どっちもどっち。


『おう工藤。生きとる?』
「・・・なんだその第一声は」
『どーせ毎日、暑いからって外もよう行かんと家でクーラー浴びとんのやろ? 相っ変わらず不健康やな』
「余計なお世話だ」











 8月に入り、やっと梅雨も明け。
 ようやく夏らしくなったと思った矢先。

 ・・・日本全国を台風10号が襲っていた。











『でもまあ、今大雨やもんな。外に出るほうがアホか』
「まあな。まだ昼過ぎだってのに、電気付けねえと本も読めねえよ」











 九州に上陸した台風。
 それはゆっくりと日本を縦断して現在、関東地方に大雨を降らせている。

 工藤新一。
 東の名探偵と謳われる彼は夏がとにかく大嫌いで。
 










 だから特に予定も無い時は、出来るだけ家で過ごす事にしていた。











『こっちはよーやく雨上がったで。甲子園も、再開や』
「なんか用事か」
『ツレナイな。工藤が暇しとるやろな~ 思て、かけてやったのに』
「誰も頼んでねえ。それに別に暇じゃねえし」
『へっ?』
「工藤君、珈琲入りましたよ。・・・と、電話中でしたか」




















 その時。
 受話器の向こうから聞こえた声に平次が息を呑むのが解った。

 新一は微笑う。











『・・・白馬来とんのか』
「ああ。昨日から泊まってるけど」
『と、泊まっ・・・・・・?』
「用ないんだろ。切るぞ、じゃあな」
『ちょ、おえ工藤!?』




















 慌てた様子が面白くて、そのまま切る。
 新一は笑ったまま受話器を置くと、白馬探が覗き込んできた。



















「工藤君?」
「ああ悪い、珈琲サンキュ」
「服部君ですか。彼、今帰省してるんでしたね」
「・・・なんで解る?」
「君だって僕が黒羽君と電話してたら解るでしょう? それと同じですよ」
「は?」















 手渡された冷珈琲。
 そして涼やかな微笑みで言われた言葉に、新一はつい呆けた声を出してしまった。

 探はソファに座る。
 




















「――――・・・・・・その為に僕を此処へ呼んだのでしょう?」
「!」



















 言われ、新一は首まで赤くした。
 表情は変えずにいたのだが、同じく探偵と称されている探には見抜かれていたらしい。

 だから、諦めの息を付いた。





















「・・・そうだ。だから最後まで協力しろよな」




















ひとくぎり




















 平次が大阪へ帰ると言い出した。
 それも、帰る前日に言い出しやがった。











 解る。
 ひとり息子だし、盆だから、行事も山ほど有るだろう。

 解るのだ。これは、俺の勝手な我侭だって事は。
 けど。




















 ・・・今年は甲子園で一緒に高校野球見ようって言ったじゃねえかよ・・・・・・



















 約束していたのだ。
 今年の春、プロ野球が始まった頃、ぽろっとアイツは俺に言ったのだ。




















 ・・・それなのに、どうして俺はひとりで東京で高校野球をテレビ観戦してなきゃならないんだろう?












 だからこいつを呼んだ。
 本当は快斗に連絡しようと思ったが留守だったし、でもまあ白馬の方がアイツには『効く』と思ったからだ。

 さっきの反応からすると・・・それは案の定上手く行った筈。
 しかし。





















 ・・・・・・探が次に言った言葉が、新一を真っ白にさせた。



















「じゃあ知ってるんですね。僕も、かなり頭にきてますが」
「は? ・・・何をだ?」
「全く・・・・・・僕が今東京から動けない事知ってて何もこんな時期に大阪に行かなくたって・・・・・・しかもよりによって、彼の家に泊まらなくたって・・・」
「快斗が大阪・・・・・・? 誰の家だって? まさか・・・・・・」
「・・・知らなかったんですか? 何かの用事で大阪行ったみたいなんですが、乗る予定の新幹線が台風で止まってしまって・・・・・・結局昨日帰って来れなくて服部君の家に泊まらせてもらったって言ってましたけど」
「知らねえよ!! 何だよそれは!?」





















 新一は完全に頭に血が上った。
 快斗と探。そして新一と平次。同じような状態になっている2組だけど、決定的な違いが其処にはあったからだ。
 
 それはお互い妬いている中でも、きちんと状況を伝え合っている2人と変な意地を張って状況を探り合っている2人の違いだった。










 新一は笑うしかない。





















「工藤君・・・?」
「あーあ。何だろうなあ全く・・・・・・バカだよなあホント」
「え?」
「言ってくるだけいーじゃん快斗。俺ら、そこらへんまだまだかも」
「良くありませんよ。こっちは振り回されっぱなしです」





















 手元で氷が割れる音がする。
 2人はお互いにまた笑い合うと、残っている珈琲を飲み干した。



















ひとくぎり




















「どうした服部? やたら暗いツラして」
「・・・おえ黒羽。白馬のヤツが工藤んトコ居てるって知っとったか?」




















 丁度電話を切った時、風呂を借りていた快斗が部屋に帰ってきた。
 天気と同じく曇った顔をしている。




















「へ? ああ・・・昨日電話したとき言ってたけど? 警視庁行ってて、そのまま新一んトコに居るって」
「何やと!?」
「聞いてねえの? つー事は・・・・・俺がここに来てるって事も言ってねーとか?」
「・・・い、言うてない」
「もしかして・・・・・・それとなく俺が此処に来てるって事ニオわして、妬かせようとしたけど―――――・・・逆にあっちに白馬が居て焦った、とか?」















 う。と平次の表情が止まる。図星らしい。
 快斗はバスタオルで髪を拭きながら、『どっちもどっちだね~』とカラカラ微笑った。

















Fin