服部の日

『お前いま何処?』
「おー工藤。稽古終わって水浴びたトコや」
『メシ、食ったか』
「これからやけど・・・・・・なんや、周り騒がしいな」











 8月に入って尚、記録的な暑さを更新している日本。
 最近は夜になれば幾分かマシだが、こういう気候が苦手な工藤新一には最悪な日々が続いていた。











 そんなある日。
 新一が電話をしてきた夜。

 その背景の騒がしさに、平次はちょっと眉根を寄せた。




















 ・・・・・・聞こえてくるのは電車の発車音? 



 しかも新幹線の―――――・・・・・・





















『出て来い。ホテルラフォーレのロビーに居るから、着いたら電話しろ』
「え!?」
『そっからだと何分かかんだ? まあいいや。とにかく急げよ』
「ちょ・・・おえ工藤?」




















  自分の言いたい事だけ言い勝手に切るのはいつもの事。
  しかしそれよりも何よりも、『いま工藤新一は大阪に来ているらしい』という事実が平次を一瞬白くさせた。



  ラフォーレ新大阪は、駅からすぐの所にあるホテルだからだ。
 



















  ・・・なんか事件でもあったんかいな。



 そう思うが、どっちにしても久しぶりに逢えるという現実に顔はゆるみ、速攻で着替え始めた。




















 

ひとくぎり




















 20時を少し過ぎたあたりで平次はホテルに駆け込んだ。
 途端に身体を包む冷気に、一息付く。




















「おい」
「うわ!!」
「・・・何で驚く」
「当たり前やんか! 中に居る言うとったのに何で背後から来んねん!?」
「うるせえな。いいだろ別に」




















 突然背中を『つつー』と触られ耳元に直接声が聞こえたのだから、驚くのも無理はない。
 それに『ナマの工藤新一』だ。




















 ・・・平次は相変わらず綺麗な目の前の彼に、相も変わらず見惚れた。





















「ど・・・どないしてん、今日は」
「何が」
「大阪で事件でも起きたんか?」
「・・・・事件がなきゃ来ちゃいけねえのかよ」




















 新一は途端に不機嫌になる。
 ほんの少し体温を上げた様な表情に、平次はやっとこの『行動』を理解した。




















「逢いに・・・・・・来てくれたんか」
「・・・そりゃまあ。大阪府警に用があったのは事実だけどな」
「なぬ!?」




















 話しながら二人はソファに移動した。
 そして返されたツレナイ言葉に、つい声を大きくする。




















「いま関わってる事件がこっちで起きてるのとリンクしてるらしくてさ。その資料預かってきたんだ」
「資料?」
「とにかく腹減った。メシ食いに行こうぜ」
「・・・そやな」





















 平次はきょとんとする。
 



















 新一の性格からして、わざわざ『お使い』を引き受けるとは思えない。
 しかもはるばる大阪にまで。

 今の時代、メールもあるし宅急便でだって翌日に着くのだ。




















 ・・・だとすれば理由はひとつしかない。






























「おい・・・何ニヤついてやがる」
「べっつに~」
「そのしまりのない顔やめねえと奢らすぞ」
「あれ? ご馳走してくれるんや・・・・・・そらまた珍しい。雪でも降りそやな」
「―――――・・・今日はお前の日だからな」
「?」





















 別に、用がなくても今日は来るつもりだった。



 だって今日は8月10日。




















 
 ・・・・・・誕生日とは別の、今日は『服部の日』。






























『これから毎年9月10日は―――――・・・きっと工藤を思い出すんやろなあ』
『バカじゃねえの』
『つうても、普段でも『910』っちゅー数字見ただけでケッコーときめいとるんやけどな。部屋番号とか、車のナンバーとか?』
『・・・へえ』
『でも幸せやで? こーゆーのって』




















 去年の9月10日にお前はそう言った。
 それからと言うもの、俺までが街中でその数字を見かける度に妙に気恥ずかしくなった。




















 ・・・・・同時に『810』という数字にも敏感になる程、あの時の言葉が頭に残っちまったんだ。





















「そうそう。部屋、ツインだから」
「へっ?」
「さーて何食うかな」
 



















 言った後に綺麗に微笑う新一。
 平次は最初解らなかったが、その意味を知って体温を上げた。
 




























ひとくぎり





























 暑い夏。新一の嫌いな夏。










 でも。






























 ・・・ホテルの部屋は、寒いくらいの冷房が効いている夏。




























Fin