夏至が過ぎて夏が来る






「あっぢーなあ・・・・・・」

「・・・・ホント暑いな」

















 6月も下旬。

 つい先日、とびきり大きな台風が来た。



 だから今日は真夏じゃないのに真夏日だ。















「こういう日に限って授業は午前で終わりなんだよな。一番熱い時間帯に、外歩きたくねえつーの」

「ならガッコで涼んでりゃ良かったのに。お前にプレゼント渡したいオンナ達、まだいたみたぞ」

「これ以上もらっても持って帰れないじゃん。嬉しいんだけどさー」

「やっぱ車呼ぼう。30分もすりゃ来る」















 じりじりと照りつける太陽。

 更に、下からのアスファルトの熱。



 同じ大学に通う工藤新一と黒羽快斗は、本日ひとつだけの講義を終え、学食で軽く珈琲を飲んでから校舎を出た。







 









 ・・・・・両手に、いっぱいの紙袋や花束を抱えて。

















「だったら先に呼べば良かっただろ~ 外に出ちまったら暑いじゃん~」

「お前が『出たそう』だったから急いで出てきたんだろうが! 俺だってこの炎天下に歩きたくねえっつーの・・・・・大体、誰の荷物を持ってやってると思ってる?」

「はい。スンマセン」

「とにかくそこの日陰入ろう。焦げちまう」



 















 午後も2時を過ぎて、太陽の熱は最高潮。

 大学を出てから数分しか経っていないのに、新一はぐったりとした表情を浮かべ木陰に入った。






























ひとくぎり



































 つい先月。好奇心で快斗はとある番組に出演した。

 それはマジックを披露し、ゲストに優勝者を決めてもらうという、まあよくありがちな企画だったのだが・・・・・







 もともと本番に強く、人前に出るのはお茶の子さいさいの快斗。

 審査員の気を引く術も見事なもので、予想通り優勝してしまった。





 関東のローカル番組だったし。

 優勝商品は『グアム旅行ペアでプレゼント』なんて銘打ってたもんだから、快斗は『タダで旅行~♪』と軽く考えて応募した。













 ・・・・・普通ならばそこで優勝して終わりのはずだったが、この大学では新一と肩を並べる美形として知られる快斗。









 この放送を見た芸能関係の人間が、放っておくはずが無かった。

















 快斗が登場したその番組は、もの凄い視聴率を記録したらしい。

 いつもなら10%行くか行かないかなのに、彼が画面に出てから番組終了まで約30分。



 その間にどんどん数字は上がっていったという。













 そして最後の優勝者決定の瞬間。

 名前を呼ばれたその時、快斗はなんとカメラに向かってウインクした。



 その場面は瞬間最大視聴率、30%をはじき出してしまったのだから驚くしかないだろう。



















 ・・・・番組終了後、そのテレビ局は電話のコール音が暫く鳴りやまなかったらしい。



























 もともとの才と。

 持って生まれたスター性。



 更にそこらのアイドルよりもカメラ栄えするもんだから、番組ディレクターは快斗ばかりを多く映すように指示したとも聞く。











 しかし。

 多くのプロダクションが快斗獲得に名乗りをあげたが、当の本人は『一切お断り』と拒み続けている。  



 それも当然。











 ・・・・・・・彼は、何より世間を騒がせている『怪盗キッド』。

 というのも理由のひとつだが、それより何より。

















 この隣にいる『工藤新一』と一緒の時間が少なくなる要素は、とにかく『一切お断り』だったからだ。























 とにかく。

 その放送翌日から、快斗の回りはもの凄いオンナの波が押し寄せた。



 同じ大学のコらは勿論、通っている学校をネットで色々と調べたのか首都圏以外からもぞくぞくと『ナマの快斗』をみようとするオンナノコ達が現れまくっていた。







 更に昨日は『誕生日』という、これ以上ないイベントがあって。

 案の定、快斗は大学に入ってから帰るまでにとんでもない数のプレゼントをもらっていたのである。

















 ・・・・それはある友人を呼んで運んでもらえたのだが。

 今日は都合が悪いらしく、仕方なく新一に『手伝って~』と頼み込んだ。



 もちろん『仕方なく』というのは『荷物を持たせるなんて俺としたことが!』という意味である。



















「なあなあ。来るのに時間かかるんだったら、中入らねえ?」

「・・・それもそうだな」

「これ食べてみたくってさ~『ストロベリー クリーム フラペチーノ』!」

「お。うまそう」













 そこはちょうどスターバックスの軒先。

 2人は扉の前に出ている『夏季限定メニュー』の看板に目をやると、そのまま中へと入って行った。


































ひとくぎり































「俺が買っとくからさ。新一、電話ヨロシクー」

「解った」

「急がなくてもいいぜって言っといて?」

「何言ってんだ」













 一番奥の席。

 とりあえず手一杯の荷物を置くと、快斗は財布を持った。



 からからと笑いながら新一は『車』を呼ぶべく携帯を持って外へ出る。









 一歩外に出るとまったくもって暑い日差し。

 げんなりしつつ、なるべく陰になる所を選んで短縮ボタンを押した。













『・・・・何やねん』

「ワンコールか。いい心掛けだ」

『さっさと出んと怒るやろが』

「今さ、ガッコ出たトコのスタバにいるんだ。迎えに来てくんねえ?」

『は?』













 出たのは服部平次。

 東京の大学に進学し、会う頻度が多くなった関西の探偵。



 今は六本木のマンションで一人暮らし。

 しかし、父親名義だから好き勝手にも使えないのが難点。



 というのも・・・・・

























・・・・・予告なく夜中に突然、父親や母親がやってくるからである。































 そう。

 2人が言っていた『車』とはつまり、平次の事。



 思った通りの反応に、新一は微笑った。

















「快斗が今日もえらい戦利品でさ。持って帰んの無理っぽいんだよ」

『俺はパシリかい』

「そう言うな。夜はイイ思いさせてやっから」

『・・・・・・』

「んじゃ宜しくな」

















 突然声を低くして囁く新一。

 電波の向こうの姿が想像付いたから、、微笑ってさっさと電源を切った。





















 中へ入る。

 すぐに身体を纏う涼しい空気に、新一は軽く伸びをした。



 快斗はもう席だ。





















「服部いた?」

「おう。ま、20分てトコかな」

「だからすぐ来なくていいんだってば。ゆっくりしようぜ~」

「・・・・ん? わり、電話だ」















 椅子に座った途端、新一の携帯が鳴った。

 再び外に出た新一だが、すぐに戻ってくる。















 ・・・・その表情に、快斗は大きく息を付いた。



























「また事件?」

「ほんっと悪い。すぐ高木さんが迎えに来るって言うから、俺このまま出る」

「ええ~」

「服部に宜しく言っといてくれ。じゃあな」













 それは高木刑事からの電話だったらしい。

 すっかり『探偵モード』の顔になっている新一に、快斗はそれ以上何も言えず見送るしかなかった。



























 工藤新一は探偵。



 こうして知り合いの刑事から連絡が来て、飛ぶように行ってしまうのはいつもの事。











 だからこそ。

























 ・・・・・・・・快斗は出来る限り、新一と一緒にいることを望んでいた。




































ひとくぎり































「あれ?」

「よー。遅いじゃねえか」

「20分で来たん奇跡やぞ? それより・・・・」

「新一なら呼ばれて行っちゃった。ったくやんなっちまうぜ」

「・・・・そーか」













 約20分。

 新一が読んだ通りの時間に、平次はやってきた。



 スターバックスの奥の席。

 時間を持て余してたらしい快斗は、不機嫌丸出しで睨む。













「ホラ。さっさと運んでくれ」

「それが人に物を頼む態度かい。こんまま帰ってもええんやで?」

「帰れるんなら帰れば~? 後で新一に言いつけてやる」

「コドモかお前は」













 平次も突然新一が行ってしまうのに慣れているらしく。

 さほど驚かず、快斗の目の前に座った。











「ま。その前に新発売のコレおごってやるからさ、宜しく頼むぜ」

「何や。甘そうやなー」

「つう事で金やるから自分で買ってこい。あ、ついでに俺も追加飲むから宜しく~ ラテのショートな」

「へいへい」















 小銭を渡され平次は大人しくレジへ向かう。

 快斗は苦笑しつつ息を付くと、携帯を取り出しメールを打ち始めた。




































ひとくぎり





































「なあ服部。俺、まだ貰ってねえぞ」

「何をや」

「おたんじょーびプレゼント♪」

「・・・メシ作ってやっとるやろ。大体、こんだけ貰っといて足りないんか」













 米花町のとあるアパート。

 大学に入った春から、快斗はここで一人暮らしをしている。



 結構綺麗な部屋だったし。

 何より新一の家まで歩いて5分という好条件な場所だったから、迷わず決めた。











 そこに運び込まれた数々のプレゼントの山。



 所狭しと置かれているそれらに、手にフライパンを持ちながら平次は言った。











 刻はもうすぐ20時。

 荷物を運び、何だかんだと喋っていたらこんな時間になっていて。



 お腹が空いたと快斗がうるさかったから、平次がこうして台所に立っている訳である。

















「まーいっか。服部の料理うまいもんな・・・・どこで覚えたんだよ」

「東京に来て1年やぞ? 自炊しとったらこれくらい出来るわ」

「俺は食べる方でいいや。興味ないし」

「つうても一人で住んでんねんから、少しは作ったらどーやねん」

「外行きゃいくらでも食いもん売ってんのに、なんでわざわざ?」

「・・・・・ホンマに工藤と言うこと一緒やな」















 そうなのだ。

 快斗も新一も、ホントに料理をしない。



 作れないのではなく、ただ『料理をする時間がもったいないから作らない』らしい。

 そもそも『食べること』に関して、あまり興味がないと言う。














 ・・・・だからこないに細っこいんやろか、2人とも。














 そう、思ってしまう。































「ほい出来た。こんなもんでええやろ」

「おーすっげー」

「残ったら冷ましてから冷凍しとけば、一週間は保つで」

「へ~」

「ぼけっとしとらんと、メシ盛ってくれや」













 平次は出来上がった料理を部屋に運ぶ。

 言われた通り快斗はふたつ分のご飯をよそうと、テーブルに持って行った。



 そして『いただきまーす』という言葉とともに食べ始める。

 しかしそれと同時に快斗の携帯が鳴った。





















 ・・・・・ワンコールで止まった所をみると、メールの着信らしい。





















「ったくよー・・・・」

「ん?」

「いや。無事に事件は解決らしいぜ」

「工藤からか」

「ま、似たようなもん」

「何やねんな」















 快斗は軽く息を付くが、その表情はやわらかい。

 『?』とする平次にそれ以上は語らず、にっかりと微笑うと目の前の食事に再び箸を伸ばした。




































ひとくぎり

































「ほんじゃ帰るわ」

「ごっそさーん♪ また作りに来てな~」

「アホか。甘えんな」













 夜も22時を過ぎた。



 快斗は平次とこうして2人でいるのは久しぶりだったから、あーだこーだと世の中の不条理を語り合ったり、テレビ局の裏側を暴露したりして楽しく過ごした。





 そして平次も。

 顔も良いが頭の回転も見事だという黒羽快斗を実感し、予想も付かない会話の進みに時が経つのも忘れる所だった。















「それじゃ、気を付けてな」

「おう。後で冷蔵庫覗いてみろや」

「へ?」

「美味くて腰、抜かすなや?」



















 スニーカーを履きながら平次は『にっかり』と微笑う。

 そして呆けている快斗を確認しつつ、手をひらひらしながら扉を開け出て行った。
















 ・・・・・快斗は『?』と思いながら冷蔵庫へ向かう。



























 開けると、そこには。





































「うっわ。マジかよ・・・・」





























 ひんやりと冷えている、綺麗なひとつのデザートが入っていた。















































「ホントにやる事が細かいっつーかマメっつーか・・・・恥ずかしいっつーか」

















 快斗は苦笑し、座り込む。

 なんだか顔が熱くなってきて、手で仰いだ。



















 確か食事する時にはこの中に入ってなかった。

 だから買ってきた訳じゃない。





 ・・・・そう言えば、あんまりにも汗をかいたから10分くらいシャワー浴びたっけ。























 と言うことは、その短い時間にこれを作ったって事か・・・・・?































「・・・・こりゃー 俺がオンナだったら惚れてるな」















 本来なら作るのはオンナの方だろうけど。

 今の時代、逆に男がこういう事しちゃう方が効き目はあるかもしれない。







 しかも何処で知ったのか。

 快斗の好きなイチゴやらブルーベリーやらキウイやらの、果物が盛りだくさん。



 それらがアイスクリームの上に乗っていた。



















 ・・・・ほんのり香ってくるのはバニラビーンズだろうか?



























「ん?」











 それじゃあ頂こうと快斗は立ち上がる。

 するとイチゴの上に、小さな板チョコが乗っているのに気付いた。



 何か、字が書いてある・・・・・?






























 夏至。おめっとさん~









































「・・・・・」





























・・・・・やっぱり服部平次はどうしてもオチを付けたい性分らしかった。






































ひとくぎり































「俺の分は?」

「材料があれば作れるで」

「何だよ。快斗だけかよ」

「そらー 冷蔵庫とかにあったん、適当に使って作っただけやしな」













 平次はそれから新一の家へ向かった。

 彼はシャワーを浴びてしまったらしく、濡れた髪のままドアを開けてきた。



 どうやら今日も暑い中、大変だったらしい。













 缶ビールを開け、自分が居なくなってからの経緯を新一は聞いてくる。

 そうしたら『黒羽がシャワーを浴びとる間、ちょっとしたデザート作ってきたんやで~』なんて言うから、少し不機嫌になったのだ。





 こうして家に2人でいる時の彼の反応は素直で楽しい。

 だからこそ、平次もわざわざそういう事を言う。

















「工藤にはいつも作っとるやん。アイツは誕生日やったんやから、特別や」

「へー・・・・」

「まあ、これがオンナやったら俺にコロッと惚れるやろな~」

「そりゃ良かったな。まあ俺も・・・・さっき白馬にイタリアンをフルコースで奢ってもらったし? デザートも極上だったから、例えお前のが食べらんなくても文句はねえけど」

「なぬ!? あのヤロウと一緒やったんか??」

「ああ。だから事件も早く片づいちまってさ~ そしたら『一緒に食事でもどうですか』って言うから、まあせっかくだし」

「ほー・・・・そ、そーなんや」

















 形勢逆転。

 してやったり、という表情の彼に平次はガックリ肩を落とす。



 その面白いくらいの反応に、新一は綺麗に微笑った。



















「とにかく今日は悪かったな。荷物と快斗、任せちまって」

「・・・・」

「おい。いつまで拗ねてる」

「・・・せやかて」

「いいからシャワー浴びて来い。イイ思い、させてやるっつっただろうが」

「!」

「早くしねえと寝ちまうぞ? 俺、すっごく疲れてんだからな」















 隣にいた新一は平次を覗き込む。

 しかしそっぽを向くから、『仕方ねえなあ』と目の前の耳元に甘く囁き、上目遣いに見つめた。






 ・・・・・右手で彼の股間を撫でながら。





























 もちろん。

 平次がすっ飛んでバスルームに向かったのは、言うまでもない。


































ひとくぎり





































 6月21日。

 それは夏至。

 夏至は、1年で一番昼の時間が長い日。

























 ・・・・・そして彼らにとって大事な、黒羽快斗が生まれた日。

































 快斗は、不特定多数からもらったどんな高価なプレゼントより。



 昨日のうちに新一から受け取ったピアスとか、綺麗なブレスレットとか。予想通りに美味しかったあのデザートの方が遥に嬉しい贈り物だったのは間違いない。

















 まだまだ梅雨も続くけど。

 たまの晴れの日は、こんなに暑いけど。























 ――――――――――・・・・・・本格的な『夏』は、これからやってくる。




















































Fin