特別な定義






 ・・・・・・・小雨がぱらつく夜だった。

































 東西の探偵が久しぶりに揃ったおかげで、事件は思ったより早く解決。







 でも。

 新一の表情は何故か晴れなく。



 『今日は独りにしてくれ』との言葉を残し・・・・・・・・・





















 ・・・・・・・・平次を残したまま闇へと消えていった。




































ひとくぎり



































「明かりはついてへんけど―――――――――・・・・・・」













 居るはずだ。

 平次はそう思いながら、工藤邸の前で立ち止まる。


 部屋にも居間の電気も付けられていない。

 しかし確信はあった。













 新一は、必ず家にいると。





















 『独りにしてくれ』は、『独りにするな』と同じだ。



 これまで彼と関わってきた年月。

 それが平次を、この定義に導く。















 だから来た。

























 決して人前では涙を見せない工藤新一。

 それはこの自分にも、絶対に。













 ・・・・・・だから、しばらく川沿いを歩いて。

 ようやく晴れた空の星を見て。





 それから、ここへ来た。





























 平次は扉の前に立つ。





























 きっと新一は待っている。

 玄関の、入ったすぐそこに座って。

















 ・・・・・・・インターフォンも鳴らさず扉に手をかける。



 案の定、ゆるりとそれは開いた。


































ひとくぎり



































「・・・・・・・不用心やで。鍵もかけんと」




















 やっぱり新一はいた。





 玄関の上がり(かまち)に腰をかけ。

 ただじっと、平次を睨んで。











 逆光で暗かったけど、鋭いその眼差しだけはよく解った。

























「うるせえ。不法侵入はお前だ」

「そやな」

「・・・何しに来た」

「泊まりに。ええ言うたやん、ジブン」

「・・・・・」

















 思い出した様に、そうだったっけと呟く新一。

 そして平次は安心する。



















 目の光が戻っている。

 いつもの口調が、戻っている。





 大丈夫。















 もう、彼は『自分』を取り戻している。































 ・・・・・・・・・・・・だから平次は微笑った。






































ひとくぎり































「悪い・・・・頭、冷やしてた」















 新一の自室。

 ベッドの、上。





 シャワーを浴びたらしく濡れた髪のまま・・・・・・・

 その隙間から見える伏せ目が、平次に呟く。

















「なんつうか。工藤も人間やったんやな」

「慰めてんのかけなしてんのか、どっちだ」












 平次は新一を抱き寄せる。

 水滴で濡れるのもかまわずに、きつく。










 ・・・・・・・・・・窓から、月明かりがこぼれていた。































 新一は今日、言ってしまったのだ。











 被害者の家族に。

 娘が、動かない姿で見つかったばかりのひとに。



















 ――――――――――・・・・・・・・・誰が聞いても、冷たいであろう言葉を。





























 それは決して音にしてはならない言葉。





 何件も何度も、同じ様な事件が起こっているのは事実でも。

 絶対に言ってはならない一言を。

























 新一は、ぽつりと漏らしてしまったのだ―――――――――――――――・・・・・・































 本心では無かった。

 ただ、最近いろいろな事件が多く疲労がたまっていた。



















 ・・・・・・・・身体が、勝手に口を動かしてしまった。































 例え、家族に酷いことを言われようとも。

 売り言葉を買ってはいけなかった。

























 そんなこと。



 百も承知だった筈なのに――――――――――・・・・・・・

























「向こうさんも解っとるって。お前が、本意で言ったことやないことは」

「・・・・何でそう思うんだ」

「言うた後の―――――――・・・あんな『素』の工藤は俺も初めて見たわ。自分の言うた言葉、信じられへんちゅう感じで暫く呆けてたやんか。それをな、あの人らも見とった」

「・・・・・え」

「工藤がひとりで帰った後、俺に言うてきたんや。『あの言葉は確かに酷いが、憎めるわけがない。娘を見つけてくれたのは、他ならない彼だったんだから』て」

「・・・・」

「『最初に酷いことを言ったのは自分達だ。彼にあんな事を言わせて、すまなかったと伝えてくれ』・・・そう言うてた。ったく、見つけたんは俺も一緒やっちゅーのにな」































 ・・・・・新一は目を見開き顔を上げる。

























 平次は微笑っていた。

 手のひらで新一の頭をゆっくり、なでながら。























「―――――――・・・・・・・その手に乗るか」

「は? 何がや」

「俺からキスすんの待ってるくせに」

「あれ、バレた?」

「ったく・・・・」






















 新一は小さく息をつくと、彼の首に手を回す。

 そうして素早く彼の口唇を舐めた。





 『キス』ではなく、『舐めた』。























「おえ工藤・・・・・」

「何だよ」

「それで終わりか」

「不満なら自分からしろよ」

「なぬ?」

「・・・・・別に俺はこのまま眠っても良いんだぜ?」























 そう言い新一は綺麗に微笑う。



 勿論。

 平次はそれに、従うしかなかった。


































ひとくぎり



































 『独りにしてくれ』は、『独りにするな』と同じだ。

 でももちろんそれは。























 ・・・・・特別な相手だけに通用する、定義である。












































Fin