それぞれの想い




「やった打ったー!! よっしゃ金本ー!!!」

「おーサヨナラかよ」

「これでタイやな~あ~ まだまだ勝負は解らんな!」

「・・・・服部落ち着け。取りあえずアブねえから酒、テーブルに置け」















 10月23日。夜も22時過ぎの、工藤邸。

 新一と平次はテレビ中継が始まってからずっと、リビングで日本シリーズを見ていた。



 そうして延長10回の裏。

 金本が、サヨナラを打ったのだ。















 ・・・・・平次は、この上なく上機嫌であった。

















「あーもー もっと酒飲みたなってきたな! 工藤~ もいっぽん空けへん?」

「ねえ。つうか飲み過ぎだ」

「ええ~? しゃーないな~ よっしゃ、俺がちょお買うて来たるわ!」

「黙れ酔っぱらい。そのまま寝やがれ」













 金曜の講義無うなったから、そっち行くわ。

 そんなメールが来たのは昨日だった。



 相変わらず唐突な奴だ。

 新一は思うが、やっぱり嬉しかったから『猫缶、忘れんなよ』と返信してやった。



 















 ・・・・・そう。







 今、工藤邸に居るのは彼らだけでなく・・・・・・

























「にゃ~」

「ああ駄目だって。酔っぱらいに近づくと酒臭くなっちゃうぞー」

「・・・・ひどいやんか~ そんな飲んでへんで~ たったの5杯やろ~~」

「ストレートで飲んでて何が『たった』だ。ほら、こっち来い桜子」

「にゃっ?」















 アメリカン・ショートヘアの、桜子も一緒だった。
































ひとくぎり

























「ひどいで工藤・・・・・俺捨てたまんま寝るなんて」

「うるせえ。酔っぱらいの面倒見切れるか」

「桜子も桜子やんか~ いつもは俺んそばで寝とるのに~」

「昨日は俺に添い寝してくれたんだよな~ 酒臭いの嫌だったもんなー」













 結局昨日。

 新一は、ソファで崩れたまま寝に入った平次を放っておいた。











 ・・・・・運ぼうにも意識のない男は、とにかく重たかったからである。



















 平次は自分のくしゃみで起きた。

 寒さに震え、キョロキョロして壁の時計を見ると・・・・0時を回っていた。



 新一も桜子も居なかった。

 もしかして・・・・・と新一の部屋を覗いたら、案の定すやすやと桜子と一緒に寝ていたのだ。











 平次は一気に酔いも醒め、大人しく隣の客間でひとり布団にくるまって眠りに付いた。

 そして気が付くと既に12時前。















「起こしてくれたらええのに・・・・・」

「気持ちよさそうに寝てるから、悪いと思ってさ」

「んな事みじんも思うてへんくせに」

「そう思うんだったら昼メシ食ったら、買い出し付き合えよ」

「買い出し?」













 新一はパスタの茹で具合を見にキッチンへ移動する。

 寝ぼけ眼で『?』と向く平次に桜子を渡し、軽く息を付いた。













「・・・・夕食の分だよ。今日は横浜行くって言ってたけど、あれ土曜にしようぜ」

「へ? せやかて工藤・・・・」

「今日もあるもんな。お前、家でゆっくり観戦したいだろ」















 日本シリーズの5戦目。

 甲子園球場での、最後の試合。



 そして、星野監督の最後の甲子園。













 ・・・・・中華街にフカヒレスープ飲みに行こうぜ。そう言っていた新一。

 土日は混むから、行くなら金曜が良いと言っていた新一。



 それなのに。

















「ええの?」

「メシ食ってる最中ずっと、そわそわしてるお前見んのムカツクし」

「な、何言うてんねん」

「俺も桜子もほったらかしで、ずーっとテレビに夢中なくらいだし?」

「う」

「だからだ」















 ほら、皿出せ。

 そう新一に促され、平次は戸棚からパスタ皿を取り出した。






























ひとくぎり



























 夜。

 買ってきた寿司をリビングで平らげ、お茶をすすりながら平次は既に画面に釘付け状態。



 時刻は19時。

















「桜子~ 散歩行くか?」

「にゃ♪」

「どーせ終わるまで相手にしてもらえねーからな。お互い」

「にゃにゃにゃ?」

「あれ~ 工藤どっか行くん?」

「お前はゆっくり画面見てろ」















 ジャンパーを着込んで桜子を抱える新一。

 怖いくらいの笑顔で平次にそう言うと、さっさとリビングを出て行った。























 川沿いをてくてく歩いて。

 草むらで、2人で駆けっこして。



 公園で滑り台やブランコに乗って。























 ・・・・柄にもなく無邪気に遊んだ後、ベンチに座り込んだ。





























「ひ・・・久々に運動したら疲れた・・・・情けねえ」

「にゃにゃにゃっ」

「お前は相変わらず元気だよなあ・・・・・・ったく。せっかくの美人が台無しじゃねーか・・・こっち来い」

「にゃうっ」



















 ひょいと掴み、顔や身体についた土ぼこりを新一は払う。

 じたばたと暴れる桜子を、逃がすまいとしっかり抱きしめて。





 ここ最近は新一の存在を認めてくれたのか懐くようになっていた。

 夏までは散歩しててももがいて大変だったが、今では名を呼ぶと直ぐに新一の懐で大人しくなる。





 夜はさすがに視界が狭くなるから、リードを付けてのお出かけだった。















「そろそろ試合、終わったかな」

「にゃう?」

「それじゃー何かあったかいモンでも買って、帰るか?」

「にゃっ♪」

「おでんとか食いたい気分だよな~」















 桜子をしっかり抱き直す。

 ジャンパーの中に入れると暫く動いていたが、ちょうど良い位置を探したらしく、やがて大人しくなる。









 ・・・・すると静かに小さな身体が上下し始めた。





























「寝ちゃったか・・・・」

















 この時期、平次が日本シリーズに夢中になるのは解っていた。

 一ヶ月前の阪神優勝の時を思い返せば予想は出来る。



 でも新一はそれが嬉しかった。

 このところ物騒な事件が続いていて、それが特に西の方で起こっていたから、平次はかなり駆り出されていた。









 だから、心底嬉しそうに電話してきたあの日が新一には忘れられなかった。



 自分は野球の事が詳しくない。

 だから、阪神が18年振りにセ・リーグ優勝だと知ってもそれ程盛り上がれない。





























「俺がいると、結構気、使ってるからなあ・・・・・」

















 今のはどうだとか。

 あのプレイは、実はこんなに凄いんだとか。



 平次は事細かに新一に教えてくれるから、その為に彼がゆっくり見られないのだ。

























 ・・・・俺の事はほっといてくれていいのに。























 こっちはそう思うのに、そうも出来ない性格らしい。

 だから新一は、彼が野球に集中出来る様にした。





 阪神が18年振りの快挙だと知っても盛り上がりはしないが・・・・・・それを楽しみにしている気持ちは解る。

 自分がワールドカップに夢中になっていた時と同じだ。























「おーオリオン座だ・・・・・明日も晴れかなー」

「工藤!!」

「・・・へ?」















 夜空を見上げていた時だった。

 遠くの方から自分を呼ぶ声が聞こえ、新一は辺りを見回した。



















「どこ行っとっんや? 帰って来んから心配したで~」

「服部・・・・」

「すぐ戻ってくると思とったのに、何しとったん」

「・・・・試合終わる頃まで、桜子と時間潰してた」

「どーゆー事や?」















 走ってきたのは平次だった。

 ジャージ姿のまま、寒そうに羽織っていたジャンパーのポケットに手を突っ込む。



 そのまま、新一を睨むように見た。















「俺がいると集中して見られないだろ。だから」

「・・・お前、嫌いやったん? 野球」

「そうじゃなくて。少しでも見逃したくねえだろうに、試合中ずっと一生懸命俺に説明してるから」

「!」

















 新一はさも当然という表情をする。

 だから、平次は悟った。

















 ・・・・彼にとってそれは良かれと思っての行動なのだ。























 決して他意はなく。

 拗ねている訳でもなく。



















 純粋に。



 好きなものを、好きなだけ思うように楽しませてやりたいと、願っての。























「どっち勝ったんだ?」

「・・・お、おう。そらもー またサヨナラで阪神や!」

「へえ。良かったな」























 そうして新一は微笑う。

 街灯の僅かな明かりの下で、綺麗に。















 ・・・・平次は何だか胸が痛くなった。























「なあ、工藤」

「んー」

「俺、お前に説明すんの好きなんや。ちゅうか・・・・工藤がそばに居らんと、つまらん」

「・・・・そうなのか?」

「桧山や金本が打ったーって時に、一緒に叫ぶ奴居らんと空しいんやで?」

「そりゃ悪かったな。でも俺、たぶん叫ばねえと思うけど・・・・・寂しかったか」

「当たり前や! 工藤かて、ワールドカップん時は俺と一緒に居って良かったやろ?」

「別に? あ、そうだ服部。コンビニ寄ってっけど、何か食う? 寒いしおでんとか食わねえ?」

「・・・・・・」



















 さっきまでの胸の痛みが、別の意味で痛くなる。

 平次は今言われた言葉が頭にリフレインしたまま、少しその場で立ちつくしてしまった・・・・・・


































ひとくぎり





































「ちょーっと言い過ぎたかな・・・でもま、いい薬だろ」















 今更んな事言われてもな。

 そう新一はコンビニの店内で、ひとりごちる。







 本当は、散歩に出る時に引き留めてくれるのを待っていたのに。

















 ・・・・んっとに人の気持ちが解んねえ奴だぜ・・・・・・  

























 もぞもぞと、胸元が動く。

 桜子が目を覚ましたらしく、隠していた手足を出してきた。



 新一は焦って外に出ると、放心状態の平次に渡し、また店内に戻ってくる。























 ・・・・今日阪神が勝ったって事は、王手か。


 こーなったら、今度の日曜は・・・・・俺はダイエーを応援することにしよっと。



















 あいつと俺と、どっちの応援が勝つかな。

























 嬉しい顔見るのも好きだけど―――――・・・・・負けた時の悔しい顔みるのは、もっと好きなんだよね。

























 ・・・そんな事を考えながら、おでんを選んだ。
















































Fin