「へ? 工藤いま、何て言うた?」

「だから、明日の夜は白馬んトコに呼ばれてるから・・・・・・・お前、夜は適当に食べててくれな」

「俺がせっかく来とんのに何でパーティなんぞ行くねん!?」













 日曜の夜。

 試合を終えた平次が工藤邸に到着したのは、20時を過ぎた頃だった。











「人に会うんだよ」

「誰や」

「・・・・・・稲尾と、長島って人」

「へ? それて―――――――・・・・・・あの稲尾一久と長島茂雄か? どんな繋がりでそーなんねん」

「白馬の紹介でさ。明日のパーティに招待してるから、会わせてくれるって」















 夕食も終わり、珈琲でまどろんでいる時。

 新一は『そろそろ言うか・・・・・』と意を決して口を開いた。



 そして返ってきた反応は、案の定ご機嫌ナナメモード。













「・・・・・・前に会うた事あるんか」

「何でそう思うんだよ」

「工藤が自分から会いに行く言うんは、そんな時くらいや」













 平次は知っている。

 新一が自ら望んだ事でなければ、パーティなんぞに行こうと思う訳がない。



 それに自分がはるばる大阪から来ているのに、それを放ってまで行くと言っているのだから、腹が立つ。















「ちょっと、な」

「何や。俺には言えへんのか」

「全部お前に話さなきゃなんねーのか?」

「うっさいわ。俺は嫉妬しとんねん、悪いか」

「・・・・・・・そんなさらっと言われると返す言葉もねえな。解った、話すって」















 『別に』とでも言ってくれれば、こっちにも抵抗の仕様がある。

 しかし平次は新一に対しての気持ちを、いつも本当に素直にまっすぐに表していた。





 それは人の目が有ろうが無かろうが問わずに。

 だから、こんな風に新一が先に赤くなってしまう。

















 ・・・・それが本当に悔しいのに、そう思えば思うほど身体は更に体温を増していった。





 






FIND THE WAY[02]





 京都での事を話し終えた新一。

 一気に喋ったので喉が渇き、追加の珈琲を入れた。



 平次の分も差し出すが、その目はずっと自分を拗ねたように見つめている―――――――・・・・・・・・・













「いい加減、機嫌直せよ」

「せやかてなあ・・・・・・・もう何年も内緒にされてたんかと思うと悲しくてなあ・・・・・」

「まだ言うか」











 ひんやりと感じる空気。

 夜になって増してきた冷気に、新一は少し震える。



 やがて平次は観念した様に微笑った。











「まあ、工藤を助けてくれたんやもんな。やっぱええ奴らやな」

「ん? お前こそ知ってんのか」

「雑誌の対談で高校んとき、一回会うた事あるんや。確か・・・・お前がまだ『コナン』ん時に甲子園で起きた事件の後やったかな」

「え!?」











 新一は驚いた。

 平次も、特別言うことでもないから新一に話してなかったのだ。











「不思議な奴らやったで。長島ん方は、あんだけの強打者(スラッガー)やのに全然ほっそくて、工藤みたいに可愛ええ顔しとるし・・・・・・・せやけど稲尾ん方は、ムカツクけど俺よりデカくてなあ。顔はまあ、俺ほどやないけど男前やったな。それに二人とも野球が好きでしゃーないって感じで・・・・・・・・何や不思議な縁で繋がっとる感じやったわ」

「へえ・・・・・」















 人の一生の中での出会いの確率は、ほんの僅かしかない。

 その中でも唯一無二の存在に巡り会える確率は、皆無に等しいと言う。



















 けれども彼らは出逢えたのだ。





 それぞれの、宝物に。

























 ・・・・・・・・どこにでも奇跡はあるもんだな。























「何や・・・・・」

「いや。俺にとっちゃ、お前と逢えた事が一番の奇跡だと思ってさ」















 テーブルを挟んで正面のソファ。

 新一は、まっすぐそこから平次を見つめる。













「急にどないしてん・・・・・・気色悪いやんか」

「何だと?」

「態度に出しても言葉に出さへんのが工藤やのに」

「・・・・・・・だからって気色悪いはねえだろ。あったまくんな」













 ムクれながら新一は平次の隣に移動する。

 今までそんなに素っ気無かったかなあと、反省もしながら。













「まあええわ。そーゆう事やったらしゃーないな、楽しんで来いや」

「悪い。なるべく早く帰る」

「それにしてもなあ・・・・・あの状態の工藤を見とるんか・・・・・そらーええ目の保養になったやろなあ」

「は?」

「顔が火照って目も潤んどる工藤やぞ? 俺かてそん時お前に惚れたクチやし・・・・・・稲尾んヤツにも効いとったら嫌やなあ―――――――・・・・・・・」

「ぷ」













 真面目に心配する平次に笑ってしまう。

 すると案の定な視線が返ってきたから、新一は彼の手からカップを取り上げテーブルの上に置いた。















「バーカ、考えすぎだ。稲尾に効くわけねえだろ」

「何でやねん」

「お前、対談したんだろ? 本当に解んなかったのか?」

「・・・・・・解るって何をや」



















 だって、稲尾は多分――――――――――――――・・・・・・

























「こら工藤、何や? 何か知っとるんか?」

「うるせえ・・・・・・・・そろそろ俺をどうにかしようって気にはなんねーのか」

「え? どわっ!」













 夜も更けてきたのに、全然ソノ気にならない平次。

 痺れを切らした新一は、しょうがないから押し倒しその口唇を奪った。



















 ・・・・・・・ゆっくりと離し、指で輪郭を撫でる。























「何ヶ月ぶりだと思ってんだよ・・・・・・・・・・俺だけか? 欲情してんの」

「・・・・工藤」

「暑い時には考えないで済んだのに―――――――・・・・・・・・こう寒いと、どうしたってお前がそばにいないのを思い知る・・・・・・・・逢いたくて触りたくて、たまらなかった・・・・・・・・・」



















 今年は秋がある。

 去年は夏から急に冬になったから、そんな感情もあまり出さずにすんだけど。





















 ・・・・・・・・だんだんと寒くなると感情が止まらない。



 どこまで好きになってしまうのか、本当に自分でも不思議なくらい――――――――――・・・・・・・





















 新一は目を伏せる。

 その言葉に導かれる様に、平次はシャツの裾から手を潜り込ませた。

















 ・・・・・・・・・感じる冷たい感触に身体はびくりと揺れる。























「っ・・・・」

「スマンな・・・・・・先に言わせてしもて」

「は・・・・・っとり・・・・・」

「今日はとことん付き合うてもらうで? 覚悟しといてな」

「・・・・そっちこそ、先に・・・・・・へばんなよ」

「眼鏡―――――・・・・・・危ないから外すで・・・・・・・」





















 東京と、大阪。

 変えられない物理的な距離と環境。





 限られた時間の中で、抱き合うしかない二人・・・・・・・・・・・・・・・



























 それぞれの、想いがある。

 それぞれ辿って来た道がある。























 その中で巡り逢ったのは本当に奇跡。



 だから。





























 ・・・・・・・・この正直な気持ちを、いつも君に伝えよう。




































ひとくぎり





























「久しぶりだったなあ、工藤君」

「ホンマびっくりした・・・・・・白馬の奴、誰に会わせようとしとるんか直前まで教えてくれへんし」

「・・・・・それに、前に会った時よりずっと・・・・・なんつーのか」

「ああ。マジで息止まったで・・・・・アイツが振り向いた瞬間。ホンマ男にしとくの勿体ないわ・・・・・・残念やなあ」









 月曜の深夜。

 稲尾一久と長島茂雄の両名は、宿泊先のホテルに帰る途中、夜空を見上げながら思い出していた。







 京都で奇異な出会いをした工藤新一。





 あれから数年。

 更に磨きをかけて綺麗になっていた彼に、二人は瞬間言葉を忘れて見惚れてしまったのだ。



 特に稲尾の方は未だ夢覚めやらぬと言った様子。

 そのせいかは解らないが、長島は少し不機嫌だった。









「おい。男にまで手ぇ出したら友達やめるからな」

「はあ? オンナにも困ってへんのに何でわざわざ・・・・・・・いくら美人いうたかて」

「・・・・・だってお前、どれも本気じゃないみたいだし」

「へ・・・・・」









 上目遣いの言葉。

 稲尾は、どきりとする。







「誰と付き合ってもすぐ別れるし・・・・・・別れても、全然悲しそうに見えないしさ」

「シゲ・・・・・」

「ま、俺としちゃその方が嬉しいけど。その分、野球に熱入れてくれるだろ?」











 無邪気な笑顔。

 稲尾は、この顔に弱い。





 ・・・・・・・・どうしてか心臓の音が大きくなるのだ。











「おう。お前と試合やっとる方が全然楽しいわ。せやから、今度も絶対勝ち抜いてこいや?」

「言われなくても。一久こそ、その言葉忘れんなよ」

「ん?」

「今はオンナよりも俺って事」

「・・・・・・・・」













 その言葉に深い意味なんてないだろう。

 でも、聞こえてきた言葉は確かに事実で・・・・・・・・・・・



 だから。



















 ―――――――・・・・・今度は鼓動と比例して体温が急上昇してしまった。


































ひとくぎり

























「お前には心配かけたみたいで悪かったな」

「・・・・・・僕は別に」

「どうして俺を稲尾に会わせたくないって思ったんだ?」











 同じ頃、白馬別邸。

 探の叔父が主催するパーティに呼ばれた新一は、挨拶を済ませると早々にこの控え室へ移動した。



 もともと華やかな場は得意ではなかったし、今日の目的は稲尾と長島に会う事だったからだ。















 そうして数分後。

 探が、二人を連れて来る。







 ・・・・・・そのときの彼は様子がおかしかった。

 部屋から去るその瞬間まで、新一を気にしていたのだ。













「彼は・・・・・色恋沙汰が激しくて有名なんです。あの通りの見た目ですし、まず女性は放っておきません。なのにこの前、ある場所で会った時に・・・・・僕に話しかけて来たんです。『工藤新一を知っているなら紹介して欲しい』と」

「それで?」

「どうしてかと聞いたら、『興味があるから』だと言っていました。だから、てっきり僕は・・・・・・今度は君に触手を伸ばしたのかと・・・・・・」

「・・・・・・え」

















 新一は思い出した。

 あの場所で会った時、二人に頼んだ事を。















『今ちょっと事情があって・・・・・・・・・だから、此処で会ったこと内緒にして欲しいんだ』

『そうなん?』

『訳ありなんだ』

『解った。今も何ぞ追いかけとる最中やな?』

















 ・・・・・・・そんな会話を彼らとしていた事を。





















「工藤君?」

「ごめん白馬。サンキュ、解った」

「え?」

「俺、あいつらと前に会った事あるって言ったろ? でも事情があって、その時のことは秘密にしてもらってたんだ。だから、そんな言い方したんだ」

「そ・・・・・そうなんですか」













 彼らと話している間、探は席を外していた。

 だから自分達の会話を聞いてはいなかった。









 ・・・・・・新一は苦笑する。















「けど白馬もそんな心配すんなよなあ・・・・・・・いくらなんでもさ」

「すみません」

「女じゃねーんだからヤバくなったら自分でどーにかするよ。俺の強さは知ってっだろ?」











 知ってはいるが、気にするなという方が無理なのだ。

 工藤新一がそこら辺の女より綺麗で、黒羽快斗と同様に周りの人間を惹きつける魔力を持っているのは周知の事実。



 それに相手が素手だとは限らない。

 何が起こるか解らないのは、男も女も一緒だ。















 ・・・・・・探は小さく息を付き微笑った。

















「ともかく、取り越し苦労で何よりです」

「本当に感謝してる。ありがとな」

「良いんです。心配するのは慣れてますから」

「・・・・・そうなのか?」

















 窓から月を眺め、そう言う探。

 その表情は誰かを想っているようで――――――――――――――・・・・・・























 ・・・・・・・・・・新一は、とても平次に逢いたくなってしまった。





























「白馬。じゃ、俺帰るわ」

「それなら車を」

「いいよ。多分もう来てる」











 探が車で送らせようとするのを断り新一は部屋を出た。

 駆け足で階段を下りると、未だ華やぐ人々の間を抜けホールを横切り玄関を出る。











 ・・・・・・・・涼しい風が身を包んだ。

















 新一は携帯を取り出し、短縮を押す。

 ワンコールも鳴らないうちに相手は出た。











「待ってたか?」

『・・・・・そらもーずっと』

「いまどこだ」

『ほんの数メートルやと思うけど』

「数メートル?」











 言われると同時に闇からライトが浮かび上がった。



 覚えのある、エンジン音。

 平次のバイクだ。













「・・・・・・この寒いのにバイクでお迎えかよ」

「嫌か?」

「俺はスーツだぞ? 雨も降りそうだってのに」

「スマン・・・・・・・・ブッ飛ばしたい気分やったんや」











 小さな声で、素直に平次は謝る。

 だから新一は『やれやれ』と微笑った。















「・・・・・・服部。こっち向けよ」

「!?」

















 その時。

 メットを外された平次の口唇に、暖かい感触が与えられる。













 ・・・・・・・けれどもそれはすぐに離れた。





 新一は、また微笑う。





















「どないした―――――――・・・・えらいサービスやんか」

「どうもしねえよ。したかったから、しただけだ」

「・・・・ほー。誰も見あたらん言うても、公道やのに」

「うるせえな、早く帰るぞ」

「おう」















 脱がしたメットを再び被せ自分も着ける。

 その時の新一は、文字通り耳まで真っ赤で。



 でも。























 ・・・・・・ったく。



 所構わず俺を欲情させんじゃねえっつうの・・・・・・・・

























「ん? 何か言うたか」

「言ってねえ。さっさと走れ」

「へいへい」





















 ・・・・・・・・・・気付かれたくなくて、素っ気なく返した。





























 ゆっくり流れ始める景色。







 空気は冷たいけど。

 腕に感じる体温は、充分過ぎる程に熱いから。































 ・・・・・・新一は、しばらく目を閉じて風を感じていた。
















































Fin


>>>これは、「Time after time」の続編です。