珈琲の美味しい理由







「・・・・・・珈琲が飲みたい」

「んー」

「お前んち、あったっけ」

「探しゃどっかにある思うけど・・・・・・」













 今日はクリスマス。

 タイミング良く、今年は週末の3連休がクリスマス。



 記録的な寒さを除けば、良く晴れて最高な休日。










 新一はこの3日、新宿にある平次のマンションに居た。









 工藤の家は広いだけで寒い。

 雪こそ降っていないが、とにかく冷える。















 ・・・・・冷暖房完備なこのマンションは、新一にとって快適な空間だった。

















「結局だらだらハダカでゴロゴロだったな・・・・」

「えーやん、俺は満足やけど?」

「当然だろうが。誰が相手だと思ってやがる」

「・・・・へいへい」













 その揺るぎない自信はどこからくるのか。

 けど、事実なのだから平次は何も言えない。














 ・・・・・・もぞもぞと布団が動いた。















「てめ、まだヤル気か」

「まだ24時廻ったばっかやぞ。寝るにも早いし、工藤かて足りてへんやろ」

「・・・・お前より珈琲が良い」

「俺は珈琲以下か!?」

「るっせーなあ・・・・・飲むまでお前は『未満』だ」

「・・・・・」












 未満は、以下よりも低いところにある。

 平次はしばらく新一を睨むが、そんな事はお構いなしに彼は背を向け丸くなった。






























ひとくぎり



































 ・・・・・・・珈琲の香りが、新一を布団から抜け出させる。





















「出来たで、起きろや」

「遅い・・・・眠い・・・・・・」

「つべこべ言うな」

「・・・・」

「って、布団被ってくんなっちゅーねん! アホか、服着ろ服!」

「めんどくせー・・・・良いだろうが別に」















 言う事など聞くわけがない。

 いつだって、新一は自分の思うがままだ。



 平次も実は解っている。

 ま。とりあえず、言っておいただけのこと。







 隣の部屋に移って、くるまったままテーブルに着く。

 その目の前に平次は珈琲を置いた。











 両手で包み口を付ける―――――・・・・・・・・・・・
















「あれ、うまい・・・・・」

「驚いたか」

「何で?」

「更にこいつもあるで~ 『クリスマス マロンケーキ』」

「・・・・服部、お前のバイト先ってまさか」

「せや。新宿駅前のスタバ」

「マジで??」











 新一が驚くのも無理はない。








 ここ数ヶ月は忙しくて。

 近くに住んでいるのに、ろくに逢えない日々が続いていた。



 夏以降、平次がバイトを始めたのは聞いていたが。

 スターバックスで接客をしているとは初耳だった。












「珈琲の知識から入れ方から、叩き込まれたで」

「・・・・そうだったんだ」

「何や。不機嫌そうやな」

「うるせえ。よりによってスタバかよ」


















 新一は何故か腹が立った。





 別に、バイトするのは自由だ。

 そんなのは本人の勝手だ。









 ・・・・・・けど、でも。



















「ケーキは明日食う。ごちそうさま」

「へ? おえ工藤」

「・・・・シャワー、浴びて来る」












 一気に珈琲を飲み干し、新一は毛布を脱ぎ捨てバスルームへ向かった。

 平次は目を丸くする。














 怒っとる?




 いや、拗ねとる・・・・・?
 何で?
















 訳の解らない新一の行動。

 平次は小さく息を付くと、とりあえずケーキを冷蔵庫へしまった。






























ひとくぎり



































 ――――――――――・・・・・あいつがバリスタ?






















 お湯を頭から浴びながら、新一は深く息を付く。



















 冗談じゃねえ・・・・・・・・

 どう考えたって、カッコイイに決まってるじゃねえか。









 ただでさえ大学の女どもがウルセエっつうのに。

 必要以上に人前に出るなんて、何考えてんだアイツは??
























 そう。

 新一の不機嫌の理由は、ただの『嫉妬』だった。











 服部平次はとにかくモテる。

 剣道でも有名な上、自分と同じ『探偵』としても知られていて、彼を一目見ようと数多くの女性ファンが大学に押し寄せる程だ。





 けど当の本人は自覚ゼロの様で。

 そんな新宿駅前スターバックスは、彼のシフトの日は大盛況に違いない。



















 ・・・・・・ちくしょう、目に浮かぶぜ。

















 香しい珈琲の空気の中、あのエプロン姿で愛想を振りまく服部平次。

 そりゃもう、どう考えたって似合っているに決まってる。






 それにスターバックスは、新一が本当に好きな場所。



 その空間に――――――――――・・・・・















「ああもう、何で俺がこんなにヤキモキしなきゃなんねーんだっつーの!!」

「え? 工藤、もしかして妬いてくれとるん?」

「!?」

「いややな~ それらそー言ってくれんと」

「お、お前、何勝手に入って来てんだ??」

「・・・・工藤の為にバリスタなったのに、工藤が喜んでくれな、意味ないやん」

「え・・・?」














 急に平次の声がして、新一は驚いて振り向いた。

 するとそこには平次。





 いつの間にか、2人は全裸で向かい合い。

 ・・・・・頭上からはお湯の雨が、相変わらず降り注いでいた。














「工藤。スタバで珈琲飲んでる時、ホンマに綺麗に微笑うやろ」

「・・・そ、そうだっけ?」

「そーや。せやから俺はバリスタなったんや。俺の入れた珈琲で、微笑ってもらお思てな」

「・・っ・・・!?」

「な。俺の珈琲、うまかったか?」


















 新一の心配など、平次は知るよしもない。

 でも。





 平次は最初から、新一のためにしか動いていなかった。



















 ・・・・・・・それに平次も妬いていた。

 いつも、新一の癒しの場となっていた『スターバックス』という空間に。






 だからあえてこのバイトを選んだのだ。














「うまかったよ。悔しいけどな」

「何やその『悔しい』て」

「いいだろ、つうか出てけ! 俺はひとりで入りたいんだ!」

「ええ~ 照れんでもええやんか」

「照れてねえ!」

「・・・・ホンマに素直やないなー」

「!」






















 ――――――――――・・・・・・そうして平次は目の前の口唇を塞ぐ。























 時は既に、25時近く。


























 そうだ。





 ・・・・・・・・・大勢の服部ファンの前で。


 珈琲を頼んで、あいつの笑顔を一身に受けてみるってのも、気分いいかもな・・・・・・

















 クリスマスはもう過ぎたけれど。

 夜は、まだまだ終わらない。

















 角度を変えて降りてくるキスを。

 受けながら、新一はそんな事を考えていた・・・・・・・・・・










































Fin