「これ・・・・・」

「ん?」

「すげえ懐かしい。この歌、好きだったな」













 それは車のFMから流れている曲。

 早口でまくしたてるDJが、さっき曲紹介してたっけなと思い返す。



 新一は平次を見た。













「お前、タイトル知ってる?」

「いや。俺もそっち方面うといし」

「ああもう、気になって仕方ねえ」

「そな言われてもな。そん局に電話でもして聞いたらどや?」

「・・・・・・面倒くせえ」

「ならツベコベ言うなっちゅーねん」











 相変わらず日常全てにおいて『面倒くさがり』な工藤新一。

 外見は神経質そうなのに、実際はこういう性格な所が本当にB型っぽい。











 12月最後の週末を二人で過ごそうと、平次は夕べ東京にやって来た。

 

 しかし昨日は終日警視庁に詰めていた新一。

 家に戻ってきたのは、日付が変わって暫く経った頃。













 どうやら新一が帰宅するまで隣に居たらしく。



 ・・・・だから、真夜中のインターホンを不審に思いながら相手を確かめたとき新一は驚いた。













「それにしてもお前いつも突然だ。俺が帰ってこなかったら、どうするつもりだったんだ」

「あんまま博士んトコで一晩世話んなっとったな。あそこ結構オモロイし、宮野のねーちゃんとも久々に話せて楽しかったわ」

「・・・・・へえ」

「何や。妬いとるん?」

「着いたら起こせ。眠い。寝る」

「お、おえコラ!」











 相変わらずの素っ気無さ。

 変わらない、態度。




 でも。



 憎まれ口を叩きながらも顔を赤くしているのを、平次は見逃さない。



















 本当に。





 ――――――――・・・・・そんな行動全てに、身体が熱くなるのを止められない。





























 今日は日曜日。

 今年最後の日曜日。





 平次は朝早く、眠気覚めやらぬ新一を無理に起こして車に乗せて来た。



























 向かう先は海。

 冬の、海。





















 ・・・・・夏の海も良いが、平次は冬の海が好きだった。






FAITH[04] 心に耳を澄ませて





「ん・・・・」

「おう。着いたで」

「・・・・寒い。何だよ、暖房止めたのか」

「そーや。エンジン止めな勿体ないやろ」

「ここ・・・・どこだ?」

「館山。やっぱ日曜は空いとったなー。 えらい早く着いたわ」








 冷えた空気に新一が目を覚ます。

 窓から外を覗くと、寒々とした海面が眼前に広がっていた。






 平次は外へ出る。

 しょうがないから新一も続き、ダウンの襟元にしっかりとマフラーを巻き付けた。





 現在、朝の9時。

















 思ったよりも風は凪いでいて。

 さわやかな晴天の太陽に、新一は目を細めた。













「眩し・・・・・」

「あそこのコンビニで握り飯でも買おか。そんで、海眺めながら食お」

「服部――――――――・・・・・何でそんなに元気なんだ?」

「工藤が隣におるし。当然」

「・・・・・馬鹿じゃねえの」

「本心なんやけど」












 寂しそうな視線だった。



 揺れる髪の間から覗く瞳。

 だから新一はそれ以上何も言えなくなる。








 ・・・・・少し目を伏せた。



 平次はその様子に、軽く息を付く。














「俺、行ってくるし。工藤は中で待っとって」

「・・・・服部」

「適当に買うて来るで? あと、ぬくい珈琲もな」

「―――――――・・・・・ああ」












 手をひらひらさせて背中を見せる。

 光に反射している髪が金色に輝き、眩しくて目を逸らした。

















 胸が、締め付けられる――――――――――――――――・・・・・

























 車に戻り新一は息を付く。

 自分の気持ちが、朝からこんなに制御出来ないのは初めてだった。





















 いつも突然な平次。



 自分の心掻き乱す、唯一の存在。

























「・・・・・・今日こそ言わないとな」












 新一は決心していた。

 自分の気持ちと今までの想いを、きちんと伝えようと決めて車に乗って来た。















 例え未来のない関係でも。



 今こうして一緒にいる奇跡は、事実。

















 ・・・・・あいつへの気持ちは決して嘘じゃない。

 互いに何かあってから後悔しても、遅い。

















 新一は海を見つめる。







 窓からの空は本当に青く。

 視界に映るひこうき雲はあ、その尻尾を長く伸ばしていた。























ひとくぎり




























「あれ?」







 車に戻ってきた平次。

 でも、中に新一がいない。












「どこ行ったんや・・・・・・?」












 辺りを見渡してもそれらしき影はなく。



 視界に入る岩場や今は使われていない海の家。

 それらを越えてやっと、向こうの波打ち際に細い影を見つけた。































 ――――――――――――――・・・工藤。


















 そこにいたのは新一だけではなかった。

 足元で、仔犬がじゃれている。





 更に小さな影を見つける。

 長い髪の女の子。仔犬の飼い主だろう。



















 ・・・・・目線の高さまで合わせて座り込んでいる新一が、無防備な笑顔を振りまいている。



























 その表情は――――――――――・・・・・・・・何て言うか、本当に・・・































 平次はその場から動かなかった。

 暫く、その絵を見ていたいと思った。



 けれども長くは続かず、子供の母親が迎えに来て終わってしまう。












 ぱいぱいと手を振る少女。

 ぱたぱたと尻尾を振る仔犬。











 お辞儀をする母親に、新一も手を振って。
























「・・・・・」










 新一は暫くそのまま親子を見送っていた。

 平次からは背中しか見えなかったが、何となくどんな顔をしているか解った。














 やわらかな表情の中に。





 ・・・・・きっと、ほんの少しの寂しさを秘めている。


















「工藤!」

「・・・・・・服部」








 叫ぶ平次。

 声に気付いた新一が振り向き、小さくその名を呟く。





 平次は駆け寄った。











「どこに消えたんかと思うたで」

「悪い。探したか」

「なあ工藤」

「ん?」

「―――――――――・・・俺、お前に言うてない事あんねん」

「・・・・・・何だよ」










 向けられるのは相変わらずの無表情。



 さっきまでの笑顔はどこへやら。

 ただ、上目遣いに新一は聞いてくる。










「ひとん気も知らんくせに――――――――――・・・そう言うてたよな、あん時」

「・・・・・は?」

「それに俺がお前に惚れたん、あの旅館ん時や思うとるやろ」

「―――――――・・・・・・違うのか」

「ちゃう」








 言いながら平次はコンビニで買って来た袋から缶珈琲と握り飯を渡した。

 自分もひとつそれを開けて、ひと口飲んで喉を潤おす。






 ・・・・・言葉を続けた。










「気になったんは、テレビでお前を見た時や。満面の笑み浮かべとんのに目が笑ろてないのに興味覚えた」

「え・・・・」

「そん後、姿消してテレビにも雑誌にも出んようになった。変やと思て、わざわざ毛利の事務所まで押しかけても、おらへんかった」

「・・・・・・・・」

「そしたら―――――――・・・・・そんとき起こった事件の推理中にイキナリ工藤が現れた。惚れたんは、そん時や」

「!?」












 新一は驚いた。

 動揺し、手元の缶を落とす。



 平次はそれを拾って砂を落とし、『ほい』と新一に渡した。












「俺ん方が、気付かれんように必死やったんや」

「―――――――・・・・・」

「せやから、あんとき工藤に言われた事に逆上してもうた。『人の気も知らないくせに』て・・・それは、こっちのセリフやってな」

「・・・・っ・・・・・・」

「俺ん方が3年以上も耐えて来たんや。まあ、お前がコドモやった時は流石に変な気ぃにはならへんかったけど、たまーに元に戻った時の工藤は・・・・ホンマ心臓に悪かったんやで?」
















 ・・・・・今、耳に届いている言葉は現実だろうか?























 そんな素振りなど感じなかった。

 そんな気配、いつもなら読み取ってた筈なのに――――――――――――――・・・・





















「だってお前・・・・・女と結構、付き合ってたじゃねえか」

「工藤忘れようと必死やった。せやけど、やっぱどれも長続きせんかった」

「・・・・けど」

「ああもー どーすれば信じてくれるん? ココまでバラしても駄目なんか? 俺いま、ごっつ恥ずいんやけど」

「そ・・・・そんな事言ったって」

「不安なんは俺やぞ。工藤、一回も俺んこと好きて言うてくれへんし・・・・もしかしたら、しゃーなく付き合うてくれとるんかなあて思て――――――――・・・・・・」

「好きだよ」

「へ?」












 ぽつりと聞こえたその言葉。

 平次はつい、耳を疑う。












「腹立つくらいな。いつもお前が頭から離れなくて・・・・そんな自分が本当に嫌だった」

「工藤」

「俺が俺でなくなりそうだった。推理に集中出来ないなんて許せなくて、なら逢わなきゃいいのにそれも出来なくて―――――――――――・・・・・・だから一緒にいる時は必死に気持ちを抑えてた。まだ引き返せる、忘れられるってな」

「・・・・・・」

「昨日の被害者・・・・・・まだ高校生でさ。部屋に鍵が掛かってて、その中で死んでた。通常なら自殺だけど後頭部に強い打撲があって、他殺の線が濃かった」

「え?」















 新一はその場に座り込み、海を見つめながら淡々と語り始めた。





 何で突然事件の話を?

 そう思いながらも、平次も隣に腰を下ろす。








「結局、同級生の嫉妬だった。近くに被害者の幼馴染の女の子が来てた・・・・その子が泣きながら言うんだ。『好きだったのに言えなかった。自分も好きだって言えなかったって』って」

「・・・・・・・」

「一週間も前に告白されたのに、幼馴染の期間が長過ぎて返事するのが恥ずかしかったって。なのに、彼はもういない・・・・・・・・・・後悔しても仕切れない。どうして早く言わなかったんだろう、そうしたら彼は死ななかったかもしれない―――――――――――・・・・・・・・加害者は、その女の子が好きだったんだ」










 新一は平次へ向く。

 前髪の間から覗く目を見つめて、口唇を動かした。










「・・・・・思ったんだ。俺だって、明日も生きてる保証なんてない・・・・あんな風に、後悔したくない」

「―――――――・・・・・・・」

「引力でも情でも構わない。お前が俺を本当はどう思ってるかなんて、そんなの怖がったってしょうがなかった―――――――――・・・・・だってそうだろ? 男と女の間だって終わる時は終わる。同性だからとか、そんなの関係ない・・・・・恋愛感情は不変じゃない。大事なのは、俺が今誰を想ってるかだ。それを・・・・・・その相手に伝えているかどうかなんだ


「・・・・っ・・・・・」

「好きだ。もう、どうしようもなく――――――――――・・・・それだけは言っておきたかった」



















 そこにいたのは、見た事のない表情で自分を見つめる新一。

























 寒さに震えているのか。

 この雰囲気に緊張しているのか。




















 ・・・・・・様子を伺うような上目遣いの視線と、消え入りそうな声。








 平次は、その頬を両手で包んで囁く。






















「呼んで、もっかい言うてや」

「・・・・え」

「誰ん事が好きか―――――――――――・・・ちゃんと、言うて」
























 潮の香りがしていた。

 太陽の光と、さざ波が眩しかった。
























 ・・・・・そして互いの瞳にも、見たことのない自分がいた。

































 新一は、頬に触れられている手に自分のそれを重ね。

 そして・・・・・・・・・・


















 今度こそ、はっきりと言葉に出した。
































「・・・・・・お前が好きだ。服部」








































ひとくぎり







































  新一は、とてもやわらかく微笑っていた。





























 嘘でもなく偽りでもなく。

 演技のそれでもない。




















 ・・・・・何かに解放された様に、とても穏やかに。




























「うわ・・・・・・どないしよ」

「え?」

「めっちゃ照れとるわ俺――――――――・・・・・それに、何やごっつキスしたい」

「・・・・すれば?」

「ええの!?」

「他に人目もねえしな」

「工藤・・・・」


















 奇跡が起きていた。



 目の前の新一が、綺麗な笑顔を見せていた。





















 今まで、いくら望んでも願っても。

 鏡の中でしか覗けなかった表情で――――――――――――――・・・・





























 ・・・・平次は逆に戸惑いを隠せない。



























「不思議そうな顔すんな」

「せ、せやかて」

「―――――――――――・・・・あ。考えてみりゃキスって、俺からした事なかったな」






















 呟く新一。

 座ったままの体勢で、平次の首元のマフラーをぐいと引っ張る。





 そして。































 薄く開く口唇に自分のそれを合わせ――――――――――・・・・すぐに、離した。



























「・・・・震えとるやん」

「うるせえ」

「強気なフリしとっても――――――――――・・・・・ホンマはえらい緊張しいか」





























 ほんの少しの接触だったけど。

 平次は、凄く嬉しかった。







 それにくるくる変わる新一の表情。

 さっきは笑ってくれたかと思ったら、今は拗ねたようにムクれるそれが。











 ・・・・・・・平次は嬉しくて仕方ない。



























「さ、食うて帰ろか」

「? さっき着いたばっかりだぞ」

「・・・・・・早よ帰ってお前といちゃいちゃしたいねん。気持ちええこと、ぎょーさんしたいねん。ホンマの両想いになれたんやで? 明日帰るまで思う存分、楽しまな」

「え!?」

「正直こんまま砂浜でしたいトコやけど?」

「っ・・・! そーゆう事しか考えてねーのかお前の頭は!?」

「そ。せやから帰ろ」





















 とんでもない事を満面の笑みで言う平次。

 新一は真っ赤になりながら呆気に取られ、深く息を付いた。



 そして呟く。





















「・・・・・とりあえず車で我慢しろ」

「へ?」

「けど一回だけだ。終わったら、すぐ帰るからな」































 ・・・・・・勿論、平次に異論がある筈がなかった。






























ひとくぎり































 空はますます太陽が高く。

 冷たいけれど穏やかな風が、きらめく日差しと共に海を照らす。





















 ようやく交わった二人の想い。





 ・・・・・・・だから今日が本当の始まり。































 心に耳を澄まそう。

 そうすれば、きっと気付く。























 未来なんて誰にも解らない。

































 ・・・・・・・いま互いを求めているという事実が、ただひとつの俺達の
真実(FAITH)




















































Fin