今年は秋がある。





 去年は夏が終わったと思ったら急に冬が来て、久しぶりに風邪を引いたっけ・・・・・























 10月の半ば。

 空が高い、晴天の午後。



 工藤新一は家中の掃除を終えた後、窓から入ってくる風に目を向けた。













 今日は3連休の初日。

 いつもなら平次が今日から泊まりに来るのだが、12日の明日に剣道の試合があり、それが終わってからしか来られないと言う。






 買い物でも行こうかな・・・・・・・・



 新一はそう思いながら目を閉じると、ひときわ強い空気が流れ込んできた。





















「!」















 瞬間視界を閉じる。

 次に、頭に何かが当たって落ちた。







 ・・・・・目を開けてみると、それは一枚の写真。































「―――――――――――・・・・・・・・・・」



























 そこには、夕暮れの中で笑っている新一と・・・・・・・・・・・・





















「・・・・・稲尾・・・・・長島」













 京都で知り合った二人の少年がいた。





















 あれはまだ自分が高校生だった頃。

 高校生だったけど、ある事情で『子供(コナン)』の姿で生活していた頃。











 ・・・・・・・・・京都で起きた事件に巻き込まれ、何度目かの『工藤新一』に戻った時の事だった。












FIND THE WAY[01]



 桜の花びらが舞い散る、春。

 『コナン』として暮らしていた新一はその頃、毛利小五郎が山能寺の僧侶から受けた依頼の為に京都に来ていた。



 そこで、同じくして起きていた『義経記』に関する強盗殺害事件の謎を解くため、単身京都へ乗り込んでいた平次と出逢う。









 二人は協力して調査を続けていた。

 しかしある夜、平次とその幼馴染みである遠山和葉が犯人と接触してしまう。



 その時に受けた傷が原因で、平次は次の日、事件関係者のアリバイを調べている最中に倒れてしまった。

















 ・・・・・・・和葉も平次の為にと犯人と接触した公園に来て遺留品を探そうとするが、逆に待ち伏せされ連れ去られてしまう。























 捕らわれの彼女を助けに行くのは自分しかいない。

 そう新一は思うが、この子供の身体では思うように行く筈もなく、考える。












 ―――――――――・・・・・・そして灰原哀の言葉を思い出したのだ。
















 風邪と同じ症状になり、強いアルコールを飲めば、試薬の解毒剤でまた『新一』に戻れるかもしれない。

 完全にとは行かないだろうけど、数時間だけでも元の身体に戻れれば勝機はある。



















 ・・・・・・・そうして『コナン』は『新一』に戻った。














 目眩や熱は相変わらず身体を蝕むが、手も足も求めてやまない『自分』だ。

 病院で寝ている平次に気付かれ引き留められたが・・・・・・・睡眠薬を飲ませて無理やり眠らせる。




















 ――――――――――・・・・・新一は平次が好きだった。






















 影で見守り助けてくれた平次を、いつの間にか好きになっていた。

















 ・・・・・・・だから今度は自分が助けたかった。






















 捕まっている和葉を助け出したいのも本当だけど。

 それ以上に、新一は平次の為に何かしたかった。







 病室を出てから新一は、ふらつきながら取引現場へ向かう。

 そして段々と近づいてくる闇を視界に感じながら、上がる息を押さえつけ石段を登り始めた時――――――――――・・・・・




















 ・・・・・・・胸に激痛が走った。






















「っ・・・・・!」














 覚えのある焦り。

 制すように続くそれは、新一の足を止める。




















 あと少し待ってくれ・・・・・・・・



 ・・・・頼むから、あと・・・・・もう少し・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・

 




















 嫌な汗を感じる。

 喉から漏れる息は熱く、口唇も渇いて焼け付くようだ。



 けど、そんな事はいくらでも耐えられる。










 俺は早くあの場所へ行かなければならない。

 行って、あいつの代わりに彼女を―――――――――――――――・・・・・






















「・・・・・おいお前、どないした」










 その時だった。

 石段の下でうずくまっている新一の背後から、声がした。



 しかし振り返る余裕などなく、無言で深呼吸を繰り返す。  

 その様子に気付いたのか『声』は、ぐいと新一の肩を掴み覗き込んできた。








「うわ、『工藤新一』やんか」

「え・・・・・・?」

「おーいどうした――――――――――・・・・・ん? 誰それ」








 視界に入ってきたのは、切れ長の目をした関西弁の少年だった。

 更に遠くからもう一人の声が聞こえ、新一はゆっくりと振り向く。



 すると今度は、この彼よりも幾分か幼く感じられる少年が現れた。








「『工藤新一』や。知らんか? 最近あんまウワサ聞かんけどな・・・・・・と、それよりアンタこんなトコで何しとるん? えらい具合悪そうやけど」

「ああ! ホントだ『工藤』じゃんか!! すげー こんなトコで有名人に会えるなんて思ってもみなかったな~」

「シゲ。お前ちょお声のトーン下げとけ・・・・・・マジで具合悪そうや」

「へ?」








 『シゲ』と呼ばれた少年は、瞬間きょとんとする。

 しかし、確かに何も返答してこない新一に二人は顔を見合わせた。








「・・・・・・喉、乾いてんじゃない?」

「喉?」

「ちょっと待って。俺、確か・・・・・・・」








 『シゲ』はそう言うと、背負っていたリュックからペットボトルを取り出す。

 そしてフタを取り新一へ差し出した。






 ・・・・すると警戒しながらも受け取り、ゆっくり飲み始める。



 









「ありがとう・・・・・」

「大丈夫か? 熱もあるみたいやし、はよ帰った方がええと思うけど―――――――――・・・・・ツレとか居らんのか」

「・・・・平気」

「日も落ちてきたしなあ・・・・・・・俺らと一緒に行く? こう見えても鍛えてるから、力あるし支えてやれるけど」

「せやな。ココで会うたのも何かの縁や」

「いい、大丈夫・・・・・人を待たせてるんだ」










 しきりに少年達は話し掛けてくる。

 目の前に明らかに具合の悪い人間が座り込んでいたら、そりゃあ気になるだろう。



 こんな所で立ち眩みするなんて失敗した――――――――――・・・・そう新一が悔やんでいると、今度は『シゲ』が覗き込んできた。








「・・・・・な、何・・・・」

「なんか事情、あるんだな」

「!」

「そんな思い詰めた顔してると、上手く行くことも行かなくなっちまうぜ?」

「またお前はしょーもない事を・・・・・」

「うるさい。一久(カズヒサ)はちょっと黙ってろ」






 口を挟んできた関西弁の少年は『カズヒサ』と言うらしい。

 その頭ひとつ分くらい背の高い彼を『シゲ』はひと睨みすると、またリュックから何かを取り出した。






「・・・・・?」

「やるよ。これ、効くんだ」

「え?」

「願えばどんな困難にも打ち勝つ事が出来る。まあ、中身はただの五円玉なんだけどね」








 満面の笑みと共に、渡されたのは御守り。

 まだ真新しいそれは京都のどこかで買ったものだろうか。



 不思議そうに見つめる新一に、更に『シゲ』はこう付け加えた。








「ちなみにさっき飲んだのは『魔法の水』。その証拠に、気分良くなっただろ?」

「・・・・・は?」

「俺も試合にいつも持ってってるんだ。こいつ飲まねえと調子出なくって」

「・・・・・・」

「スマンな工藤君。こいつちょおアホなんや・・・・・ただの水やろ。ホラ吹くのもええ加減にせえ」

「・・・・・・ふ」








 我慢しきれず新一は笑う。

 二人のやりとりが絶妙で、つい吹き出してしまった。








「お。笑ったで」

「うわ・・・・ウワサ通りにキレイだなー 工藤君」

「ホンマホンマ。お前のアホヅラとはえらい違いや」

「あん? 『甲子園のアイドル』に向かって失礼だぞ」

「自分で言うなボケ」








 流れる何とも言えない空気に、今までの苦しさが嘘のように消えた新一。

 立ち上がり、改めて彼らに顔を向けた。









「ありがとう。本当に助かったよ―――――――――・・・・これ、もらっていいのか?」

「いいよ。他にもたくさん買ったし」

「・・・・甲子園って言ってたけど、野球やってるんだ」

「せや。俺は大金高校の稲尾一久(イナオカズヒサ)。ピッチャーや」

「俺は―――――――・・・言いたくないけど、本名だからしょーがないんだけど、港南の・・・長島茂雄(ナガシマシゲオ)。あ、けど『島』の字は違うんだぜ? って、まあいっかそんな事」








 野球の事は良く知らない新一だが、その名前くらいはいくらなんでも知っていた。

 

 現在、終身名誉監督の長嶋茂雄。

 日本人で彼の名を知らない人間はいないだろう。





 ある意味気の毒だが、一度聞いたら忘れられない名前だよなあと新一は思った。


















 甲子園か・・・・・服部に聞いたら知ってるのかな・・・・・・・






















「!」














 ・・・・そうだ・・・・俺、何やってんだ?




 こんな所で、立ち止まってる場合じゃ・・・・・・・・・・・・・・・


















 使命を思い出し新一は表情を変える。

 視線を石段の上に移すと、太陽が竹林に沈むのが見えた。








「・・・・・自己紹介がまだだったな。俺は工藤新一。帝丹高校・・・・・・なんだけど、今ちょっと事情があって・・・・・・・だから、ここで会ったこと内緒にして欲しいんだ」

「そうなん?」

「訳ありなんだ」

「解った。今も何ぞ追いかけとる最中やな?」

「まあ・・・・・そんな所。だから」

「俺らも手伝ったろか? 一人より二人、二人より三人の方がええやろ」

「駄目だ。君らは今、大会のまっ最中だろ? 怪我でもしたら試合に出られなくなる」

「!」












 新一は表情を硬くして彼らを見つめる。

 長島と稲尾は顔を見合わせ、生半可な事件を追いかけてる訳じゃない事を悟った。




















 ・・・・・・冷たくなってきた風。

 

 緑色をしている木々が、闇の色に染められてゆく。
















 新一は帽子を外し、それに視線を移した。














「俺、野球の事は良く解んないんだけど・・・・・・・帰ったら見るよ。だから、二人とも決勝まで残れよな」

「・・・・・もちろん、そのつもり」

「けど、君ら違うチームなんだよな? 大会の最中に京都まで必勝祈願なんて、仲良いな」

「へ? ああ・・・・まあな」









 新一の言葉に、なぜか口ごもる稲尾。

 すると長島がまたリュックから何かを取り出した。



 デジタルカメラだ。









「じゃー俺らはもう行くからさ。その前に・・・・・記念写真、撮らして?」

「え?」

「せ、せやせや! それくらいえーやろ、な?」

「―――――・・・・・う、うん」

「ほな決まり! つーても三人撮るにはどうしたらええかな・・・・・・あ、あの石段に乗っけてタイマーかけようや」

「ちゃんとセットしろよ。お前下手だからなあ」








 軽く息を付いて稲尾を見る長島。

 その仕草が、何となく自分が平次を見る感じに似てるなあと新一は思った。








「うっさいわホンマ。行くで!」

「工藤君、真ん中ね~ あ、けど縁起悪いか・・・・そんじゃ俺のリュック隣に置いて・・・・これでよし!」

「はい、イチたすイチはなんぼや~?」

「にー!!」














 再び響く、笑い声。



 そうして手元に残されたのが――――――・・・・・・何故か警視庁経由で届いた、この一枚の写真だった。
































ひとくぎり





























 あれから新一は彼らと別れ、石段を登った。

 帽子を深く被り直し『服部平次』の声色で犯人に接触した。



 しかしせっかくもらった御守りだったが、治まっていた痛みはすぐにぶり返してしまう。

 そして和葉を助けた直後――――――――――・・・・・












 ・・・・・・結局『工藤新一』だとバレてしまった。






















「あのあと服部が現れたのには・・・・・・・・心臓が止まるかと思ったな」












 確かに薬を飲ませた筈なのに。

 どうしてこんなに早く、眠りから覚醒したのかが不思議だった。










 その理由は――――――――――・・・・・・一年後に、俺が京都に行った時に判明した訳だけど。

















「そーいや・・・・あの時の高校野球、稲尾の所が勝ったんだっけ。それで・・・・・・・夏は・・・・・・・・あれ? 夏はどっちだったっけ?」










 平次を思い出し、連動して同じ関西弁の稲尾を思い出す。



 彼らは高校球児で。

 確かあの時、大会真っ直中だと言っていた。



 東京に帰って決勝を見たら本当に彼らが対していたから驚いたものだ。

 しかもその年の夏も順調に勝ち進んでいて、平次らと見に行った決勝戦の甲子園も港南と大金の対決だった。 










 ・・・・・・んでもって、そこでまた事件に巻き込まれたんだっけ。
















 けど、ちっとも変わってなかった。

 野球をしている彼らは本当に楽しそうにボールを追いかけていた。








 一球が命取りの世界で。

 笑って励まし合って九人が一丸となって勝利を目指している姿は、見ているこっちまでが嬉しくなってきた。



 本当に野球が好きなんだなあと―――――――・・・・・・新一は、自分がサッカー部に所属していた時を思い出したのだ。


















 あれから数年。

 予定通りにプロ野球からの誘いが絶えなかった彼ら。




 その後また自分も忙しくなり、ろくにテレビも見られなくなったけど・・・・・
 今、どうしているんだろう?




















 新一は机の上にそれを置き、考える。

 そうして少し窓から空を見つめ――――――――――・・・・・・・服を着替え始めた。



























ひとくぎり




























「・・・・・・・さすがに風はもう寒いなあ」












 空は高く、空気も冷たい。

 太陽はこれでもかと言うくらい眩しいのに、やっぱり秋なんだなと感じる。



 涼しくなると途端に活動的になる新一。

 久々に新宿まで行ってみようと駅へ向かうと、飲み物を買いタイミング良く来た電車に乗り込んだ。





 休日なのに案外すいてる車内で、ぷしゅと缶珈琲を開けると一気に喉に送り込む。

















 ――――――――・・・・・あー・・・・・・・





 ホントに良い天気だな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















 なのに。





 ・・・・・・・なーんでアイツは、いねえかなあ。


















 窓から見る景色が流れてゆく。

 そしてやっぱり考えてしまう男の事に、新一は目を細めた。










 ・・・・・稲尾一久も関西の人間だった。



 平次と似たようなイントネーションだったが、少し違うと感じたのは―――――――――・・・・・土地が違うせいだろう。






















 あれ、待てよ?




 『稲尾』って・・・・・・もしかして『稲尾財閥』の『稲尾』か・・・・・・・・?



















 そういや高校んとき園子の奴が言ってたっけ。



 甲子園に出てるピッチャーで・・・・・凄い格好良いのが、父親の知り合いの息子だとか・・・・・・・










 ・・・・・・・つう事は白馬も知ってんのかな?


















 白馬とは白馬探(ハクバサグル)の事だ。



 新一と同様に高校の頃から探偵と謳われている同い年の青年。

 父親が警視総監なのだが財閥に親類が多く、そっちの知り合いも多いらしい。












 やがて目的地へ着き扉が開く。

 新一はゆっくりと移動すると、その彼への短縮を押した。










『工藤君?』

「おー白馬。突然悪い、今平気か」

『珍しいですね。君から電話をくれるなんて』

「そーか? ちょっと聞きたい事あんだけど・・・・・・」

『何でしょう』

『 え、新一!? やっほー しんいち~ 俺には用ないの~~?』

「快斗? 快斗も一緒なのか?」












 その時、受話器から違う声が聞こえた。

 同じく友人の黒羽快斗(クロバカイト)だ。








『彼が映画に付き合えとうるさくて。今は観終わってスターバックスでひと息付いている所です』

『新一いまドコ? 俺ら新宿にいるんだけど・・・・・・って、何だよ白馬。お前も観たいって言ってたじゃねえかよ』

「新宿? 俺も今、これから高島屋にでも行こうと思って駅降りた所だぞ」

『そうなんですか?』










 驚いている。もちろん、新一も驚いた。

 そう言えば最近、白馬は新宿の高層マンションに引っ越したと聞いていたのを思い出す。



 ならば合流しようと言う事になり、新一は新南口から出ると、高島屋近くにある其処へと向かって行った。




























ひとくぎり






















 新宿高島屋近くのビクトリア隣り。

 そのスターバックスのテラス席で、彼らは新一を見つけると手を振った。








「こっちこっち~ 早いじゃん」

「工藤君ひとりですか?」

「そ。服部のヤツ、明日が試合だから今日は来られねーって」

「忙しいなー あいつも」








 空いている椅子にショルダーバックを置くと、新一は財布を片手に飲み物を買いに行く。

 最近お気に入りの『ダブルショット・シェイクイン・エスプレッソ』を持ってくると、軽く息を付いた。








「最近ずっと眼鏡だね。目、相変わらず?」

「んー・・・・・・・やっぱコンタクト辛くてさ。まあ、この方が顔も隠れるしな」

「でも工藤君の場合、スタイルで既に目立ってますけどね」

「お前に言われたくないっつーの」








 二人の美形が三人になれば、当然の如く更に目立つ。

 そうでなくとも通りに面したこのテラス席で、充分に注目を浴びていた彼らに新一が加わったのだ。












 ・・・・・・・周りの視線は一気にこちらに注がれていた。


















 一応、新一は深く帽子を被り眼鏡を掛けている。

 しかしいくら顔を隠した所で美形なのは変わらないのだから、その存在感はどうしようもない。










「で? 聞きたい事とは」

「そうそう、あのさ・・・・・・・イナオカズヒサって知ってるか?」

「イナオ? 稲尾財閥の御曹司ですか?」

「やっぱ知ってたか。高校んとき野球やってただろ? 今、どうしてんのかと思って」








 探が知っていると解り新一は表情を明るくする。

 しかし、その本人は何故か声を低くした。








「・・・・・・・彼を知っているんですか」

「え? あ、前に会った事あってさ」

「イナオ? 誰だよそいつ」








 知らない名前が出てきたから快斗が聞く。

 しかし探はそれに答えず、新一の問いに答えた。






「叔父経由で紹介された事はありますが、特別親交は持っていません。今は――――――・・・・・・大学の方で野球をしていると聞きましたが」

「そーなんだ。いや、それが解ればいいんだ。じゃあ長島もそうなのかな・・・・・・」

「長島君も知ってるんですか?」

「? ああ、一緒に会ったからな」









 突然表情を硬くした探に新一は驚く。

 しかしもっと驚いたのは、次の快斗の言葉だった。








「長島ってあの『長島茂雄』? 確か、俺らより一つ上で・・・・・・・江古田とよく練習試合してた港南のサードだろ?」

「知ってるのか快斗?」

「だって有名だったぜ~ あの名前だしな。それに甲子園には三大会連続で決勝出てたし」






 そこまで言って快斗は『ああそっか!』と手を叩いた。






「イナオって、そうかあの大金のピッチャーか! ・・・・・って・・・・ホントなんで知ってんだよ新一?」

「前、二人に助けてもらった事があってさ――――――――・・・・・・・さっき部屋掃除してたら、そん時の写真が出てきたから気になって」








 手元のカップに口を付けながら、新一は思い出す。














 春の京都。



 桜の花びらが舞い散る夕暮れに出会った、二人の少年・・・・・・・・














 そんな新一を、正面に座っていた探は怪訝な目で見ていた。

 けれども。










「・・・・・・・・会いたいですか?」

「え? そりゃまあ」

「明後日の月曜の夜に叔父主催のパーティがあります。それに彼らも招待してますから・・・・・・・来れば会えますよ」

「本当か? 二人とも?」

「ええ」












 ・・・・・・それだけ言い、軽く息を付いた。



























ひとくぎり


























「俺も会ってみてえなあ。なあ白馬、一緒にいてもいいだろ?」

「君は駄目だ」

「何でだよ!?」

「どうしても」










 あの後も一緒に行動し、夕食も食べ終えた後で探と快斗は新一と別れた。






 とある高層マンションのエレベーター前。



 野球界の若き英雄二人に新一が会う事になり、快斗は自分も連れて行ってくれと頼むが・・・・・・この通り『駄目だ』の一点張り。














 いつもそうだった。


 パーティという華やかな場面を見てみたいという快斗の希望を、聞いてくれた事がない。




 ・・・・・・・でも理由は解っている。












「新一の頼みは聞くのに・・・・・・・・俺の願いは叶えてくれねえのな」

「パーティなんてつまらなくて疲れるってのに、その上もっと僕に神経を使わせる気か?」

「・・・・・俺は、ただ」












 そういう場所にいる白馬も見たいだけだ――――――――――・・・・・・と快斗は呟くが、探の耳には届かない。








 やがてエレベーターが到着。

 探が上層階用のカードキーを脇の挿入口に差し込むとゆっくり扉が開き、二人はそれに乗り込んだ。








 ・・・・・・・・・音もなく静かに閉じられ、簡易的な密室が出来上がる。













 上昇する空間。

 探が、口を開いた。












「そういう種類の人間でなくとも、君は人を惹き付けてしまう・・・・・・・・だから」

「何度も言ってるけど、俺、男はお前にしか興味ねえよ? なに心配してんだ」

「――――――・・・・・・・彼も君と同じオーラを持つ人間だ」












 初めて二人に会った時は驚いた。

 稲尾の自信に満ち溢れた雰囲気は、周りを圧倒的な存在感で惹き付けていたからだ。



 対して長島は野球選手とは思えない程に細身な少年で。

 強打を送り出す姿が想像出来ないギャップが、彼の不思議な存在感を際だたせていた。










 ・・・・・・傲慢で思いやりのない少年だった、稲尾一久。




 高校二年の夏、決勝で港南に負けてから彼は変わった。

 誰もが卒業と同時にプロ入りだと思っていたのだが、いずれ会社を継ぐ身だからとそれを辞退したらしい。



 だから現在は、大学で野球を続けている。






 長島茂雄はライバルである稲尾が大学に進学する事を聞き、自分もスカウトを断った。



 好敵手(ライバル)が存在するこの四年間に、戦えるだけ戦いたい。

 そう彼は決めたのだ。


















 ・・・・・・・・・その想いは、まさに快斗が放つオーラと同等の輝きだった。
















 目的がある人間は、人を惹き付ける魔力がある。



 最初に『黒羽快斗』に逢った時も感じた存在感。

 それが、探を心配させていた。












 ・・・・・・・・快斗はやれやれと微笑う。














「解ったよ。もう言わない」

「・・・・・自分勝手だとは解ってるんだが」

「そんなに俺に惚れてどーすんだよ・・・・・・・いつか、お前のそばから消えたら、どうなっちまうんだよ」

「!」












 快斗の表情が曇る。

 覗き見上げた目が、驚愕に開いた。












「・・・・・・って言ってる俺も・・・・・・そん時どーなっちまうのか解んねえけど」

「く―――――――・・・・・」












 名前を呼ばれる途中を快斗は吸い取る。

 目に掛かる前髪がくすぐったいけど、我慢して。










 ・・・・・・・・・二人はゆっくり目を閉じた。





























ひとくぎり
























 考えたくない未来はいつか現実となるだろうけど。
















 今はまだ、こうして触れ合えるから。

 だから。









 今日も窓からの月を二人で眺められる事に感謝しよう。


















 ・・・・・・・・・・・そして僕のそばに君がいる、この奇跡に。