Rainy Day Memory







「・・・・おー すげーな。土砂降りだぜ」

「さっきまで晴れとったやんか・・・むっちゃ腹立つわ!」

「梅雨も明けたってのにな」










 7月も終わり頃。

 数日前に明けた、梅雨。



 ・・・・・待っていたとばかりに晴れが続いたが、今日は風が強く、案の定暗くなるのが早かった。



 



 雨、到来である。














「おい、どうする。車まで結構あるぜ」

「・・・・走るしかないやろ」

「そうか。じゃ、待ってっから宜しくな」

「やっぱし俺かい・・・」










 隣でニッコリ微笑まれ、平次は予想通りの展開にうな垂れる。

 だから文句も言わず車が止めてある場所まで走り出した。



 もう夏休みだけあって駐車場もいっぱいで。

 この滝のような雨では、あの場所まで行ったらずぶ濡れだろう。










 ・・・・・新一は、その様を楽しそうに見送る。





















「そーだ・・・・飯、車で食おうかな」








 新一の目が妖しい光を宿す。

 今出たドアから店内に引き返すと、真っ直ぐ食料品売り場へと向かった。























ひとくぎり






















「あれ? アイツ何処行ったんや・・・・?」










 平次は出入り口まで車を寄せる。

 けれども、さっき別れた場所に新一が居ないのだ。



 身を乗り出して見渡せど、何処にも。


















「――――――・・・ったく、何しとんねん・・・・」


















 こんな事はいつもの事。

 だから、大して驚きもせず平次は息をつく。



 すると、中からビニール袋を持った新一が出てきた。

 すぐに車を見つけ駆け寄ってくる。

















「わりーわり」

「・・・・ん? 何や、メシ買うてきたんか」

「ソバ。たまには良いだろ」

「モス行く言うてなかったか?」











 助手席に収まって、覗く平次に中身を見せる。

 確か『久々にモス行きてー』と駄々をこねた新一に付き合って、モスバーガーに向かう筈だったのだが・・・・










「・・・・・いいんだよ。車ん中で食べたかったんだ」

「? 別にモスもテイクアウト出来るやろ」

「いいから。車さっさと出せって」










 新一が平次の額に張り付いていた前髪を遊ぶ。

 満足げに微笑い、軽く身を乗り出し口唇に自分のそれを当てた。





 ・・・・突然の接触に、平次は驚きを隠せない。












「――――・・・・工藤・・・なに興奮しとんねん」

「何でだろうな」












 悪戯な表情で、尚も微笑う新一。

 完璧に、平次を誘っている。
















 此処はまだ車の中。

 ショッピングセンターの、入り口付近。



 ・・・でも、この雨だ。

 道行く人々は、他の車の中まで気にしちゃいない。














 平次は――――――――――・・・・理解、した。






















「はーん・・・・・」

「解ったんなら、さっさと出せよ」

「家まで我慢せえ・・・・ちゅーても、こーゆー場合やからええんやったな、工藤は」

「お前もだろうが」













 その問いに、平次はその口唇を舐めることで答える。

 決して『キス』ではないそれに、少し不満の色を新一は出したけれども・・・・















 楽しみは、後だ。






















 ―――――――――――・・・ホント、お前の『濡れ姿』には参るよ。


























 新一は、運転席の男を見る。

 最初に『この姿』を見たのは・・・・もういつの事だったろうか。









 癖のある髪が、形のいい額に張り付いて・・・・

 少し長い前髪の間から覗く、綺麗な目がやけに脳裏に焼き付いて・・・・
















 意外にやわらかい首のラインとか。



 焼いたわけじゃない、天然の肌の色とか・・・・・




















 幼いころから、鍛えてきたらしいその身体つきに同じ男なのに見惚れてしまって。

 とにかく、あの頃まだ『そんな関係』じゃなかったから。


























 ――――――――――・・・俺は、とうとう気でも違ったかと思っちまったんだ。






























 今でも、あの瞬間が忘れられない。



























 ・・・・・・・・だからこうなれて、ホントに助かったよ。
































 同じ『男』に欲情したことで眠れなかった夜。

 自分でも気付かなかった『本当の気持ち』に、ショックを隠せずに悩んだ日々。











 そして・・・・全く予想もしなかった、服部の行動。





























「何や。照れるからあんま見んなや・・・・」

「へ?」

「――――運転しにくいやろが!!」























 ・・・・ぼーっと考え込んでいた新一。

 突然聞こえてきた声に、つい素っ頓狂な顔で返す。



 見ると前を見ながらも真っ赤な平次。

 さっきからずっと感じる視線に、とうとう耐え切れなくなったらしい。











 なんか・・・新一は無性に嬉しくなった。























「ばーか。てめーを見てた訳じゃねーよ」

「は?」

「お前の向こうの、雨を見てたんだ」

「・・・あ・・・そ」











 カラ笑いと、少しのため息。

 平次は気を取り直してウインカーを出すと、右へ曲がった。



 新一も赤くなり『やべやべ』と思いながら、その後はずっとサイドミラーに視線を向けていた。



























ひとくぎり



























「べたべたして気持ち悪り・・・・・」

「そら、雨やし」

「けっこー、穴場だなココ・・・・」

「駐車場の一番奥なんて、来るヤツおらんて・・・・・ちょお、動くで」















 適度に狭い、車内。

 都合よく外から見えにくい硝子。



 冒険には、丁度良い。













 飯も食って準備は万端だ。

















「・・・わ、ちょ・・っ・・何や! 撫でるなっ」

「へへー いいじゃん」

「俺・・・・時々お前が怖いわ・・・」

「何? 襲われそうだって?」

「――――・・・冗談に聞こえんで工藤」














 水滴を、はじく身体。

 滑らかな、吸い寄せられる肌・・・・















「いいよな~・・・」

「?」

「俺も、お前くらいの体格がいいな」

「それはアカン!!」

「・・・・何で即答?」















 新一は微笑う。

 そうして、ぐいと目の前の顔を引き寄せ――――・・・・



















「俺だって男なのに」

「そ、そらまあそうやけど」

「――――・・・・ま、いっか。続き続き」

「!」












 噛み付くように口唇へ。

 新一がそう仕掛けると、平次がすぐ応えてきて・・・・



 後はいつもの通りになだれ込む。



























・・・・・あの日、焦がれた身体は今――――――・・・雨とともに手の中。










































Fin