四月の雪

「寒い。何とかしろ」
『・・・久々の電話の第一声がそれかい』




















 4月も中旬に差し掛かった頃。
 関東は、寒の戻りか暖冬の仕返しか。

 長崎ではチューリップに雪が積ったり箱根が雪景色になったりと、とんでもない 事態が日本に起こっていた。











 新一はリビングのソファの上。
 身体を丸めながら、携帯片手に暖房のスイッチを入れた。




















「うるせえ。花見した時に冬モン片付けちまったのに、どうしてくれる」
『そら気の毒やな』
「ん? ずいぶん周り騒がしいな・・・ 外か」
『ちょお買いモンに出とるんや。工藤は?』
「いま帰ってきた。外より家ん中の方が寒いなんて、信じらんねえ」
『そーか。なら、鍋にして正解やな』
「鍋・・・?」




















 そのとき玄関のチャイムが鳴った。
 同時に、耳からもその音が入ってくる。




















『早よ開けてや。食材、めっちゃ重いねん』
「・・・気が利くじゃねえか」
『せやろ。惚れ直したか?』




















 その問いには答えず、新一は電源を切る。
 冷たい空気に肩をすくませながら、玄関へ向かった。











 カチャリ。
 鍵を、開ける。

 現れたのは服部平次。






















「あれ。髪、切ったのか」
「へ? ああ、ええ加減うっとおしかったしな」
「・・・結構似合ってたのに。勿体ねえ」
「そんなん言うたかて邪魔なんや。防具かぶるときも、うっとおしかったし」
「あ。そうだったな」




















 数週間ぶり。
 なる程という顔をしつつ、新一は食材袋を受け取る。











 ふわりと揺れる前髪。
 平次は見とれながら、言葉を出した。




















「工藤は・・・切らんの?」
「俺? 本当は先週、美容院行くつもりだったんだけどさ。寒いから、やめた」
「それ正解。まだ、切らんでええ」
「何だそれ」




















 たったひと月逢わないでいただけなのに。
 数ミリ伸びた黒髪が、少し瞳に首に、かかっているだけなのに。











 ・・・平次の心臓は激しく波打った。





















「え、ええからもう準備するで! 俺、腹減ってしゃーないんや」
「服部」
「ん?」




















 久しぶりの『工藤新一』に体温は急上昇。
 慌てて視線を逸らした平次は、でも名を呼ばれ顔を上げた。

 まだ靴も脱いでない。
 だから、その見上げた先にあったのは・・・・・・




















「!」




















 ・・・至近距離の新一。





















「お前を見下ろすのって・・・気分いいな」
「く・・・工藤?」
「ん」
「!?」
「・・・バレバレだ。お前の考えてる事なんて」




















 きょとんとする平次の口唇。
 上がりかまちから見下ろす形で、奪う。











 接触は数秒。
 離れると、新一は微笑った。




















「工藤・・・」
「ん?」
「やっぱお前、とっとと髪切れや」
「・・・は?」




















 見ると平次はなんだか面白くないと言った表情。
 更に、急いで靴を脱ぐと玄関に上がる。

 途端にいつもの身長差になった。




















「そん前髪、俺の目に刺さって痛いっちゅーねん」
「え? あ、ごめん」
「・・・ほれ。とっとと用意するで」
「服部・・・」




















 新一の手からも袋を奪い、平次はさっさとキッチンへ向かう。










 ・・・新一は少し不安な表情を浮かべた。



















ひとくぎり





















 顔が近づくにつれ、ふわりと自分にかかる彼の前髪がくすぐったかった。
 まぶたをこする数本の黒髪が、たまらなく心地良かった。 











 そうして気付いたらいつの間にか口唇が合わさっていて。
 ・・・いつの間にか、離れてしまっていた。



















 アカン。





 俺としたことが、拗ねてもうた・・・・・・




















 確かに長めの黒髪は新一に良く似合っていた。
 似合っているだけじゃなく、過剰な色気まで醸し出していたから困った。












 野菜を切りながら平次は反省していた。
 そしてちらりと、テーブルできのこをほぐしている新一に視線を移す。

 向こうも気にしていたのか、すぐに目が合った。





















「・・・何」
「あ、いや・・・さっきの、事やけど」
「・・・・・・」
「言い過ぎたわ。スマン」
「・・・」
「お前の髪・・・ごっつ柔らかくて気持ち良かったんや。せやけど目に入ったんは痛くてなあ・・・・せっかくのキスも、よう覚えてへんねん」
「え?」
「久々やのに、それが悔しくてな」




















 ぼそりと呟かれる言葉。
 でも、それは正直な気持ちで。











 ・・・平次はうつむく。
 すると新一が、その視界に入ってきた。




















「!」
「ホントに変な所で真面目っつーか何つーか・・・だったら、俺を下にずり降ろしてやり返せば良かっただろ」
「・・・」
「今なら、俺が見上げてるから刺さる心配もねえと思うけど?」
「へ?」
「包丁は置いて手を洗え。そうしたら、相手してやる」




















 新一はニッコリ笑ってそう言うと、自分の手を洗う。
 慌てて続く平次。











 そうして・・・・・・
 今度はゆっくりと口唇の感触を味わいながら、手で柔らかな黒髪を楽しんでいった。































Fin