聖夜に雪はないけれど






 23日の昼前に来た平次宛の速達。

 その中に入っていたのは、1枚の紙切れだった。







 封筒の差出人は、工藤新一。























「・・・・・・」



















 それを受け取ったのは平次本人。大阪の寝屋川にある、彼の実家。

 ・・・しかし、自室に戻る階段の途中で足を止めてしまった。



 何故なら、入っていたのは『クリスマスケーキ・予約引換券』だけだったからだ。

 受け取りの日付は明日の24日の17時で、予約者の名前は『工藤』になっている。















 さらにそのケーキ屋の住所を見ると―――――・・・・・米花町だった。

























 部屋に入り、ベッドに転がってまた考える。

 しかし導き出される答えは、ひとつしか見つからない。



 つまり。

















「俺が東京に行ってケーキ引き取って、そんまま工藤んちに向かえっちゅー事かい・・・」























 そういう事である。
































ひとくぎり



























 そうして次の日。

 世間的にも気分的にもクリスマス・イヴの日。



 大学はとうに休みだったから、平次はゆっくり起きて昼過ぎに新幹線で東京に向かう。

















 何ヶ月ぶりだろう?


 秋から冬にかけては自分が課題やら剣道やらで、新一もレポートや、父親の仕事の関係でロスに行っていたりと結局夏休み以来逢っていない。















 髪は伸びているだろうか。


 背は、少しは自分に近付いているのだろうか。





 ちゃんとご飯は食べているのだろうか。

 本当に、放っておくと自分の食事はいつまでも後回しな『推理バカ』だからなあと、平次は窓の外の景色を見つめながら、僅かに微笑った。











 やがて東京への到着を告げるアナウンスが流れる。

 平次は飲み干した空き缶を所定の場所へ捨てると、大阪とさほど変わらない寒さに身を縮ませながら、東都環状線ホームへと向かった。


































ひとくぎり































「よう。最近、忙しそうだな」

「・・・・工藤」

















 東都環状線内回り。

 平次は、階段を上りきる所で声を掛けられ、面食らった。



 工藤新一がいたからだ。















「何でそんな呆けてんだ。俺の顔、忘れたとでも言うんじゃねえだろうな」

「い・・・いや、その逆・・・・」

「は?」

「――――――・・・・冬服の工藤ってやっぱ最高やと思うて」

「!」















 その言葉には、さすがに新一も無表情ではいられない。

 回りくどい言い方より直接的な日本語は、新一には良い武器になる。



 そんな事を計算してる訳ではないのが、平次の凄い所なのだが。















「ん? どないしてん・・・・風邪ひいとるん? 気をつけな」

「ったく・・・お前って奴は本当に・・・」

「けどビックリしたで。こんな紙切れだけ送ってきよって・・・・俺が他に予定入れとったらとか考えへんかったんか」

「何だ。俺以外に、一緒にケーキ食う相手でもいるのか」

「そ・・・そらー1人や2人」

「はいはい。電車来たぜ」

















 それは本当とも言えるだろう。

 平次はとにかくモテるから、その気になれば相手はいくらでも見つかる。



 けれどもやっぱり、新一と一緒でなければ意味がないのだ。











 割と空いている車両に乗り込んで、数分。

 窓からの景色を見ているうちに目的地へ着いた2人は、寒い空気に身を縮ませながら改札口を抜けた。
































ひとくぎり































 米花駅。

 17時が近いこの時間は、既に闇が支配し始め。



 遠くには微かに月が見えている。















「ロンシャンてアレやろ。1回工藤に連れて行かれたトコ」

「そ。すげー美味しかったって言ってたろ」

「楽しみやな~」

「12月1日からクリスマス・ケーキの受付だったんだけどさ。夕方行ったら、締め切られる直前だった」

「やっぱ人気あんねんな」

















 駅前を通り抜け、路地へ。

 看板の灯りがその場所を指し示している。









 ・・・ふと、平次は隣の新一を見た。

















「ん?」

「工藤・・・・そのマフラー。ごっつ暖かそうやな」

「ああこれか・・・・真っ赤ってトコが、俺っぽいだろ」

「ちょお、ええ?」

「・・・何する気だ」

















 大通りからひとつ奥へ入った途端、人けが急に無くなる。

 街灯も極端に減ったから、辺りはいっそう暗くなった。





 そんな中、平次が突然新一のマフラーを掴む。

 そして。













 ・・・・普通に引っかけていたマフラーを、結び直した。



















「解けかかっとんで? せやから、直した」

「へー気が利くじゃん・・・・って何だこれ!?」

「蝶々結びや。おわー工藤、こんなん似合うなんて怖いな」

「バカかてめえは!?」

「―――――・・・・いやー何か、工藤自身が『俺へのプレゼント♪』って感じやな~ とずっと思っててん。ええやん、誰も見とらんし、シャレやシャレ」

「今そこのケーキ屋に入ろうとしてんだろうが!! 俺を笑いものにする気か!?」

















 勿論新一は速攻ほどく。

 解いて、さっさと走ってそのケーキ屋に入って行った。













 しかし。



 ・・・・伝票を平次が持っている事に気付き、また出てくる。















 にやにやと微笑う平次。

 差し出されたそれを奪い取ると、新一はまた駆けだした。

















「ほい。んな急がんでも」

「うるさいっ!」

「階段。つまずくなや?」

「いいからお前は黙って待ってろ!!」

「はいはい」



















 今日は、クリスマス・イヴ。

 恋人達が過ごす、聖なる夜。

























 ドラマの様に雪は降らないけれど。









 ただ、今日この日に君といられる、それだけで。

























 ・・・・・たった1枚の紙切れで俺を呼んでくれた工藤がいる、それだけで。























 もっともっと。





 君を好きに、なってしまうものなんだ。












































Fin