夜の海






「疲れたか」

「ちょっとな。新歓コンパとか何とか、イベントが多過ぎなんだ。うちの学部」

「そら俺も一緒やで。ま、この時期はどこもそうやろ」















 4月。


 新学期になって、大学も新入生を迎える頃。

 新一と平次は何週間ぶりかに顔を合わせた。















「お前ん所は有名だからな。今年もえらい数か」

「そやな~ ま、ひと月せんうちに半分は減るやろな」

「優しくしてやれよ。服部センパイ?」

「俺はいつでも優しいで~ 剣道、真剣にやる気ある奴にはな」













 探偵として名を馳せている2人。

 しかし、本業はまだ学生。



 服部平次は普段、所属している剣道部で毎日稽古に励んでいる。

 今日の様に東京の新一に逢いに来ている時などは、別メニューでしっかり対応。





 彼にとって『新一』は、剣道と同じくらいかそれ以上に大切なもの。















「で。どこ向かうんや」

「海」

「海? どこのや」

「どこでも。太平洋なら」













 夜遅くに平次は新一の家へ着いた。

 東京は雨が酷かったらしく、足もとがぬかるんでいた。



 今日は金曜日で。

 一緒に居られるのは、土日しかないと言うのに。







 その貴重な『夜』を、『海』かいな。

 そう平次は思ってしまった。



















 ・・・・・まあ、家にいようがこうして車に乗っていようが。



 『一緒にいる』事実は、同じなのだが。

























 新一の『海好き』は、夜限定。

 平次が遊びに来る日は、たまにこうして走らされる。



 そう。

 車は新一のものでも、運転しているのは平次だった。


































ひとくぎり

































 そして既に24時。

 月の光が綺麗なのは、激しい雨が降った後だからだろう。



 空気中のチリが一掃された空気も感じた。





















「今日は良い感じだ」

「光が海に反射してキレイやな」

「どうだ。来て良かったろ」

「・・・・・・・スッキリしたか?」

「おう」

















 それでも風は強く。

 前髪が、刺さるような時もあったけど。



 新一は砂に向かって歩き始めた。









 平次は、それを追う。 





















 夜の海は綺麗だ。

 夜の月は綺麗だ。

























・・・・・・そんな事を思っている新一も、とても綺麗。

 

























「なあ服部」

「ん~」

「今度いつ来る?」

「そやなー。5月の連休、やろな」

「間の平日も入れてか」

「そら当然」

「・・・・・なら大丈夫だ」

「そうか。そら良かった」















 新一の言葉は、解らない事が多い。

 でも平次は彼の笑顔を見る事が何より嬉しかったから、自分も微笑った。

























 何が大丈夫なのか。

 一体、何を抱えているのか。





 それを聞く事を平次はしないし。

 新一も、話す事もないけれど。



























 いま、この時、この瞬間。





 2人一緒にいる事が、何より互いに『大事』だということを解っている。



























「どうせなら足、突っ込んでみたらどや。今日なら温いんちゃう?」

「馬鹿か。大雨だったの知ってるだろ・・・・見かけ綺麗だけど、中はもの凄いぞ」

「・・・・夢もなんもないな」

「何か言ったか」





















 こんな綺麗な夜に。

 他に誰もいない空間で、海と戯れるのもいいじゃないかと思ったのに。



 なのに当の本人は、本当に現実的。



















「じゃあこの後どーすんねん。もう帰るんか」

「服部」

「あん?」

「今日は、まだなんじゃねえの」

「・・・・・そやったな」


























 いつの間にかそばに来ていた新一。

 月明かりに、整った顔が自分を見た。

























 その言葉の意味する事は――――――――――・・・・・・・





























「・・・・・この週末は思いっきり充電させてもらうぞ」

「おう。受けて立つわ」

「珈琲の良い味がするな。何か飲みたくなってきた」

「ほんじゃ、暫くしたら移動しよか」


















 そうして2人は再び接触する。

 渇くそれらを、潤す様に何度も何度も。


























 ・・・・・・視界の端にある海は、やっぱりキラキラと綺麗だった。




































ひとくぎり



































 ・・・・・・そうして新一は闇に手を伸ばす。































 昨日より、今日。

 今日より明日。



























 ・・・・・・・もっともっと強くなりたい。





 そう、願いながら。






































Fin