。


 ・・・・・5月の4日だった。






「フツー忘れるか?」
「うるせえな・・・・いいだろ、別に」
「まーええわ。夜は、俺が美味いメシ食わしたるからな」
「・・・・そーいや服部。本当に千賀鈴さんだったのか?」
「へ? 何がや?」
「だから・・・・・その、初恋の人って」




 格子窓からは、相変わらずの日の光り。
 そして流れる緩やかな刻。

 新一は、既に桜が散ってしまった樹を見詰める。




 ・・・・・・・平次は微笑った。






「何や。気になるん?」
「・・・・そんなんじゃねえ。有耶無耶なのは、気持ち悪いんだよ」
「ほー・・・・あれなあ、実は和葉やってん」
「え!?」
「いっやー俺もオドロイてな。あんだけ大騒ぎしてアホみたいやろ?」
「・・・・・・お前らやっぱり相思相愛じゃねえか」
「へ? ちゃうって、コラ工藤どこ行くねん~~~!!?」








 緩やかに風吹く街。


 どこか、懐かしい場所。








 Time after time.







 ・・・・・・・それは初恋よりも色鮮やかな、ふたりの想いの場所。















Fin